どうもハルトです。みなさん今日も楽しい旅を続けていますか?
YOUは何しに日本へ
先日、『YOUは何しに日本へ?』というテレビ東京系列のテレビ番組のことを書いた。
自分が海外でやっているのとまったく同じことを日本で外国人がやっているので非常に面白い。そして彼らの旅を「豊かだなあ」と感じる、という内容であった。
「豊かだなあ」と感じるのは、YOU(訪日外国人)の旅が観光地巡りにあくせくしていないためである。無目的ノープラン旅だったり、大多数の日本人が行かないような場所をわざわざ目指してやってくるということも多い。
番組のファンでずっと視聴していると、気づくことがある。YOUが日本に興味を持ったきっかけが「アニメ」という人が非常に多いということである。
香港人目線だと超セレブな野比家
僕はかつて香港で『ドラえもん』を見ていて思ったことがあったのだ。香港の人たちは『のび太』の家をどう感じるのだろうか、と。
ドラえもんが「押し入れ」に寝泊まりしているのび太の家は「一軒家」であるし、部屋は「畳敷き」である。
日本人が何の違和感もなく見ているドラえもんの一コマも外国人の立場になって考えてみると、違ったものに見えてくる。
そもそも香港に「一軒家」なんてほとんどない。ビルの片隅に住むのが一般的な香港人の暮らしだろう。「一軒家」に住んでいる香港人は大会社の社長グラスの超お金持ちである。
スネ夫のお金持ち自慢をいつも悔しがっている野比家は「ちょっと貧乏」な設定だと思うが、香港人目線だと超セレブになってしまうのだ。
のび太は畳敷きの部屋でいつもゴロゴロしているが、靴を脱がない西洋人の暮らしから見ると「なんじゃあ、こりゃあ~」カルチャーショック! ということになってしまうのだ。
作者にそういう意図がなくても、のび太の日常だけでも外国人にとっては非常に興味深いということになる。それが日本のアニメのパワーなのだ。
そしてこれらのアニメを子供のころから見ていたら、そりゃあ日本に興味を持つだろう、日本に行ってみたいと思うだろう。
そういう人たちが今、日本を訪れているのだ。かつて葛飾北斎などの「浮世絵ジャポネスク」が日本という国への憧れを掻き立てたように。
外国人の評価によって自らの価値に気づくという民族
それにしても日本のアニメは客観的にも非常に質が高くて面白い。諸外国のものとは比べ物にならない。どこの外国のアニメに『ガンダム』や『エヴァンゲリオン』や『ワンピース』のようなものがあるだろうか。
どうしてこの日本にこんな漫画・アニメ文化が発達したのか。鳥獣戯画や手塚治虫に帰せられることが多いのだが、実際のところは謎である。
日本は不思議なところがあって、パラパラみたいなダンスが発祥したりする。外国人にくらべて、絵やダンスが好きな民族には思えないんだけどな。
かつて永井豪の『UFOロボ・グレンダイザー』なんかフランスで視聴率100%近くまで取ったらしい。イタリアやイラクなんかでも「男の子は全員見てる」ぐらいの人気だったんだそうな。男の子にとってサッカーよりも人気がある唯一のコンテンツがアニメなのだそうだ。
えてして日本の知識階級の人たちは「『グレンダイザー』なんか子供のアニメ。くだらない」と蔑視してきたものだが、文化の国フランス人が熱狂した作品だと聞くと、急に評価が上がるから面白いぞ。
「ずっとそこにあったのに」清里開拓の父も、世界の草津温泉にしたのも、飛騨山脈を日本アルプスにしたのも、みんな外国人だ。
日本人は外国人の評価によって自国の文物の価値に気づくという民族なのである。
浮世絵もそうだ。浮世絵が世界に知られたきっかけは、もともと日本人が陶器などの割れ物を輸出する際に「緩衝材」として使われたのが、くしゃくしゃに丸められた浮世絵だったという。クッション材を伸ばしてみたら、なんとそこにはカラー刷りの見たこともない感受性の絵が描かれていて、ガイジンはそりゃあもうびっくりしたんだそうである。本体の陶器なんかどうでもよくなってしまった。「このクッション材がもっと欲しい」ってことになったのだ。それが浮世絵である。
憧れていたアニメの国、ニッポン
「日本のことはアニメで知った、日本への憧れはアニメが育てた」そういって訪日する人たちが、インバウンド需要をもたらしている。その経済効果ははかりしれない。
『セーラームーン』なんて馬鹿にできないぞ。世界中の女の子があの作品を見て日本に憧れ、日本に観光に来てくれるんだから。村上春樹の小説にだってそんな力はないはずだ。
かつて傲慢にも天にも届くようなバベルの塔を建設しようとした人類を罰するために、神は「互いの言葉を通じなくさせる」ことにより二度とそのような試みがなされないようにしたと聖書に書いてある。しかし言葉は通じなくても「絵」で表現すれば通じる。アニメは「絵」だ。
最近の日本のアニメは実在の場所を絵に丁寧に描いていることがある。従来は「架空の場所」としていた背景を、わざと「ロケ地」「モデルの場所」がわかるように描くことで、話題・拡散を狙っているかのようだ。大好きなアニメの舞台となった場所が現実にあるとすれば、そこを訪ねてみたくなる。人を旅に誘う力があるのだ。
地元密着型のJリーグがそう簡単に見捨てられないように、そういう作品は強い。演歌の「ご当地ソング」みたいなものである。こういう場所は「聖地」と呼ばれる。聖地巡礼の旅である。
日本人だけではない。『YOUは何しに日本へ?』には時々、アニメ聖地巡礼目的で訪日している人が出てくる。
「大好きなアニメの、大好きなシーンと同じ場所で、主人公と同じポーズをして写真を撮りたい」というのが訪日目的の人がいるのだ。
アニメの力は凄い。アニメは日本の最強のコンテンツなのである。
「誰でも歌える日本の歌」はアニソンなのかもしれない
先日、やはり『YOUは何しに日本へ?』を見ていて、ひっくり返るぐらい驚いたことがある。
そのYOUは「アニソンのコンサートに来た」というのである。アニソン。アニメのソング。オープニングやエンディングの歌のことですね。わざわざアニソンのコンサートのために訪日したのか! びっくりするわ!
アニメのセリフは吹替だけれど、歌も旋律は同じで吹き替えて使っているようである。そういえば香港で見たドラえもんも「あんなこといいな♪」を中国語で歌ってたっけ。
「絵」は万国共通だけれど「音楽」も万国共通だということを忘れていた。
「誰でも歌える日本の歌」はアニソンなのかもしれない。「安室奈美恵」とか「宇多田ヒカル」ではなく。
今度、格安現地ツアーで多国籍の人たちと一緒になって、日本人として何か歌でも歌わなきゃならない場面になったら「ビートルズを英語で歌う」とか「上を向いて歩こう(sukiyaki)」ではなく「宇宙の王者グレンダイザー」をノリノリで歌ってやろう。大ウケすること間違いなしだ。
アニソン歌手なんて先見の明があったなあとつくづく思う。
きっと「ラブソング」ばかり歌う流行歌手の方が評価が高いから、世間や家族からアニソン歌手ってバカにされて肩身が狭い思いをしたんだろうな。悔しかっただろう。
今のように世界で評価を受けるなんて想像もできなかったから、アニソン歌手ってバカにされて歌をやめてしまった歌手もいたんだろうな。評価されない絵描きが絵を描きつづけることが辛いように。浮世絵に憧れたゴッホはとても日本に行きたかったのだそうだ。
アニメは現代の浮世絵なのである。