『黒蜥蜴』江戸川乱歩の美女シリーズと三島由紀夫の大功績

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ここでは江戸川乱歩原作『黒蜥蜴』について語っています。

しかしテキストは乱歩の『黒蜥蜴』ではなく、三島由紀夫の戯曲『黒蜥蜴』です。

またドラマ化された「江戸川乱歩の美女シリーズ」についても語っています。

『黒蜥蜴』は非常に江戸川乱歩的で、同時に三島由紀夫的な作品でありました。

人間は社会と妥協して生きている人がほとんどですが、限りなく純粋な人が夢を妥協しなかったとき、犯罪者となってしまうこともありえるのかもしれませんね。

ちょうど三島由紀夫がそうだったように……。

筆者自身による読み聞かせはこちらをどうぞ。

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物語のあらすじを述べることについて

物語のあらすじを述べることについての私の考えはこちら。

物語のあらすじを紹介することについて
このページでは、日本脚本家連盟で作劇術を学んだこともある、物書きのはしくれが「物語のあらすじを紹介することについて」の考え方をまとめたページです。 ネタバレといって、物語のあらすじを紹介することを禁忌視する人がいますが、あらすじを紹介...

私は反あらすじ派です。

作品のあらすじ、主題はあんがい単純なものです。

要約すればたった数行で作者の言いたかった趣旨は尽きてしまいます。

たとえば「作者は、死すべき人間だったとしても、運命を受けいれて、短い命を燃焼させて、その中で人間らしく充実して生きることを訴えたかったのです」とか。

世の中にはたくさんの物語がありますが、主役のキャラクター、ストーリーは違っても、要約した趣旨は同じようなものだったりします。

たいていの物語は、主人公が何かを追いかけるか、何かから逃げる話しですよね?
生まれ、よろこび、苦しみ、死んでいく話のはずです。
あらすじは短くすればするほど、どの物語も同じものになってしまいます。

だったら何のためにたくさんの物語があるのでしょうか。

あらすじや要約した主題からは何も生まれません。

観念的な言葉で語らず、血の通った物語にしたことで、作品は生命を得て、主題以上のものになるのです。

作品のあらすじを知って、それで読んだ気にならないでください。

作品の命はそこにはないのです。

人間描写のおもしろさ、つまり小説力があれば、どんなあらすじだって面白く書けるし、それがなければ、どんなあらすじだってつまらない作品にしかならないのです。

しかしあらすじ(全体地図)を知った上で、自分がどのあたりにいるのか(現在位置)を確認しつつ読書することを私はオススメしています。

作品のあらすじや主題の紹介は、そのように活用してください。

この記事がみなさんの読書ライフの良質な旅の地図になることを願っています。

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『黒蜥蜴』江戸川乱歩と三島由紀夫

私が三島由紀夫の最高傑作と考える『サド侯爵夫人』は、三島由紀夫の戯曲ですが、実際には共同執筆者としてサド侯爵というフランスの作家がいました。二人の著者がいたからこそ奇跡の名作ができたと思っています。

『サド侯爵夫人』三島由紀夫の最高傑作
『サド侯爵夫人』は三島由紀夫とサド侯爵の共著といってもいい作品。きわめてキリスト教的な作品です。神の敵について考えれば考えるほど、神についても考えざるを得ないからです。サドの光はイエスの光あってこそのものでした。神の天敵は、神のごとき存在なのです。

それと同じように『黒蜥蜴』には三島の他にもう一人の執筆者がいます。もちろん江戸川乱歩その人です。

むしろ戯曲の執筆者は、三島以上に江戸川乱歩だとも言えるでしょう。

『サド侯爵夫人』におけるサドよりも、直接、江戸川乱歩が関わっています。

ストーリーの筋はほぼ乱歩ですから。

三島らしさはセリフの耽美的な表現に凝縮されています。

世の中、同じことをいうのでもいい方次第だと思いませんか?

