悪女にはまって身を滅ぼしてしまった男の物語。この読み方をしている人が大半だが、本当は違うのではないか
メリメ『カルメン』。読むのは二度目です。
最初に読んだ時の印象は、悪女にはまって身を滅ぼしてしまった男の物語。この読み方をしている人が大半ではないかと思います。
いわゆる『マノン・レスコー』型の典型的なファム・ファタール物語、というものでした。
しかし二度目に読んだ今は別の感想を持っています。
「自由奔放な女に恋して翻弄されて破滅する男の物語」そう思っていました。でもこれは「自由のためには命まで賭けた女の物語」ではないか、と感じています。
カルメンの正直さ、自由への渇望は、離婚女性(これから離婚しようとしている女性にも、すでに離婚した女性にも)にこそ読んでほしい物語だと思いました。
さてそれでは「自由のために自分の命さえ捨てた人間」「自分に正直であることを諦めなかった人間」の物語を見ていきましょう。
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このブログの著者が執筆した「なぜ生きるのか? 何のために生きるのか?」を追求した純文学小説です。
「きみが望むならあげるよ。海の底の珊瑚の白い花束を。ぼくのからだの一部だけど、きみが欲しいならあげる。」
「金色の波をすべるあなたは、まるで海に浮かぶ星のよう。夕日を背に浴び、きれいな軌跡をえがいて還ってくるの。夢みるように何度も何度も、波を泳いでわたしのもとへ。」
※本作は小説『ツバサ』の前編部分に相当するものです。
アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。
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メリメ『カルメン』あらすじ。ロムとは亭主、ロミとは女房、カリとはジプシー
主人公(というか語り部)ドン・ホセは、バスク人。もともとは真面目な軍属でした。カルメンを護送する任務をあたえられますが、同郷の女というウソをつかれ、逃がして助けてやります。それがバレて営倉入りとなり、軍隊での出世コースを外れてしまいました。カルメンは逃がしてくれたお礼にホセと寝ます。
ホセはカルメンのことが忘れられません。カルメンに言い寄る中尉を刺し殺してしまいます。ホセは軍務から逃亡し、カルメンの同業者、密輸業者、追剥ぎになります。
旅の自由に生きるジプシーの暮らしをホセは体験することになります。脱獄してきたカルメンの夫ガルシアも、カルメンをひとりじめするために殺害。そしてカルメンと結婚することになるのです。
しかし愛は長続きしません。カルメンは言い放ちます。「私の願いは自由にしておいてもらって勝手なことがしていたいんだ」二人は一生たっても忘れることのできないようなことまで言い合ってしまいました。
カルメンは闘牛士を愛人にします。その気持ちをホセに隠すこともしません。「もう好きでなくなった。一緒に暮らす気はもうない」
ホセは何とかカルメンとやり直そうと努力するが、カルメンの気持ちは戻りません。裏切ったカルメンにホセは殺意をいだきます。カルメンを愛するあまりに。
「おれがやくざになったのも、泥棒になったのも、人殺しになったのも、みんなおまえのためだ」
しかし殺されるとわかっていてもカルメンはゆずりません。
「わたしはもうあんたには惚れてはいない。すべてがもう終わってしまった。わたしはあんたに惚れた自分をいま憎んでいる」
「カルメンはいつだって自由な女よ。カリ(ジプシー)として生まれてきたカルメンはカリとして死んでいきたいのよ」
アメリカに行って農夫になるなんてまっぴら。自由なジプシーとして死にたい、という意味です。
そしてホセは愛するあまりカルメンを殺します。ここで物語はいったん終了します。
さて作者はこの物語を通じていったい何を言いたかったのでしょうか?
メリメは「自由奔放な女性に翻弄される男」のことではなくて「ジプシーという自由な生き方」を描きたかったのではないかと私は思います。
ジプシーという自由な生き方にスポットライトを当てた作品
小説のラストに「みなさん、カルメンの属していたジプシー族っていうのがいます。知ってますか?」っていう、作者メリメからのジプシー解説が入ります。現代小説なら不必要として編集者にカットされるだろうシーンです。
時代的に、まだこの謎の民族について、みんな偏見をもち、よく知らなかったんだろうな、と思わせられます。自由なボヘミアン、その象徴がカルメンでした。
自由奔放な女に翻弄されて破滅する男の物語、そう思っていました。しかしこれは自由のために命まで賭けた女の話しではないか、と思います。
カルメンはいい女? 寝れば、男に大切にしてもらえるのはあたりまえ
カルメンは多くの男性に言い寄られますが、しかし本当にモテるいい女なのでしょうか? カルメンはたくさんの男と関係をもちます。しかし女は寝れば(男とセックスすれば)いくらでも男から大切にしてもらえてあたりまえです。寝て、男に大切にしてもらえるというのは「ただの普通の女」だと思います。別に驚くことではありません。
寝なくてもモテる女は本当にモテる女ですが、カルメンはどうでしょうか?
※「寝れば、男に大切にしてもらえるのはあたりまえ」という不倫と愛を扱った小説です。こちらの書評が気に入った方にはお気に召していただけるものと思います。ぜひお読みください。(著者はこのブログの作者です)
離婚夫人が夫に言ったらカッコいいセリフのオンパレード
「もう好きでなくなった。一緒に暮らす気はもうない」「わたしはもうあんたには惚れてはいない。すべてがもう終わってしまった。わたしはあんたに惚れた自分をいま憎んでいる」「カルメンはいつだって自由な女よ。自由な存在として生まれてきたカルメンは自由な存在として死んでいきたいのよ」
離婚夫人が夫に言ったらカッコいいセリフのオンパレードです。
夫と離婚したがっている(離婚した)女性は、気持ちの大小はあれ、カルメンと同じ気持ちなのではないでしょうか? 夫をもう愛していないにせよ、自由を愛しているにせよ、こんなセリフで夫に三下り半を叩きつけてみたいものです。
しかし誰もがカルメンのように命をかけて自由であろうとすることはできません。
人間は多かれ少なかれ、どこかで自分を殺して生きています。だからカルメンのような生き方に、惹かれるのでしょう。
カルメンは情熱的で、自分に嘘はつけない女です。自由を愛し、そのためには犠牲をはらいました。
自由であるために、すべての犠牲を払った。カルメンはそんな人間でした。
やっぱ……いい女には違いないなあ、と思います。