千葉県野田市のコウノトリ
うちの近くに、千葉県野田市という街があります。キッコーマンの里として知られています。この街では、コウノトリを町おこしに利用しています。
コウノトリというのは、かなり大きなトリです。カラスがトンビをいじめているのをよく見かけますが、コウノトリをいじめるのは無理だというレベルの大きさです。かつて生態系のトップに君臨していました。しかし自然破壊により餌がなくなったことから、日本で自然状況下で見ることはもうほとんどなくなっています。昔はよく見られたと聞きますが。
野田市では、かなりの税金を投入して、コウノトリを育てています。そしてときどき放鳥しています。彼らはトリなので、いろんなところへと飛んで行ってしまいますが、コウノトリには帰巣本能があるとされ、もしもコウノトリが野田市に帰ってきたら「コウノトリが生息、営巣できるほど自然豊かな町・野田市」ということになって、シティープロモーションになるというたてつけになっています。
地中海沿岸あたりにいるのはシュバシコウ。朱嘴のコウノトリ
ところが私はヨーロッパで、しょっちゅうコウノトリを見ました。世界遺産の上にも営巣しているのがいくらでもいます。もちろん自然のものでしょう。政府や地方公共団体が公費を投入したものではありますまい。そうなると、じゃっかん野田市のシティープロモーションに違和感を感じてしまうのです。
世界にはこんなに野良コウノトリが生息しているのに、税金投入してまでトリさんを繁殖させる意味あるのかいな? と。この鳥、そんなに価値あります?
ところがよく聞いてみると、地中海あたりにたくさん生息しているコウノトリは、シュバシコウというのだそうです。朱嘴のコウノトリだからシュバシコウ。よくコウノトリが赤ちゃんを運んでくるという伝説があるのは、こっちのシュバシコウのほうです。あれは西欧の伝説で、日本人のつくったストーリーではありません。
日本のコウノトリはくちばしが黒いのが特徴
シュバシコウに対して、日本のコウノトリはくちばしが黒いのが特徴。もちろん近縁です。大きさ、見た目はそっくりです。まあ、そのくちばしが黒いのが日本にいることに、どれだけ意味を見出すか、ということが問題となります。朱色のクチバシじゃダメなんでしょうか?
黒いクチバシのコウノトリは一度日本で絶滅して、人の手で再繁殖させられています。それが豊岡や野田のとりくみ。いわば自然再生の象徴となっているのです。
渡り鳥なんだから、自然に渡ってきてくれれば、税金使って繁殖しなくてもよかった
しかしコウノトリは渡り鳥であり、ずっと日本にとどまっている鳥ではありませんでした。大陸と列島を行ったり来たりして暮らしていたのです。その中で、国内で繁殖していた個体群が絶滅した、ということ。逆にいえば、中国やロシアにはまだコウノトリって生息しているのです。そいつらが自然に日本に渡ってきてくれれば、税金使って繁殖しなくてもよかったのですが、なかなか来てくれないので無理やり連れてきて日本で繁殖したら、国内で定住するようになったというのが流れです。
この地球上から完全に消滅してしまったマストドンとかマンモスを復活させたというのならものすごいロマンを感じますが、中国やロシアにはまだ自然の個体がいるわけです。パンダを日本に連れてきて動物園で繁殖させるのにちょっと似ています。パンダはもとから日本にいませんけどね。
わたしがなんでこんなことを感じたのかというと、コウノトリ(シュバシコウ)のいた近くの売店でキッコーマンの醤油を見たからです。それは千葉県野田市産の醤油でした。
おまえ(しょうゆ)がこっちに来るのなら、おまえ(コウノトリ)が向こうに行けば問題解決なのに……と思ったからでした。