どうもハルトです。みなさん今日も楽しい旅を続けていますか?
波の伊八を知っていますか
先日、南房総を旅をしていたら、下記のような情報を仕入れました。
Σ( ̄ロ ̄lll) な、なにい~
左の画は超有名な葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」です。世界で二番目に有名な絵と言われることもあります。一番目はもちろんこちらですね!
この「世界で二番目」に有名な絵のモデルが、通称「波の伊八」が彫った「波に宝珠」だというではありませんか! 雑誌の記事を見ると確かにそっくりです。
因縁の北斎の絵のモデルだというので、他の予定はすっ飛ばして、とにかく見に行くことにしました。
浮世絵は一枚だけだと思っていた
実は私、この「神奈川沖浪裏」がパリのギメ美術館に所蔵されていると聞いて探しまわったことがあります。まずギメ美術館を探し、中に入って「神奈川沖浪裏」を探しまくったというわけです。ギメ美術館の隅々まで探しても見つからなかったので、疲れ果てて、とうとう学芸員の方に「ホクサイのウェーブの絵はどこ?」と英語で必死に聞いたことを今でも思い出します。
あの世界的な名画を日本人としてどうしても見ておきたかったのです。ダヴィンチよりもボッティチェッリよりもホクサイが見たかった。
「現在、展示中ではありません。収蔵品倉庫の中です」
と言われて、どれほどガッカリしたことか。。。
あの頃、私はアホだったので(今でもアホですが)、「神奈川沖浪裏」が世界中に何点もあることを知りませんでした。モナリザのように世界に一点ものだと思っていました。だからこそ必死で見ようとしたのです。
かつての私のような人のために念のために言っておきますが、「神奈川沖浪裏」は浮世絵です。浮世絵とは刷った絵なので、世界中に同じ絵がたくさんあるのです。
最終的に私は自宅近くの個人の美術館で「神奈川沖浪裏」を見ることになります。ギメでの大ショックを思い出して、波の前で立ち尽くしました。
こ、こんな家の近くで見られるとは。。。(アホだな)
しかし、このときは一生に一度かもしれないパリで、日本人が日本の名画を見られないという事態に大ショックを受けたのです。つまりもう一生見ることが出来ないと思ったのです。それほど思い入れのある名画のモデルです。これは行かねばなるまいて。
美術解説はぜひ聞くべきです
いすみ市の東頭山行元寺という立派なお寺(徳川家と縁があり庇護を受けていたそうです)の中に、伊八の彫刻があると調べて行ってきました。
波の伊八というぐらいなので、海岸沿いのお寺だろうと思ったら、かなり内陸部にありました。
文化財修復保護基金(1名500円)を支払って、中に入ります。
中では住職の懇切丁寧なお話があります。経験上、こういう話はよく聞いた方がいいです。解説してもらえる機会があるなら、ぜひ聞きましょう。面白さが数倍に跳ね上がります。
たとえば聖母マリアを描いた絵画は「赤い服に、青い布を羽織っている」ことを知っていますか? 「この女性はマリアなんですよ」ということが誰が見てもわかるように絵画上シンボリックにそういう記号をつかっているのです。
これまでに何枚もマリアの絵画を見ていたのにも関わらず、美術館で学芸員さんに解説してもらうまでそのことに気づきませんでした。
人間、意外と気づかないものです。
寺の門に飾られる阿羅漢の頭が不格好なほど長くなっているのは、下から見上げてちょうどよく見えるように工夫されているというお話を聞きました。タージマハルと同じ工夫です。タージも本当は不格好なほどドームの頭が縦に長いのですが、下から見上げてちょうどいい大きさになっているという説明をインド人ガイドから聞いたことがあります。
7人ほどで観覧させていただきました。みなさんもちろん伊八を見に来ています。しかし伊八を見るまで、長ーくじらされます。みなが何を見に来ているか承知の上で、住職も人をじらして楽しんでいます。あっさりと「波に宝珠」に直行ではありがたみがありません。必要な演出だと思って、ここは楽しんでください。
そして最後に奥の小部屋に連れていかれます。そこの欄間の彫刻こそが「波を彫らせては天下一」と呼ばれた天下の「波の伊八」の木彫りの彫刻です。
「関東へ行ったら波は彫るな」「伊八っていうスゲエやつがいる。あいつと比べられて恥をかくから、関東じゃ軽々しく波は彫るな」と彫刻師の間では言われたそうです。それほどスゴイやつです。
いやあ。そりゃもうすばらしい彫刻でした。ぜひ足を運んでご覧になってください。伊八は波に入って観察したと伝えられています。
みなさん波は海岸線に向かってまっすぐに来ると思っていませんか? 波はいつもまっすぐに押し寄せるものではありません。乱れて押し寄せる時もあります。その波と波がぶつかり合ったときに、名画のような波ができるのです。
神奈川沖でこの波が本当に来たら津波でしょ? 大災害です。
世界的な浮世絵、葛飾北斎の「神奈川沖浪裏」に波の形、構図がそっくりです。あの見事な波が、彫刻で見事に再現されています(彫刻なので立体的です)。宝珠のところが富士山に替わっているだけ、という感じです。如意宝珠は願いをかなえるドラゴンボールみたいな宝珠のことです。富士山も一富士二鷹三茄子というぐらいの霊山ですから意味的には完全に同じだといっても過言ではありません。
もちろん伊八の方が年代的に先です。
何よりも驚いたことは、伊八の「波に宝珠」も「浪裏」でした。(写真は禁止でした。すいません。。。)
と言うのは「波に宝珠」は表裏一体の彫刻だったからです。よく知られた北斎のモデルになったという彫刻には裏があり(本当は表)、そこにも波の彫刻があったのです。
伊八はもちろん表の方に力を注いでいます。表のカタチが先にあって、裏はそのカタチに合わせて彫ってあるのです。むしろ彫刻としては表の方が見事だったりします。しかし………
北斎のあの浮世絵が脳裏でダブるのは、どうしたって裏の彫刻ですから。
どれほど表の彫刻がすばらしくても、みなさん(私も含めて)裏の彫刻ばかり眺めています。
波の伊八も、まさか(どっちかというとオマケの)裏の彫刻ばかりジロジロ見られるとは思わなかったに違いありません。
そして自分の小さな彫刻が、世界的に有名になることなど、夢にも思わなかったことでしょう。