そこには『サド侯爵夫人』を彷彿とさせるような悪徳(犯罪)と美徳(市民生活)が相照らしあうような表現が散りばめられています。

ここまで両者の相性がいいのは三島が歩み寄ったというよりは、もともと江戸川乱歩の世界と通じるものがあったためでしょう。

作品は価値観の反転に次ぐ反転です。

そして三島の真骨頂は小説ではなく戯曲にあったのではないかと私は思うのです。

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【書評】『黒蜥蜴』バロック調の大芝居

江戸川乱歩『黒蜥蜴』のどのようなところが三島的だったのでしょうか。

主人公の美貌の緑川夫人こと女賊・黒蜥蜴は、「永遠の若さ、美しい肉体のために、人間のはく製をつくろうとする芸術家」です。

三島が、若く美しい青春の絶頂に死ぬことを望んでいたことは、つとに知られています。三島は老醜を嫌悪していました。

三島の肉体美ははく製にこそなりませんでしたが、写真におさめられています。

三島の『黒蜥蜴』には、かの名探偵明智小五郎が出てきます。最初読んだときには、ちょっと驚きました。うまい譬えかどうかわかりませんが、アガサ・クリスティーを読んでいたら、シャーロック・ホームズが登場してきたかのような印象です。

私の中で明智小五郎が、生きているからでしょう。明智小五郎がキャラ立ちしすぎていて江戸川乱歩の戯曲かと思ってしまいます。しかし三島由紀夫が書いています。これはそういう戯曲なのです。

戯曲の中で緑川夫人こと黒蜥蜴と明智小五郎は犯罪論争をします。探偵と犯罪者は同じ犯罪に向きあうが、自分の心に純粋な方は犯罪者であり、探偵にはどうしても犯罪を理解しきれないところがある、と。

そして満たされない思いを犯罪者に抱くのです、報いられない恋のような……。

三島が黒蜥蜴を書いたのは、ここが書きたかったからでしょう。乱歩作品おとくいの変装シーンも登場します。

長椅子ソファに人間が入って運び出されるという牧歌的な誘拐も、乱歩の少年探偵団シリーズではおなじみですね。いや、重いだろ! 運ぶときに分かれよ!

黒蜥蜴は、変装が見破られないのは「そもそも本当の私なんてないからだ」とさらりといいます。肉体の見た目ではなく、魂の存在感のようなものがあるから、人は人であると考えなければ、このような表現は出てきません。

明智に恋する「私」は、どの私なのか? ラブストーリーを演じた芸能人が共演者に本当に恋をしてしまうことはよくあることです。その時、恋したのは演じた役者なのか、演じた役柄の気持ちが続いているだけなのか? すぐに離婚してしまう場合は、役者と役柄の区別がうまくできなかったためかもしれませんね。

明智に恋する「私」は、どの私なのか? あした別の鏡に映る別の私に訊くとしましょう……と逃亡しつつ第一幕が終了します。

ブンガクしちゃってますね!!

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戦前と戦後を価値の大転換が、劇を動かす

「死ぬつもりでいたおまえは美しかったのに、生きたい一心のおまえは醜かった」

黒蜥蜴は雨宮潤一にいいます。三島美学が炸裂しています。

戦争という不条理な死のなかに意味を探し激しい命を燃やした戦前と、価値観が大転換し信じられるものが無く、無意味、無目的に生きる戦後を経験した三島だからこそのセリフだと思います。

いわば戦前と戦後の価値の大転換が、三島の作劇法のひとつでした。善人が悪人、悪人が善人。きれいはきたない、きたないはきれい。犯罪者が夢追い人で、名探偵が小市民。敗戦により、鬼畜米英だったアメリカ兵が陽気ないい奴らで、神兵だった日本軍は庶民を無視した嫌な奴らだったということになりました。

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奇跡を起こせるのは恋だけ。恋を失ったら“私の世界”には二度と奇蹟は起こらない

