ベーオウルフ。かわいそうな「グレンデルの母」名前つけてやれよ!
『ドン・キホーテ』の影響で、中世の騎士物語が読みたくなりました。
そして『ベーオウルフ』という中世のドラゴン退治の伝説を読みました。
ドラゴン退治のミカエル。ゲオルギウス。トリスタン。ジークフリート。ベーオウルフ。素戔嗚尊
ベーオウルフは中世の騎士です。ある王国に害をなすグレンデルという巨人の化け物を退治します。
退治の方法がまた荒っぽい。剣で刺し殺すのかと思ったら、素手でグレンデルの腕を引っこ抜いて出血死の致命傷をおわせるというヘラクレスもびっくりの荒業でした。(ヘラクレスはネメアのライオンを素手で絞め殺しています)
すると次に「グレンデルの母」がリベンジマッチにやってきます。そして魔法の剣で倒すのでした。この「グレンデルの母」というのはグレンデル以上に強いのですが、名前がありません。いや、名前つけてやれよ。
日本の古典『蜻蛉日記』の藤原道綱母を思い出してしまいました。モンスターまで女性が差別されていたのかと悲しくなります。かわいそうな「グレンデルの母」。
このベーオウルフのたたかいはグレンデル母子を倒しただけでは終わりません。
デーモンスレイヤーのベーオウルフは故郷の王となります。しかしこの国をドラゴンが襲ってくるのでした。七十歳近くになった老齢で最後に火を吐くドラゴンと戦います。この火龍にも名前はありません。いや、名前つけてやれよ。ファフニールとかテュポーンとかさ。
ベーオウルフはドラゴンを倒すのですが、自分も倒れます。このあたり、北欧神話ラグナロクでヨルムンガルドと相打ちになる雷神トールをほうふつとさせますね。
中世の騎士物語は昔のドラクエ(1、2、3あたり)を彷彿させるので、面白いですよ。
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ケニングという修辞法
こちらの本の解説の中でケニングという修辞を知りました。ケニングというのは北欧で中世に流行っていた修辞法だそうです。日本でいうと枕詞みたいなものだそうです。
たとえば具体的には、
「戦い」は「剣の嵐」「剣の戯れ」「鉄の俄か雨」とかいうのです。
「顎髭」は「顎の森」。
「死体」は「鴉の餌食」。
「剣」は「合戦の相棒」「戦いの光」「海賊どもの月」。
「死体」は「赤い白鳥の肉」「赤い肉体の白鳥たちの小麦」。昔は白鳥が死体を食らったようですね。
「海」は「帆船の道」「鯨の道」。
「太陽」は「世界の蝋燭」「天の軌跡」。
「竪琴」は「歓喜の木材」。
「船」は「海の横断者」。
「王」は「指輪の主」「資産の分配者」。
などだそうです。
これはおもしろいな、と思いました。
ただ剣をふるったと描写するよりも、合戦の相棒がうなったとか、ベーオウルフは海賊の月をきらめかせたと描写する方が、中世騎士物語の雰囲気が高まります。
ハードボイルドな文体もときにはいいと思いますが、ケニングの文体もぜひ読んでみたいと思いました。
ブレンドコーヒーばかりじゃなくて、たまにはエスプレッソも飲みたくなりますものね。

