間違いを理解することが、正しいフォームの理解に役立つ
一歩一歩の歩幅(ストライド)が伸びれば、同じピッチ(脚の回転)でも速く走ることができます。
ストライドを伸ばすにはどうすればいいのでしょうか?
水たまりや小川をジャンプして乗り越えるときには、足を前に出してジャンプ距離(ストライド)を稼ぎます。
未熟なランナーはランニングのときにもこの戦略をとりがちですが、その戦略は間違っています。
その間違いを理解することが、正しいフォームの理解に役立つのではないでしょうか。
優秀な反面教師である「スクワット走法」(絶対にやってはいけないフォーム)について、ここでは解説しています。
※※※YouTube動画はじめました※※※
書籍『市民ランナーという走り方(マラソンサブスリー・グランドスラム養成講座)』の内容をYouTubeにて公開しています。言葉のイメージ喚起力でランニングフォームを最適化して、同じ練習量でも速く走れるようになるランニング新メソッドについて解説しています。気に入っていただけましたら、チャンネル登録をお願いします。
「悪いフォーム」を知ることで「いいフォーム」を知ることができる
これまでわたしは『サブスリー養成講座』として「どうすれば効率的に速く走れるのか」について語ってきました。
人に何かを伝えるというのは難しいことです。伝わっていると思っていても、あんがい伝わっていません。
陸上コーチのように対面で教えられればいいのですが、文章で伝えると「本当にこの表現で伝わるのだろうか」と常に自省しています。効果的に伝えるための工夫としてわたしの『サブスリー養成講座』では走法に印象的で象徴的なネーミングがしてあるのです。『アトムのジェット走法』や『踵落としを効果的に決める・走法』などがそれにあたります。
すべては「伝えるための工夫」です。
「伝えること」「表現」にこだわればこだわるほど見えてくることがひとつあります。
いっそ「悪いフォーム」を教えることも、正しい道に導く伝え方のひとつではないか、と。
なぜなら悪いフォームにならないようにするだけで、いいフォームになっているからです。反面教師という言葉もあります。
ここでは典型的な「悪いフォーム」である「スクワット走法」について、解説しています。スクワット走法がどうしてよくないのか理解できれば、いいフォームを考える手助けになることでしょう。
「スクワット走法」とは、どういうフォームなのか。なぜそのフォームでマラソンを走ってはいけないのか。
それらについて解説していきます。
ランナーの補強運動におすすめの「スクワット」運動とは?
それは「スクワット」をするような走り方のことです。
スクワットは「筋トレの王様」ともいわれる自重トレーニング(フリーウエイトトレーニング)です。
空気椅子に座るようにして骨盤を上下させる運動ですが、なかなかキツく、長く続けると太ももの筋肉がプルプルしてきます。それだけ負荷が大きいということですね。
スクワットは太ももの前側(大腿四頭筋)、太ももの裏(ハムストリングス)、お尻(大臀筋)、深部腹筋(腸腰筋)などを鍛えることができるので、補強運動としてランナーが積極的に取り入れたいトレーニングではあります。
やってはいけない「スクワット走法」とはどんなフォームか?
