名医と評判のA医院。プレハブの診療室で、患者のプライバシーゼロ
花粉症の季節です。私は重度の花粉症患者。毎年、この時期になると耳鼻科のお世話になっています。
近所に、名医と呼ばれる耳鼻科のA医院がありました。かつて喉が腫れて食欲がなく体調が最悪だったときに、A医院で見てもらい、点滴いっぱつで快癒したことがありました。それ以来、私はこのA医師を信頼して、ずっとA医院に通っていました。A医師はどこかの大病院の偉い先生だったのですが、退職して町医者を開業した人です。医院は平屋のプレハブ建てで、患者のプライバシーなんてまったくないオープンな診療所でした。

わたしも通ってたけど、若い女の子は嫌かも? っていうぐらい患者のプライバシーがありませんでした。診察内容が、吸引療法してる人や、待っている次の患者に全部まる聞こえ状態でした。
「うわっ。こりゃあ、ヒデエなあ」といった先生の診察が全員に聞かれました(笑)。
それでも名医と評判なだけあって、A医院はいつも人でごったがえしていました。ところがA先生の老齢にともなって、A医院は廃業してしまったのです。
ヤブ医者と評判のB医院。まったく見ない。会いもしない

信頼して、毎年通っていたA医院が廃業してしまったので、私は近所のヤブ医者だと噂のB医院にしかたなく行くことにしました。
B医院は、三階建ての町医者にしては大きな医院です。新築です。内装も清潔で、ひとりひとり診察室に呼ばれるので患者のプライバシーもしっかりとしていました。
しかし、見事なまでに客が全然いません。A医院とぜんぜん違います。花粉症の最盛期だというのに、患者は私一人だけ。なんで? 毒でも処方されるのかと、ちょっと不安になりました。
いつもA医院ではものすごい待ち時間で、半日待合室で終わるのが当たり前だったので、びっくりするぐらい早く診察室に呼ばれました。
問題のB先生ですが、いちおう初診なので話しは聞いてくれたものの、こちらは「毎年恒例の花粉症です」としか言いようがありません。「A医院で処方された薬が効いていたので、できれば同じ薬をお願いします」と言いました。すると「はい。わかりました。いいですよ」とB先生は言ってそれで診察終了。

いや、なんも見んのかい! と思いました
いつもA先生だったら、歯医者のような拘束台に座らされて、瞼をめぐって白目を見たり、鼻の穴にSMプレイみたいな道具を突っ込まれて拡張され拡大鏡で鼻毛まで確認されたり、喉の奥にイソジンみたいな甘苦い薬を塗ってくれたりしたのですが、B先生は何もなし。こちらの顔もろくに見ませんでした。

あ。これがヤブと噂される理由なのか
ちょっと納得した思いでした。
しかしトータル10分くらいで処方箋がもらえました。これまで同じ薬をゲットするのに半日かかっていたのに、今度は10分です。なんという待ち時間の差でしょうか。東京ディズニーランドといまはなき倉敷チボリ公園ぐらい待ち時間が違います。

悪くないじゃん、と私は思いました
どうせ症状は花粉症だとわかりきっていますし、A先生が処方してくれた薬の名前もわかっています。同じ薬を10分で手に入れられるのなら、なんならB医院のほうがいいではないか、と思いました。
ヤブ医者と呼ばれているが、実は名医なんじゃないだろうか?

一か月後、花粉症の薬がなくなりました。悪くない、と思ったので、私はまたB医院に行きました。あいかわらず、花粉症の最盛期だというのに、患者は誰もいません。私一人です。そのわりに受付嬢が二人もいます。経営していけるのか、これで?
受付で来院理由を聞かれたので「前回と同じです。薬がなくなったので来ました。同じ薬が欲しいです」と言いました。
待合室で待っていると、名前を呼ばれました。なんと直接処方箋を出してくれました。診察室の中に入ることさえしませんでした。

いや、見んのかい! と思いました
客でごった返しているのならまだしも、誰もいないのだから、すこしぐらい見てもバチは当たらんだろうに。おれだって暇つぶしぐらいにはなるぞ。

おそらくこのコミュニケーションの欠如が、ヤブと噂される理由なのでしょう。大多数の患者はビジネスライクな対応を好みません。
老婆などが「今日は病院だよ」と、若い娘が婚活パーティーにでも行くように喋っているのを聞いたことがありませんか? 予定のない、コミュニケーションのない老人にとって、病院は数少ないコミュニケーションのチャンスなのです。予定があるというだけでイベントです。
日本には「先生とお話しできるのが楽しい」という老人がたくさんいます。私の知り合いの老人は、やけに先生の個人的な情報を知っています。つまり診療中に病気以外の話しをしているということでしょう。
こういう日本の患者事情を鑑みれば、処方箋だけ渡せばいいという塩対応では、ヤブだと噂されて客(患者)が来なくなるのも、なるほどとうなずけます。
しかし実際には、半日かかって手に入れていたA先生処方の薬を、B医院では10分たらずで手に入れることができました。私にとってはこれで必要十分です。

ヤブ医者と噂されているが、本当は名医なんじゃないでしょうか?
A医院のように鼻の孔を拡張されたり、喉の奥に金具を突っ込まれたりすることはありませんが、花粉症患者にとって必要なのは「花粉症の薬」です。それを短時間で入手することができたのですから、私はB医院も悪くないと思います。

これからも花粉症の季節は、B医院に行こうと思っています。
なんなら去年も一昨年も、B医院でよかったんじゃないでしょうか?
おそらく「話しを聞いてくれた」「自分に時間を割いてくれた」というだけのことが、医者の実力とは関係なく口コミで高評価となり「話しを聞いてくれなかった」「ろくに見てもらえない」ということが口コミでヤブ認定となっているだけのことでしょう。
世の中の評判なんて、あてになりません。
