マラソンから学んだこと。ベストパフォーマンス、完走の仕方
私がマラソンから学んだことはたくさんあるが、そのうちのひとつに完走の仕方というものがある。マラソンというのは、瞬間瞬間は全速力で走っているわけじゃない。瞬間瞬間はむしろペースを落として走っている。そんなことをするのは完走するためだ。完走までベストパフォーマンスを発揮するためである。
マインドフルネス瞑想は「今この瞬間」に全意識を集中させろという。岡本太郎は「瞬間、爆発しろ」という。過去は変えることはできないし、未来に手を伸ばすこともできない。あるのは現在だけだ、生きているのは今だけだ、という考えかたはよくわかる。
しかしマラソンの戦略は違う。すくなくともあと数時間走り続ける未来を考える。未来のためにこの瞬間のスピードを抑えるのだ。
私の場合は具体的には、酸素負債にならないように、どれだけスピードを落とすか、肺に相談する。息が苦しくなっては、そう長くは走っていられない。どんな勇者も溺れて死ぬのは、水の中で呼吸ができないからだ。呼吸に負荷がかかると、それだけ死に近づく。動けなくなる。呼吸によって、人間は動きが止まるのである。
私にとってレースペースで走るということは、自分の肺呼吸の能力限界ぎりぎりを見極めるということでもある。そこまでは速く走れる。そこまでは行けるのだ。そのゾーンで走り続けらればベストパフォーマンスだ。
しかしそこから先は力が削られていく。負債が限度を超えるとスピリッツまでも削られる。
最高のパフォーマンスでマラソンを走り切るということは、酸素負債ギリギリではなく、ちょっと酸素赤字のペースですこしづつ力を削りながら、ゴールしたらゼロで倒れこむということである。DIE WITH ZERO.
ああ、無理。落とそう。ああ無理、落とそう。
その繰り返しだ。そのラインを越えたり戻ったり繰り返して、なんとかゴールまで走り切ろうというものだ。セーフゾーンとアウトゾーンの見極めはいつも難しい。その日の体調で違うからだ。一定ではない。
ギリギリアウトのところで走る。それでは完走ダメになると思うかもしれない。しかしここで奇跡の風が吹くことがある。ランニングハイという脳内モルヒネに満たされた状態になり、これまで苦しかったペースが苦しくなくなることがある。この状態をセカンドウィンドという。
徐々に消耗していくところで走るのだ。でも苦しくない。耐えて完走することができる。ゴールまでもってくれればいいのだ。
オリンピックの金メダリストだってずっとトップスピードで走れるわけじゃない。
誰もが最も早く走れる人ではない。誰かよりは遅いのだ。それはマラソンだけじゃない。なにごとでも同じだ。
もっとも速くなくても、走ることに意味なんかなかったとしても、それでもゴールまで走り続けることができるか?
長く走り続けていると、人生で、たいせつなのは完走することだけだという気がする。
速いか、遅いかは、問題ではない。問題にすべきじゃない。そんなことは意味がない。もしも人生に意味があるとするならば。
それでも走り続けられるかが問われているのだという気がいつもする。
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