国内で沢木耕太郎「深夜特急ごっこ」
バックパッカーのバイブルである沢木耕太郎『深夜特急』は、路線バスのみでインドのデリーからロンドンまでユーラシア大陸を移動しようという物語です。「イギリス海峡(ドーバー海峡)はどうする? さすがにバスじゃ行けんだろ、やる前からそこはわかっとけよ」とはじめに私が感じたツッコミは抜きにして、まあとにかくバスで行けるところはバスで行こうと主人公(私=沢木耕太郎)は頑張るわけですね。電車で行けるところも無理やりバスで行こうとして案内所の人に怒られたり呆れられたりしています。電車のほうが楽だし安いし安全だと親切で言っているのに敢えてバスで行こうとするんですから当然と言えば当然です。
さすがに沢木耕太郎と同じことをするのは時間が許さずに無理ですが、国内ならばどうなんでしょうか? たとえば青森市役所から鹿児島市役所まで路線バスだけで行けるのでしょうか?
歴戦の旅のつわものもスマホを使いこなす新人に負ける
この際、深夜バス(長距離バス)は除外しましょう。深夜バス(長距離バス)の使用を可にしたら難易度がぐっと下がってしまいます。たぶん簡単ですね。青森から東京までの夜行バスがあるでしょうし、東京から鹿児島までの夜行バスがあるでしょう。東京を経由して深夜バスをつかえばどんな地方都市からでも簡単に行けそうな気がします。でも深夜バス(長距離バス)を除いたらどうなんでしょうか?
なんで私がこんな遊びを考えるのかというと、二つ理由があります。
ひとつはeSIMを駆使して海外旅行をする友人にグーグルマップの威力を見せつけられた経験のせいです。私のように『地球の歩き方』的なガイドブック片手に旅する者にとって鉄道は駆使できてもバスの利用は難しいのです。いくら旅慣れているからといって、マニラでジプニーを乗りこなすのは無理でした。
しかしeSIMを駆使する友人はいとも簡単にバスを乗りこなすのです。グーグルマップにナビってもらいながら。その姿は衝撃的でした。放浪の旅人の敗北です。歴戦の旅のつわものもスマホを使いこなす新人に負けるということですから。
リアルドラゴンクエストごっこ。
そしてもうひとつはリアルドラゴンクエストごっこ。ドラクエ世界でいろんな乗り物を駆使して目的地へと旅を進めるように、現実社会でも同じようなことができないかと考えると、やはりバスが浮かんでくるのでした。電車やマイカーはありふれているし、飛行機もさほど物珍しくありません。そんな中、バスならば難易度もあがって面白いではないかと沢木耕太郎ばりに思ったのでした。思考の方向性は共通していますね。たとえば自分の家から六本木まで路線バスだけで移動してみる、とか。リアルドラクエごっことしては面白いかもしれません。やがて海外でバスを乗りこなすときの予行練習としても、「深夜特急ごっこ」「リアルドラゴンクエストごっこ」路線バスのみで国内を移動するというのを経験しておくというのは、アリだと思います。スマホを使いこなす練習としてもやっておく価値があるでしょう。
さすがに真夏の炎天下ではきついので、天候がよくなったらやってみようと思います。楽しそうだ。
ますは私の第二の故郷、韓国ソウルで、eSIMを駆使してバスを乗りこなすゲームをプレイしてみようかと思っているのでした。
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旅人が気に入った場所を「第二の故郷のような気がする」と言ったりしますが、私にとってそれは韓国ソウルです。帰国子女として人格形成期をソウルで過ごした私は、自分を運命づけた数々の出来事と韓国ソウルを切り離して考えることができません。無関係になれないのならば、いっそ真正面から取り組んでやれ、と思ったのが本書を出版する動機です。私の第二の故郷、韓国ソウルに対する感情は単純に好きというだけではありません。だからといって嫌いというわけでもなく……たとえて言えば「無視したいけど、無視できない気になる女」みたいな感情を韓国にはもっています。
【本書の内容】
●ソウル日本人学校の学力レベルと卒業生の進路。韓国語習得
●関東大震災直後の朝鮮人虐殺事件
●僕は在日韓国人です。ナヌン・キョッポニダ。生涯忘れられない言葉
●日本人にとって韓国語はどれほど習得しやすい言語か
●『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』南北統一・新韓国は核ミサイルを手放すだろうか?
●韓国人が日本を邪魔だと思うのは地政学上、ある程度やむをえないと理解してあげる
●日本海も東海もダメ。あたりさわりのない海の名前を提案すればいいじゃないか
●天皇制にこそ、ウリジナルを主張すればいいのに
●もしも韓国に妹がいるならオッパと呼んでほしい
●「失われた時を求めて」プルースト効果を感じる地上唯一の場所
●「トウガラシ実存主義」国籍にとらわれず、人間の歌を歌え
韓国がえりの帰国子女だからこそ書けた「ほかの人には書けないこと」が本書にはたくさん書いてあります。私の韓国に対する思いは、たとえていえば「面倒見のよすぎる親を煙たく思う子供の心境」に近いものがあります。感謝はしているんだけどあまり近づきたくない。愛情はあるけど好きじゃないというような、複雑な思いを描くのです。
「近くて遠い国」ではなく「近くて近い国」韓国ソウルを、ソウル日本人学校出身の帰国子女が語り尽くします。
帰国子女は、第二の故郷に対してどのような心の決着をつけたのでしょうか。最後にどんな人生観にたどり着いたのでしょうか。
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