ドラクエ的な人生

歴史はストーリーで語れ。ヘロドトス『歴史』おもしろい!!

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「歴史はストーリーで語れ」歴史はおもしろい

歴史の父ヘロドトスの書いた『歴史』。後世の歴史観に決定的な影響をあたえた本です。

どんな影響かというと「歴史はストーリーで語れ」ということですね。

ヘロドトスかいたから、歴史はおもしろいのだと言えるかもしれません。

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人類最初の歴史書は、ルポルタージュ、ノンフィクション、エッセイに近い

ヘシオドス神統記』などがそうであったように、古い書物なので「神に捧げる詩」の形式で書かれているのだろうと思っていました。

ところが、翻訳者が読みやすくしてくれているのかもしれませんが、ほぼルポルタージュです。ノンフィクションです。近代的なエッセイとして読むことができます。

歴史といっても年表ではありません。

ひとつひとつが一流のストーリーテラー・ヘロドトスの語る物語となっています。

その物語がキリスト教以前の世界観なので、実話なのに、空想よりも想像を大きくこえてきて、とても面白いのです。

『サド侯爵夫人』三島由紀夫の最高傑作

具体的に書きましょう。

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エピソード1.墓あらしの子孫に対して「バーカ、バーカ!」

「後のバビロン王でお金に困ったものがいたら、われの墓を暴いて好きにせよ」と墓の正門に文字をかがげたバビロンの女王がいました。墓泥棒を恐れていたのですね。数世代後のバビロン王がお金に困って女王の墓を暴いたら「おまえは貪欲なやつじゃ。恥を知っていたら死人の棺を開くこともなかったものを」という文字が刻まれていて、黄金、財宝なんてひとつもなかったとか。

「バーカ、バーカ」ってことですね。お笑い小話みたいですが、実話です。なんてったってヘロドトスの『歴史』に書いてあるんですからね。

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エピソード2.公的な持参金システム。結婚できない女性をなくすセーフティーネット

ある街の風習が描かれています。その街では、嫁入り前の娘は一カ所に集められセリにかけられるのです。昔は結婚の自由なんてなくて、親が娘の相手を決めるのはあたりまえだったのですが、その街ではもっと風変りでした。男たちのセリによって一番の美女が高値で売られ、器量が落ちることに落札値段は安くなっていったのだそうです。

おもしろいのはここからです。

引き取り手のないブサイクは逆に持参金をつけて引き取ってもらうのです。美女についたお金がブサイクの持参金になるという仕組みです。

ある種の共産主義的楽園というか(笑)。

現在と違って、結婚しないと生きていけなかった時代ですから、生き残れない不幸な女性を根絶するためのセーフティーネットとして、公的な持参金システムが整備されていたというのです。

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エピソード3.エロ同人誌の世界。ブス専だって人助け

ヘロドトスの知る中で最も破廉恥な風習は、バビロンの女は一生に一度はアフロディーテの神殿の中で、夫以外の見知らぬ男と交わらなければならないというルールがあったそうです。男は「お相手願いたい」とだけ言えばいいそうです。その時に限りどんな相手でもお金で買えるというわけですね。お姫様だろうが、お金持ちの奥様だろうが、新妻だろうか例外はありません。

キリスト教以前の世界観なので、性欲を悪だとまったく思っていません。むしろアフロディーテ(ビーナス)は性愛の女神です。軍神アレスと不倫したアフロティーテはセックスしている最中に夫のヘパイストスの罠にかけられて、まぐわっているままで神々の晒しものになってしまうのですが、それを見たギリシアの神々は「アフロディーテとまぐわえるなら、さらし者になっても構わない」と羨ましがったのです。

一部の男に美女を独占させないガス抜きのアフロディーテー的な知恵だと言えるでしょう。

女がアフロディーテの神殿の中にいる時は、誰でも女をお金で買えるが、神殿を出たらどれほど大金を積んでもその女を自由にすることはできないのです。社会のルールを逸脱できたのは美神アフロティーテのおかげでした。男たちはアフロディーテの恵みを感じて、女神への信仰心をあつくしたことでしょう。

ところでおもしろいのはここからです。

容姿に優れた女はすぐに売れるのでアフロディーテの神殿からすぐに家に帰ることができたのですが、器量の悪い女は三年も四年も神域に居座るものもいたというのです。

ぜんぜん売れなかったんですね……ブス専の男はいなかったのかいな。

(親が裏で手を回して、サクラをつかえばいいのに……)

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エピソード4.歴史の古い種族を確かめるために、赤ん坊が何語を喋るか実験して確かめる

今と違って昔は××族、××族というのがたくさんありました。集落ごとに××族と名乗っていたぐらいに考えるといいでしょう。そういう××族がどんどん吸収合併されてやがて国ができます。そして××人というのが誕生するのですが、××人というのもたくさんありました。

そんなとき、プリギュア人と、エジプト人が、どちらがルーツの正しい古い人種であるか論争となりました。

それを調べるために、どんなことをしたと思いますか?