ランナーは速く走ろうと思ったら「ピッチ(回転数)を上げる」か「ストライドを伸ばす」以外に方法はありません。
未熟なランナーが「ストライドを伸ばす」戦略をとったときに「スクワット走法」になってしまうことがよくあります。
水たまりなどを大きくジャンプして飛び越えようとする時、大きく足を前にだして距離(ストライド)を稼ごうとしますよね? 走り幅跳びの選手も足を前に出して大ジャンプしています。
未熟なランナーがストライドを伸ばそうと考えると、同じ戦略をとってしまいがちです。足を前に出してストライドを稼ごうとしてしまうのです。
すると腰を落として脚をガバッと開いたフォームになってしまいます。円を描くときのコンパスを思い浮かべてください。コンパス(脚)を大きく開くと、支点(骨盤)は低くなります。
まるでスクワットで腰を落としたような状態になるため、このフォームのことを「スクワット走法」と呼んでいます。
つかのま速くなる。しかし長持ちしない「スクワット走法」
しかし大きな問題があります。
脚をガバッと開くスクワット走法では腰を低く落としているため、スクワットをしているのと同じ状態です。
つまり筋トレしているのと同じような負荷が太ももにかかります。空気椅子に座っているような状態の骨盤を維持しなければなりません。
スクワットと同じ大きな負荷が筋肉にかかっているので、スクワット走法は残念ながら長持ちしません。ばてた時にピタッと足が止まってしまうのがスクワット走法なのです。
マラソンで速く走るためには別の戦略をとる必要があります。
なにも本番レースまで筋トレすることはない
ストライドを稼ぐために「スクワット走法」はいい戦略だと思ったかもしれません。しかし残念でした。長く走れる走法ではないのです。「スクワット走法」には欠点があります。それは目先の一歩のストライドのことしか考えていないということです。
ジャンプ選手なら一回のジャンプで勝負が決まるから大きく足を前に出す戦略でいいでしょう。しかしマラソン選手は一歩のストライドで勝負を決める競技ではありません。何千歩、何万歩とピッチを刻んだ果てに勝負が決まります。たとえ100歩のあいだ大きくリードできても200歩300歩めに逆転されるようなら、その戦略を採用すべきではありません。
「スクワット走法」は静止画でみれば大きなストライドを稼げる走法ですが、動画で見れば次の一歩を繰り出す際に大きな不利を抱えています。
それはまるでスクワットをするように落ちた腰を持ち上げなければならないという不利です。自重トレーニングと同じことをやりながら走っているから「スクワット走法」は長持ちしないのです。だからマラソンの本番レースでは「絶対にやってはいけないフォーム」なのです。
筋肉を鍛えるために本番レースがあるわけではありません。なにも本番レースまで筋トレすることはないのです。
歩幅とストライドは別物。ストライドは宙に浮いて稼ぐ
悪いフォームの真逆をイメージすれば、正しいフォームが脳裏に浮かびます。
正しいフォームは、腰を落とした「スクワット走法」とは逆に、腰を高く保ちます。すると歩幅を稼ぐことができなくなりますが、発想を変えます。
歩幅とストライドは別のものだと定義してください。歩幅は脚の開いた距離、ストライドは宙に浮いて進んだ距離を含めた総距離です。
たとえ歩幅が小さくなっても、ストライドが伸びれば、ランニングのスピードは速くなります。問題は歩幅ではなくストライドなのです。
ストライドは歩幅ではなく、滞空距離で稼ぎます。宙に浮いた滞空時間でストライドは宙に浮いて稼ぐものなのです。
ブレーキをかけなければ、効率的に速く走れる
宙に浮くことを前提にしたランニングフォームに発想転換することで、フォームを改造しましょう。
宙に浮くことを前提にすれば、腰を低く歩幅を稼ぐスクワット走法よりも、むしろ腰を高く保ったフォームの方が有利になります。
骨盤の少し上の腰椎あたりに人体の重心はあります。この重心よりも前に着地することは重心移動のブレーキになってしまいます。それをパワーで無理やり押し切っているのがスクワット走法です。
むしろ重心は「後ろから押す」もしくは「下から支える」ぐらいがスムーズです。そのためには足は前の方で着地するのではなく、重心直下をイメージして着地します。すると歩幅は縮みますが、ブレーキがかからない分、重心がスムーズに前に移動するので、ストライドは伸びるのです。
宙に浮く工夫をしてストライドは落とさないようにします。滞空時間が伸びれば、その分、ストライドは伸びていきます。この宙に浮く工夫こそがわたしの「サブスリー養成講座」のさまざまな理論に当たります。
たとえば静止状態では維持できない動いていてこそ維持できる「動的バランス走法」です。
たとえばヤジロベエのように上半身をバランスする「ヤジロベエ走法」です。
「スクワット走法」を反面教師フォームにして、自重トレーニングランニングから脱すれば、長く維持できるフォームになります。
効率のいいフォームを考えるときには、本番レースで絶対にやってはいけないフォーム「スクワット走法」を思い出して、自分がそうなっていないかチェックしてみてください。
聖人君子だけが人生を教えてくれるとは限りません。悪い奴もときには「どうやって生きていけばいいか」を教えてくれます。あんな風にはならないように、と意識することで「スクワット走法」を知ることは、あなたを「いいフォーム」に導いてくれるものとわたしは確信しています。
※このブログの筆者の書籍です。Amazon、楽天koboで発売中。
※言葉のイメージ喚起力で速く走る新メソッドを提唱しています。