ドラクエ的な人生

人間は人の間で生きている。

七十六歳の知人の父親が、あまり頭がはっきりしないという話しを聞きました。呼びかけても、かくしゃくとした返事が返ってこないそうです。もうかなりの齢なのでしかたないところもありますが、まだボケてしまうには早い気がします。

その知人の父親が、眼底出血の手術のために、病院にしばらく入院することになりました。手術もぶじに終わり、見舞いに行ったところ、病院内で見違えるほど元気になっていたそうです。

そのエピソードを聞いて「ああ、人間ってのは人の間で生きているんだなあ」と思ったのでした。

スポンサーリンク

独居老人は誰とも顔をあわせない口をきかないのが常態

その知人の父親というのが、ずっとひとり暮らしをしているんだそうです。若い頃に離婚して配偶者はなく、娘がひとりいるのですが、自分の家庭をもって家を出てしまっています。いわゆる独居老人です。

独居老人の家での暮らしは、誰とも口をきかないことが常態となっていました。運動も嫌いなので、ずっとテレビを見て、寝転がっていることがあたりまえの暮らしをしていたのだそうです。

運動習慣があれば、それが脳への刺激となるのですが……寝る暮らしではボケにまっしぐらです。

肉体宣言。生きがいとは何だ? 肉体をつかってこその生き甲斐

ところが病院に入院すると、ドクターやらナースやらが入れ替わり立ち替わり顔を見せたり声を掛けたりしてきます。すると見違えるほど元気になって人と会話ができるようになったと聞きました。

誰とも顔をあわせない日々の中で、感情が心の奥の方に沈んでしまった状態になっていたのに、入院という強制的な対人暮らしの中で、急に明るさ、元気を取り戻したというのです。

ボケているのか、耳が遠いのかと思うぐらい鈍い反応しか返さなかった人が、はきはきと人と会話ができるようになったのだそうです。

スポンサーリンク

テレビドラマ(映像作品)の視聴は、インプットのみでアウトプットがない。脳への刺激にならない

定年退職後は映画やドラマの視聴が趣味で、ずっとテレビの前で生活をしていたそうです。

しかしいくら刺激的なドラマでも、登場人物が視聴者に声を掛けてくることはありません。

どんなに刺激的な脚本や映像だろうと、生身の人間がリアルに声をかけてくることにくらべたら、人を興奮させてはくれないということでしょう。

どんなに刺激的なアダルトビデオでも、生身の女性の刺激には全くかないません。映像作品には、匂いとか、体温とかがありません。あるのは視覚と聴覚だけです。

生身の人間は「こちら」を傷つける力をもっていますが、電源ボタン一つで消えてしまう映像作品には差し迫って命の危険を感じさせるほどの切迫感がありません。生存本能がおびやかされるように心がざわつくと、脳が覚醒します。人との会話にはそれがありますが、テレビにはありません。

インプットしかなく、アウトプットがありません。

生の人間と触れ合うほどの刺激をテレビはあたえてくれない、ということをこの独居老人エピソードは示しています。

スポンサーリンク

メタバースが人間の世界を席巻することなんてないと思う

Facebookフェイスブック社が社名をMetaメタに変更すると発表したことでいちやく注目を浴びている「メタバース」。

Metaverseメタバースとは、デジタル空間内にもうひとつの仮想世界をつくって、その中で仮想空間の自分(アバターといいます)を活躍させるという世界観のことです。メタバース内では「ものの売買」などが現実空間と同じようにされて、人間関係も金銭関係も現実と同じように存在します。

フェイスブックのザッカーバーグ氏は「これからの時代はこれや!」とメタバース事業に賭ける意気込みで社名変更をしたのですが、どうでしょうか?

わたしは、メタバースなんてものが、世の中や経済を席巻することなんてないと思っています。この独居老人のエピソードがその証拠です。

メタバースには匂いがありません。触感がありません。人対人のヒリヒリとした生きている実感がないのです。そのようなものが、この現実社会に取って代わられるなってことは「ありえないこと」だと信じています。

独居老人が入院して強制的に人間関係の中に放り込まれたとき、急に意識がかくしゃくとして溌溂となった実例を、メタバースには再現できません。

その程度のインパクトしかないものを、みんな大袈裟に考えすぎです。メタバースなんて、ただのゲーム程度のものだと思います。

スポンサーリンク

配偶者なし・独身男の方が寿命が短い原因・理由

世の中には、配偶者なし・独身男の割合が増えています。

男性の場合、妻帯者にくらべると、独身男の方が圧倒的に寿命が短いんだそうです。平均で10~15年も平均年齢に違いがあるそうです。

食生活の充実度などにこの平均年齢の差の原因をもとめることが多いのですが、上記エピソードに見る「心の交流」も原因のひとつではないかと思います。脳がボケてしまったら長生きはできません。

すくなくとも配偶者がいれば、誰とも口をきかない日々ではないでしょうし、好きなテレビばかりを見て過ごしているわけにもいきません。自分の中に感情を沈ませてしまっている場合ではないからです。

独居老人が、入院という強制的な集団生活の中で、はつらつとした感情を示すようになったというエピソードを聞いて、ああ人間っていうのは人の間で生きているんだあ、と強く感じたのでした。

モバイルバージョンを終了