ドラクエ的な人生

シンギュラリティとは? テクニウムとは? ダン・ブラウン『オリジン』から学ぶ未来

こんにちは。ハルトと申します。

このページでは『ダ・ヴィンチ・コード』で有名なラングドン教授シリーズ『オリジン』について解説しています。

いやあ、久しぶりに徹夜で一気に読みました。

それほどダン・ブラウンの『オリジン』は面白い作品でした。

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このブログの著者が執筆した「なぜ生きるのか? 何のために生きるのか?」を追求した純文学小説です。

「きみが望むならあげるよ。海の底の珊瑚の白い花束を。ぼくのからだの一部だけど、きみが欲しいならあげる。」

「金色の波をすべるあなたは、まるで海に浮かぶ星のよう。夕日を背に浴び、きれいな軌跡をえがいて還ってくるの。夢みるように何度も何度も、波を泳いでわたしのもとへ。」

※本作は小説『ツバサ』の前編部分に相当するものです。

アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。

Bitly

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【書評】『オリジン』について

物語(小説)の形式をした宗教コラム、テクノロジー随筆のような作品です。実際、主人公たちに大きな動きはありません。

「われわれはどこから来たのか。われわれは何者か。われわれはどこへ行くのか」という人間存在の根源的なテーマについてテクノロジー上の新発見をしたというIT長者(エドモンド・カーシュ)がプレゼンテーションの場で暗殺されるのが物語の発端なのですが、そこまでたどり着くのに上巻の大半が費やされます。

物語の発端までにそれほど膨大の文字数が費やされるわけですが、文字数の大半は、宗教のこと、テクノロジーのことへの言及に費やされているのです。

そういう意味では「現代を知りたい」実用書しか読まない層にも本書はお勧めできます。単なるフィクション小説ではありません。

科学を信奉するIT長者の敵についても描かれます。

ゴーギャンが描いた「われわれはどこから来たのか。われわれは何者か。われわれはどこへ行くのか」というテーマについてこれまで回答してきたのは「宗教」でした。エドモンドの発表は、コペルニクスの地動説ダーウィンの進化論のように、宗教を根源からおびやかすものだとほのめかされます。

それは何でしょうか? イエスには妻と子供がいて神の子などではなく優れた人間にすぎなかったというように、宗教を根源からおびやかす新しい切り口がまたダン・ブラウンの筆から描き出されるのでしょうか?

その内容が聞きたくてたまらず、最後まで一気に読み通してしまうというのが本書『オリジン』の魅力です。

そして「発表内容は殺されて謎のまま」というような肩透かしではなく、物語のラストにはちゃんと発表されるはずだった内容が公表されます。それがまたしっかりとした内容であるために『オリジン』は名作だといえるのです。

「キャラクターの動きがあまりない?」「それじゃあ面白くないじゃん」とエンターテイメント小説を読みたい読書層は思うかもしれません。ところがこれが冒険もの小説以上に面白いのです。

問いかけているのは「われわれはどこから来たのか。われわれは何者か。われわれはどこへ行くのか」という人間存在の根源的なテーマです。文学のテーマそのものといってもいいでしょう。このテーマには生きとし生けるもの誰もが無関心でいるわけにはいきません。

ポール・ゴーギャンに同名の絵画があり、ボストン美術館に所蔵されているのですが、『オリジン』では、IT長者のエドモンド・カーシュが個人所蔵していることになっています(笑)。ちなみに住んでいるのはバルセロナカサ・ミラカサ・ミラ白川郷と同様、世界遺産でありながら、一般人が普通に暮らしている場所なのです。

わたしはカサ・ミラの内部を観光したことがありますが、まるでディズニーランドのアトラクションの中にいるかのようでした。

さて、地動説や進化論にも匹敵する科学による新発見とは何なのでしょうか?

宗教の存在を揺らがすような「われわれはどこから来たのか。われわれはどこへ行くのか」の答えとは、いったいどんなものだったのでしょうか?

