エリツィンのように「ソ連とロシアは違うのだ」と五木寛之は予言した

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あなたが旅に出たきっかけは? というありふれた質問

最近、五木寛之にはまっております。ブログを運営している以上、『風の王国』のことは、いつか必ず書きたいと思っていました。『風の王国』についての書評はこちらをご覧ください。

BORN TO WALK 歩くために生まれた

これほどレベルの高い作品をつくれる作者が、他にどのような作品を書くのか、興味がありました。また旅人としては「あなたが旅に出たきっかけは?」という質問に必ず出てくる『青年は荒野をめざす』にも興味がありました。

書評『青年は荒野をめざす』

五木寛之さんは『蒼ざめた馬を見よ』で直木賞を受賞されています。

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新約聖書・ヨハネ黙示録より『蒼ざめた馬を見よ』

『蒼ざめた馬を見よ』は新約聖書・ヨハネ黙示録がタイトルの出典です。蒼ざめた馬に乗って死がやってくる、というくだりですね。1967年の小説です。

蒼ざめた馬というのは、滅びや死の象徴ですね。

小説『蒼ざめた馬を見よ』は、こんな内容でした。

物語のあらすじを紹介することについて

新聞社につとめる主人公・鷹野が会社をやめてレニングラード(今のサンクトペテルブルグです)に行ってくれと論説主幹に言われます。秘密任務の依頼を受けたからでした。

高名なロシア文学者ミハイロフスキイの「生涯最後の大作」の原稿を秘密裏に引き取りに行くという任務でした。その小説はソビエト国内では発行したら逮捕されてしまうような反社会主義的な内容でした。

鷹野は引き受けてレニングラードに飛びますが、ミハイロフスキイは会ってもくれません。例の小説のことをほのめかしても、しらを切られてしまいます。

鷹野はユダヤ人の女・オリガと知り合って寝ます。五木寛之の小説の主人公は、女にモテてセックスに苦労しないタイプのモテ男ばかりが登場します。作者がモテるからなんでしょうね。いやあ羨ましい。

オリガはミハイロフスキイの仕事を手伝っている女でした。彼女を通して鷹野はミハイロフスキイと接触し、幻の小説を受け取ります。タイトルは『蒼ざめた馬を見よ』でした。

秘密裏に日本に持ち帰って出版した『蒼ざめた馬を見よ』は諸国に翻訳され、世界中で反響を巻き起こします。しかしミハイロフスキイは、反ソ的な作品を国外で偽名で出版し巨額のドルを不正入手した、と逮捕されて告発されてしまいました。

諸外国では「ソ連には言論の自由がない」と国際的な批判が起こります。そんな中、日本で鷹野はソ連系外人の来客を受けます。そして真相を知るのでした。

なんと鷹野が会ったミハイロフスキイは整形したニセモノでした。計画は「ソ連には自由がない」とアジ宣伝したかった西側の策略だったのです。オリガも陰謀組織に雇われた女でした。『蒼ざめた馬を見よ』はゴーストライターがミハイロフスキイの文体や思想を似せて書いたものでした。そしてすべての計画を考えたのは日本の論説主幹でした。鷹野にレニングラード行きをすすめた人物です。

ソ連のスパイは西側の陰謀をすべて暴きます。しかしなんと驚いたことに、ミハイロフスキイ自身がにせものが書いた小説を「私が書くべき作品だった。でも書かなかった故にロシアの作家である私は罰せられるべきだ」と罪を認めたのでした。

ソ連のスパイは、ミハイロフスキイの作品を「反ソ的」と批判した党のお偉方や放送、新聞の権威・メンツを守るために、西側諸国の陰謀の暴露しないように圧力をかけられました。西側の陰謀を暴きたてれば、ミハイロフスキイのゴーストライターの存在が明らかになり、ソ連の文化全体の権威(ニセモノを見抜けなかった)が失墜します。

日本でも「スタップ細胞はありまーす」の理系女子の事件に代表されるように、「論文などのオリジナリティを見抜けないこと」「剽窃、パクリに気づけないこと」は学会にとっては恥ずべきこととされていますが、それと同じことです。

だから西側諸国の「ソ連には言論の自由がない」という陰謀に気づいていたソ連スパイでしたが、ソ連文壇の権威・メンツを守るために、すべての秘密を葬り去ることにしたのでした。

主要な役を演じた鷹野にだけ秘密を教えたのは、せめてものソ連スパイの意地だったのでしょうか?

