アポロニオス『アルゴナウティカ』アルゴ探検隊の大冒険。本当の主人公はイアソンではなく魔法少女メデイア

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書籍『市民ランナーという走り方(マラソン・サブスリー。グランドスラム養成講座)』。小説『ツバサ』。『通勤自転車からはじめるロードバイク生活』。『軍事ブロガーとロシア・ウクライナ戦争』。Amazonキンドル書籍にて発売中。

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アルゴー船の大冒険。ワンピースであり、オデュッセイアである物語の雛形

ここではアポロニオスの神話叙事詩『アルゴナウティカ』について語っています。いわゆる『アルゴー船の大冒険』ですね。現代風にいえば『ワンピース』といったところです。

王位をめぐる課題をクリアするためにアルゴー船に乗った英雄たちに試練があたえられます。その試練とはコーカサスの「黄金の羊毛」を取ってこいというものでした。この金羊毛は大蛇・ドラゴンが守っています。

世界中の竜殺し伝説

いわゆる竜退治・ドラゴンスレイヤーものでもあるのです。

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そして船旅と寄港地でのいざこざが主の物語であることから、オデュッセイアのような冒険物語としても読むことができます。

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アルゴー船に乗り込んだ英雄たち。ヘラクレス。オルフェウス。ペレウス。イアソンとメデイア

アルゴー船にはさまざまな著名な英雄たちが乗り込みました。父が神の子も人間の子も。

ここで特徴的なのは、たとえば「ヘラクレスが強いのは父親が最強のゼウスだから」という裏付けがあるわけですけれども、著名な神を父や祖父にもっていても駄目な奴もいるということです。

アルゴー船を建造したアルゴス。『ワンピース』でいえばサウザンドサニー号を建造したフランキーが乗っているようなものです。ちなみに船の設計はパラス・アテナです。

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そして音楽家オルペウス。地獄で竪琴を弾いて地獄の王を感動させて、嫁を地上に連れ帰ろうとした人ですね。古事記のイザナギと共通します。

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そして英雄中の英雄ヘラクレス。アキレウスはトロイ戦争でギリシア軍を救っただけですが、ヘラクレスはギガントマキアで神の国オリンポスを救うことになります。桁違いの圧倒的な英雄です。

そして冒険の発起人でありリーダーであるイアソン。英語だとジェーソン。いちおうアルゴー船の冒険の主人公はイアソンだということになっているのですが、私は本当の主人公はメデイアという魔法少女ではないかと思っています。すくなくともイアソンは、アキレウスやオデュッセウスのような英雄ではありません。彼は星でいえばシリウスのような美形のイケメンで、魔法少女メデイアを魅了したのが最大の功績でした。恋泥棒という罪なヤツなのです。

それ以外にも、イリアス、オデュッセイアを読んでいれば感動ものの人たちが多数登場します。

ユリシーズとオデュッセイア

アキレウスの父ペレウスは、人間なのにゼウスも欲した女神テティスと結婚した人物です。アルゴー船ではかなり大きな働きをします。ペレウスの妻にしてアキレウスの母・海の女神テティスも、スキュラとカリュブディスを抜ける重要な「助け手」として登場します。そして夫のペレウスに難関突破の方法を教えてくれます。オデュッセイアのファンにはたまらないシーンでしょう。テティスはゼウスの求愛を結果的に受け入れなかった女神(テティスが産んだ子は父よりも優れていると予言されて、クロノスを倒して王となったゼウスはみずからを重ねてビビったのです)としてゼウス正妻のヘラから感謝されて一目おかれています。そしてペレウスとの結婚式に「もっとも美しい人へ」と書かれたリンゴが投げ込まれて「パリスの審判」と流れ込むわけですね。ちなみにこの段階でペレウスとテティスは息子アキレウスの不死身化の儀式をめぐって別れていました。いわゆるアキレス腱だけが不死身でなくなったという例の儀式です。父ペレウスは「息子になんてことすんじゃい。死んでまうやないか!」と早とちりしてしまったのでした。母は息子の不死身化の儀式を邪魔されて激怒します。

また「イリアス」ではヘクトールに殺されたパトロクロスの父も登場します。

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大アイアースの父テラモンも、そして小アイアースの父も登場します。ここでは大アイアースのパワー+小アイアースのスピード+イアソンのイケメン=アキレウスと覚えておきましょうね。

アルゴー船の冒険は、イリアス世代からいうと「父親世代の話し」なんですね。伊達政宗にとっての織田信長みたいなものです。世代が一世代前なんですね。

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どうせ和訳(原書を読んでいるわけじゃない)なんだから、名前を統一表記して簡略化せよ

