改札口で待ち合わせ。ずっと相手を待っていて結局会えなかった事件
今ではもうほとんどの人が携帯電話を持っているので、待ち合わせする時にも、時間とだいたいの場所だけしか決めません。「着いたら電話して」と約束しておけば、知らない場所でもなんとか会えるからです。
しかし携帯電話がなかった頃は、そうは行きませんでした。家電話しかなかった時代には、家から出たらもう連絡の手段がなかったのです。
知らない駅の改札口で待ち合わせを約束してデートに向かったら、改札口が二つあって、それぞれの改札口でずっと相手を待っていて結局会えなかったというような話しが昔はいくらでもありました。
海外旅行に行くと、今でもこれと同じ状況になります。約束の時間・場所にどちらかが来ないと、連絡の手段がなく会うことができないのです。
最近ではSIMフリーや国際ローミングを使えば携帯電話が海外でも使えます。しかし私は使っていません。金が惜しいということもありますが、海外に行ってまで携帯の画面を眺めていても仕方がないと思うからです。
フランスのパリに旅行に行ったとき、まともにホテルに泊まるのは面白くなかったので、2週間ほどでしたがアパルトマンで暮らすように滞在したことがあります。
パリのアパルトマンで暮らすように滞在したい。
ところがトラベルはトラブルです。こちらが指定した時間に約束の場所(アパルトマンの玄関前)に行くことが出来ませんでした。飛行機が遅れ、更に指定のアパルトマンに行くのも迷ってしまって、約束の時間に遅れてしまったのです。
本当に現地のフランス人が暮らしている普通のアパルトマンですので、場所はマイナーな場所にあります。聞いたこともない駅でメトロを下りて、聞いたこともない通りの、見たこともないところにアパルトマンはあります。ガイドブックに明記されたルーブルやアンヴァリッドに行くのとはわけが違うのです。まさかの迷子になって、時間を浪費してしまいました。
観光地と違い、アパルトマンには簡単にたどり着けない。
こういうときに携帯電話が通じていれば、自分の居場所がわかって迷子にもならないのでしょうが、携帯なし時代の放浪の旅人はまず自分がどこにいるか、現在地の確認から作業をはじめなければなりませんでした。遅れた言い訳をさせてもらえば、こういうことになりますが、こちらのミステイクです。
さあ、困りました。道行くフランス人に地図を見せて教えてもらいながら、なんとか宿泊予約をしたアパルトマンに辿り着くことができましたが、約束の時間から1時間近く遅刻してしまいました。アパルトマンのオーナーはもう来ないと思ったのでしょう。鍵の受け渡しを約束した場所には誰もいません。もちろんアパートの中には入ることができません。
連絡しようにも、こっちは携帯電話がないし、向こうも固定電話しか持っていません。そういう時代でした。わかっているのはオーナーの自宅の電話番号だけです。オーナーさんはフランス人男性と結婚した日本女性でした。投資のために購入したアパルトマンを日本人旅行者に貸し出すというビジネスなのです。電話さえ通じれば、誠実に応対してくださるはずです。しばらく街を散策し、女性オーナーが家に帰るまで、時間を潰しました。
問題は電話です。どうやってオーナーの自宅に電話したらいいのでしょうか。
パリは日本とは違います。公衆電話なんかありませんでした。自動販売機やコインロッカーやコンビニエンスストアなど日本で普通にあるものがパリにはありません。思い悩んだ末、街角のカフェで電話を貸してくれないか頼みましたが冷たく断られてしまいました。
フランス人って冷たい……。
先に地図を開いて道を聞いたときにもそうでしたが、フランス人というのは案外不親切です。すくなくとも日本人ほどの親切はあまり期待できません。
さて、困りました。クレジットカードでもう宿代を入金してしまっています。今更キャンセルできません。こういうときにいつもの宿予約なしの放浪旅行スタイルだったら、他の宿を探せばいいだけの話しで、何の問題もないのですが。いったいどうやってこのトラブルを解決したらいいでしょうか。
旅先で困ったときにはホテルのレセプションに相談する。チップを払えば何とかなる。
思いついたのは、ホテルのレセプションでした。旅人である自分が、困っていることを説明し、チップを払えば宿泊客でなくても電話ぐらい貸してくれるだろう。そう考えたのです。アパルトマンからなるべく離れたくなかったので、近くの小さなホテルを探してレセプションでお願いすると電話を借りることができました。
祈るような気持ちで電話を掛けると日本女性オーナーが出てくれました。その時はとびあがるほどうれしかったです。どうやら宿代を無駄にせずに済みそうです。よかった。道に迷って遅刻したことを謝り、再度、アパルトマンの前で会う約束をしました。
レセプションの人はチップを受け取ろうとしませんでしたが、無理やり1ユーロおいていきます。本当に助かりました。
アパルトマンのオーナーは近くに住んでいるらしく、すぐに会うことが出来ました。
「何か困った事があったら言いなさいよ」
そう言ってくださいました。日本語ペラペラのフランス人(結婚して国籍はフランス人です)がいざとなったら助けてくださるというのですから百人力です。
門扉と部屋の鍵を渡されて、短期ですが「暮らすようなパリ生活」が始まりました。
ああ。パリがどんなに素晴らしかったか!
アパルトマンを退去するときには、引っ越しして日本に帰国するみたいで、本当に泣きそうになりました。ホテル暮らしだったら、あそこまで悲しくならなかったのではないかと思います。パリジャンと同じようにアパルトマンで暮らすように過ごしたからこそ、ホテルのチェックアウトではなく引っ越すような気持ちになったのです。
パリを立ち去るときは後ろ髪を引かれまくりで、のけぞって背中から倒れそうでした(笑)。
ああ。花の都パリよ。暮らすように過ごしたパリは本当に素晴らしかったです。