黒蜥蜴でも、そのような価値の大転換が物語を動かしていきます。明智と黒蜥蜴は追う者、追われる者という立場で惹かれあうようになります。

泥棒は泥棒でも恋泥棒ですね。ルパン三世カリオストロの城』(1979年)のような話しだともいえます。

追い、追われる関係が、恋する二人にそっくりだという意味では北条司の『キャッツ・アイ』(1981年)のようでもあります。

「あなたがこれ以上生きていたら、私が私でなくなるのが恐いの。そのためにあなたを殺すの。好きだから殺すの」明智を殺す際、黒蜥蜴はいいます。

「海をごらん。暗いだろう。夜光虫があんなに光っている。この世界には二度と奇蹟が起こらないようになったんだよ」奇跡を起こせるのは、恋だけだからです。

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バロック調のあやしい闇とエロス。江戸川乱歩の世界

やがて物語は、「恐怖美術館」へと向かいます。恐怖美術館には黒蜥蜴が「美しいと感じた人間のはく製」が全裸で展示されているのです。

バロック調のあやしい闇とエロス。江戸川乱歩の真骨頂の世界です。青少年にあたえる影響がどうの、とか、人権がどうの、とか、作家の倫理を問われなかった時代でした。エンターテイメントはエンターテイメントとして、自由に妄想の翼を江戸川乱歩はひろげました。

この「乱歩あるある」のヘンタイチックなバロック設定も、やはり三島の好みだったと思います。雨宮は黒蜥蜴の愛撫を受けるために「自分がはく製になっても」と裏切りの芝居を打ちます。黒蜥蜴に嫉妬してもらうためでした。

結局、明智は変装していて実際には死んでおらず、黒蜥蜴の悪事を暴きます。そして美女、黒蜥蜴は逮捕の一歩手前で自殺します。若く美しいまま、おのれの芸術である恐怖美術館で、虜囚の辱めを受けることなく死んでいくのです。

黒蜥蜴は最後に呟きます。「うれしいわ。あなたが生きていて」

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自分が死んでも、奇跡が起こる世界であってほしい

自分が死んでも、奇跡が起こる世界であってほしい。

現実の世界では明智が探偵で黒蜥蜴が泥棒でしたが、心の世界では明智が恋泥棒で黒蜥蜴が探偵でした。

明智の心を探して探してやっと探して見つけたら冷たい石ころでした。

明智は最後に呟きます。黒蜥蜴の心こそダイヤモンドだった。本物の宝石はもう死んでしまった、と。

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江戸川乱歩の美女シリーズ。探偵版「男はつらいよ」

原作の江戸川乱歩『黒蜥蜴』は1934年の作品です。戯曲の三島由紀夫『黒蜥蜴』は1961年の作品です。

三島の戯曲では美貌の女賊・黒蜥蜴の役を美輪明宏さんが演じて大ヒットしたそうです。

ところでひと昔前にテレビで『江戸川乱歩の美女シリーズ』というのがあったのをご存知でしょうか?

絶世の美女が登場し、明智小五郎と互いに男女として惹かれあう。けれど決して結ばれないというパターンでした。

犯罪者の美女は毎回入れ替わるのですが、明智小五郎は常に天知茂さんでした。探偵版男はつらいよ』的なところがありました。常に報われない犯罪者美女との淡い恋を明智小五郎は繰り返します。

令和の時代にはぜったいにつくれないようなエログロ満載の大掛かりな名作シリーズでした。

この美女シリーズにも『黒蜥蜴』がありました。1979年『悪魔のような美女』です。

ところでこの美女シリーズで明智小五郎役を見事に演じた天知茂さんですが、三島の戯曲『黒蜥蜴』で明智小五郎役を演じて当たり役になったのだそうです。

三島の戯曲のおかげで、美女シリーズの天知茂があったといえるかもしれません。

※美女シリーズいちばんの名作・おすすめは『パノラマ島奇談』を元にした『天国と地獄の美女』です。

明智小五郎役は天知茂の死後、北大路欣也西郷輝彦とバトンタッチされるのですが、すばらしい名優が演じても、初代・天知茂にはかないませんでした。江戸川乱歩の暗いエログロの中で、大スター俳優の輝きが浮いてしまった印象でした。