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似たような作品『さかしまに』。序破急の構成

『蒼ざめた馬を見よ』さすが直木賞を受賞している作品だけあってとても面白い作品でした。

しかし私には、同じ書物(五木寛之全集)に収められていた『さかしまに』の方が面白かったです。似たような作品です。

「謎の真相にたどり着いたと思ったら、裏にもうひとつ陰謀があって、その陰謀も予期せぬ力によって上手くいかない」という序破急の三段構成になっているという意味では、とても作品の展開がよく似ています。

「さかしまに」は、俳壇から名前を抹消されている人物の謎の真相(モスクワ・コミンテルンの手先で俳壇の裏切者だった)にたどり着いたと思ったら、裏にもうひとつの陰謀(別の人物から裏切りの罪をなすりつけられていた)があって、悪の真相を暴こうとすると、当時の関係者が社会の上層部に今も健在で、彼らの秘密を守るために、闇の悪事は抹殺されてしまう、という作品でした。

こういう書き方をすれば「蒼ざめた馬を見よ」は、反ソ的な秘密出版をするという秘密の行為を成し遂げたと思ったら、それは西側諸国の「ソ連には自由がない」と喧伝するための陰謀で、その陰謀はバレるものの「ロシアの作家として自分が書くべきだった」とミハイロフスキイが意外にも罪を認めたことで、関係者の権威を守るために真相は暴露されないという作品でした。

よく似ていますよね。

そしてどちらも「ソ連」が関係してくる作品です。『青年は荒野をめざす』にもソ連が登場しました。

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ソビエト連邦(ソ連)って何だ?

五木寛之の作品を読んでいると、ひじょうにソビエト連邦が出てきます。今の若い人が読むと「なんのこっちゃ」となるかもしれません。

私が学生時代に「ソ連」というのはあったのですが、実はあまりよく知りません。ソ連とロシアの違いがいまいちわかっていません。

『蒼ざめた馬を見よ』は、ソ連政府(社会主義)から迫害されてもロシア文学者として自分が書くべきだった、という内容です。つまりミハイロフスキイは、ソ連とロシアを明確に区別しています。

ロシアとソ連はどう違うのか? ソ連はどうして滅んでしまったのか? ついでに調べてみました。

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ソ連の起こりは? 思想、言論、集会、結社の自由を認めると、ワントップの絶対権力は成立しない

ごくごく単純にいうと「皇帝制に不満を持った労働者たちの連合が、皇帝制を打ち倒し、新たな権力者がマルクス主義を理想とする新しい社会システムをつくった」ということでいいようです。

ソ連の起こりにそれほど謎はありません。皇帝サイドも社会的な不満を抑えるために民衆の自由を次々に認めていきました。そのことでなだれを打って皇帝体制は崩壊します。思想、言論、集会、結社の自由を認めると、ワントップの絶対権力は成立しないという、これはもう法則のようなものです。

第一次世界大戦時代のような「経済の悪化」が庶民のデモ(現体制の否定)となって、皇帝制は崩壊したようです。経済の危機は現政権の危機だということですね。

もともとロシアという国がソビエト(という名の評議会)に権力を握られて、その権力が戦争などを経てもともと異国だった周辺国家へと波及して連邦化していったのです。

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ソ連の崩壊の原因と流れは? 経済の危機は現政権の危機

かつて冷戦でアメリカと世界を二分した超大国がどうして血を見ることなく崩壊してしまったのか。謎はそちらにあります。

調べてみると崩壊の原因はやはり「経済の失敗」にありました。経済の危機は現政権の危機だということですね。

現体制への不満をなんとかしようとしたゴルバチョフが、共産党支配体制の改革(ペレストロイカ)、情報公開(グラスノイチ)を断行し、民主化が進みました。ワントップを崇拝するような体制から民主化が進んだわけですね。民主化すなわち権力の委譲です。

そこにソビエト連邦大統領であるゴルバチョフを倒そうとするクーデターが起きます。旧体制から既得権益を得ていた層からの反撃でした。このクーデターにゴルバチョフはやられてしまいました。クーデターに屈しなかったのが、「独立したロシアを創ろう」というエリツィンという男。エリツィンはロシア共和国の大統領で、彼の興味は「ソビエト連邦」ではなくて「ロシア」にこそありました。ラトビアとかエストニアとかはどうでもよかったんですね。

