ロビンソンもののひとつ。ジュール・ヴェルヌの『ミステリアス・アイランド』
ジュール・ヴェルヌの『ミステリアス・アイランド』を読み終えました。あの名作『海底二万マイル』のネモ船長のその後が描かれているということを聞いたので、その流れで読みました。
ジュール・ヴェルヌ『海底2万マイル』ネモ船長は何を求め、何に復讐しているのか?
ところが、ネモ船長が登場するのは、『ミステリアス・アイランド』のラストの部分のみでした。本編はジュール・ヴェルヌ版ロビンソンクルーソーというものでした。
人生を買うという行為だけで終わらせないために。『ロビンソン・クルーソー』
スイスのロビンソン(家族ロビンソン漂流記 ふしぎな島のフローネの原作)、という有名なインスパイア作品がありますが、『ミステリアス・アイランド』もそれでした。デフォーのロビンソン漂流記が、どれほどたくさんの作家たちをインスパイアさせたかがよくわかりますね。さすが私が世界十大文学に選んだだけのことはあります。
× × × × × ×
(本文より)知りたかった文学の正体がわかった!
かつてわたしは文学というものに過度な期待をしていました。世界一の小説、史上最高の文学には、人生観を変えるような力があるものと思いこんでいました。ふつうの人が知り得ないような深淵の知恵が描かれていると信じていました。文学の正体、それが私は知りたかったのです。読書という心の旅をしながら、私は書物のどこかに「隠されている人生の真理」があるのではないかと探してきました。たとえば聖書やお経の中に。玄奘が大乗のお経の中に人を救うための真実が隠されていると信じていたように。
しかし聖書にもお経にも世界的文学の中にも、そんなものはありませんでした。
世界的傑作とされるトルストイ『戦争と平和』を読み終わった後に、「ああ、これだったのか! 知りたかった文学の正体がわかった!」と私は感じたことがありました。最後にそのエピソードをお話ししましょう。
すべての物語を終えた後、最後に作品のテーマについて、トルストイ本人の自作解題がついていました。長大な物語は何だったのか。どうしてトルストイは『戦争と平和』を書いたのか、何が描きたかったのか、すべてがそこで明らかにされています。それは、ナポレオンの戦争という歴史的な事件に巻き込まれていく人々を描いているように見えて、実は人々がナポレオンの戦争を引き起こしたのだ、という逆説でした。
『戦争と平和』のメインテーマは、はっきりいってたいした知恵ではありません。通いなれた道から追い出されると万事休すと考えがちですが、実はその時はじめて新しい善いものがはじまるのです。命ある限り、幸福はあります——これが『戦争と平和』のメインテーマであり、戦争はナポレオンの意志が起こしたものではなく、時代のひとりひとりの決断の結果起こったのだ、というのが、戦争に関する考察でした。最高峰の文学といっても、たかがその程度なのです。それをえんえんと人間の物語を語り継いだ上で語っているだけなのでした。
その時ようやく文学の正体がわかりました。この世の深淵の知恵を見せてくれる魔術のような書なんて、そんなものはないのです。ストーリーをえんえんと物語った上で、さらりと述べるあたりまえの結論、それが文学というものの正体なのでした。
× × × × × ×
ネモ船長はインド人! マクロスの艦長たちが黒いのはその影響?
誰でもない、でおなじみのネモ船長がインド人だと知ってびっくりしました。たしかにネモ船長の顔は黒いイメージでしたが、それは暗い潜水艦の中だからと思っていました。しかし『ミステリアス・アイランド』に、ネモ船長はインド人だとはっきりと書いてあります。
マクロスの艦長(グローバル艦長も、ジェフリー艦長も)たちがみんなガンクロなのは、このせいかと合点がいきました。マクロスの艦長たちはネモ船長がモデルだと思います。
「未来のエネルギーは水だ」ヴェルヌの予言はあたった
ところでジュールヴェルヌは、未来を先取りするSFを書いたことで知られます。たとえばネモ船長のノーチラス号は、その後の世界に登場する原子力潜水艦を先取りするものでした。しかし攻撃手段は衝角突撃で、魚雷や核ミサイルで攻撃するわけではありません。このようにウェルヌの小説中の科学予言は当たることもあれば、外れることもあるといわれています。
小説『ミステリアス・アイランド』の中にも「未来のエネルギーは水だろう」というSF的な予言が登場します。水の分子は水素と酸素で出来ているのだから、それを分解すれば水素を酸素になります。水素を酸素で燃やせば爆発的に燃えるんだから、未来のエネルギーは水だろう」というようなことが書いてあったのです。読んでいる時、この予言は外れたなあ、と思いました。
しかし、ただいま絶賛開催中の大阪関西万博の展示の中に、ベルヌの予言通りに「水を水素と酸素に分解してそれをエネルギーにしている未来船」というのが登場しているそうです。驚きました。ヴェルヌの予言は当たっていたのです。
展示されている船は、「フューチャーライフ万博・未来の都市」の中、商船三井(MOL)が開発した「ウインドハンター(WIND HUNTER)」プロジェクトの実証船「ウインズ丸(Winz Maru)」というそうです。風力エネルギーを活用して航行しながら、水を電気分解して水素を得るそうです。「未来の都市」パビリオン内の「交通・モビリティ」ゾーンに展示されているそうですよ。
ぜひ見に行きたいですね。
「未来のエネルギーは水」というジュール・ヴェルヌの予言は、どうも当たったみたいなんですよ。おそるべし。そして偉大なりジュール・ヴェルヌ。