どうもハルトです。みなさん、今日も楽しい旅を続けていますか?
バックパッカーがバックパックを紛失したら
ところでバックパッカーがバックパックを紛失したらどうなるのでしょう。この悲劇を何に例えたらいいのでしょう。
貝殻のないヤドカリ? 貸す金のない銀行?
パックパッカーというのはバックパックひとつで海外を放浪する者のことですから、バックパックを紛失するということは、持ち物のほとんどすべてを紛失することと同じです。
(バックパッカー)-(バックパック)=全財産紛失
みなさんはそんな経験ありませんよね? 恥ずかしながら私にはあります。
台湾でのことです。
旅のパートナー・イロハと二人で絶景ポイントとして有名な太魯閣渓谷を鑑賞し(『花蓮は蚊連』はこのときのことです)、電車で台北まで戻りました。
電車の中では爆睡してしまいました。人生最悪の蚊の猛襲でろくに眠れなかったので、睡眠不足だったのです。
ん? 何か周囲が騒がしい。
片目をあけて、寝ぼけまなこで周囲を確認すると、電車が止まっています。ホームには大勢の人が歩いています。電車の中にはもう誰もいません。
あっ!
なんと終着駅・台北に着いているではありませんか。
あわてて起きて、電車を飛び降りました。
路線バスで寝込んで運転手に気づかれず、そのまま洗車場まで運ばれてしまった過去のトラブルが頭をよぎります。
バスを洗車する水音で目が覚めて、バス運転手に事情を説明し、終点のバスターミナルまで送り返してもらいました。
あの時のようにこのまま操車場まで連れていかれてはたまりません。
バスならともかく電車ですから、わざわざ台北駅まで戻ってくれるとは思えません。日本ならば残っているお客様がいないか車掌が確認するでしょうが、ここは日本ではないのです。
ヤバい!
とにかく一刻も早く電車を降りることです。焦って慌てて私たちは電車を飛び降りました。まだ寝ぼけていました。
バックパッカーのバックパック紛失事件、実体験
寝起きの衝撃のまま駅のホームを上がり、コンコースを歩いていた時でした。
「あれ、ハルト。バックパックはどうしたの?」
イロハが何を言っているのか、最初はわかりませんでした。
たった今、電車を降りそびれて操車場まで行ってしまうトラブルをギリギリのところで切り抜けたばかりです。
ピンチを切り抜けた余韻に浸っていて、まさか次のピンチに見まわれていようとは思ってもいません。
「ええええっ?? ザックどうしたの? まさか電車の中に置いてきちゃったの?」
ようやく頭が目覚めてきました。そして、何が起こったのか、はっきりと状況がわかりました。
あるべきものがないのです。背中にあるべき「何か」が足りないのです。最初、イロハが感じた何かが足りない感覚は、バックパッカーがバックパックを背負っていないせいでした。
サンダル履きの男が手ぶらで身軽に歩いています。日本のご近所散歩と同じ軽装でした。
眠りこけていて慌てて電車から飛び降りたため、バックパックを電車の網棚の上に忘れてきてしまったのです。そもそも操車場まで連れていかれちゃたまらないため慌てて飛び降りたのです。もう電車を降りてからしばらく時間がたっていました。
もう間に合わない。電車はどこかに出発していて、荷物はもう二度と手元には戻ってこないでしょう。これで全財産紛失確定です。
「えええええっ。どうするの? 何もかも全部なくしちゃったじゃない? 旅がつづけられないよ。どうするの?」
イロハが慌てふためいています。
パートナーがパニックになっている今、私は心を落ち着かせようと努めました。
たしかにマズい事態です。しかし旅が続けられないということはありません。
バックパッカーがバックパックを失うということはまるで全財産を失ったかのようですが、着替えや洗面用具のような生活道具を失っただけで、大切なものは何も失ってはいません。
パスポート、現金、カードなどの貴重品はすべて身に着けています。失ったものはすべて台北のマーケットで買えば済むようなものばかりです。
「大丈夫だ。旅はこれまで通り続けられるよ。現金とパスポートさえあれば、あとは何とかなる」
イロハを励まします。放浪の旅の途中で町から街へと移動していく中、常にパスポートと現金だけは所持を確認するようにしています。現金とパスポートさえあれば、あとは何とかなるのです。
「じたばたしてもしょうがない。普段から言ってるように、何とかなるよ。現金もパスポートも手元にあるんだから。他は全部失くしたって構わない」
「女の子はそうはいかないんだよ。化粧品とか服とか全部バックパックに入っているんだもの」
「そんなものまた現地で買うしかないよ。これから買い物に行こうよ。それもまた楽しいと思うよ」
「えええ。でもいちおう電車に戻ってみようよ。まだ電車が止まっているかもしれないし、忘れ物の届け出があるかもしれないよ」
イロハはまだ諦めきれない様子です。
「無駄だと思うけど、いちおう行ってみるか」
イロハを納得させるために、太魯閣からの電車が止まったホームにいちおう戻ることにしましたが、私はもう諦めていました。
そもそもバックパックを電車に忘れてきたのは、いかに寝起きだったからとはいえ、私のミスです。
そのミスをミスと感じさせないためにも、ここは意地でもこれまで通りに普通に旅を続けるしかありません。
バックパッカーにとってバックパックは全財産
いろいろなものを買いなおす多少の出費は諦めるしかありません。しかし本当に旅は続けられるのです。むしろバックパックをなくしたぐらいでは、旅の障害は何ひとつないと言ってもいいぐらいです。必要なのは現金とパスポートだけ。あとはどうにでもなる。それは真実です。
頭の中でこれから起こりうることをいろいろシミュレーションしながらホームに戻ると、何とそこにはさっき下りた電車がまだ停まっていました。
「ハルト、電車だよ。まだ停まってる。荷物、まだあるんじゃない」
私たちは走りだし、こんどは慌てて電車に飛び乗りました。操車場まで連れていかれてもバックパックを取り戻すぞという気持ちで(笑)。
そして網棚の上に自分のバックパックを発見したのです。
「よくぞ戻ってきた~。おれ、もう泣きそう」
ホームに飛び降り、バックパックを抱きながらイロハに言います。
「カッコ悪~。やっぱ必要だったんじゃん、バックパック」
安堵したイロハが笑ってからかいます。
「そりゃあそうさ。バックパッカーにとってバックパックは全財産だからね」
ロストバッゲージに遭っても盗難に遭っても旅を止める要因にはならない。必要なのは現金とパスポートだけ。それは真実です。
でもやっぱりバックパッカーがバックパックを失くすなんてことはあってはならないことです。旅の初心者だったら、あそこまで冷静ではいられなかったかもしれません。
とくに電車やバスなどで眠りそうな時には注意してください。
これ以降、私は腕時計のアラームを到着10分前にセットしてから寝入るようにしています。
みなさん、どうぞお気をつけください。