靖国神社の英霊がこの国をつくったって本当か?
ときどき、靖国神社とか、太平洋戦争とかを語る人の中で、靖国の英霊たちがこの国をつくった、とヒステリックに叫ぶ人がいます。先日もYouTubeを見ていたらそういう女性がキンキン声で叫んでいました。唖然としました。
私はいつも思うのですが……もしも先の戦争に勝っていたなら、英霊たちがこの国をつくったというのがよくわかります。しかし負けたのになんで英霊たちがこの国をつくったと言えるのでしょうか。その言説は国際的に通用するものなんでしょうか? ちょっと意味が分かりません。
そのセリフが正しいならば、なんだか「負けてよかった、廃墟になってよかった、これでよかった」と言っているように聞こえます。
たとえば日露戦争直後に、東郷平八郎とか乃木希典が「亡くなった英霊たちがこの国をつくった」と言うならよくわかるんですよ。実際そのとおりだと思うから。でも大東亜戦争にボロクソに負けてすべてを失ったのに、なんで靖国の英霊たちのおかげで今があるのよ? 接続詞、まちがってない?
むしろ靖国神社に祭られている代表格の東條英機などは、知れば知るほど同情の余地はあるものの、彼らの一派がこの国をつくったというのは違和感しかありません。彼らがこの国を滅ぼしたというのならまだわかりますが。戦陣訓を盾に「虜囚の辱めを受けぬように」と、兵隊さんに無駄死を強要してきたくせに、自分は虜囚になるってどういうことよ? ああ、恥ずかしい。
愛国心とか特攻精神のような魂を我が民族に残してくれたとか、特攻なんてアメリカ人にはできない、とか日本人だけが勇敢だったように語るのも、まったくもって信じられません。アメリカ人だって勇敢だったのです。けっして日本人だけじゃありません。
私は日本だけを特別扱いするのは間違いだと思います。たとえば神道という宗教が日本をつくったと言っていいと思いますが、だからといって神道を信奉する気にはまったくなれません。だって負けた国の宗教ですよ。戦時中、どれほどの神主が戦勝祈願したことでしょう。でも願いは通じませんでした。私は無宗教ですが、なにか信じなければならないとしたら戦勝国の宗教がいいです。アメリカの軍人も彼らの神に戦勝を祈願してそして勝ったのです。実績から判断しました。
そのそも先のYouTubeでヒステリックに靖国の英霊と叫んでいた女性は、自分の夫や、息子が、戦前のように徴兵されて、戦場におくられてもいいというのでしょうか?
現在、そうならずに済んでいるのは、大日本帝国が負けたからです。これは皮肉な見方をすれば靖国の英霊が負けてくれたおかげということになりますが、すなおに見れば、勝者のアメリカ占領軍が、日本の軍事化を抑制するように動いたからでしょう。
廃墟から今の日本をつくったのは、先の戦争を生き延びた人たちであり、総理大臣を批判しても拉致されたり拷問されたりしない社会に生きているのは、英霊のおかげというよりはアメリカ占領政策のおかげでしょう。
「言葉は不適当と思うが、原爆やソ連の参戦は天祐だった」という言葉があります。米内光政の言葉です。つまり内乱、社会主義革命によって戦争が終わるよりは、まだ原爆の方がマシだったというわけです。同じように言葉は不適切と思いますが、大日本帝国のような体質の国は負けてくれて天祐だったと私は思います。どう考えても現在の私たちが謳歌している自由や権利はアメリカ占領軍があたえてくれたもので、大日本帝国が勝っていたら、わたしたち庶民の命や意見は今でも紙切れのように軽いものだっただろうと思うからです。
英雄もゴミも同じように扱われるのならば、誰が英雄のように生きようと思うでしょうか。だから英霊を英雄にしたい気持ちもわかります。しかし……やっぱりどうも思考が逆説的で飛躍しすぎていてついていけません。勝ったならわかりますが、負けたのに、なんで戦死した英霊たちがこの国をつくったって言えるのよ? すなおに考えたら、理解できません。今の中国のような、権威主義国になったほうがいいというのでしょうかね?
そう主張するあなたは国のリーダーでしょうか? 支配される側でしょ? なのにじぶんの自由や命を譲り渡そうっていうんですか? 戦争ゲームのやりすぎじゃないでしょうか?