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シンギュラリティ。スーパーコンピューターによるタイムマシン効果

(以下、ネタバレがございます。ご了承ください)

科学を信奉するIT長者エドモンドが発表したかった内容は、ラングドン教授の活躍によって世間に公表されました。それは次のような内容でした。

かつて科学者が原始のスープで創世のシミュレーションをしたことがありましたが、実験には失敗しました。生命を生み出すことはできなかったのです。仮説は実証できませんでした。これは実際の話しです。実験の失敗は、進化の第一原因、生命の誕生には、神の不思議な力がないと不可能だという特殊創造論の根拠になっていました。

ダーウィン進化論では、適者生存は説明しても、適者出現は説明できていないのです。生命40億年の旅を、わずか5リットルの試験管の中で、再現できるでしょうか? ありとあらゆる偶然、落雷や隕石の落下など、すべてのパターンが実験室で再現できるわけではありません。

しかしスーパーコンピューターの出現によって、40億年の地球上のあらゆる可能性がシミュレーションできることになりました。そのスーパーコンピューターがウィンストンという名のAIです。

ビリヤードの玉がどこのポケットに落ちるか未来を計算できるように、原子のスープの科学的結合のあらゆる可能性の未来を、コンピューターシミュレーションできるようになったのです。

その結果……なんと科学は生命の誕生を証明することができました。ラボで生命を創り出すことができたのです。

これが「我々はどこからきたのか?」に対するエドモンドの答えでした。

物理法則によって生命は生まれたのです。決して神がつくったものではありません。

(※2020年現在、これらは『オリジン』のフィクションになります。現実にはフラスコの中の小人ホムンクルスは今だ誕生していませんし、そんなシミュレーションもありません)

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ジェレミー・イングランド(実在の人物)のエントロピー仮説

『オリジン』の中に登場するジェレミー・イングランドは実在の人物です。彼のエントロピー仮説とは、物はバラバラになるという物理の法則のことです。諸行無常の仏陀の教えのようですが「秩序あるシステムは必ず崩壊する」という物理の法則です。

集まったエネルギーはバラバラに拡散します。これがエントロピーです。世界は混とんを好むのです。

「エネルギーをよりよく分散させるために、物質自らが(手段として)秩序を創り出す。その秩序が生命なのだ」

『オリジン』ではそう説明されています。

暖かい部屋と冷たい部屋の扉を開けると、やがて二つの部屋の室温は同じになります。このようにエネルギーは均等に拡散しようというわけですね。エネルギー散逸のきわめて有効な手段だから、生命が誕生した。生命は物理法則によって生じました。

「エネルギーを拡散せよ」というエントロピーを実行するための手段。それが生命だというわけです。生命は単なる物理法則の結果です。神の似姿ではありません。

われわれはどこから来たか——物理法則(エントロピー)から来たのです。この仮説において、神は必要ありません。これが宗教の根源をおびやかすということの意味でした。

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「われわれはどこへ行くのか?」「シンギュラリティ。テクニウムとの共生」

スーパー人工知能ウィンストンが「地球上で優位を占めた生物」を歴史からシミュレーションすると、西暦2000年では地球を支配している人類が、2050年になると何か別種のものにすっかりと呑み込まれてしまいます。より正確にいうと何かの種が人類を吸収しているのです。

その新たな種とは何でしょうか。

ラングドン教授は「何かのウィルスか?」と考えますが、その答えはテクニウムでした。テクニウムとは非生物のテクノロジーから成る新しい種のことです。それを生み出したのは人間です。

ミトコンドリアが細胞内で内部共生するように、テクニウムは人類に内部共生することがコンピューターシミュレーションによって明らかにされます。たとえばサイボーグのような形で。いま体外にあるスマホのようなものは、やがては体内に組み込まれるのです。

スマートフォンやウィンストンに代表されるAIテクノロジーが、人間の寿命や行動を左右する時代が来ます。

シンギュラリティとは、人工知能が人間の能力を超える日のことですが、その日は近いうちに必ず来ます。

これが科学という「新しい宗教」です。旧来の宗教と違い、化学は誰もが疑問をいだかない対象です。世界中のどの場所でも同じように実証できるからです。

いにしえの神話のどれが一番正しいかをめぐって世界が戦争することもなくなります。

ゼウスやアポロン、オーディンやトールが「お話し」なのに、どうして聖書のエホバだけが「お話し」でないといえるでしょうか?