この段階でエリツィンはソ連共産党を離党していて、やがてはロシア共産党が活動することを禁止するほどの急進的な改革派でした。民衆はクーデターを倒した勝者(エリツィン・ロシア大統領)を支持し、敗者(ゴルバチョフ・ソ連大統領)の威信は低下します。

そしてエリツィンのロシアがソビエト連邦からの独立を宣言します。ソ連の中心であるロシアが独立してはもはやソビエトは維持できません。

ゴルバチョフは共産党の書記長を辞任、ソ連大統領を辞任し、ソ連共産党の活動を停止、ソ連の解体を宣言したのでした。1991年のことでした。ソビエトは70年弱しかこの地上に存在しなかった超大国ということになります。

ソビエト連邦といっても、実質的には「ロシアと周辺諸国」です。そのロシアが「連邦やめた」といえばそれは連邦の終焉です。ソ連を壊したのはゴルバチョフだと言われますが、実質的にはエリツィンではないでしょうか。

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「私が書くべき作品だった。でも書かなかった故にロシアの作家である私は罰せられるべきだ」の意味は?

反ソ的な小説『蒼ざめた馬を見よ』はソ連で断罪されます。だから「ソ連には言論の自由がない」というわけですね。だから共産主義に傾かないようにしようぜ、という西側の陰謀が成立しました。ゴーストライターの書いたロシアっぽい小説は、共産主義に反するような内容だったということです。

ミハイロフスキイ(五木寛之)はこう述べます。

「私が書くべき作品だった。でも書かなかった故にロシアの作家である私は罰せられるべきだ」

ミハイロフスキイは架空のキャラクターですから、このセリフは五木寛之のセリフです。

ソ連とロシアは違うんだ、ということを、1967年の出版の時点で五木さんは見越していたということになります。それはロシア文学に対する教養がそう言わせたのでしょう。

ドストエフスキー『罪と罰』の低評価。小説界のモダンアートだったのではないか?

ドストエフスキーに代表されるロシアの文豪作品は「土着民の血(やむにやまれない衝動)」みたいな作品群です。「みんなで富をわけあってイコールにハッピーになりましょう」というような人間の脳髄が考え出したような理想主義とはまったく関係がありません。

「土着民の血(やむにやまれない衝動)」を小説に書くことは、個人のエゴを描くことで、富の簒奪だってそのひとつです。人の不幸を踏み台に自分が幸せになろうとするような人物がドストエフスキー文学にはたくさん登場します。

ドストエフスキー作品の読み方(『カラマーゾフの兄弟』の評価)

カラマーゾフの兄弟『大審問官』。神は存在するのか? 前提を疑え! 

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エリツィンのように「ソ連とロシアは違うのだ」と五木寛之は予言した

『蒼ざめた馬を見よ』は1967年の作品です。まさか自分が生きている間にソ連が地上から消えてなくなるとは、いくらなんでも五木さんも思ってはいなかったでしょう。彼はただロシア文学に代表されるロシア民族の血の呪怨は、共産主義とは相いれない、と感じていただけです。

まるでエリツィンのように「ソ連とロシアは違うのだ」と五木寛之は1967年に言ったのです。そしてエリツィンはロシアを選んでソ連は崩壊しました。

五木寛之はエリツィンの感じていたようなことをミハイロフスキイに言わせたのではないかと思います。1967年時点で、そういうことをわかっていた、ということです。

そういう作品を書いた五木さんも、そういう作品に直木賞をあたえた日本文壇もなかなかたいしたものだと思いませんか?

五木寛之、たいした作家だと思いませんか?

