ドラクエ的な人生

『ワンピース』トラファルガー・ローの「白い町」のモデルか? カレル・チャペック『白い病』

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『ワンピース』トラファルガー・ローの「白い町」のモデルか?

アニメ『ワンピース』に、トラファルガー・ローというキャラクターが出てきます。トラファルガーが少年時代に白い町の病気「肌が白くなって死に至る」という病気にかかるというエピソードが登場します。この病気、カレル・チャペックの『白い病』がモデルなんじゃないでしょうか?

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『白い病』の内容、あらすじ、評価、感想

パンデミックだ。雪崩のように世界中で流行する病気のこと。いいかね、中国では毎年のように興味深い新しい病気が誕生している。

→COVID-19を想起させる描写です。新型コロナも中国発症だという説がありましたね。昔からパンデミックってあるんですね。

カミュ『ペスト』この世から病気がなくなっても、死と別離はなくならない。

いや、ないな。まだ、出てはいないな。

病気にかかって若い連中に場所を譲るため? 父さんや母さんが汗水たらして働いているのも、おまえたちのためじゃなくて、むしろおまえたちの邪魔をしているんだと? それはけっこうなご意見だな。

「高齢者に厳しい社会へ」「ジジイババアは若者に道を開けろ!」と公約に掲げて立候補したへずまりゅうみたいですね。昔(1937年発表)からこういう発想ってあったんだなあ。

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ブラック・ジャック的なストーリー展開。社会的地位も疫病の前では無力。

社会的地位は疫病の前では無力。でした。作品は『ブラック・ジャック』的な展開を見せます。もちろん『白い病』の方が古い作品です。

鉛の玉やガスで人を殺してもいいとしたら……私たち医者は、何のために人の命を救うのか?

命を救ったり治療したりすることがどんなにたいへんなことかわかってほしい。にもかかわらず、すぐに戦争だという。

ウクライナ戦争。ロシアがNATOに加入すればいいんだよ

戦争から手を引けばいいのです。そうすれば白い病の薬を提供します。

(薬の提供は)どうして貧しい人たちだけなんです? 金持ちの人たちからすれば不公平だと思いませんか?

『あやうく一生懸命生きるところだった』もうお金持ちになるのはあきらめた。

権力も金もある人が心から望めば……恒久平和も可能ではないでしょうか?

裕福な方は何かできるはずです。戦争を予防するとか……影響力をお持ちなのですから。

武器に何十億費やしたと思う? 恒久平和? それこそ犯罪だ。そうなったら会社も倒産だろう。二十万人の従業員を路頭に迷わせるってか? どんな権利があって武装解除を頼めるっていうんだ。

みんな死んでしまった。白い病にかかって。私らにしてみれば渡りに船だろ。この運命に感謝しないと。今みたいな生活ができていたかどうか。私たちの身は安全だ。

→第二次世界大戦に敗戦した日本が復興したのは朝鮮戦争のおかげだという説があります。上にいるものが引かない限り、下のものにチャンスはありません。

経理部長以外の職があれば……せっかく手に入れた職をやすやすと手放せるわけないだろ!

今日、永遠の平和を夢見るとは……かれは精神病院で治療を受けた方がいい。

収容所でゆっくり死を待つ。今こそ病人を有刺鉄線の内側に閉じ込める時です。

今のところは、とくに何も——ただの白い斑点だけです。単なる皮膚病でしょう。

先生、そんなことはできません。できない? そうですか。私には強力な仲間がいますからね。そう、白い病という仲間が。それに恐怖。

いやだ、いやだ。ああ、誰か助けてくれ。神よ、なぜ助けてくれないのか。

和平を、閣下……和平を! 私を救ってください。私たち全員を救ってください。元帥、私を助けてください。

男爵はきっと受け入れます……不可能な条件を。

クリューク男爵は銃で自殺した。

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ヒトラーを連想させる国家指導者。

全世界はあなたを恐れているからです。軍備を増強しているのは、あなたがいるからなのです。閣下ならできます。あなたなら、何でもできる。あなたがいなければ、あなたの国民は侵略戦争を始めないでしょう。

→この国家の指導者(元帥)はヒトラーを連想させますね。

戦没者の血こそが祖国の大地をつくりあげるのだ。男たちを英雄にするのだ。私は神に託されたのだ。

抵抗活動を始めた。首都攻略は失敗。戦闘機八十機の損失。国境の戦車部隊も激しい抵抗にあっている。総動員令も発令している。

→また2023年を生きる私たちにはプーチンを連想させます。

ウクライナ戦争。美女が国を救う。

攻撃の先陣だ。銃剣を手にして……私は斃れなければならない。そうすれば、兵士たちは元帥の復讐をする。悪魔のように戦うことだろう。

世論はいかなる戦争についても激しく反対しています。病気を前にした恐怖のせいです。月桂樹よりも健康がいいという意見です。

臆病者ども!

終わりか……もう終わりか……主よ! どうして人間には想像力がないのだ! 自分が病気になってようやくわかるとは……主よ! どうか憐れみを!

