沢木耕太郎『深夜特急』バックパッカーのバイブル

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沢木耕太郎『深夜特急』バックパッカーのバイブル

わたくしハルトが楽園探求の旅人になったのは、いろいろなきっかけがあります。元々帰国子女であり、祖国を外から眺めるという視点が身についていたこと。マラソンランナーとしてのキャリアをホノルルからはじめて、観光49%マラソン51%のリゾートランナーであったこと。そして旅人イロハと出会ったこと。

しかし沢木耕太郎『深夜特急』を読んだ影響も見逃せません。この本はバックパッカーのバイブルとされ今更わたしが紹介しなければならないような作品ではありません。

深夜特急の特徴は、主人公が「メジャーな観光地に行かない」ことです。高い入場料を払う金がない、といういちおうもっともらしい理由がついていますが、そういうわけではありますまい。

小説はその特性上、どうしても出会いや感動が必要であるため、「観光地を見て感動しました終わり」ではお話になりません。それゆえ「見たけど書かなかった省いた」可能性もありますが、そういうことよりも、異邦人との出会いに、もっと本人の興味があったからに他ならないでしょう。それは沢木耕太郎のその後の執筆活動を見ればわかります。

社会の不適合者、勝てたはずなのに勝てなかった人、生きるのが不器用な人、そういう人のノンフィクションをずっと書きつづけています。沢木はバックパッカーのヒーローなので、どうしても作品が気になります。ときには取材対象よりも取材している沢木自身の方が気になります。

結局、深夜特急の時代とスタンスは何も変わっていないのだと思います。バックパッカーや売春婦のような社会のアウトローや放浪者との一期一会を通して、彼らを見て、自分を見ている。彼らを探して、自分を探している。『深夜特急』はそういうスタンスの旅本です。その後の沢木の執筆も。

特徴があるとすれば「彼の書き方、感受性」であって、沢木の旅が物珍しくて売れたわけではありません。バスでユーラシア大陸横断旅をすれば誰にでも書けるというものではないのです。

ツアコンが書いた方が旅のトラブル話は面白いのか、という稿でも書きましたが、そりゃあネタの豊富さはツアコンにはかないません。しかし結局は、切り口、書き手の個性次第です。事件があって、何を感じるか。どう世界が拡がっていくのか。そういうことが書き手の力なのです。誰にでも書けるというわけではありません。

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