『江戸川乱歩の美女シリーズ』のお約束である「犯罪者の美女と明智小五郎が惹かれあう」展開も、三島戯曲『黒蜥蜴』のお陰だったのかもしれません。

江戸川乱歩原作の怪盗はほとんどが男性であり、女賊相手に惹かれあう展開ではありません。

犯罪者役を常に絶世の美女とし、いつも明智と惹かれあう展開にしたのは、三島版『黒蜥蜴』があったからだとはいえないでしょうか。

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いにしえの永遠のテーマ、それが恋愛

三島由紀夫の戯曲『黒蜥蜴』が、後世に残した影響について語ってきました。

同じ文庫の中には、戦争をモチーフにした戯曲(若人よ甦れ)と、右翼左翼の政治闘争をモチーフにした戯曲(喜びの琴)がおさめられていましたが、どうしても古びた感じが否めません。

やはり、物語というものは恋愛をモチーフにした方がいいようです。

恋愛ならば命を捨てるほど情熱を賭けても不思議はありません。その気持ちは青春のたびによみがえり、永遠に古くなりません。いつの時代でも、どこの国民にも通じるモチーフが恋愛ではないでしょうか。

「今さら戦後の話しかよ」「今さら左翼の話しかよ」と飽きられることはあっても「今さら恋愛の話しかよ」という若者は世界中のどこにもいないのに違いありません。

いにしえの永遠のテーマ、それが恋愛です。たとえそれが犯罪者と名探偵の心の恋愛であったとしても。

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このブログ著者の小説『結婚』
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このブログの著者の小説『片翼の翼』
小説『片翼の翼』
なぜ生きるのか? 何のために生きるのか? を追求した純文学小説です。 主人公ツバサは劇団の役者です。 「演技のメソッドとして、自分の過去の類似感情を呼び覚まして芝居に再現させるという方法がある。たとえば飼い犬が死んだときのことを思い出しながら、祖母が死んだときの芝居をしたりするのだ。自分が実生活で泣いたり怒ったりしたことを思いだして演技をする、そうすると迫真の演技となり観客の共感を得ることができる。ところが呼び覚ましたリアルな感情が濃密であればあるほど、心が当時の錯乱した思いに掻き乱されてしまう。その当時の感覚に今の現実がかき乱されてしまうことがあるのだ」 恋人のアスカと結婚式を挙げたのは、結婚式場のモデルのアルバイトとしてでした。しかし母の祐希とは違った結婚生活が自分には送れるのではないかという希望がツバサの胸に躍ります。 「ハッピーな人はもっと更にどんどんハッピーになっていってるというのに、どうして決断をしないんだろう。そんなにボンヤリできるほど人生は長くはないはずなのに。たくさん愛しあって、たくさん楽しんで、たくさんわかちあって、たくさん感動して、たくさん自分を謳歌して、たくさん自分を向上させなきゃならないのに。ハッピーな人達はそういうことを、同じ時間の中でどんどん積み重ねていっているのに、なんでわざわざ大切な時間を暗いもので覆うかな」 アスカに恋をしているのは確かでしたが、すべてを受け入れることができません。 かつてアスカは不倫の恋をしていて、その体験が今の自分をつくったと感じています。それに対してツバサの母は不倫の恋の果てに、みずから命を絶ってしまったのです。 「そのときは望んでいないことが起きて思うようにいかずとても悲しんでいても、大きな流れの中では、それはそうなるべきことがらであって、結果的にはよい方向への布石だったりすることがある。そのとき自分が必死にその結果に反するものを望んでも、事態に否決されて、どんどん大きな力に自分が流されているなあと感じるときがあるんだ」 ツバサは幼いころから愛読していたミナトセイイチロウの作品の影響で、独特のロマンの世界をもっていました。そのロマンのゆえに劇団の主宰者キリヤに認められ、芝居の脚本をまかされることになります。自分に人を感動させることができる何かがあるのか、ツバサは思い悩みます。 同時に友人のミカコと一緒に、インターネット・サイバーショップを立ち上げます。ブツを売るのではなくロマンを売るというコンセプトです。 「楽しい、うれしい、といった人間の明るい感情を掘り起こして、その「先」に到達させてあげるんだ。その到達を手伝う仕事なんだよ。やりがいのあることじゃないか」 惚れているけれど、受け入れられないアスカ。素直になれるけれど、惚れていないミカコ。三角関係にツバサはどう決着をつけるのでしょうか。 アスカは劇団をやめて、精神科医になろうと勉強をしていました。心療内科の手法をツバサとの関係にも持ち込んで、すべてのトラウマを話して、ちゃんと向き合ってくれと希望してきます。 自分の不倫は人生を決めた圧倒的な出来事だと認識しているのに、ツバサの母の不倫、自殺については、分類・整理して心療内科の一症例として片付けようとするアスカの態度にツバサは苛立ちます。つねに自分を無力と感じさせられるつきあいでした。 人と人との相性について、ツバサは考えつづけます。 ミナトから最後の作品の続きを書くように頼まれて、ツバサは地獄のような断崖絶壁の山に向かいます。 「舞台は変えよう。ミナトの小説からは魂だけを引き継ぎ、おれの故郷を舞台に独自の世界を描こう。自分の原風景を描いてみよう。目をそむけ続けてきた始まりの物語のことを。その原風景からしか、おれの本当の心の叫びは表現できない」 そこでミナトの作品がツバサの母と自分の故郷のことを書いていると悟り、自分のすべてを込めて作品を引きついて書き上げようとするのでした。 「おまえにその跡を引き継ぐ資格があるのか? 「ある」自分の中にその力があることをはっきりと感じていた。それはおれがあの人の息子だからだ。おれにはおれだけの何かを込めることができる。父の遺産のその上に」 ※※本作は小説『結婚』の前編、バックストーリーに相当するものです。両方お読みいただけますとさらに物語が深まる構成になっています。※※
