外国語がしゃべれないと外国旅行はできないと思っている人がいるが、そんなことはない。
私は諸国を旅してきたが、話せるのは日本語だけだ。
あなたが小便をしたくなった時、「where is the toilet?」と言えなくても、全然問題ない。
小便を我慢できない表情をして、股間を手で押さえ、内股でモジモジしながら、
「ファ、ファジャンシル。ジャジャンシル、オディイッスムニカ?」と緊迫した声で伝えれば、相手は100%あなたをトイレに案内してくれる。
韓国語だって、 中国語だって、何語で喋っても問題ない。大切なのは「伝えたいという気持ち」である。あまり英語に頼ると南米のような英語の全く通じない国に行けなくなるぞ。
日本語の主語は「あなた」。英語の主語は「わたし」
どこかの外国でトイレに行きたくてたまらなくなった。お店に入り、この時も「トイレ貸してくれ!」と上の要領でメチャクチャ語で喋ったらトイレに案内してくれた。もちろん通じた。
男女共用のトイレだったのだが個室ひとつしかなくて私が入ろうとする直前に、白人女性がそのトイレに入ろうとしているところだった。
これはやばい状況である。も、漏れそうだ……。この年齢で外国のお店の中でお漏らししたらシャレにならない。
白人女性は私とトイレのタイミングがバッティングしたのに気付いていたが、モジモジしている私の様子を見て「AFTER YOU」と言った。
英語は理解できなかったが、トイレを先に譲ってくれたことはわかった。膀胱に最後の我慢をしいて個室に飛び入り、放尿の解放感に長いため息をついて膀胱内に水分を絞り切ると、個室を出て、外で待っている白人女性に「謝謝(シェシェ)」と言った。謝っているのではない。ありがとう、と言ったのだ。もちろん白人女性に感謝の意は通じた。
帰国して「AFTER YOU」の意味を検索したら「お先にどうぞ」という意味だった。
私の想像した通りの意味だった。
面白い表現だなあと思う。日本語と英語はこんなにも違うのか。同じことを表現するのでも主語が違う。
日本語の「お先にどうぞ」は主語が「あなた」だ。「あなたが、お先にどうぞ」という意味である。それに対して「AFTER YOU」の主語は「わたし」だ。「わたしが、あなたの後でいい」という意味である。
どっちにしても通じる。何語だって通じる。英語なんて喋れなくたって構わない。
でもよく知れば、とても面白い。同じことを言うのも、主語が違うのだ。
「風が吹いている」と日本語では自然を主語に言うが、英語では「私は風に吹かれている」と言ったりして(笑)。
無駄だから勉強するな、とは言っていない。勉強すると、きっと面白いだろうな。