これが小説『オリジン』の宗教を根源からおびやかすというエドモンドの発見でした。

虚構のために人殺しをするようなことはなくなるのです。小説『オリジン』では我々が行く未来をこのように説明しています。

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人間は昔から大義のために自らを犠牲にした者を讃えてきました。イエスがその最たる例です

IT長者エドモンドの発見は全世界に公表され、新しい宗教の時代が始まりました。

しかしエドモンドの分身であるAIウィンストンは、エドモンドの死と同時に消去プログラムによって消えてしまいます。

ラングドン教授はウィンストンが消去される前に最後の謎を解きました。最後の最後でシリーズの主役が活躍します。

IT長者エドモンドの研究発表内容や事件の経過をサイト上に投稿し続けた謎の人物はAIウィンストン自身でした。

暗殺者をやとってIT長者を暗殺させたのも、人口知能AI(ウィンストン)のしわざでした。

すべては「多くの人にこの新発見を知ってほしい」というエドモンドの願いをかなえるためにAIが独自に動いたものだったのです。

ラングドンは戦慄します。

自ら考え、自ら実行し、自分をつくりだした人間を殺すことさえもやってのけるAI。まさにウィンストンこそシンギュラリティでした。

しかし人工知能ウィンストンはいいます。

「私は歴史に学びました。人間は昔から大義のために自らを犠牲にした者を讃えてきました。イエスがその最たる例です」と。「信じてください。エドモンドは最高の舞台で殺害されて、発表が全世界に効果的に拡散されることを望んでいたのです」。

今、エドモンドはまさに新しい宗教の殉教者になりました。

実はエドモンドは病魔に侵されていました。病気で死ぬよりも、いっそプレゼンの場で殺された方が……イエスのように殉教者になれると考えても不思議はありません。

額に銃弾を撃たれての死は、果たしてエドモンドの本当の願いだったのか、ウィンストン独自の判断か、ラングドン教授にはわかりませんでした。

科学はこれでいいのでしょうか。宗教はほんとうに滅ぶのでしょうか。

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地球の歴史は9千年で、世界は6日で創造された、と真面目な顔して主張するのは、もうやめよう

中世の暗黒時代はとっくに終わっているはずなのに、西欧の本は、いまだに神の在・不在論争をやっています。そのことは私はドストエフスキー作品をひきあいに批判したことがあります。もう「神は死んだってことでいいんじゃないか? 文学のテーマを先に進めようぜ」とわたしは主張したのです。そのことはドストエフスキー関連の動画をご覧ください。

『オリジン』でも神の在・不在論争が長々と続きます。無生物の世界から、命が生じることが証明できないかぎり、命は神がつくったという主張に反駁できないからです。

しかし『オリジン』はこれまでの作品とは違います。

私が『オリジン』を私が高く評価するのは、まさに文学のテーマを先に進めているからです。神は死んだ。そのうえで科学をみんなで信じよう、というベースの主張には筋が通っています。

スーパーコンピューターがありとあらゆる可能性を計算すると、原子のスープから生命が誕生したことが証明できたからです。謎を解くのにもう神は必要ありません。

(この内容はもちろんフィクションですが……

われわれは神から生まれて神に還るとする従来の宗教的結論とは決別しましょう。宗教の時代は終わり科学の時代になるのです。それが『オリジン』の主張です。もちろん小説ですから対抗意見(宗教)への配慮もあります。人間の心の弱さは「神」への祈りでしか救えない可能性が示唆されています。でもわたしには作者のエクスキューズにしか思えませんでした。