われわれはこの戦争に勝たなければならぬ! 正義は我々の側にあるのだ。

ありません、元帥。

恥辱にまみれて和平を提案する? 軍隊を撤退させる? そして謝罪し、罰を受ける——そうやって国民をひどく、ぶざまに貶めるのか。私は退く。そして不名誉な役割を果たさねばならない。

すべての患者のためか……ここに白い病の元帥がいる。兵隊の戦闘ではなく、痛ましい人々の肉の塊の先頭にいる。私たちの側に正義はある。我らが白い病の患者の側に。私たちが求めるのは慈悲だけ。

使命があれば、人間は多くのことを耐えられる。神は、平和を築くよう望んでいる。悪くはないな……それは偉大な使命だな。この世から白い病がなくなる。それは大勝利だな?

長い仕事になるだろう。

→ヒトラーは世界大戦に前のめりに突っ込んで破滅しましたが、『白い病』の元帥は平和へと舵を切ります。ハッピーエンドが待ち受けていそうですが、戯曲のラストはバッドエンドでした。

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平和のテロリスト。ユートピア的な脅迫者

クスリを公表すれば人々は病から解放されるが、ガス爆弾の投下を止めるものはいなくなる。

目の前で苦しんでいる病人を治療しないガレーン博士は、平和のテロリスト。ユートピア的な脅迫者と見なされています。彼は従軍医師の経験があり、いざこと(戦争)が起これば救いきれないほどの人が死ぬことを経験から知っていました。

カレル・チャペック『白い病』は、1937年に発表されています。チェコスロバキア人です。1914-1918年にかけて第一次世界大戦があり、1939-1945年にかけて第二次世界大戦がありました。ヒトラーの世界戦争の直前にこの戯曲は書かれたのです。

カレル・チャペックはこう書きます。

階級、国家、民族、人種があらゆる尊敬の対象となっており、それらの意志や権利を倫理的に制限するものもない。集団的な秩序、本質的に暴力に依存する独裁的な秩序に従属している。

直截的にナチスを名指ししているといっても過言ではありません。実際に1939年にチェコスロバキアはナチスドイツによって解体されてしまいました。

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『白い病』半分あたり半分はずれた予言の書

『白い病』はなぜ白いのか? 白い病気は白色人種の深刻な衰退。を象徴しているといいます。この後、白人世界は大戦争の後、次々と植民地を失っていきます。そういう意味で白人種の衰退というのは当たったのです。病人を「収容所」に隔離する、という描写も予言が当たりました。アウシュビッツ強制収容所の生活を連想させます。

文学の頂点。ユダヤ人強制収容所の記録『夜と霧』

ナチスはユダヤ人を病原菌のように扱っていたからです。

ピーター・フランクル『世界青春放浪記』ユダヤ人問題は被差別部落問題に似ている。人間の集団は差別せずにはいられないのかもしれない。

しかし『白い病』は予言の書ではありません。外れたこともあります。とくに国家の指導者は戦争から平和へと転換はしませんでした。実際のヒトラーは元帥のような「話のわかるやつ」ではなかったのです。ナチスは元帥の軍とは違って戦争に突入していきます。ヒトラーがいなかったら第二次世界大戦はなかった、とさえいう人もいます。でもそのヒトラーを選んだのはドイツの群衆でした。彼は選挙で登場してきたのです。

『白い病』は予言はあたったこともあります。それは群衆のくだりです。

粗野で無意識な群衆の力が世界に広がり、指導者自身を破滅させ、守ってくれるはずの人物も破滅に追い込む。

最後に残るのは偉大さや同情とは無縁の群衆だけ。人間はその苦悩において救済されない。避けがたい悲劇的な結末。理性を失っているのは元帥ではなく群衆。

『白い病』で、元帥は戦争を止められず、医師は白い病を止められませんでした。狂ったような群衆だけが救いのない世界で生きていくことになるのです。

現実の世界でもヒトラー総統はみずからを戦争によって破滅させ、国も壊滅となりました。苦しんだのはほかならぬ群衆でした。

戯曲が存在するのは、世界が良いとか悪いとかをしめすためではない。私たちが戦慄を感じ、公正さの必要性を感じるためだろう。

作者のカレル・チャペックは『白い病』を上梓した翌年、1938年に、自分の戯曲の予言が半分あたり、半分はずれたことを知らずして死にました。祖国チェコの運命を知らずして死んだのは幸せだったかもしれません。

あるいは戦後まで生き残っていたら、『白い病』におかしな改作に手を染めたかもしれません。

林芙美子『放浪記』老境の改作は改悪。作品はいちばん売れたバージョンこそ残すべきだ

ナチスがチェコに押し入った時、ゲシュタポは反ナチの作家チャペックを確保するため家に押し入ったそうです。そのときはすでに天に召されていたのですが、もし生きていたら凄惨な拷問がくわえられていたかもしれません。

これでよかったのでしょう。

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