ダイヤモンドヘッド232mに登れなかった女のキナバル山4095m登山挑戦。第4章「登頂成功」

旅行-車中泊-温泉-アウトドア
スポンサーリンク
スポンサーリンク

2時30分登頂開始

ここは日本第二位の高峰、北岳よりもさらに高いところにあるキナバル山のラバンラタ・レストハウス(標高3273m)である。

悪夢を見て自殺を考えた夜、イロハの無邪気さに救われた。ラバンラタ山小屋にあった壁一面の人生賛歌に救われた。

悪夢を見て、自殺を考えた夜
降りれば、楽になる 私はマレーシア最高峰キナバル山(4095.2m)の最終アタック前の山小屋にいた。 ラバンラタ小屋の標高は3272mである。 海にダイビングしようとしている人のように、鼻から息を吸い込む。下腹部まで膨らませて...

他人との比較ではなく、おれもまた自分のベストバージョンでさえあればいい

星空の下で、パートナーの明るさ無邪気さに救われてからずっと、朝まで眠らなかった。目を閉じて深い呼吸を繰り返していた。ただその時が来るのを待っていた。

130分、携帯電話のアラームが鳴る。スマホの時計は電波時計みたいなものだから正確きわまりない。山小屋じゅう全員のアラームが一斉に鳴って起床時間を告げる。

起床後すぐに夜食を食べた。朝食ではない。朝食はピークハントから戻ってきてからゆっくりと食べる。昨夜と同じ食堂で、朝食なのにビュッフェ・スタイルである。カフェイン中毒の私には、コーヒーが飲み放題なのがありがたかった。こういうところがさすがステラ・リゾート経営なのである。

酸欠で高山病ぎみだったが、眠らずに意識的な深呼吸を繰り返し続けたおかげで最悪の状態ではない。悪夢の夜は明けた。立ち上がり動いて、攻めの呼吸ができていれば大丈夫だ。

朝食の会場では単独行のヤンキー白人に、新しい友だちができていたので驚いた。自分の方がずっと体力がありそうなのに、市街地仕様の荷物はオバサンのポーターに担がせて、彼女が苦しそうにしているのに自分は「遅えなあ。オバン」という態度の、街中のズックでヘラヘラと登ってきちゃった典型的なイカレポンチ野郎であった。途中で飲み終わったペットボトルは森の中に投げ捨てるし、ぺっぺと唾は吐くし、おれなら絶対に友だちになりたくないタイプであったが、わずかな山行の間に親友のような友だちを作っちゃっているのだから山行旅行というのは凄いなあと思う。死や危機が近いと人は団結するのである。……言葉ができたら、おれにも友だちができただろうか。

キナバル山のピークハントはピストン登山なので必要最低限の荷物を背負って着替えなどはすべて山小屋に置いていくことができる。

230分登頂開始。

スポンサーリンク

キナバル山のピークハントにはIDとウインドブレイカーを忘れずに

木の階段をヘッドライトを点けて登っていく。同時刻にラバンラタ・レストハウスの宿泊客みんなが登り始めるため、光源の行列ができていた。富士山や、ニイタカヤマの登山の時も同じだった。

これが「特別の山」の証明である。キナバル山が非常によく登山道が整備されているからといっても、街灯があるわけではない。周囲は真っ暗闇である。

ミルクをこぼしたような星空、天空に北斗七星と南十字星が同時に輝いている。下界の街の灯も見える。それが同じような光の強さで天上天下に点滅しているのだ。

幻想的な景色であった。

ミルクをこぼしたような銀河が見える。日本ではクッキリと見えるオリオンが他の星屑の輝きにまぎれこんでしまって消えてしまう。

浜辺の砂のような星屑

サヤットサヤット・チェックポイントでID(入山許可証)を見せる。ラバンラタ・レストハウスにIDを忘れてくるゲートを通してもらえないかもしれないかもしれないから注意が必要だ。

岩肌の天空に突き出た大地の上を進む。

赤道直下のボルネオ島であるが、さすがにキナバル山の高度ではしっかりとした手袋がないと冷たい。

軍手のようなものでは準備不足である。スキー用の手袋があれば十分である。

サミットアタック時は寒い。もうこれで十分だろうと思う衣服に、さらにもう一枚持って行った方がいい。風が体温を奪っていくからだ。

だんだん雲が出てきた。視界が白いものに覆われる。

ものすごい突風にさらされた。かつて吹かれたことのないほどの強い風だ。岩山の上を風が走る。一切の遮蔽物がないから、風は吹き放題である。

風によろけて、イロハの足がとまる。十歩ほど歩くと、また足が止まる。まるでエベレストの登山者が数歩歩いて酸素を求めて喘ぐように。

男でも「これはたまらん」というほどの風だ。これほど長時間、これほどの猛烈な風に吹かれつづけたのは人生初である。しかも雲に視界が遮られているため、どこまで続くのかわからないのだ。

