日本昔話にみる葛籠(つづら)のお土産パターン。大小つづら選択問題は小を選ぶのが鉄則。
ある日の車中泊の車の中での夫婦の会話です。
ねえ「おむすびころりんすっとんとん」って日本昔話がなかったっけ? 舌切り雀?
それは「おむすびころりん」じゃない?
舌切り雀は米から作った糊を食べちゃった雀がおばあさんに舌を切られて逃げ出して、不憫に思ったおじいさんが訪ねていったら「すずめのお宿」で歓待されるんじゃなかったかしら。
ああそうか。雀のお宿で歓待されて、お土産に大きな葛籠か小さな葛籠かチョイスする場面があるんだよね。
そうそう。つつましいおじいさんは小さなつづらを選択して、強欲なおばあさんは大きなつづらを選択してひどい目にあうの。つづらの選択は小さなつづらを選ぶのが正解。これ、基本よ。
その「大きな葛籠と小さな葛籠」選択問題。『おむすびころりん』にもなかったっけ?
つづら選択問題? あったかなあ?
おむすびころりんは、おじいさんがおむすびを転がしたらネズミの穴に落ちてしまって、そこから「おむすびころりんすっとんとん」って歌が流れてくる話しよね。自分もネズミの穴に飛び込んで、おむすびのお礼に宝物をもらうって話しじゃなかったっけ?
隣の強欲じいさんが地下の鼠たちに猫をけしかけて、ネズミたちがパニックになった気がするんだよなあ。
隣の強欲爺さんがうらやましがるためには「葛籠のお宝」のお土産が必要だし、強欲を戒めるどんでん返しのためには「大小葛籠の選択問題」が必要なんじゃない?
夫婦の記憶はあいまいで、調べてみたところ、やはり『おむすびころりん』にも葛籠選択問題がありました。
作者の意図以上のことを読み取れる人が「いい読者」
日本昔話にはいろいろなバリエーションがあって、これが決定版というものはないことがほとんどです。
『おむすびころりん』もそのパターンでした。飼い猫をけしかけるパターンや、ネコの鳴き声をマネするパターン。葛籠も『舌切り雀』のように大きなつづらを選んで中から妖怪やきたないものが出てくるパターン。大小両方のつづらを強奪するパターン。ねずみに噛まれてほうほうのていで逃げ出すパターンなどいろいろあるようです。
しかし私ハルトが予感したように、基本的には葛籠選択問題が存在するようです。
ほかにも日本昔話には「どっちを選択しますか」系の話しがたくさんあります。
そういうときには妻イロハが言うように、大小つづらの場合は小を選ぶのが鉄則。ここで大を選ぶとたいていひどい目にあいます。舌切り雀でも、おむすびころりんでも。
同じような類型として、つづらでなくても、「どっちを選びますか」パターンが存在します。
この岐路にたたされた人物は、よさげな選択ではなく、アカンほうを選ばなければなりません。
いっぱいいいものがありそうな選択は、欲深い選択です。
キリスト教の「七つの大罪」でいうところの強欲(グリード)に該当するわけですね。
そうじゃない方の「つつましい」方を選択するのが、古今東西の昔話の、正解の鉄則なんですね。
勧善懲悪の教訓のためにも。
あら『おむすびころりん』にも大小つづら問題があったのか。
導入が違うけど、『舌切り雀』と似たようなお話しなのね。
『おむすびころりん』や『はなさかじいさん』は、隣の強欲家族との比較だけれど、『舌切り雀』は夫婦の間で強欲とつつましさが分かれているのでさらに奥が深いぞ。そもそもこの夫婦はこれほど価値観が違うのにどうして夫婦円満なのだろうか?
女の方が男よりも強欲なのよ。
……って何を言わせるのよ。
そんなことまで作者は言おうとしていないわよ。
作者の意図以上のものを読み取れる人をいい読者というのだ。