たとえ夫婦でも同衾は避けて、二つのベッドで眠るべきだ
大昔、新婚の頃、嫁と一つのベッド、一つの掛け布団で寝ていた。
クイーンサイズのベッドで寝台の面積は十分だったのだが、掛け布団がひとつしかないと、寝返りひとつでも大問題となる。冬の寒い日など、できれば寝具にくるまったまま寝返りをうちたい。しかし向こうも同じ考えなので、寝具の奪い合いになってしまうのだ。
同衾していれば、そりゃあ気も使う。熟睡とはいいがたい。
だから後輩が結婚するときに、ひとつだけアドバイスをしてやった。それは「夫婦同室で寝るのはいいが、ベッドは二つにしたほうがいいよ」というものだった。キングサイズ、クイーンサイズのベッドがどれほど大きくても、ベッド二つ並べたほうが広い。掛け布団も別々になるだろうから、寝返りを好きなだけうつことができる。いいアドバイスをしてやったものだと自己満足していた。
ベッドをやめて、布団で寝ることにした後輩の話し

ところが、ある日、彼がセカンドハウスショップにベッドの引き取り依頼をしていたので驚いた。私の会心のアドバイスを無にする行為である。まさか、自分の助言がなにか間違っていたのであろうか?
どうしたの? とおそるおそる聞くと、子どもが生まれて、ベッドではなく布団で寝ることに決めたそうだ。なるほど、子どもがベッドから転落する恐れもあるから、合理的な判断だと思った。
それと同時に必ずしも自分のアドバイスが悪かったわけではないとわかって一安心した。子供のことまではわからない。私には子供はいないのだ。しかし夫婦は別の布団で寝たほうが熟睡できるという私の理論は間違っていなかったはずである。布団で寝るにしても夫婦が別々の掛け布団で寝るには違いないだろうからだ。
しかし布団でいいのかね? 私はもう何十年とベッドで寝ている。布団という発想がない。
布団はベッドにくらべると、クッションが固くて寝心地が悪いというイメージがある。
ベッドじゃなくて布団でいいんじゃないか?
先日、九十九里浜でサーフィンを体験してきた。ちょっとぐらいはできるだろうと思っていたが、まるっきり立てなかった。む、無念……。
そしてホテルに泊まった。畳の部屋に、布団。昔ながらの和風のホテルだった。そしてひさしぶりに布団で寝て、認識を改めた。決して寝心地が悪くはない。そのホテルではマットレスを敷くかわりに、敷布団を二枚重ねにしていた。アイディアである。柔らかすぎず、固すぎず、気持ちよく眠れた。
ベッドの場合、マットレスにバネのクッションが入っていることがある。しかし柔らかすぎるクッションは腰が落ちこむために、腰痛の原因になることがある。
その点、敷布団二枚重ねは柔らかすぎず、固すぎず、いい感じだった。
私は思った。次はベッドじゃなく、布団でもいいんじゃないか?
ベッド、布団のメリット、デメリット
私は現在、巨大すぎるベッドをどうしようか迷っている。所有しているベッドが巨大すぎて、部屋の大半を占拠してしまうのである。どれぐらい巨大かというと縦にも横にも寝られるぐらい大きい。クイーンサイズのベッドである。幅 160cm × 長さ 195cmもある。ここまで大きいと部屋の大半をベッドが占領してしまうのだ。
新婚さんならばベッドの上は主たる生活空間なので大きい方がいいに決まっているが、今の私には大きすぎるのだ。事務机とベッドで、もう部屋のスペースがない。次に引っ越しするときには、この巨大なベッドは捨てて、もうすこし小さいベッドに買い換えようかと思っていた。
しかし……別に布団でいいんじゃないか? 寝心地が雲泥の差というのなら別だが、布団も悪くないのならば。誰がベッドじゃなきゃいけないって決めた?