サハラ砂漠で大ジャンプする著者
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このブログ著者の小説『結婚』
小説『結婚』
愛とは何か? 結婚とは何か? を追求した純文学小説です。 主人公ツバサは劇団の役者です。恋人のアスカはツバサのもとを去っていきます。 「離れたくない。離れたくない。何もかもが消えて、叫びだけが残った。  離れたくない。その叫びだけが残った。  全身が叫びそのものになる。おれは叫びだ」 劇団の主宰者であるキリヤに呼び出されて、離婚話を聞かされます。不倫の子として父を知らずに育ったツバサは、キリヤの妻マリアの不倫の話しに、自分の生い立ちを重ねます。 「どんな喜びも苦難も、どんなに緻密に予測、計算しても思いもかけない事態へと流れていく。喜びも未知、苦しみも未知、でも冒険に向かう同行者がワクワクしてくれたら、おれも楽しく足どりも軽くなるけれど、未知なる苦難、苦境のことばかり思案して不安がり警戒されてしまったら、なんだかおれまでその冒険に向かうよろこびや楽しさを見失ってしまいそうになる……冒険でなければ博打といってもいい。愛は博打だ。人生も」 ツバサの母は心を病んで自殺してしまっていました。 「私にとって愛とは、一緒に歩んでいってほしいという欲があるかないか」 ツバサはミカコから思いを寄せられます。しかし「結婚が誰を幸せにしただろうか?」とツバサは感じています。 「不倫って感情を使いまわしができるから。こっちで足りないものをあっちで、あっちで満たされないものをこっちで補うというカラクリだから、判断が狂うんだよね。それが不倫マジックのタネあかし」 「愛する人とともに歩んでいくことでひろがっていく自分の中の可能性って、決してひとりでは辿りつけない境地だと思うの。守る人がいるうれしさ、守られている安心感、自信。妥協することの意味、共同生活のぶつかり合い、でも逆にそれを楽しもうという姿勢、つかず離れずに……それを一つ屋根の下で行う楽しさ。全く違う人間同士が一緒に人生を作っていく面白味。束縛し合わないで時間を共有したい……けれどこうしたことも相手が同じように思っていないと実現できない」 尊敬する作家、ミナトセイイチロウの影響を受けてツバサは劇団で上演する脚本を書きあげましたが、芝居は失敗してしまいました。 引退するキリヤから一人の友人を紹介されます。なんとその友人はミナトでした。 そこにアスカが妊娠したという情報が伝わってきました。 それは誰の子なのでしょうか? 真実は藪の中。証言が食い違います。誰かが嘘をついているはずです。認識しているツバサ自信が狂っていなければ、の話しですが……。 「妻のことが信頼できない。そうなったら『事実』は関係ないんだ」 そう言ったキリヤの言葉を思い出し、ツバサは真実は何かではなく、自分が何を信じるのか、を選びます。 アスカのお腹の中の子は、昔の自分だと感じていました。 死に際のミナトからツバサは病院に呼び出されます。そして途中までしか書いていない最後の原稿を託されます。ミナトの最後の小説を舞台上にアレンジしたものをツバサは上演します。客席にはミナトが、アスカが、ミカコが見てくれていました。 生きることへの恋を書き上げた舞台は成功し、ツバサはミナトセイイチロウの後を継ぐことを決意します。 そこにミカコから真相を告げる手紙が届いたのでした。 「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」
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このブログの著者の小説『片翼の翼』
小説『片翼の翼』
なぜ生きるのか? 何のために生きるのか? を追求した純文学小説です。 主人公ツバサは劇団の役者です。 「演技のメソッドとして、自分の過去の類似感情を呼び覚まして芝居に再現させるという方法がある。たとえば飼い犬が死んだときのことを思い出しながら、祖母が死んだときの芝居をしたりするのだ。自分が実生活で泣いたり怒ったりしたことを思いだして演技をする、そうすると迫真の演技となり観客の共感を得ることができる。ところが呼び覚ましたリアルな感情が濃密であればあるほど、心が当時の錯乱した思いに掻き乱されてしまう。その当時の感覚に今の現実がかき乱されてしまうことがあるのだ」 恋人のアスカと結婚式を挙げたのは、結婚式場のモデルのアルバイトとしてでした。しかし母の祐希とは違った結婚生活が自分には送れるのではないかという希望がツバサの胸に躍ります。 「ハッピーな人はもっと更にどんどんハッピーになっていってるというのに、どうして決断をしないんだろう。そんなにボンヤリできるほど人生は長くはないはずなのに。たくさん愛しあって、たくさん楽しんで、たくさんわかちあって、たくさん感動して、たくさん自分を謳歌して、たくさん自分を向上させなきゃならないのに。ハッピーな人達はそういうことを、同じ時間の中でどんどん積み重ねていっているのに、なんでわざわざ大切な時間を暗いもので覆うかな」 アスカに恋をしているのは確かでしたが、すべてを受け入れることができません。 かつてアスカは不倫の恋をしていて、その体験が今の自分をつくったと感じています。それに対してツバサの母は不倫の恋の果てに、みずから命を絶ってしまったのです。 「そのときは望んでいないことが起きて思うようにいかずとても悲しんでいても、大きな流れの中では、それはそうなるべきことがらであって、結果的にはよい方向への布石だったりすることがある。そのとき自分が必死にその結果に反するものを望んでも、事態に否決されて、どんどん大きな力に自分が流されているなあと感じるときがあるんだ」 ツバサは幼いころから愛読していたミナトセイイチロウの作品の影響で、独特のロマンの世界をもっていました。そのロマンのゆえに劇団の主宰者キリヤに認められ、芝居の脚本をまかされることになります。自分に人を感動させることができる何かがあるのか、ツバサは思い悩みます。 同時に友人のミカコと一緒に、インターネット・サイバーショップを立ち上げます。ブツを売るのではなくロマンを売るというコンセプトです。 「楽しい、うれしい、といった人間の明るい感情を掘り起こして、その「先」に到達させてあげるんだ。その到達を手伝う仕事なんだよ。