養分様とキャッシュバック対象者に呼ばれていた頃
私はモノを大切にするタイプです。昔はスマホをボロボロになるまで使っていましたし、同じ通信会社をずっと使い続けていました。
気の利いた人たちが、どんどんスマホを乗り換えたり、複数の回線を利用するなどして、キャッシュバックや、スマホ本体を無料ゲットしていた頃の話しです。後年、私のような人のことが「養分様」と呼ばれていたことを知りました。誰の養分かというと、もちろんキャッシュバックの原資を私の通信費から支払っているということですね。
他人に養分呼ばわりされるのもしゃくなので、今は2年に一度、通信会社を乗り換えています。っていうか、そもそもスマホを2年レンタル契約にしているので、その段階でスマホを返却しなければなりません。私はもうスマホのオーナーですらないのです。スマホ返却のタイミングが、通信会社見直しのタイミングです。まあ良心的なほうの回線利用者だといえるのではないでしょうか。
インセンティブの摩擦設計。ブレークエイジ、スラッジとは?
スマホの回線を他社に乗り換えた時に、今でもキャッシュバックという特典をつけてくれることがあります。現金でくれることもありますが、ポイントでくれるときもあります。そこは回線契約事業所のサービスなので、向こうの勝手です。ポイントじゃなくて現金でくれ、とは言えません。
いただく立場なので勝手は言えませんが……先日、回線をNTTドコモに切り替えた時に、えらく面倒なキャッシュバックに出会いました。キャッシュバックをもらうためには、契約日から20日から30日のあいだの10日間にキャッシュバック登録を行わなければなりません。それを忘れたらもうキャッシュバック特典は受け取れないというのです。しかもお金を受け取る場合も、メールを受信したときから30日以内に換金しないと、やはりキャッシュバックは無効になってしまうというのでした。
なかなか面倒くさいですよね。つい忘れてしまいそうです。
いや実際のところ、企業の側は忘れてくれることを期待してサービスを設計しているのです。こういう「お客さんが忘れてくれることを期待している」サービスのことを、インセンティブの摩擦設計といいます。ブレークエイジとか、スラッジと言われることもあります。何かをやろうとする誘因がわざとうまくいかないように引っかかるように設計してあるのです。キャッシュバックを受けるための登録が、その場ですぐできないというのがその証拠です。
そもそもその場で現金で渡したっていいのに、なぜわざわざ時間差にするのでしょうか。デジタル時代の登録なんて、即時その場でできなきゃおかしいはずでしょう。わざわざ契約日から20日から30日後じゃないとダメという設計になっているのは、そのぐらいが人間が一番忘れやすい時期だからです。
こうすれば企業は「キャッシュバックサービスをやっています」と言えますし「忘れてくれた分は企業の儲け」になります。こういうのをインセンティブの摩擦設計というのです。
ケータイ会社も、旅行会社も、キャッシュバックは「忘れることを期待されている」設計。ガッカリさせてやりましょう
先日、agodaという旅行サイトでホテルの予約をしました。一泊二食付きでかなり安かったのでよろこんで予約画面に飛んだのですが、表示された支払金額は、当初表示されていた金額とは違って高くなっていました。よく読むと、いったんは高い金額を払うものの、後日、手続きをすればキャッシュバックされるという仕組みです。
これもインセンティブの摩擦設計のひとつです。そもそも安く表示していますので成約率が上がりますし、お客さんが手続きを忘れてくれれば高い宿泊代金をとることができます。agodaのキャッシュバックの時期は、やはり人間が一番忘れやすい二週間ぐらい先に設定されていました。
お見通しだっつーの!
ケータイの通信会社にせよ、旅行会社にせよ、事務手続きが忘れそうな遠い時期に設定されていたり、面倒くさい手続きでこちらのやる気をそぐような設定になっているものは、しかたなくそうなっているのではありません。私たちが忘れてくれることを期待しているのです。こういうのをインセンティブの摩擦設計といいます。
なにも企業の期待にそうことはありません。しっかりと手続きして、ガッカリさせてやりましょう。to doリストに登録しておくことを忘れずに!

