初マラソンはホノルルマラソン。ワイキキで下痢をした話し

先日、東京マラソン2021(2022なのに2021って……)がありました。初マラソンを完走した新米ランナーがたくさん出現したのではないかと思います。おめでとうございます。あなたもこれでマラソンランナーです。
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雑誌『ランナーズ』のライターが語るマラソンの新メソッド。ランニングフォームをつくるための脳内イメージ・言葉によって速く走れるようになるという新メソッドを本書では提唱しています。
(本文より)
【入力ワード】写真からランニングフォームを学ぼうとする人が多いので注意喚起したいと思います。写真からフォームを学ぶのはお勧めできません。写真というのは瞬間を切り取ったものなので、間違った解釈をする可能性があるからです。「振り上げた脚」(往路)なのか「戻ってきた脚」(復路)なのか、写真ではわかりません。大地を蹴ったように見えている脚が本当に大地を蹴っているのか、大地を蹴ったように見えているだけなのか、写真からはよくわからないからです。写真で振り上げた膝の高さを見て「ふむふむ、膝はここまで上げるのか」と思い込んでマネするのもよくありません。慣性の法則で結果として脚がそこまで上がっているだけで、実際のランナーの意識としてはそこまで上げようとしていないかもしれません。「結果としてのフォーム」と「ランナー本人の走るときのフォーム意識(入力ワード)」は、必ずしも同じではないのです。
【腹圧をかける走法】そもそも息をするのは、酸素を吸うためです。吐くことよりも、吸うことに意識をおくほうが自然な発想です。肺の中に残っている空気(残気量)は、どうせゼロにはできないのです。吐き切るという努力は、動かない壁を押すような無駄な努力です。そこに力を割くべきではありません。持ち上がらないバーベルを無理やり持ち上げようと喘ぐと、余計に息が苦しくなってしまいます。楽に息するのとは真逆のことです。それよりも思いっきり吸うことです。そのための走法が腹圧をかける走法です。肺を絞って痩せた人のように走るのではなく、腹はたるんたるんと力を抜いてだらしなく腹が太った人のように走ります。そもそも重力は下向きなのだから、横隔膜を下げることは理にかなったことです。それに対して、吐き切ることを意識すると、重力に逆らって横隔膜を持ち上げながら肺を絞らなければなりません。どちらが楽にできると思いますか?
【ストライド走法】ピッチ走法には大問題があります。実は、苦しくなった時、ピッチを維持する最も効果的な方法はストライドを狭めることです。高速ピッチを刻むというのは、時としてストライドを犠牲にして成立しているのです。
【踵落としを効果的に決める走法】私はカラテ素人ですが、サブスリーランナーとして、すくなくとも「踵落とし」を無力化する方法をすぐに思いつくことができます。答えはカンタン。攻撃側が踵を振り上げて止まったポイント(これを上死点といいます)に、自ら打撃ポイント(脳天など)を近づけていくことです。上死点では運動エネルギーがゼロになっているために、破壊力もゼロです。上死点から距離をとらないことで「踵落とし」というキックを無力化できます。
ストライドを稼ぎたいあまりに、未熟ランナーほど振り出した前足が最も伸びきったところで着地してしまうのです。つまり「膝が伸びきったまま」「踵から着地」してしまうのです。これは「踵落とし」の運動エネルギーがゼロになっている上死点で着地してしまっているのと同じことです。これでは速く走ることはできません。
言葉のもつイメージ喚起力で、フォームが効率化・最適化して速く走れるようになる新理論の書。言葉による走法革命。とくに走法が未熟な市民ランナーであればあるほど効果的です。本書はあなたのランニングを進化させ、市民ランナーの三冠・グランドスラム(マラソン・サブスリー。100km・サブテン。富士登山競争のサミッター)を達成するのをサポートします。
●「動的バランス走法」「ヘルメスの靴」「アトムのジェット走法」「かかと落としを効果的に決める走法」「ハサミは両方に開かれる走法」「腹圧をかける走法」
●マラソンの極意「複数のフォームを使い回せ」
●究極の走り方「あなたの走り方は、あなたの肉体に聞け」
●【肉体宣言】生きていることのよろこびは身体をつかうことにこそある。
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私は東京マラソン以前からのランナーなので、初マラソンはホノルルマラソンでした。
いよいよ明日、はじめてのマラソンという前日、私はワイキキで下痢をしていました。
今考えるとインドならともかくなんでハワイなんかで下痢をしたのか不思議ですが、海外旅行も久しぶりで、まだ胃腸が病原菌に対して軟弱だったのだと思います。
ランニング・イラストの最高峰。ホノルルマラソン「君の名は?」
言葉が話せない場合、ゼスチャーという手がある。

これまで一生懸命に練習してきたのだから、ホノマラではベストを尽くしたいと思いました。しかし下痢ではベストなんかつくせません。
「薬を飲もう」
私は思いました。普段はあまり薬なんか飲まないタイプなのですが、非常事態です。やむをえません。
薬局はすぐに見つかりました。店内に入りますが、すべて英語表記の薬ばかりで、どれが下痢にきく薬だかわかりません。
店員が「Can I heip you?」と声をかけてきてくれましたが、説明できませんでした。下痢Diarrhea という英単語を知らなかったからです。
私は困り果てました。本当は伝える手段がありました。言葉が話せない場合、ゼスチャーという手があります。
肉体言語が伝える力は強力だが、下痢であることをどうやって伝えようか?

風邪なら口に手を当てて「コホン、コホン」と咳をすれば「ああ、風邪薬が欲しいんだな」とわかってもらえます。
腹痛だったら、お腹をおさえて顔をしかめて見せれば「ああ、腹痛薬が欲しいんだな」とわかってもらえます。
でも下痢だったらどうでしょう。どうやって下痢をゼスチャーすればいいでしょうか?
私は迷いました。
和式便所に座った格好をして、お尻の下から何かが噴出しているように、手でゼスチャーすれば、たぶん下痢だということはわかってもらえただろうと思います。
しかしそれをやるかどうかは別問題です。
なんで高級リゾート地のワイキキまできて、うんこするゼスチャーをせにゃならんのか。
これは日本人の恥ではあるまいか?
でも明日の初マラソンは、下痢のまま走りたくありませんでした。ベストを尽くして走りたかったのです。
一歩も歩かずに完走すること。どんなに悪いタイムだって、それだけは果たすつもりでした。
しかし下痢ではその最低限の目標を果たせそうもありません。
<下痢のジェスチャーをすべきか、否か、それが問題だ>
英語しか話せない店員の前で、ハムレットのように私が眉間にしわを寄せて悩んでいると、彼女は「カモン」と私を手で呼びます。何ごとかとついていくと、そこは日本の薬ばかり陳列しているコーナーでした。
「お。おう。サンキュー」
なんだよ~。日本の薬コーナーがあるなんて、さすがハワイだな。
本当に助かりました。国辱ものの下痢のゼスチャーをしなくてすんだのです。
私は下痢どめの薬を手に入れることができました。
翌日のホノルルマラソンでは、下痢に苦しめられることもなく、なんとか一歩も歩かずに完走。初マラソンを無事に終えることができたのでした。
わかっていても、恥ずかしくてできないゼスチャーというものがある。

日本に帰るとすぐに私は、下痢を英語で何というか調べました。
下痢は英語で Diarrhea ダイアリーアといいます。この単語だけは私は忘れません。

その後、私は外国語をほとんど話せないまま諸国遍歴を繰り返すのですが、ジェスチャーだけですべて通じるとは思っていません。いや仮に通じるとしても、恥ずかしくてできないゼスチャーというものがこの世にはあるのですよ。