やりがいのあることじゃないか」 惚れているけれど、受け入れられないアスカ。素直になれるけれど、惚れていないミカコ。三角関係にツバサはどう決着をつけるのでしょうか。 アスカは劇団をやめて、精神科医になろうと勉強をしていました。心療内科の手法をツバサとの関係にも持ち込んで、すべてのトラウマを話して、ちゃんと向き合ってくれと希望してきます。 自分の不倫は人生を決めた圧倒的な出来事だと認識しているのに、ツバサの母の不倫、自殺については、分類・整理して心療内科の一症例として片付けようとするアスカの態度にツバサは苛立ちます。つねに自分を無力と感じさせられるつきあいでした。 人と人との相性について、ツバサは考えつづけます。 ミナトから最後の作品の続きを書くように頼まれて、ツバサは地獄のような断崖絶壁の山に向かいます。 「舞台は変えよう。ミナトの小説からは魂だけを引き継ぎ、おれの故郷を舞台に独自の世界を描こう。自分の原風景を描いてみよう。目をそむけ続けてきた始まりの物語のことを。その原風景からしか、おれの本当の心の叫びは表現できない」 そこでミナトの作品がツバサの母と自分の故郷のことを書いていると悟り、自分のすべてを込めて作品を引きついて書き上げようとするのでした。 「おまえにその跡を引き継ぐ資格があるのか? 「ある」自分の中にその力があることをはっきりと感じていた。それはおれがあの人の息子だからだ。おれにはおれだけの何かを込めることができる。父の遺産のその上に」 ※※本作は小説『結婚』の前編、バックストーリーに相当するものです。両方お読みいただけますとさらに物語が深まる構成になっています。※※
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小説『片翼の翼』
なぜ生きるのか? 何のために生きるのか? を追求した純文学小説です。 主人公ツバサは劇団の役者です。 「演技のメソッドとして、自分の過去の類似感情を呼び覚まして芝居に再現させるという方法がある。たとえば飼い犬が死んだときのことを思い出しながら、祖母が死んだときの芝居をしたりするのだ。自分が実生活で泣いたり怒ったりしたことを思いだして演技をする、そうすると迫真の演技となり観客の共感を得ることができる。ところが呼び覚ましたリアルな感情が濃密であればあるほど、心が当時の錯乱した思いに掻き乱されてしまう。その当時の感覚に今の現実がかき乱されてしまうことがあるのだ」 恋人のアスカと結婚式を挙げたのは、結婚式場のモデルのアルバイトとしてでした。しかし母の祐希とは違った結婚生活が自分には送れるのではないかという希望がツバサの胸に躍ります。 「ハッピーな人はもっと更にどんどんハッピーになっていってるというのに、どうして決断をしないんだろう。そんなにボンヤリできるほど人生は長くはないはずなのに。たくさん愛しあって、たくさん楽しんで、たくさんわかちあって、たくさん感動して、たくさん自分を謳歌して、たくさん自分を向上させなきゃならないのに。ハッピーな人達はそういうことを、同じ時間の中でどんどん積み重ねていっているのに、なんでわざわざ大切な時間を暗いもので覆うかな」 アスカに恋をしているのは確かでしたが、すべてを受け入れることができません。 かつてアスカは不倫の恋をしていて、その体験が今の自分をつくったと感じています。それに対してツバサの母は不倫の恋の果てに、みずから命を絶ってしまったのです。 「そのときは望んでいないことが起きて思うようにいかずとても悲しんでいても、大きな流れの中では、それはそうなるべきことがらであって、結果的にはよい方向への布石だったりすることがある。そのとき自分が必死にその結果に反するものを望んでも、事態に否決されて、どんどん大きな力に自分が流されているなあと感じるときがあるんだ」 ツバサは幼いころから愛読していたミナトセイイチロウの作品の影響で、独特のロマンの世界をもっていました。そのロマンのゆえに劇団の主宰者キリヤに認められ、芝居の脚本をまかされることになります。自分に人を感動させることができる何かがあるのか、ツバサは思い悩みます。 同時に友人のミカコと一緒に、インターネット・サイバーショップを立ち上げます。ブツを売るのではなくロマンを売るというコンセプトです。 「楽しい、うれしい、といった人間の明るい感情を掘り起こして、その「先」に到達させてあげるんだ。その到達を手伝う仕事なんだよ。やりがいのあることじゃないか」 惚れているけれど、受け入れられないアスカ。素直になれるけれど、惚れていないミカコ。三角関係にツバサはどう決着をつけるのでしょうか。 アスカは劇団をやめて、精神科医になろうと勉強をしていました。心療内科の手法をツバサとの関係にも持ち込んで、すべてのトラウマを話して、ちゃんと向き合ってくれと希望してきます。 自分の不倫は人生を決めた圧倒的な出来事だと認識しているのに、ツバサの母の不倫、自殺については、分類・整理して心療内科の一症例として片付けようとするアスカの態度にツバサは苛立ちます。つねに自分を無力と感じさせられるつきあいでした。 人と人との相性について、ツバサは考えつづけます。 ミナトから最後の作品の続きを書くように頼まれて、ツバサは地獄のような断崖絶壁の山に向かいます。 「舞台は変えよう。ミナトの小説からは魂だけを引き継ぎ、おれの故郷を舞台に独自の世界を描こう。自分の原風景を描いてみよう。目をそむけ続けてきた始まりの物語のことを。その原風景からしか、おれの本当の心の叫びは表現できない」 そこでミナトの作品がツバサの母と自分の故郷のことを書いていると悟り、自分のすべてを込めて作品を引きついて書き上げようとするのでした。 「おまえにその跡を引き継ぐ資格があるのか? 「ある」自分の中にその力があることをはっきりと感じていた。それはおれがあの人の息子だからだ。おれにはおれだけの何かを込めることができる。父の遺産のその上に」 ※※本作は小説『結婚』の前編、バックストーリーに相当するものです。両方お読みいただけますとさらに物語が深まる構成になっています。※※
片翼の翼: なぜ生きるのか? 何のために生きるのか?
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【この記事を書いている人】