遅々として進まないイロハのことが気にかかる。その姿を見ていて

「登頂は無理かもしれない」

と私は思った。数歩歩いては止まってしまう。

……イロハが諦めるのならば、私も山頂は諦めて一緒に山小屋に戻ろう。

死のうと思った夜、イロハの無邪気さに救われたことを、私は忘れてはいなかった。

「諦めるか? 戻ろうか?」

私は聞いた。

しかしイロハは首を縦に振らない。こうなると頑固なのが彼女だ。こちらの言葉は耳に届かないようだ。

標高4000mに吹く猛烈な風に全身をさらされながら、よろけながら前へ進んでいく。

進んでは休み、歩いては立ち止まり、風に苦しみながらとうとう私たちは山頂に着いた。

サミットアタック開始から3時間後、530分、登頂成功。

スポンサーリンク

なぜ泣いているのか、言葉に出来ない

イロハが泣いている。感情が高まって涙があふれて止まらなくなるほどに。

なぜ泣いているのか、言葉に出来ないようだ。

最大の敵は風だった。登頂断念のギリギリまで彼女を追い詰めたのは猛烈な風だった。

その難関に打ち勝って、甲状腺機能低下症という病気に打ち勝って、登頂できたから涙があふれた。

でもそれだけじゃない。それだけじゃない涙が溢れた。

かつてハワイのダイヤモンドヘッドで息を切らせて一気に登れなかったイロハだが、どうにかこうにかマレーシア最高峰キナバル山4095mに登頂することができた。

キナバル山は誰でも登れる。あなたでも登れるよ。

空気の薄さ、果てしなく続く昇り、驚くほどの強風。そんな中を一歩一歩前に進む。

辛い。でも休みながら進む。呼吸を整えて進む。

自分を信じて登る。パートナーと一緒に登る。そしてテッペンが見えた時、うれしすぎて涙が溢れた。

山頂には届いたが、雲に包まれて何も見えない。美しいご来光は諦めて早々に降ることにした。

それでも夜明けを山頂で待とうとする登山者たちは岩のくぼみに身をひそめる。まるで塹壕に身をひそめる第一次世界大戦の兵士のように。

私たちが下りはじめてからやっと視界を奪っていた雲が風に吹き飛ばされた。

明るくなり、雲が消え、風がおさまり、ここでやっとカメラを取り出して撮影することができた。

それまではあまりの強風にカメラを取り出すどころではなかったのだ。

今は平穏なこのルートに猛烈な風が吹いて私たちを苦しめた。

見ての通り、遮るものが何もないため、ジェットストリームが力いっぱいイロハの肉体に吹きつけたのだ。

スポンサーリンク

世界遺産キナバル山は日本の山とぜんぜん違う

巨大な一枚岩のような大地が山頂まで続いている。このような山を私は日本で見たことがない。

日本の百名山ハンターは、一度キナバル山に挑戦したら面白い。これまでの山では味わったことがない経験ができるだろう。

ようやく雲が飛んで、光が差し込んできた。肉や皮が風に飛ばされて骨が剥き出しになった大地が続く。

遙か雲の上にこのような岩の荒涼な世界が広がっていようとは。キナバル山は日本の山とは全然違う。

830分ラバンラタ・レストハウスに帰還。

ダイヤモンドヘッドに息を切らしていた女は、こうしてマレーシア最高峰キナバル山4095mの登頂に成功した。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

~~このサイトについて~~

比叡山の大阿闍梨(千日回峰行者)様を超える生涯走行距離の中で走りながら感じたことをサブスリーランナーが綴るコラム。

★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

プロフィール


サンダルマン・ハルト。雑誌『ランナーズ』等に執筆歴のあるライター。『山と渓谷』ピープル・オブ・ザ・イヤー選出歴あり。サブスリーランナー。グランドスラムの達成者(100kmサブテン。富士登山競争登頂)。スイス・ブライトホルン。マレーシア・キナバル山。台湾・玉山ニイタカヤマ。南アルプス全山縦走など登山歴も豊富。キャンプ・車中泊マニア。アウトドア派の放浪の旅人。現在、仮想地球一周ランニング中。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

ツイートしています。見てね!
精一杯でいいから走ろう


オートキャンプランキング
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

仮想世界一周ランニング旅に挑戦中。応援おねがいします
旅行-車中泊-温泉-アウトドア
スポンサーリンク
sandalsmanをフォローする
ドラクエ的な人生
タイトルとURLをコピーしました