パワーストーンが吸い込んだ邪気をはらうためにクラスター水晶が必要だという妻
先日、うちの妻が衝撃的なことを言いました。
「私のヒスイの腕輪が邪気を吸って曇ってきたから、水晶が欲しい」
ガーン!!!! きみって宗教にハマるタイプ??
大型ショッピングモールを散策していたら、石屋さんがありました。石屋さんといっても墓石を売っているわけではありません。
婚約指輪のようなブリリアンカットのダイヤモンドを売っているわけでもないから宝石屋というのもちょっと違います。どちらかというと発掘したままの原石を売っているカンジです。
こういうお店のことを正式には何というのでしょうか? 「石屋さん」としか言いようがない感じですが・・・。もしくは「パワーストーン屋さん」?
若者向けのチープなお店で、たくさんの種類のパワーストーンとその効能がヴィレッジヴァンガード風POPに手書きでたくさん書きこまれていました。
たとえば翡翠(ひすい・ジェダイト)は、トラブルを回避し、人生の成功を守護する石なのだそうです。とくに中国文化圏では五徳(仁・義・礼・智・勇)を高めるとされて、昔から大切にされてきました。わが国でも縄文時代の勾玉はひすいからできています。
まあ百歩譲ってヒスイを身につけるところまでは認めましょう。美しい石です。縄文人だって身に着けていた装身具です。
ところがウチの妻は「ひすいがマイナスの邪気を吸い込んでくれていた。だから濁ってきた。それを浄化するためにはクラスター水晶(水晶さざれ石の台)にひすいをかけておかなければならない」というのです。
オーマイガー! なんてこったい。こいつはまずいことになったとわたしは思いました。
邪気を吸い込む? 水晶で浄化する? それってインチキ宗教が高価なツボを売るときの手口と一緒じゃね?
パワーストーンの正体とは? 確率の問題を逆手にとったもの
昔からお金持ちは貧しい人よりも幸せである確率が高かった。これは間違いないことでしょう。美しい装身具で身を飾れる人はお金持ちで、幸福な人生を送れた可能性が高かった。つまり「幸せな人生を送った人は美しい装身石を身につけていた確率が高かった」のです。これは確率の問題です。
ところがどこかでそれを逆に言い出したペテン師がいたのでしょう。「お金持ちだから宝石を身につけているのではなく、宝石を身につけているからお金持ちになったのだ」と。
みんな幸せになりたいから、藁にもすがる思いでそれを信じた人もいたでしょう。それがパワーストーンの正体です。石で幸運が引き寄せられるはずがありません。そんなものは気の迷い、迷信です。
パワーストーンは、それほど高価でない石も含まれています。騙されてもこのぐらいの金額ならいいかな、ぐらいの価格です。邪気を払うような超常現象的な効果がなかったとしても手元に美しい石が残るわけだから損はありません。だから「買っちゃおうかな」と思えるぐらいの価格帯に設定されているのです。
そこがミソです。
詐欺師が詐欺をかけるときも「騙されてもこのぐらいの金額ならいいかな」ぐらいの価格帯を設定するのです。
買う方から見ても、数千円~数万円で買ったブツが本当に人生のトラブルを回避し、成功を守護してくれるのだとしたら、これほど安い買い物はありません。
その分の(ありもしない)プレミア価格が、詐欺師の儲け・取り分になっているのです。
大陽の光や塩で石を浄化するって、吸血鬼か怨霊か?
ヒスイの腕輪だけでも詐欺商法にひっかかっている可能性がなきにしもあらずですが、この上、水晶クラスター台です。水晶クラスターというのは柱状化した水晶が集合したもので、その上に宝石や腕輪を置いたり掛けたりすることができるようになっています。宝石だけでは効果が衰えていくから、浄化台も買わなければならないというわけです。見事な抱き合わせ商品ですね。充電器か!?
その他にも「濁ったヒスイ」を浄化する方法として、「太陽の光で浄化する」とか「塩で浄化する」とかいう方法もあるそうです。昔から太陽の光で浄化するのは吸血鬼ドラキュラですし、塩で浄化するのは怨霊だと決まっています。
パワーストーン屋はどれだけ淫祠邪教化すれば気が済むのでしょうか。石が邪気を吸い取るなんてあるわけないじゃん。
カルト宗教にお金をつぎ込むのと精神構造は同じ
自分のパートナーが美しく身を飾るのは悪いことではありません。しかし購買動機が美のための装身具というよりは幸福のための信仰だとすれば話は別です。
カルト宗教に全財産を貢いでしまう人も「悪い運気を払って」「幸せになろうとして」やっているのです。精神的な構造はまったく同じです。パワーストーンが邪気を吸い込むと心から信じるのも、麻原彰晃が世界を救うと心から信じるのも、同じことではありますまいか?
ウチの妻があぶない道を進み始めているとダンナは気づいてしまいました。その信仰のために財を惜しまないところまで行ってしまったらオシマイです。ヒスイの腕輪まではいいでしょう。しかしそれを浄化するためのクラスター水晶まではどうでしょうか。カルト教団に財産をつぎ込んでしまう人を笑えません。
妻が全財産を詐欺につぎ込むということは、私が無一文になるということでもあります。
ここで何とかして踏みとどまってもらわなければならない。ヒスイの腕輪まではいいが、浄化のためのクラスター水晶の台まではダメです。
この気持ちをどのように伝えたらいいでしょうか?
詐欺商法のテクニック。水晶クラスターを買うのも、高価な壺を買うのも同じこと
昔、あやしい宗教団体が、高額な壺を信者に売りつけているというニュースがありました。壺がもつ正当な鑑定価値よりもそうとう高く売られていたのですが、そんなものがどうしてそんなものが売れたのかと言えは「この壺を買えば幸運になります」という宗教的なプレミアがついていたからでした。
「この壺があれば家運上昇、旦那の出世まちがいなし」といわれたら、それを望む奥さんは壺を買ってしまうかもしれません。もし本当に旦那が出世して給料が上がれば壺代の元が取れるぐらいなら、プレミア価格に納得して買ってしまう人も大勢いるでしょう。説明した通り、それが詐欺師の手口、詐欺商法のテクニックなのですが。
石が邪気を吸い込むとか、水晶がヒスイを浄化するとか、わたしにはもはや妻が何を言っているのかさっぱりわかりません。ただわかったのは、うちの妻は壺を買うタイプだな、ということだけでした。
この気持ちをなんとかわかってもらわなければなりません。騙されているのだということをなんとか自分で悟ってもらわなければなりません。それには何と伝えればいいのでしょうか。
「君は騙されている。幸福と装身具とは無縁だ」
カルト教団の出家信者に対して、家族は何度となくこのような説得を繰り返してきました。
しかし効果はありませんでした。むしろ相手を頑なにしてしまうのみでした。
理屈では駄目です。正論を言っても無駄です。むしろ感じてもらうことです。まんまと騙されている自分を。
自分の心で感じてもらわなければならない。こちらの言葉は短く、相手の頭の中で言葉が渦巻き反響するような一言で。
いろいろ考えて、やさしい声でわたしは言いました。
「君って壺を買うタイプ?」