幽霊川物語。メコン川・メナム川
私が中学生の頃、地理の先生がこういった。
「メソポタミアにはチグリス・ユーフラテス川、東南アジアにはメコン・メナム川という大きな河がある」
(ユーフラテス川は知っているけど、チグリス川は知らない)という日本人はいないのではないだろうか? 二つの川はワンセットで覚えたものだ。
長じて、私はバックパッカーになった。そして東南アジアを旅するようになる。ベトナムではメコンデルタクルーズを楽しんだ。メコン川に向かって心の中でつぶやいたものだ。
「君の名前は知ってるよ。地理の先生に教わったから」
ところで、もうひとつの川。メナム川はどこにあるのだろう。それが私のファントムリバーストーリーだ。ベトナム、カンボジア、タイランド、マレーシア、シンガポールと旅をしたが、これまでにただの一度もメナム川というのを聞いたことがない。地理の授業で教わるぐらいだから大河であるに違いない。そうだというのに、これまで一度も名前も聞いたことがないというのは変じゃないか?
ふとそう思って調べたところ、なんとメナム川というのは、チャオプラヤー川のことだった。それなら知ってる。何度も船で渡ったよ。だけどなんで名前が変わったの?
白人がタイにやってきたとき、チャオプラヤー川を指して「これの名前は?」と聞いた。「メナム・チャオプラヤー」とタイ人から返事があった。「これはメナムなのか?」「そうだ」というやりとりの後、その川はメナム川と呼ばれるようになったらしい。
しかし実際のところ、メナムというのは川という意味だった。チャオプラヤーのほうが名前だったのだが、白人が間違えたのだ。しかしそれが広がって、私の授業でメナム川というのが登場したというわけ。
メナム川というのはタイ人から見ると、川川という意味なのだ。マウント富士山、江戸川リバーというようなものなのである。
現在では、世界的に白人の言い方ではなく、地元の言い方で呼ぶのが一般的だ。たとえばエアーズロックは白人の言い方で、地元ではウルルと呼ぶ。そしてウルルと呼ぶのが一般的な呼称だ。それと同様に、メナム川も地元タイ人の言い方にならって、チャオプラヤー川と呼ぶようになった。どうりで見たことも聞いたこともないと思ったよ。
香港もそうらしい。もともとは一部の港の名前だったのに、白人の誤解によって、いつの間にか全体の名前になってしまったそうだ。
一部の名前が、全体の名前になるのは、よくあるケース
マカオの名前の由来もちょっと似ている。マカオは、一部の名前を全体の名前と取り違えて広まったそうだ。「ここの名前は?」と白人が聞いたところ「媽閣廟(マーカック)」と現地人から返事があった。それは白人が場所を聞いたところにあった寺院の名前(一部)だったのだが、それがその地域の名前(全体)になってしまった。白人よ、ちゃんと聞け!
この彫像の名前は? モルゲッソヨ
そういえば、モルゲッソヨと呼ばれているオチンポマンのこと、知ってる?
韓国でピョンチャンオリンピックがあった時、弾丸のような、男根のような奇妙な彫像があって、日本のマスコミが通訳さんに「この像の名前は?」と聞いたところ「モルゲッソヨ」と返事があったので、その珍妙奇天烈な銅像はモルゲッソヨと呼ばれるようになったそうな。でも実際にはモルゲッソヨというのは「知りません」という意味だったのでした。

これはネタだと思うけど、オチンポマンの名前は、弾丸男(正式名)よりもモルゲッソヨのほうが似合っていると思うな