アリクラハルトと申します。【トウガラシ実存主義】【遊民ユーミン主義】の提唱者。ランニング系・登山系の雑誌に記事を書いてきたプロのライターでもあります。早稲田大学卒業。日本脚本家連盟修了生。その筆力は…本コラムを最後までお読みいただければわかります。あなたの心をどれだけ揺さぶることができたか。それがわたしの実力です。
市民ランナーのグランドスラムの達成者(マラソン・サブスリー。100kmサブ10。富士登山競争登頂)。ちばアクアラインマラソン招待選手。ボストンマラソン正式選手。地方大会での入賞多数。海外マラソンも完走多数(ボストン、ニューヨークシティ、バンクーバー、ユングフラウ、ロトルアニュージーランド、ニューカレドニアヌメア、ホノルル)。地元走友会のリーダー。月間走行距離MAX600km。『市民ランナーという生き方(グランドスラム養成講座)』を展開しています。言葉の力で、あなたの走り方を劇的に変えてみせます。
また、現在、バーチャルランニング『地球一周走り旅』を展開中。ご近所を走りながら、走行距離だけは地球を一周しようという仮想ランニング企画です。
そしてロードバイク乗り。朝飯前でウサイン・ボルトよりも速く走れます。山ヤとしての実績は以下のとおり。スイス・ブライトホルン登頂。マレーシア・キナバル山登頂。台湾・玉山(ニイタカヤマ)登頂。南アルプス全山縦走。後立山連峰全山縦走。槍・穂・西穂縦走。富士登山競争完走。日本山岳耐久レース(ハセツネ)完走。などなど。『山と渓谷』ピープル・オブ・ザ・イヤー選出歴あり。
その後、山ヤのスタイルのまま海外バックパック放浪に旅立ちました。訪問国はモロッコ。エジプト。ヨルダン。トルコ。イギリス。フランス。スペイン。ポルトガル。イタリア。バチカン。ギリシア。スイス。アメリカ。メキシコ。カナダ。タイ。ベトナム。カンボジア。マレーシア。シンガポール。インドネシア。ニュージーランド。ネパール。インド。中国。台湾。韓国。そして日本の28ケ国。パリとニューカレドニア、ホノルルとラスベガスを別に数えていいなら訪問都市は100都市をこえています。(大西洋上をのぞいて)世界一周しています。国内では青春18きっぷ・車中泊で日本一周しています。
登山も、海外バックパック旅行も、車中泊も、すべてに共通するのは必要最低限の装備で生き抜こうという心構えだと思っています。バックパックひとつ。その放浪の魂を伝えていきます。千葉県在住。

