山口県阿武町の給付金誤入金問題が発生した理由は「振込依頼書」を別途書いたから
5月24日、山口県阿武町が4630万円を誤入金してしまった問題で、約9割にあたる計約4299万円を法的に「確保した」と発表しました。
新型コロナウイルス対策の臨時特別給付金を住民税非課税世帯を対象に1世帯10万円が給付されるという事業でしたが、町役場の職員のミスで、田口翔容疑者の口座に規定の10万円のほか、総額の4630万円が振り込まれてしまったという振込ミスでした。
このミスが発生した理由は下記のとおりです。
町役場の支払い伝票は「総額4630万円 支出先 田口翔ほか462名」となっていたのだと思います。支払伝票に「総額」と「個別金額(詳細)」が表示されるのは普通のことです。
今は自動化されていますので、この段階で総額の「振込依頼書」が自動で発行されたそうです。
ところが古い銀行のやり方だと、詳細情報のほかに頭紙として総額の「振込依頼書」を「支出先 田口翔ほか462名」で書いてしまっても不思議はないと思います。
ミスはミスですが、それほどメチャクチャありえないミスではないように思います。
公金の振込ミスは返金されるのに、振り込め詐欺の振込ミスは返金されないのは何故なのか?
わたしが気になるのは、この町役場のミスは解決されるのに、振り込め詐欺被害はなぜ解決されないのか、ということです。どちらも振込ミスということではかわらないと思いますが??
わたしの近しい人に振り込め詐欺の被害者がいます。息子と思って振り込んだら詐欺師でした。騙されて200万円だましとられてしまいました。もちろん警察に相談しました。振り込んだ先の口座番号も警察に伝えたそうです。しかし「間違って振り込んだあなたが悪い」ということでお金が返ってくることはとうとうありませんでした。
阿武町の事件では、町役場が払い込んだ銀行から、田口容疑者が引き出した先のリストがテレビで公開されていました。支払先は通帳に記帳される内容ですから、本人が教えない以上、銀行から情報が流出しているはずです。
スイスの銀行などは、この情報を絶対に教えないことで知られています。でも日本の銀行は教えるんですね?
法的に口座情報(引き出し先)を教えることが可能なら、振り込め詐欺被害者が被害届をだせば、引き出し先を知ることが可能なはずです。
阿武町の事件が起こった時、多くの法律家が「解決は難しい」と予想していました。なるほど振り込め詐欺の返金が難しいように、振込ミスの返金は難しいんだな、と納得していました。
一般的に口座に振り込まれたら「口座所有者のお金」という解釈になります。だから町役場の誤入金も解決は難しいだろうなあとわたしも予想しました。ところが事件があっさり解決に向かったので驚いています。
町役場の振込ミスは解決するのに、個人の振込ミスは解決しないというのはおかしいと思いませんか?
オレオレ詐欺も、町役場の振込ミスも、振込ミスであることは変わらない
振り込め詐欺の場合、他人の口座の名義貸しなどで、詐欺師自身の口座を振込先には指定していません。しかし他人の口座だろうと、阿武町の誤入金がそうであったように、銀行では引き出し先がわかるのですから、そこを次々と追いかけていけば、最終的にどこの口座に引き落とされたのかわかるはずです。現金で引き出されたのならATMの防犯カメラを確認すれば犯人の顔がわかります。
それにもかかわらず警察は全国の振り込め詐欺事件を解決しません。基本的に「間違えた本人が悪い」ということで、それで終わりです。まるで「息子思いの老母が悪い」とでもいっているかのように。
それに対して阿武町の誤入金がこうも簡単に解決したのは、マスコミ沙汰になって世間の注目が集まったからでしょうか? だとすればオレオレ詐欺が解決しないのは「やる気になれば解決できる」のに、解決するように動かない警察の怠慢だということになります。
それとも公金だからでしょうか? 町役場とはいえ法人で、私人と法的な位置づけは変わらないと思います。どこかに公金だと捜査権があるけれど、私金だと捜査権がないって書いてある法律があるのでしょうか?
それとも法律家(弁護士)を使ったことで事態が動いたのでしょうか?
振込詐欺も返金できるという共通認識がない限り、被害者は泣き寝入りするばかりだ。
町役場では弁護士に相談し、田口容疑者に税金の滞納があったことから「決済代行業者」に対して、差押えと取り立て命令書を突き付けたそうです。すると決済代行業者からお金が帰って来たそうです。
たしかにわたしの知人は法律家に解決を依頼したりしませんでした。でもそれは「振り込め詐欺は振込ミスしたのが悪いんだから解決できない」という風潮、常識があったからです。「振り込め詐欺だって、振込ミスはお金を取り立てることができる」という風潮、常識があれば、法律家に相談して返金の手続きをしただろうと思います。
振り込め詐欺は解決できない、という風潮は、そもそも最初に振り込んだ銀行の情報が開示されないために、そこで行き詰ってしまうからだと思われていました。しかし阿武町の振込ミスを見ていると、その先のお金の流れがはっきりとわかっています。だったら振り込め詐欺の振込ミスだってお金の流れを追いかけることができるのではないでしょうか。だって両者に本質的な違いはないのだから。
オレオレ詐欺も、町役場の振込ミスも、両方とも解決しないのならば、それはそれで納得することができます。しかし両者とも振込ミスであることは変わらないのに、町役場の振込ミスだけ解決して、振り込め詐欺は解決しないというのは、おかしいとわたしは思います。
※本件において阿武町役場に返金されたお金が田口容疑者のお金なのか、決済代行業者が立て替えたお金なのかははっきりしていません。
ちなみにわたしは旅行代理店のトラブルになった時に、決済代行業者(DCカード)がおカネを立て替えて払ってくれたという経験があります。
本件ももしかしたら決済代行業者の立替かもしれないなあ、と思っています。