相続で知る原野商法。
突然の相続に日々勉強しながら取り組んでいます。勉強というのは別に当事者じゃなくてもやればできるものですが、やはり「自分ごと」かどうかでぜんぜん深掘り度が違ってきますね。
たとえばファイナンシャルプランナーを資格試験で勉強している人の投資に対する知識よりも、実際に自分のお金を投資している人の知識のほうが圧倒的に深いものがあるでしょう。それは身銭を切るということによってはるかに自分ごととして深刻に勉強することになるからです。
売れない不動産は負動産。固定資産税を払うよりは「ただであげたい」人もいる
親族の死去により市街地の住宅を相続することになりました。売却するケースを含めてさまざまに検討したのですが、人口減少社会で東京郊外の一軒家を売ることがどれほど難しいかを自分ごととして深く知ることができました。よほどロケーションがいい場合をのぞいて、これほど空き家があまっている国で、簡単に望みどおりの高値で土地が売れるわけがありません。固定資産税を払うよりはむしろ「ただでもあげる」というような人さえいるのが日本の不動産の現状です。
結局、土地は長男が相続することになったのですが、所有権移転登記を自分でやったこともいい経験になりました。司法書士に頼む人も多いのですが、自分でやればできますよ。
ところが被相続人は、市街地の自宅の他にもう一件、北海道に土地を持っていたのです。ずっと千葉県育ちの父にとって北海道はまったく無縁の地だったはずです。なんでこんな土地をもっているのでしょうか。別荘でも建てて住むつもりだったのでしょうか。
これは……原野商法にひっかかっていたんじゃないか?
相続によって北海道の土地と取り組むことになりました。相続登記が義務化されているからです。遺産分割協議が成立してから3年以内に所有権移転登記をしなければなりません。これも司法書士などに頼まずに自力でやってみましょう。まずは「固定資産評価証明書」を郵送で北海道の役場に依頼して送ってもらいました。
被相続人の所有地は北海道虻田郡留寿都村にありました。虻田郡といえばニセコ町。パウダースノーで有名なスキーリゾートで世界中から観光客が訪れるところです。
我ら相続人は胸が高鳴りました。ニセコが近いなんてこりゃあ一山当てられるんじゃないの? しかし「固定資産評価証明書」を見て驚きました。なんと地目は原野、評価額は699円です。ろっぴゃくきゅうじゅうきゅうえんって……!!
課税評価額が100万円以下なので登録免許税のかからない土地(特別減免措置中です)で、しかも30万円以下なので固定資産税もかからない土地です。おそらく現地(現況地目)はまったくの原野なのでしょう。
これは……これは……噂に聞く原野商法なのではあるまいか? ガーン! ショックが遺族のあいだを走り抜けます。えええっ。そうなの? これ、よろこんでる場合じゃないんじゃないか?
原野商法とは?
原野商法というのは将来の開発、値上がりを謳って二束三文の原野を高値で売りつけるという詐欺商法のことです。買値(ほぼゼロ)と売値の差額が詐欺不動産屋の利益となるのです。
しかもこの詐欺商法には第二の矢があります。それは「売り出しますから広告料金を払ってください」というもの。まずは知られなければ(広告を出さなければ)売れるわけないので、原野の所有者はその土地を売るために広告代を払うわけです。
ハイ、これも詐欺です。被相続人はこれにも引っかかっていました。オイオイ!
たしかに現地に「売り出し中」の看板を立てて、ホームページに売り出し中の地番と希望価格を乗せてくれたのですが、ただそれだけです。「一生懸命営業したけど買い手がつきませんでした」と彼らは言ってこの業務は終了します。そもそも原野の分譲地が一軒だけ単独で売れるわけがありません。水道もガスも電気もなく、道路もなく、ごみの収集もなく、虫だらけの原野に、一軒だけ家が建つわけがないでしょう。
もしも売れるとすれば、ニセコリゾートのように、あたり一面が丸ごとリゾート開発されてあたり一帯がまとめて売れるはずです。国土法による開発行為にかかるはずなので、開発計画は役所に問い合わせればわかるでしょう。
原野商法の負動産と知りつつも、法定相続により土地を引き継がなければならない
わるくいえば原野商法にひっかかってしまったわけですが……よく言えば大バクチを打ったともいえます。たしかにニセコリゾートのように土地開発がされれば、土地の値段が上がる可能性がゼロではなかったはずなので。むしろ本人は夢を買って満足だったと思います。しかし遺族は原野商法の負動産と知りつつも、法定相続により土地を引き継がなければなりません。
さいわいにして固定資産税はかかってきません。それは大きな救いです。これで固定資産税がかかってくるとしたらまさしく負動産です。
引き継いだ上は、放置して何もしないことです。そして大規模開発にかかるのをただひたすら待ち続けるだけです。業者から声がかかったとしても広告などする必要はありません。売れるときには全体としてまとまって売れるはずだからです。開発者から声がかかるでしょう。
被相続人がうった大バクチがどうなるか。遺族は放置しつつ、じっくりとどうなるか見定めたいと思っています。起これ、開発計画よ。
むしろ売らずに自分がそこに住みたいぐらいの開発計画が起こってくれたら最高なんですけどね。可能性はゼロではないんじゃないかな。当該地はニセコリゾートとちょうど羊蹄山をはさんで反対側にあります。ちょうど河口湖村が富士市と富士山を挟んで反対側にあるように。大型ショッピングセンターでもできないでしょうか。イオン、イオンがんばれ!! ……っていうふうに淡い期待をいだいて人は原野商法にひっかかってしまうんでしょうね。
参考≪相続の実体験の記録≫
※有価証券の相続
「手数料!」ネット証券と実店舗型証券会社の購入、運用、売却、手数料の差
※不動産譲渡税の節約
不動産譲渡税を払わずに済ませる方法。脱税スレスレの裏ワザを伝授
※遺産分割協議書
遺品整理で車を売る。100万円未満なら遺産分割協議書はいりません
※遺品整理補償
総合家財保険。まさかの遺品整理補償あり。請求する際、写真が必要なので撮っておくようにしてください
※独居老人の死亡。相続税の基準日はどうするか?
【相続】独居老人の死亡。死亡日が不明(推定幅がある)場合、いつを相続税の基準日にするのか
※法定相続情報一覧図
【相続・実体験】法務局「法定相続情報一覧図」作成サンプル(叔父叔母の遺産を甥、姪が代襲相続する場合)
※代表相続人の条件