日本に核ミサイルを落とすという韓国のベストセラー小説『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』を読んでみた
日本に核ミサイルを落として爆発させるという小説が韓国でベストセラーになったという話しを誰かのエッセイで読みました。
わたしはソウル日本人学校出身の帰国子女です。
ソウル日本人学校の偏差値レベルと韓国語。卒業生の進路。公立? 私立?
嫁が韓流ドラマの大ファンになるなど、わたしは韓国とは縁が切れないように運命づけられています。そのことはもう受け入れています。
日本語と韓国語。英語とフランス語。どっちが近い言語か? 似てるのはどっちか。
わたしの韓国に対する思いは、単純に大好きとか、大嫌いとか、そんな単純なものではありません。「好きではないけど究極的には捨てられない」というような、ものすごく複雑な思いをもっています。
そんなわたしだから、読まないわけにはいきませんでした。その日本に核ミサイルを撃ち込むという韓国のベストセラー小説の名前は『ムグゲノ花ガ咲キマシタ』。
ムグゲというのは韓国国歌にも歌われているムグンファのことです。韓国の国花です。
『ムグゲノ花ガ咲キマシタ』の感想、あらすじ、内容
読んでみようと思ったきっかけ(事前情報)が「日本に核ミサイルを撃ち込むという小説」だったので、反日まる出しの小説だろうなあ、と思っていました。しかしそうではありませんでした。どちらかというと反米的な描写の方が多かったと思います。
1993年に出版され、300万部を売り上げたそうです。すごいベストセラー小説ですね。
韓国人の立場で世界地図を眺めてみればわかるのですが、小さな半島はロシア、中国、日本という大国にぐるっと囲まれています。(日本列島さえなければ大平洋にフルアクセスできるのに壁みたいに邪魔だなあ、という地政学上の感覚は理解してあげていいと思います)韓民族が生きのびるために核爆弾を開発しようとするのですが、アメリカに邪魔され、核研究の第一人者である韓国人教授が殺されてしまいました。その暗殺者と暗殺動機を探るという国際スパイ小説のような体裁になっています。
核爆弾を開発しようと主導するのは朴大統領。パククネ大統領ではありません。その親父さんです。わたしはこの親父さんが暗殺されたときにソウルにいました。関東大震災の頃に朝鮮人虐殺事件というのが起こったのですが、独裁者が暗殺されたとき在韓日本人は同じ目に遭うのではないかと怯えていたことをみなさん知ってください。
実在の朴大統領が登場することから、かなりの迫真感で読んでいたのですが、途中で「こりゃあシドニー・シェルダン。戦国自衛隊だな」と考えをあらためました。まず描写がものすごく軽いためです。ほとんどセリフの羅列で小説が進行していて、まるで脚本集を読むかのよう。アメリカとかパリとかインドへも、たった三行で飛んでしまいます。いや、早いよ。わたし自身、小説を書いており、描写(話主の明示)には悩まされることが多いのですが、描写って本当に大事なんだなあ、とつくづく思い知らされました。
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このブログの著者が執筆した純文学小説です。
「かけがえがないなんてことが、どうして言えるだろう。むしろ、こういうべきだった。その人がどんな生き方をしたかで、まわりの人間の人生が変わる、だから人は替えがきかない、と」
「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」
本作は小説『ツバサ』の後半部分にあたるものです。アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。
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絵を描きたいわけじゃないので話主明示のための描写なんて全ボツにしたくなりますが、描写がないと重厚感がなくなります。それがよくわかる小説でした。
ストーリーも、荒唐無稽で、ひじょうに軽めで、さくさく読めてしまいます。事前情報からこっちは日本と戦争でもするのかと思って読むのですが、アメリカの陰謀と、強者の思惑に左右される韓国人の生き方問題がメインで、これを反日小説と呼ぶのはあまりにも違うと思いました。
日本のヤクザなどが登場したり、外国の暗殺者が登場するなど、読者サービスも盛りだくさんで面白く読むことができます。ただ残念ながら描写の重厚感がないので軽いんだよなあ(笑)。サクサク読めます。いつになったら日本に核爆弾を打ち込むのか(笑)。
主人公が韓国人なので、どれほど韓国に感情移入できるかによりますが、ストーリーはいがいと面白いです。ただ、荒唐無稽なので、さらりと読むのがいいと思います。フィクションと歴史的事実を誤認してはなりません。
たとえば小説の中で、在韓アメリカ軍が韓国を見捨てて撤退するというのも本当ではないでしょうし、北朝鮮と一緒に核開発をするというのも本当ではないでしょう。北朝鮮の核ミサイル開発は本当になってしまいましたが。。。
竹島(独島)に関する描写にも、公平性が保たれていました。すくなくとも韓国の主張を一方的に述べて、日本を一方的に悪者にするような小説ではありませんでした。日本なりの論拠があり国際裁判所に提訴しているが韓国が相手にしていないというふうに描写されていました。