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小説『片翼の翼』
なぜ生きるのか? 何のために生きるのか? を追求した純文学小説です。 主人公ツバサは劇団の役者です。 「演技のメソッドとして、自分の過去の類似感情を呼び覚まして芝居に再現させるという方法がある。たとえば飼い犬が死んだときのことを思い出しながら、祖母が死んだときの芝居をしたりするのだ。自分が実生活で泣いたり怒ったりしたことを思いだして演技をする、そうすると迫真の演技となり観客の共感を得ることができる。ところが呼び覚ましたリアルな感情が濃密であればあるほど、心が当時の錯乱した思いに掻き乱されてしまう。その当時の感覚に今の現実がかき乱されてしまうことがあるのだ」 恋人のアスカと結婚式を挙げたのは、結婚式場のモデルのアルバイトとしてでした。しかし母の祐希とは違った結婚生活が自分には送れるのではないかという希望がツバサの胸に躍ります。 「ハッピーな人はもっと更にどんどんハッピーになっていってるというのに、どうして決断をしないんだろう。そんなにボンヤリできるほど人生は長くはないはずなのに。たくさん愛しあって、たくさん楽しんで、たくさんわかちあって、たくさん感動して、たくさん自分を謳歌して、たくさん自分を向上させなきゃならないのに。ハッピーな人達はそういうことを、同じ時間の中でどんどん積み重ねていっているのに、なんでわざわざ大切な時間を暗いもので覆うかな」 アスカに恋をしているのは確かでしたが、すべてを受け入れることができません。 かつてアスカは不倫の恋をしていて、その体験が今の自分をつくったと感じています。それに対してツバサの母は不倫の恋の果てに、みずから命を絶ってしまったのです。 「そのときは望んでいないことが起きて思うようにいかずとても悲しんでいても、大きな流れの中では、それはそうなるべきことがらであって、結果的にはよい方向への布石だったりすることがある。そのとき自分が必死にその結果に反するものを望んでも、事態に否決されて、どんどん大きな力に自分が流されているなあと感じるときがあるんだ」 ツバサは幼いころから愛読していたミナトセイイチロウの作品の影響で、独特のロマンの世界をもっていました。そのロマンのゆえに劇団の主宰者キリヤに認められ、芝居の脚本をまかされることになります。自分に人を感動させることができる何かがあるのか、ツバサは思い悩みます。 同時に友人のミカコと一緒に、インターネット・サイバーショップを立ち上げます。ブツを売るのではなくロマンを売るというコンセプトです。 「楽しい、うれしい、といった人間の明るい感情を掘り起こして、その「先」に到達させてあげるんだ。その到達を手伝う仕事なんだよ。やりがいのあることじゃないか」 惚れているけれど、受け入れられないアスカ。素直になれるけれど、惚れていないミカコ。三角関係にツバサはどう決着をつけるのでしょうか。 アスカは劇団をやめて、精神科医になろうと勉強をしていました。心療内科の手法をツバサとの関係にも持ち込んで、すべてのトラウマを話して、ちゃんと向き合ってくれと希望してきます。 自分の不倫は人生を決めた圧倒的な出来事だと認識しているのに、ツバサの母の不倫、自殺については、分類・整理して心療内科の一症例として片付けようとするアスカの態度にツバサは苛立ちます。つねに自分を無力と感じさせられるつきあいでした。 人と人との相性について、ツバサは考えつづけます。 ミナトから最後の作品の続きを書くように頼まれて、ツバサは地獄のような断崖絶壁の山に向かいます。 「舞台は変えよう。ミナトの小説からは魂だけを引き継ぎ、おれの故郷を舞台に独自の世界を描こう。自分の原風景を描いてみよう。目をそむけ続けてきた始まりの物語のことを。その原風景からしか、おれの本当の心の叫びは表現できない」 そこでミナトの作品がツバサの母と自分の故郷のことを書いていると悟り、自分のすべてを込めて作品を引きついて書き上げようとするのでした。 「おまえにその跡を引き継ぐ資格があるのか? 「ある」自分の中にその力があることをはっきりと感じていた。それはおれがあの人の息子だからだ。おれにはおれだけの何かを込めることができる。父の遺産のその上に」 ※※本作は小説『結婚』の前編、バックストーリーに相当するものです。両方お読みいただけますとさらに物語が深まる構成になっています。※※
片翼の翼: なぜ生きるのか? 何のために生きるのか?
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【この記事を書いている人】

