偽ピークとは何か?
登山をしていると、ときどき「偽ピーク」というものに出会います。偽ピークとは、いっけん頂上に見えるけれど、じつはピークの手前にある肩とか尾根のことです。
そいつがサミットを隠しているために、登山者はそこをピークだと思って頑張るのですが、いざ登ってみるとさらに視界が開けて、その向こうにさらに高い山があるという……。くっそう!
偽ピークの宝庫。キングオブ偽ピーク。屋久島・宮之浦岳
このような偽ピークは何度も経験していますが、何といっても屋久島・宮之浦岳ほど偽ピークの多い山は体験したことがありません。やっと山頂かと思ったら、さらにはるか向こうに高い山が……という経験を何度も繰り返しました。
こっちはいいかげん足が疲れて、あそこまで行ったら大休止しようと思って、残りのエネルギーを振り絞って登るのですが、じつはそれは偽のピークなのです。ほんとうのピークまではもっと歩かなければならない。
ごっそりと精神を削られます。とくに偽ピークと本当のピークの距離が遠いほど心を折られます。そうしてやっとたどり着いたピークが実はまた偽ピークだという……泣くぞ!
いやあ、本当に登山ってメンタルなスポーツですよね。
私はマラソンもやるのですが、エネルギーを完全燃焼させる最速のペースで42.195km先のゴールにたどり着いたら「じつはゴールはあと5km先でした」なんて言われたら、ふざけんなと叫ぶでしょう。あるいはそこで走るのをやめるかもしれません。
しかし登山では、途中でリタイアするなんてできません。たとえ山頂を踏んだって、帰ってこなければならないのです。
気持ちがいいのはランニング。でも死ぬ前に思い出すのは登山の絶景
マラソンと登山と両方やる私は「どっちが好きなの?」とよく聞かれます。足をつかった身体移動であることは同じですが、違いすぎて比較できません。ですからそういうときは
「気持ちがいいのはランニング。でも死ぬ前に思い出すのは登山の絶景」
と答えるようにしています。
マラソンはゴール地点で、もう一歩も歩けないぐらいまで自分のすべてを出し切ります。
しかし登山でそんなことをやったら、帰ってこれません。そもそもそれが偽ピークだったら、山頂を踏むことさえできないということになります。