【この記事を書いている人】
瞑想ランニング(地球二周目)をしながら心に浮かんできたコラムをブログに書き綴っているランナー・ブロガーのアリクラハルトと申します。【トウガラシ実存主義】【遊民ユーミン主義】の提唱者。ランニング系・登山系の雑誌に記事を書いてきたプロのライターでもあります。早稲田大学卒業。日本脚本家連盟修了生。その筆力は…本コラムを最後までお読みいただければわかります。あなたの心をどれだけ揺さぶることができたか。それがわたしの実力です。 市民ランナーのグランドスラムの達成者(マラソン・サブスリー。100kmサブ10。富士登山競争登頂)。ちばアクアラインマラソン招待選手。ボストンマラソン正式選手。地方大会での入賞多数。海外マラソンも完走多数(ボストン、ニューヨークシティ、バンクーバー、ユングフラウ、ロトルアニュージーランド、ニューカレドニアヌメア、ホノルル)。地元走友会のリーダー。月間走行距離MAX600km。『市民ランナーという生き方(グランドスラム養成講座)』を展開しています。言葉の力で、あなたの走り方を劇的に変えてみせます。 また、現在、バーチャルランニング『地球一周走り旅』を展開中。ご近所を走りながら、走行距離だけは地球を一周しようという仮想ランニング企画です。 そしてロードバイク乗り。朝飯前でウサイン・ボルトよりも速く走れます。山ヤとしての実績は以下のとおり。スイス・ブライトホルン登頂。マレーシア・キナバル山登頂。台湾・玉山(ニイタカヤマ)登頂。南アルプス全山縦走。後立山連峰全山縦走。槍・穂・西穂縦走。富士登山競争完走。日本山岳耐久レース(ハセツネ)完走。などなど。『山と渓谷』ピープル・オブ・ザ・イヤー選出歴あり。 その後、山ヤのスタイルのまま海外バックパック放浪に旅立ちました。訪問国はモロッコ。エジプト。ヨルダン。トルコ。イギリス。フランス。スペイン。ポルトガル。イタリア。バチカン。ギリシア。スイス。アメリカ。メキシコ。カナダ。タイ。ベトナム。カンボジア。マレーシア。シンガポール。インドネシア。ニュージーランド。ネパール。インド。中国。台湾。韓国。そして日本の28ケ国。パリとニューカレドニア、ホノルルとラスベガスを別に数えていいなら訪問都市は100都市をこえています。(大西洋上をのぞいて)世界一周しています。国内では青春18きっぷ・車中泊で日本一周しています。 登山も、海外バックパック旅行も、車中泊も、すべてに共通するのは必要最低限の装備で生き抜こうという心構えだと思っています。バックパックひとつ。その放浪の魂を伝えていきます。千葉県在住。
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