なんと赤ん坊をヒツジと一緒に育てて、人間社会から隔離して、その子が最初に何語を喋るかで、どちらがルーツとして古いかを判断しようとしたのです。

赤ちゃんは「ベコス」という言葉を発っしました。「ベコス」という言葉がプリギュア語にありエジプト語になかったため、プリギュア人の方がエジプト人よりも古い民族だと判断されたのです。

偶然じゃん! と思うのは現代人の感覚です。

戦争して勝利者が歴史を書き換えるという歴史観の中で、この決め方は新鮮で面白いと思いませんか?

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なぜかギリシア以外の歴史、とくにペルシャ側からの歴史が描かれる

ヘロドトスはギリシア人なのでギリシアの歴史を中心に書いていると読む前には思っていたのですが、読んでみるとギリシアの歴史というよりは、周辺地域とくにペルシャの歴史をやたらに追いかけているのに気づきます。

そこにとても違和感を感じました。あまりギリシアの歴史について語っていないのです。

ギリシアの歴史はみんな知っているだろうから書くまでもない。みんなが知らない敵国(ペルシャ)の歴史を書いて教えよう。

というルポルタージュ的なものだったのかもしれません。本書は。

長年にわたって、ギリシアの最大のライバルとしてペルシヤがあったわけです。

しかしギリシア人のヘロドトスが書いた『歴史』が、レオニダス王側からではなくクセルクセス王側から書き起こされていることには、意外な感じがしてなりませんでした。

映画『300』スリーハンドレット。永遠に生きるがいい

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たくさんの面白エピソードが満載。残虐な描写も多い

ほかにもたくさんの面白エピソードが満載です。

ある国では、老人は生きていられる年齢制限があったそうです。高齢になると近親者が集まって、老人を殺し、肉を煮て一同で食べてしまうという風俗があったとか。

日本の古い怪談話みたいですが、実話ですよ。ヘロドトスの歴史ですからね!

死人をはちみつ漬けにして埋葬するとか。なんのためにはちみつ漬けにするんだろう? 食った方がいいのにハチミツがもったいない。フィクションだって思いつかないような奇妙な風習が昔はあったのだということがわかります。

織田信長浅井長政にやったという髑髏の盃エピソードも登場します。信長だけが突拍子もない異常性格者だったわけじゃないということがわかります。ヘロドトス『歴史』にも登場するんですから!

ペルシアの大王クセルクセスはある人妻に懸想しますが、口説き落とすことができず、人妻の娘と自分の息子を結婚させます。そうすることで人妻を口説くチャンスが増えると思ったからでした。

しかしやがてクセルクセスは、息子の嫁に懸想して自分のものにしてしまいます。そのことに怒った正妻が人妻の両の乳房を切り取って犬に投げ与え、鼻、耳、唇も同様にし、さらに舌まで切り落として変わり果てた姿になった彼女を夫の元に送り付けたのでした……おおお、残酷!!

『歴史』を読むと、現代の人権思想がどれほど人々を守っているか、よくわかります。

昔はこういう拷問や、残酷な行為がたくさんあったんでしょうな。

『歴史』を読むと、私たちの時代が昔に比べて進歩したいい時代なのだということがよくわかります。

そういう意味でも読む価値があると思います。事実だ……という事実は圧倒的に大きなことですから。

 

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キリスト教以前の世界観。世界はワンダーランドだ!

また有名なバビルの塔(ジグラット)の描写も登場します。

エジプトはナイル川の洲がつくったとか、ひじょうにヘロドトスは近代的な知恵をもっており、賢い書き手だと感じました。

そのクレバーな書き手でもナイル川の延長はドナウ川ぐらいと見積もられていたりして、間違いも含めて読んでいて面白いのです。

謎の「翼をもつ蛇」がいたりして、ドラクエみたいな世界観だったのですね。

ヘロドトスは現地に飛んで、現場の人に取材しています。まるで旅行作家の書きっぷりです。

人のエピソードだけでなく、大きな戦争もたくさんありますし、第一級のエンターテイメント小説として読むことができます。

ヘロドトスは当時の風俗を書き残しただけなんでしょうが、キリスト教以前の世界観は、空想作家でも思いつかないような今とは隔絶した風俗があって、イマジネーションを刺激されます。

とくに女性を巡る当時の社会のコモンセンスには、SF作家ですらびっくりしてしまうことでしょう。

現在の人権意識というものから考えると、とんでもない差別的なことに見えます。

しかし「歴史的な事実として」淡々と語られています。

フィクションの空想小説よりも、さらにフィクションぽくておもしろい、それがヘロドトス『歴史』でした。

死ぬまでに一度は読んでみたい本のひとつだと思います。

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