布団ならば、それほど大きなスペースを占拠することもないし、邪魔ならば片付けることもできる。ベッドにくらべたら安価だし、引っ越しも簡単だ。
問題はメンテナンスである。湿気対策、カビ対策である。布団にするのはいいが、さすがに毎日上げ下ろしするつもりはない。三日に一度ぐらいは干すかひっくり返すかぐらいはするけど、毎日上げ下げするのはさすがに面倒である。
その点、ベッドはシーツの取り換えぐらいで、ほとんどメンテがいらない。それはベッドの場合、下にスペースがあって通気性があり、湿気がこもりにくいからである。その点、布団は床に直置きなので、湿気がこもりがちだ。メンテの面ではベッドに軍配が上がる。
また高齢者の場合、寝るときに腰や膝への負担を考えてベッドのほうがいいという人もいる。しかし私の場合はまだそこまで考える必要はない。むしろたまには大地(床に)四つん這いになるのも気持ちがいいぐらいだと思っている。イスラームの礼拝が世界を席巻しているのは、宗教心もさりながら、背中を伸ばす礼拝のポーズが気持ちがいいからだと私は思っているのだ。
ベッド上の読書はどうなる? 人間を駄目にするクッションで解決
もうひとつ問題がある。現在ベッドの上は私の主たる読書スペースなのだ。アメリカの映画にときどき出てくるが、ベッドの上で枕で背もたれをつくって、そこで本を読んでいる。柔らかいベッドの上で寝る前に本を読むのは至福のときである。この空間を失うわけにはいかない。
× × × × × ×

『ギルガメッシュ叙事詩』にも描かれなかった、人類最古の問いに対する本当の答え
(本文より)「エンキドゥが死ぬなら、自分もいずれ死ぬのだ」
ギルガメッシュは「死を超えた永遠の命」を探し求めて旅立ちますが、結局、それを見つけることはできませんでした。
「人間は死ぬように作られている」
そんなあたりまえのことを悟って、ギルガメッシュは帰ってくるのです。
しかし私の読書の旅で見つけた答えは、ギルガメッシュとはすこし違うものでした。
なぜ人は死ななければならないのか?
その答えは、個よりも種を優先させるように遺伝子にプログラムされている、というものでした。
子供のために犠牲になる母親の愛のようなものが、なぜ人(私)は死ななければならないのかの答えでした。
エウレーカ! とうとう見つけた。そんな気がしました。わたしはずっと答えが知りたかったのです。
× × × × × ×
しかし布団だと今までのようなわけにはいかないだろう。まず、ベッドのような背もたれがない。私は今、ベッドのヘッドボードを背もたれに利用している。しかし布団ではそもそも背もたれがない。部屋の壁を利用する方法があるにはあるにはあるだろうが、今までのようにはいかないだろう。
なによりもベッドのスプリングマットのような柔らかい座面を布団ではつくれないため、ベッドのような読書空間を布団ではつくれないはずだ。座面が固いと腰にダメージが来る。快適でないだけでなく、腰を痛めてしまうかもしれない。
人間を駄目にするクッションで、布団のデメリットを克服
しかしそれならば超強力なクッションを別途購入すればいいのではないか? そうだ。これまで購入をためらってきたあの「人間を駄目にするクッション」を布団読書のために新たに購入すればいいのだ。
有名なのは、Yogiboであるが、これまで私が試した中でもっとも「これは人を駄目にするな」と感じたのは、MOGUのクッションである。いったんMOGUの上に寝ころんだら、もはや立ち上がりたくなくなる。体重が吸い込まれるようだ。あれならば、腰を痛めることはないだろう。3万円ぐらいするが、ベッドにくらべれば安いものだ。いいベッドは50万円ぐらいするのだから。
人間、住む場所や、寝る場所をたまには変えてみるものだ
仮の宿で布団で寝てみて、普段から布団暮らしをしてみるということを思いついた。最近のホテルは、床が畳であってもベッドを入れているところが多かった。コロナ禍以降、従業員の手間を考えると、そういう結論にいたるのだろう。上げ下ろししなければならない布団よりもホテルのほうがメンテナンスが楽なのだろう。
ところが九十九里の安宿で昔ながらの布団ホテルに泊まって、考え方を改めた。
生涯ずっとベッドで寝てきたのだから、一度、布団で寝てみるのもいいのではないか? 嫌だったらすぐにまた元のベッド暮らしに戻ればいいのだから。元に戻るのは簡単だ。
今後は引っ越しが前提の暮らしになるため、布団生活というのは悪くない選択肢である。ただし布団読書のために人間を駄目にするクッションがワンセット。それでも初期投資は安くて済むし、引っ越しにも有利だし、もしかしたらベッド生活よりも快適かもしれない。
いやあ。人間、住む場所や、寝る場所をたまには変えてみるものである。そうすることで、思わぬ知恵や、あらたなる局面が開けることがある。