アリクラハルトと申します。【トウガラシ実存主義】【遊民ユーミン主義】の提唱者。ランニング系・登山系の雑誌に記事を書いてきたプロのライターでもあります。早稲田大学卒業。日本脚本家連盟修了生。その筆力は…本コラムを最後までお読みいただければわかります。あなたの心をどれだけ揺さぶることができたか。それがわたしの実力です。
市民ランナーのグランドスラムの達成者(マラソン・サブスリー。100kmサブ10。富士登山競争登頂)。ちばアクアラインマラソン招待選手。ボストンマラソン正式選手。地方大会での入賞多数。海外マラソンも完走多数(ボストン、ニューヨークシティ、バンクーバー、ユングフラウ、ロトルアニュージーランド、ニューカレドニアヌメア、ホノルル)。地元走友会のリーダー。月間走行距離MAX600km。『市民ランナーという生き方(グランドスラム養成講座)』を展開しています。言葉の力で、あなたの走り方を劇的に変えてみせます。
また、現在、バーチャルランニング『地球一周走り旅』を展開中。ご近所を走りながら、走行距離だけは地球を一周しようという仮想ランニング企画です。
そしてロードバイク乗り。朝飯前でウサイン・ボルトよりも速く走れます。山ヤとしての実績は以下のとおり。スイス・ブライトホルン登頂。マレーシア・キナバル山登頂。台湾・玉山(ニイタカヤマ)登頂。南アルプス全山縦走。後立山連峰全山縦走。槍・穂・西穂縦走。富士登山競争完走。日本山岳耐久レース(ハセツネ)完走。などなど。『山と渓谷』ピープル・オブ・ザ・イヤー選出歴あり。
その後、山ヤのスタイルのまま海外バックパック放浪に旅立ちました。訪問国はモロッコ。エジプト。ヨルダン。トルコ。イギリス。フランス。スペイン。ポルトガル。イタリア。バチカン。ギリシア。スイス。アメリカ。メキシコ。カナダ。タイ。ベトナム。カンボジア。マレーシア。シンガポール。インドネシア。ニュージーランド。ネパール。インド。中国。台湾。韓国。そして日本の28ケ国。パリとニューカレドニア、ホノルルとラスベガスを別に数えていいなら訪問都市は100都市をこえています。(大西洋上をのぞいて)世界一周しています。国内では青春18きっぷ・車中泊で日本一周しています。
登山も、海外バックパック旅行も、車中泊も、すべてに共通するのは必要最低限の装備で生き抜こうという心構えだと思っています。バックパックひとつ。その放浪の魂を伝えていきます。千葉県在住。

