漢字文化圏
中国や台湾を旅した人ならご存知でしょうが、漢字を使っています。
漢字というのは非常にキャッチーな文字です。
私は外国で英語と漢字が併記されている看板を見ると、確実に漢字の方に目が行きます。
結局、内容を読み取れず、英語の方を読んだら意味が全部わかったということも珍しくありません。
そうわかっていても、吸い寄せられるように漢字に目がいきます。
中国は昔の漢字を省略した「簡体字」という漢字を使っています。
日本は基本的に略した「常用漢字」。
台湾は「繁体字」という画数の多い漢字を使っています。
例えば「台湾駅」と書くのが常用漢字。「台湾站」と書くのが簡体字。「臺灣驛」と書くのが繁体字です。
中国の簡体字はもう「読めるか! もはや部首だけだろ!」とツッコミたくなるぐらい省略されていて、ケータイ・スマホ時代に見事に対応しています(笑)。
部首だけといっても、類似の漢字は多く、簡体字をさいしょに覚えるのはたいへんだったでしょうね。
しかし、中には省略し忘れたのか画数の多いまま残されている漢字もあります。
文書の中にやたらと画数の少ない漢字と、やたらと画数の多い漢字が並んでいたりします。
「おいおい。そっちじゃない。こっちを省略すべきだろう!」とツッコミたくなるような漢字もあります。
町中に溢れる漢字を読んで意味を想像することは、日本人にとっての中国旅では欠かせない面白さのひとつになっています。
また、漢字が読めて、書けるということは、同じ文化圏に属しているのだなあ、という親戚の家を訪ねたような気持ちにさせてくれます。
親戚の家を訪ねたような親近感。中国とは仲良くしよう
中国杭州にひとり旅をした時のことです。
駅まで戻りたくてタクシーに乗ったのですが「Stationステーション」と行き先を伝えても通じません。
「Stationステーション」ぐらいの基本的な単語ぐらいはわかるだろうとたかをくくっていたのです。
さあ、困りました。
ここは筆談しかありません。
ノートを取り出し「駅」と書いて見せましたが通じません。
中国では「駅」は「站」と書かなければ通じないのですが、当時はそのことを知りませんでした。
するとどの単語がヒットしたのかわかりませんが、タクシーの運転手は「杭州站」に行きたいんだなということをちゃんと理解してくれたのです。その間、私は一言も喋っていません。
もしかしたらどの単語も正確にはヒットしていないのかもしれません。しかし単語のイメージのカタマリとして、ちゃんと伝わったのです。
これが漢字のもつ力です。
この時は本当にうれしかったです。タクシーの運転手に行き先を伝えられたことがではなく、中国と日本の関係性そのものの中に自分が生きていることを実感できたから。
おそらく昔の日本人も、こうやって中国人と意思疎通してきたんだろうなあと思ったのです。
このような意思疎通をすることは、中国人と日本人にしかできないことです。
訪問中に毎日食べていた朝食の肉まんの種類(豚だとかタケノコだとかニラだとか)も、一切発音できないのですが、メニューから漢字を書き取ることができますので、それで意思疎通ができます。
欧米人には漢字を書きとることも難しいのです。日本人がアラビア文字を簡単には書き写せないように。
漢字が通じた時ほど、中国人と日本人の、文化の歴史や、近しい関係性を感じることはありません。
世界の中つ国(なかつくに)を心から敬うことができる瞬間でもあります。