「日本に核ミサイルを撃ち込む」のは、防衛白書の仮想敵国との戦争シミュレーションのシナリオ
問題の「日本に核ミサイルを撃ち込む」描写ですが、主人公のジャーナリストが、危機管理のためにつくったシナリオの中で、日本を仮想敵国とした場合のシミュレーションとして登場してきます。タイトルの「ムグゲノ花ガ咲キマシタ」というのは核ミサイルの開発に成功しました、という暗号名のことでした。
シベリアの資源採掘の利権を韓国にとられた日本が、利権を取り返すために韓国に先制攻撃して、工業地帯を壊滅に追い込む。通常兵器で手も足もでないかと思われた韓国ですが、実は核兵器の開発に成功しており、日本をビビらせ大逆転するというシナリオでした。リアルな攻撃ではなく、あくまでも防衛白書の仮想敵国との戦争シミュレーションのシナリオです。しかも打ち込む先は、東京ではなく、太平洋上の無人島でした。誰も死なない設定です。でも日本は核にビビッて韓国に手を出すのをやめます。三大強国(中露日)に囲まれながらも韓民族は生きていくことができる、というオチです。
想像していたよりも抑制のきいた筆致でした。核ミサイルをつかうのは、そもそもシミュレーションゲーム上のことです。日本人憎しの結果ではなく、先制攻撃されたうえでの防衛的反撃です。東京を壊滅させるのではなく誰も死なない無人島での核爆発です。東京ではなく無人島に核ミサイルを落としたのは「韓国人の温情」だとされています。日本人よ、よく考えろ、という意味です。これを「日本に核ミサイルを撃ち込む小説が韓国でベストセラーになった」と評するのは、むしろそっちの方が悪意があるように思います。そこまでかたよった見方の「反日小説」ではありませんでした。
1993年の出版なので、今から見れば過去の話しです。中国は共産党が崩壊しウイグルなど各地での勢力争いで韓国には手を出せない状態ということになっています。このように今から見れば荒唐無稽ですが、荒唐無稽なりに状況分析がされていて面白く読むことができます。
南北朝鮮統一後、韓国は核兵器を手放すだろうか?
むしろこの三十年前のフィクションを読んでいて思ったことは、南北朝鮮が統一された後に、韓国は核兵器を手放すだろうか、ということです。
小説『ムグゲノ花ガ咲キマシタ』を読むかぎり、統一韓国は核保有国になるのではないか、という気がします。アメリカなどよほどの国際的な圧力がなければ核を放棄しないでしょう。
『ムグゲノ花ガ咲キマシタ』では「アメリカなど強国の意志に屈服するな、韓民族よ誇りを持て」と強調されています。そしてそのためには核保有国になるべきだ、という理屈です。そのスピリットがこの小説を大ベストセラーにした要因だとすれば、やはり統一韓国は核を放棄しない方向で進むような気がします。アメリカなどの外圧に屈するな、というのが小説『ムグゲノ花ガ咲キマシタ』に通底して流れている気持ちだからです。
何よりも統一韓国の北朝鮮地区の人たち(旧北朝鮮系の人たち)が、自分たちの命と引きかえにつくった核爆弾を放棄することを許さないだろうと思います。
大丈夫でしょうか? 韓国の、そして日本の未来が心配です。
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旅人が気に入った場所を「第二の故郷のような気がする」と言ったりしますが、私にとってそれは韓国ソウルです。帰国子女として人格形成期をソウルで過ごした私は、自分を運命づけた数々の出来事と韓国ソウルを切り離して考えることができません。無関係になれないのならば、いっそ真正面から取り組んでやれ、と思ったのが本書を出版する動機です。私の第二の故郷、韓国ソウルに対する感情は単純に好きというだけではありません。だからといって嫌いというわけでもなく……たとえて言えば「無視したいけど、無視できない気になる女」みたいな感情を韓国にはもっています。
【本書の内容】
●ソウル日本人学校の学力レベルと卒業生の進路。韓国語習得
●関東大震災直後の朝鮮人虐殺事件
●僕は在日韓国人です。ナヌン・キョッポニダ。生涯忘れられない言葉
●日本人にとって韓国語はどれほど習得しやすい言語か
●『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』南北統一・新韓国は核ミサイルを手放すだろうか?
●韓国人が日本を邪魔だと思うのは地政学上、ある程度やむをえないと理解してあげる
●日本海も東海もダメ。あたりさわりのない海の名前を提案すればいいじゃないか
●天皇制にこそ、ウリジナルを主張すればいいのに
●もしも韓国に妹がいるならオッパと呼んでほしい
●「失われた時を求めて」プルースト効果を感じる地上唯一の場所
●「トウガラシ実存主義」国籍にとらわれず、人間の歌を歌え
韓国がえりの帰国子女だからこそ書けた「ほかの人には書けないこと」が本書にはたくさん書いてあります。私の韓国に対する思いは、たとえていえば「面倒見のよすぎる親を煙たく思う子供の心境」に近いものがあります。感謝はしているんだけどあまり近づきたくない。愛情はあるけど好きじゃないというような、複雑な思いを描くのです。
「近くて遠い国」ではなく「近くて近い国」韓国ソウルを、ソウル日本人学校出身の帰国子女が語り尽くします。
帰国子女は、第二の故郷に対してどのような心の決着をつけたのでしょうか。最後にどんな人生観にたどり着いたのでしょうか。
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