【この記事を書いている人】
瞑想ランニング(地球二周目)をしながら心に浮かんできたコラムをブログに書き綴っているランナー・ブロガーのアリクラハルトと申します。【トウガラシ実存主義】【遊民ユーミン主義】の提唱者。ランニング系・登山系の雑誌に記事を書いてきたプロのライターでもあります。早稲田大学卒業。日本脚本家連盟修了生。その筆力は…本コラムを最後までお読みいただければわかります。あなたの心をどれだけ揺さぶることができたか。それがわたしの実力です。 市民ランナーのグランドスラムの達成者(マラソン・サブスリー。100kmサブ10。富士登山競争登頂)。ちばアクアラインマラソン招待選手。ボストンマラソン正式選手。地方大会での入賞多数。海外マラソンも完走多数(ボストン、ニューヨークシティ、バンクーバー、ユングフラウ、ロトルアニュージーランド、ニューカレドニアヌメア、ホノルル)。地元走友会のリーダー。月間走行距離MAX600km。『市民ランナーという生き方(グランドスラム養成講座)』を展開しています。言葉の力で、あなたの走り方を劇的に変えてみせます。 また、現在、バーチャルランニング『地球一周走り旅』を展開中。ご近所を走りながら、走行距離だけは地球を一周しようという仮想ランニング企画です。 そしてロードバイク乗り。朝飯前でウサイン・ボルトよりも速く走れます。山ヤとしての実績は以下のとおり。スイス・ブライトホルン登頂。マレーシア・キナバル山登頂。台湾・玉山(ニイタカヤマ)登頂。南アルプス全山縦走。後立山連峰全山縦走。槍・穂・西穂縦走。富士登山競争完走。日本山岳耐久レース(ハセツネ)完走。などなど。『山と渓谷』ピープル・オブ・ザ・イヤー選出歴あり。 その後、山ヤのスタイルのまま海外バックパック放浪に旅立ちました。訪問国はモロッコ。エジプト。ヨルダン。トルコ。イギリス。フランス。スペイン。ポルトガル。イタリア。バチカン。ギリシア。スイス。アメリカ。メキシコ。カナダ。タイ。ベトナム。カンボジア。マレーシア。シンガポール。インドネシア。ニュージーランド。ネパール。インド。中国。台湾。韓国。そして日本の28ケ国。パリとニューカレドニア、ホノルルとラスベガスを別に数えていいなら訪問都市は100都市をこえています。(大西洋上をのぞいて)世界一周しています。国内では青春18きっぷ・車中泊で日本一周しています。 登山も、海外バックパック旅行も、車中泊も、すべてに共通するのは必要最低限の装備で生き抜こうという心構えだと思っています。バックパックひとつ。その放浪の魂を伝えていきます。千葉県在住。
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