ドラクエ的な人生

戦争を経験した祖父が証言・書き残すのを拒否した話し

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戦争を経験した祖父が証言・書き残すのを拒否した話し

もうとっくに死んでしまったわたしの祖父の話しである。実のおじいさんの話しだ。

おれのじいさんは戦争経験者だった。もちろん太平洋戦争(第二次世界大戦・大東亜戦争)である。

当時わたしは作家志望の学生だった。そして自分の中に他者に訴えかける魅力的、衝撃的なコンテンツが何もないことを知っていた。

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このブログの著者が執筆した「なぜ生きるのか? 何のために生きるのか?」を追求した純文学小説です。

「きみが望むならあげるよ。海の底の珊瑚の白い花束を。ぼくのからだの一部だけど、きみが欲しいならあげる。」

「金色の波をすべるあなたは、まるで海に浮かぶ星のよう。夕日を背に浴び、きれいな軌跡をえがいて還ってくるの。夢みるように何度も何度も、波を泳いでわたしのもとへ。」

※本作は小説『ツバサ』の前編部分に相当するものです。

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そういうわたしからすると、戦争経験者の祖父は、ものすごいネタをもっている人に見えた。戦争の実体験なんてレアすぎる体験だ。誰だって聞きたいに決まっている。

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年齢順に死んでいくから戦争体験談が貴重になりつつある時代だった

人は老い、死んでいく。あの戦争をなまで体験した人たちは次から次へと失われていくという時代だった。

2022年の現在でも太平洋戦争をリアルで経験した人たちはまだ生き残っているが、老齢で死ぬのは年齢順なので、今生きている人たちは戦争を若者としてペーペーとして経験した人たちばかりだ。

つまり下っ端の一兵卒として経験した人の経験談は今でも聞くことができるが、責任ある立場で戦争を経験した人の話しは貴重になりつつあるという時代だった。責任ある立場というのは、ある程度の地位があったということで、それなりの年齢だったという意味である。

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戦争体験談を記録することをすすめたが嫌がられた

わたしは祖父にその戦争体験を話したり、書き残したりすることをすすめた。せっかく書くべきコンテンツ、いいネタがあるのに、それを書き残さないとはなにごとであるか、と。

生死をかけた自分の体験、それを残さずに他の何を残そうというのか?

ところが祖父はそれを嫌がった。かたくなに何も語らず、何も書き残さず、死んでしまった。

自分にコンテンツがなかった若かった頃、わたしはそのことを「惜しい」と思った。

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何もいいたくなかったし、何も思い出したくなかった

でも今はこう思っている。今では祖父の気持ちがすこしわかる気がするのだ。

いいたくなかったんだろうな、何も。思い出したくもなかったのかもしれない。

そもそもみんなが嬉々とよろこんで戦争に協力していたわけじゃない。

ある人にとっては、戦争協力は、自分のやりたいことではなかっただろうし、もしかしたら戦争に反対だったかもしれない。でも国家によって強制的に自分のやりたくないことをやらされた。

「軍需物資のほとんどを輸入しているアメリカ相手に戦争して勝てるわけないだろう。負けるに決まってるじゃないか」と本当はいいたかったのに、でもその意見を発表できず、自分の本当の気持ちを隠さざるをえなかったかもしれない。

治安維持法があったから、おおっぴらに自分の主張ができなくて、内心忸怩たる思いをいだいていたかもしれない。

そして焼け野原になって負けた日本に、それみたことか、といいたかったかもしれない。

まるでフランス革命のように、価値転換した戦後日本に心の底から幻滅していたかもしれない。

『サド侯爵夫人』三島由紀夫の最高傑作

戦時中の仕事は自由に選んだことではなく国家に強制されてやったことだったかもしれない。それを恥じていたかもしれない。

年齢を経て自分の中に他人に対して訴える価値のある内容を得たわたしは、今は、戦争体験を思い出して詳細に書き残せ、というのは、祖父に対して思いやりのある要求ではなかったなと思う。

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このブログの著者が執筆した純文学小説です。

「かけがえがないなんてことが、どうして言えるだろう。むしろ、こういうべきだった。その人がどんな生き方をしたかで、まわりの人間の人生が変わる、だから人は替えがきかない、と」

「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」

本作は小説『ツバサ』の後半部分にあたるものです。アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。

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むしろ消してしまいたい過去だったのかもしれないのだ。軍隊なんてどれだけ偉くなっても上には上がいる。上意下達の中で右往左往するだけの若い苦い思い出だったのかもしれない。

そんな思い出を書き残したとて何になろう。そう思っていたかもしれない。

ウクライナの戦争を見ていてそう思った。

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見たこともないような悲劇はなにひとつとしてない。どれもこれも過去におこなわれてきたことばかり

戦争で、泣いている人がいる。たくさんの泣いている人がいる。

しかし見たこともないような悲劇はなにひとつとしてない。どれもこれも過去におこなわれてきたことばかりだ。

すでに知っている悲劇ばかりだ。

おれが何も知らなかっただけだったのだ。何も知らないからレアな体験をした人だと思っただけだったのだ。歴史を知れば、過去におこなわれてきたことが繰り返されただけだ。真新しいことは何一つ経験しなかったとさえいえる。

ウクライナ戦争の着地点(決着)には興味があるが、関係者の手記がかつて見たこともないような手記になるとは思えない。

なぜなら現在進行形の悲劇ではあるが、すでに見知った悲劇ばかりだからだ。

もしウクライナ戦争関係者の手記が、ピューリッツアー賞とか、何かの賞をとることがあったとしたら、それは書き手の手腕、書き方による。戦争という悲劇に巻き込まれたという事実からではないだろう。

それほど同じ歴史が、今日も繰り返されている。

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