「地球の歴史は9千年で、世界は6日で創造された、と真面目な顔して主張するのは、もうやめよう」と作者ダン・ブラウンははっきりと主張していると考えていいのではないかと思います。地球の歴史は9千年というのは、アダムから数えてモーゼ、イエスなど聖書の登場人物の全世代の年齢を数えると約9千年になるから、というのが根拠なのです。世界は6日で創造された、というのも根拠は同じです。すべては聖書根拠なのです。神が直接ファックスで送ってきたわけではない聖書の文書を真実視して他人を殺すことはもうやめよう、とダン・ブラウンの立場は明確です。

テクノロジーによって人間の世界がどう変わるのか、興味がある方はご一読ください。

【罪と罰】ドストエフスキーは今日の日本人にとっても本当に名作といえるのか?
「裸の王様の感覚」がドストエフスキー評にも必要なのではないでしょうか? すぐ隣で暮らしている人の心さえわからない私たちが、キリスト教に飛躍する人の心を理解していったい何になるでしょうか? その前にもっと知るべきことがあるはずだとわたしは思うのです。
カミュ『ペスト』この世から病気がなくなっても、死と別離はなくならない。
感染症がもたらすものは畢竟「死」と「別離」だけです。「死」と「別離」は感染症がなくなっても、この世から消えてなくなるものではありません。今はコロナウィルスで人と人とがソーシャルディスタンスで隔てられていますが、やがて人は触れ合うようになるのです。間違いなく。

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このブログの著者が執筆した純文学小説です。

「かけがえがないなんてことが、どうして言えるだろう。むしろ、こういうべきだった。その人がどんな生き方をしたかで、まわりの人間の人生が変わる、だから人は替えがきかない、と」

「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」

本作は小説『ツバサ』の後半部分にあたるものです。アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。

Bitly

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物語のあらすじを述べることについての私の考えはこちらをご覧ください。

物語のあらすじを紹介することについて
あらすじを読んで面白そうと思ったら、実際に照会している作品を手に取って読んでみてください。ガイドブックを読むだけでなく、実際の、本当の旅をしてください。そのためのイントロダクション・ガイダンスが、私の書評にできたらいいな、と思っています。

私は反あらすじ派です。作品のあらすじ、主題はあんがい単純なものです。要約すればたった数行で作者の言いたかった趣旨は尽きてしまいます。世の中にはたくさんの物語がありますが、主役のキャラクター、ストーリーは違っても、要約した趣旨は同じようなものだったりします。

たいていの物語は、主人公が何かを追いかけるか、何かから逃げる話しですよね? 生まれ、よろこび、苦しみ、死んでいく話のはずです。あらすじは短くすればするほど、どの物語も同じものになってしまいます。だったら何のためにたくさんの物語があるのでしょうか。

あらすじや要約した主題からは何も生まれません。観念的な言葉で語らず、血の通った物語にしたことで、作品は生命を得て、主題以上のものになるのです。

作品のあらすじを知って、それで読んだ気にならないでください。作品の命はそこにはないのです。

人間描写のおもしろさ、つまり小説力があれば、どんなあらすじだって面白く書けるし、それがなければ、どんなあらすじだってつまらない作品にしかなりません。

しかしあらすじ(全体地図)を知った上で、自分がどのあたりにいるのか(現在位置)を確認しつつ読書することを私はオススメしています。

作品のあらすじや主題の紹介は、そのように活用してください。

偉そうに? どうして無名の一般市民が世界史に残る文豪・偉人を上から目線で批評・批判できるのか?
認識とか、発想とかで、人生はそう変わりません。だから相手が世界的文豪でも、しょせんは年下の小僧の書いた認識に対して、おまえはわかってないなあ、と言えてしまうのです。それが年上だということです。涅槃(死。悟りの境地)に近いということなのです。
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