両替屋は六時に終了。現金なし。プランBなし
タイでのラチャダー市場でのことです。市場には両替が絶対にあると私たち夫婦は踏んでいました。手元の現金が少なかったのですが、あとで両替すればいいだろうと思って、買いたいものは即買いしていました。両替していたら、またこの場所に戻ってこられるかわかりません。また一点ものだったので、他のお客さんに先に買われてしまうかもしれなかったのです。
そして調子に乗って買い物した私たちは、なんと現金がほぼ尽きてしまったのです。
こうなっては仕方がないと、買い物を一時中断し、両替場を探しますが、なんとありませんでした。昼間にはあったのですが、もう閉まっていて、夜にはないというのです。

え? そんなことってあるの
両替は6時に終了。暗くなった夜市の頃にはもうやっていないという意外すぎる情報でした。
海外慣れしてくると、はじめての場所でもだいたいアタリがつくようになります。たとえば、はじめて行く市場でも両替があるだろうと予想するのがそれにあたりますが、そうでなかったときにこっちはプランBを用意していないので、てきめん困ってしまうのでした。
タクシー! 夫が人質になって、妻を両替に走らせる作戦
ベースにしているカオサン(安宿街)にまで戻れば、深夜でも両替屋が開いていることは確実です。しかし問題はそこまでのタクシー代が足りるかどうかでした。
こんなとき、方法はふたつあります。
確実に両替屋が開いている最寄りの場所までタクシーに乗って、そこで両替して現金を確保したあとで、ふたたびタクシーに乗るか。
あるいは現金が足りなくなるのを覚悟のうえで、直接カオサンまでタクシーで行くか。
確実に両替屋が開いている最寄りの場所が自信がなかったことと、タクシーを二回乗るのが面倒くさかったので、カオサン一発勝負に賭けることにしました。

最悪、自分が人質になって、イロハ(嫁)を両替に走らせよう
両替屋の前にダイレクトでタクシーをつけられればいいのですが、カオサンは夜は歩行者天国になっていて車は入れません。ホコ天の中に入れば深夜両替は確実なのですが、イロハを人質にはできません。そのままタクシーが走り去ったらもうとりかえしがつかないからです。
タクシー代を宿代に当てれば、もうすこしリッチな宿に泊まれるんじゃないだろうか?
タクシーの中では焦りました。残金のギリギリまでタクシーのメーターがガシガシと上がっていきます。

カオサンの欠点は結局、タクシーに乗らないといけないということなのではないか? このタクシー代を宿代に当てれば、もうすこしリッチな宿に泊まれるんじゃないだろうか?
そういう考えが頭によぎります。BTSの近くにホテルがあれば、タクシーに乗らずに電車で帰れるのです。カネがないときは、普段考えないことを考えてしまうのでした。
もはや払いきれないというギリギリまでタクシーメーターは上がりました。
ああ! ナムサン!
現金が足りなくなる覚悟で乗っていますが、払えるならそれに越したことはありません。タイ語はまったく喋れませんので、人質作戦を伝達するのもジェスチャーでやるしかないのです。
ところが奇跡的に、ギリギリでタクシーはカオサンに着いてくれました。手持ちのバーツは、日本円で60円を切っていました。
残金ギリギリゲーム。おしっこ漏れそうになってトイレに駆け込んだあとの状態
カオサンまで着いてしまえば、もう安心です。タイバーツはありませんが、日本円はもっているのですから。
残金60円で、夜の町をふらついていました。
さっきまでは「両替! 両替!」と、両替のことばかり考えていたのに、おしっこ漏れそうになってトイレに駆け込んだあとの状態とでも言うんでしょうか、今はもうホッとして、両替なんかどうでもよくなっています。
日本で、繁華街を手持ち60円でふらつくなんてことはまずありえませんが、外国だと感覚がマヒしているのか平気です。むしろ残金ギリギリゲームを楽しみたい気持ちでした。
カオサンにいれば安心です。もはや何も買えませんが、すぐそこに両替商があります。宿もあります。そして手元には福沢諭吉があるのです。
何も買わなければ財布の中身なんか気にすることはありません。

この安心感を知ってしまうと、次にタイを訪問した時も、やっぱり宿はカオサンになるんだろうなあ