イリアスを読めば大アイアースのことを「テラモンの子」と表記されることが多いのです。だからイリアスを読んでいる人ならば、テラモンと言えばすぐにピンとくるのです。同様にアキレウスのことも「ペレウスの子」とよく表記されていました。イアソンも同様で「アイソンの子」と表現される箇所が非常に多いのが特徴です。

私はロシア文学でも同様なことを思うのですが、どうせ和訳(原書を読んでいるわけじゃない)なのですから、ここは名前をイアソンで統一したらもっと読みやすくなるんじゃないかと思います。現代の読者にとって「××の子」と表記する意味はありません。読みにくくなるだけです。

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主役級ヘラクレスが脱落し、真の主役メデイアが登場する

後に出てくる金羊毛を守るドラゴンや、青銅の巨人タロスと真っ向勝負できそうな英雄ヘラクレスは衆道が原因で船旅から脱落してしまいます。行方不明の男の子を探して島に残ってしまうのでした。それがアルゴー船の冒険の前半のミソです。もしもヘラクレスが最後まで旅していたら、イアソンの冒険ではなくヘラクレスの冒険になってしまったでしょうか? はっきりいってイアソンとヘラクレスでは役者の格が違います。

「もし神がこの地にもヘラクレスを連れてきていたら、すぐにでも棍棒で打ちのめして掟もろとも思い上がりを忘れさせたと思うのだ」

アルゴナウティカの中でそのようにも語られています。しかし私の答えはノーです。なぜならアルゴナウティカの主人公はイアソンですらないからです。まるで三国志の諸葛孔明のように後半登場してすべてをもっていく魔女メデイアこそがアルゴー船の冒険の真の主人公だといえるでしょう。キャラ立ちという意味では、ヘラクレスですらメデイアにはかなわないかもしれません。

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黄金の羊毛をもった牡羊は牡羊座になる

ともあれイアソン一行は、金の羊毛を求めて旅します。ちなみにこの金羊毛の持ち主は牡羊座になるという逸話の持ち主です。さすがギリシア神話の一端を担う作品ですね。

「アイソンの子よ。どうか怒らないでくれ。正気を失い誤った。傲慢で耐えがたい言葉を吐かせた」「そなたが怒り狂ったのは仲間の男が原因だからだ。きっとそなたは他の者とも私のために争ってくれるだろう。似たようなことが起きたときには」

「私たちが昂然と行うことを家の中で密かにする。また人前で夜の営みが憚られもしない」このような風俗逆転現象は、ヘロドトス『歴史』によく登場します。

歴史はストーリーで語れ。ヘロドトス『歴史』おもしろい!!

「お願いです。同年輩の男らが苦境にあるのを憐れんで、同行させてくださいませんか」

イリアスと同様に、アルゴナウティカでも、作品は神世界と人間世界の二重構造になっています。人間界の結果は、神の配剤によるものという二重構造なのです。

作中、ヘラアテネが相談してアフロディーテのところに行ったりしています。パリスの審判でもめたはずなのにね。そこらへんの時間の流れは曖昧(適当)です。

だからアルゴナウティカは、人間の冒険を語るものであると同時に神話を語るものなのですね。遠矢の神ポイボス・アポロンなんかは、主人公イアソンよりも言及されているのではないでしょうか。そこらへんが神話の原点が古事記しかない日本の神と、ギリシア神話の神の違うところですね。女にフラれてばかりのアポロンが何で偉大な神さまなのかはアルゴナウティカを読めばよくわかります。

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すべて女の力(メデイアの魔力)によって試練はクリアされる

アルゴー船の行き先はコーカサス。今でいう黒海西岸のジョージアあたりになるそうです。金羊毛をもつ王さまは簡単には渡してくれません。試練をあたえられます。

「私に引けをとらないなら、黄金の羊毛を持ち帰らせよう。ただし力を試してからだ」

その試練とは、炎を吐く牡牛を繋いで、それで大地を耕して大蛇の牙を撒き、そこから生まれた戦死を殺して刈り取ることでした。イケメンなだけで弱いイアソンには到底無理な難題でした。これを助けてくれたのがイアソンに惚れた魔法少女メデイアです。

メデイアは父や祖国を裏切ることに苦悩しますが、恋の力にはかないません。なぜならその恋は恋の女神アフロディーテとエロスの矢がしかけたものだったからです。この少女メデイアの苦悩と恋の勇気と魔術こそがアルゴナウティカの最大の見せ場となっています。まるで迷宮ダイダロスと怪物ミノタウロスになすすべがないテセウスを恋するアリアドネが助けたように。女の力でピンチを脱するところが男根的ヘラクレス的ではないのです。

イアソンはメデイアに言います。「定められた死が二人をともに隠すまで、他の愛情が私たちを引き離すことなどありません」その言葉を信じたメデイアは、イアソンに助力します。恋に生きようとする可憐な少女なのです。

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このブログの著者が執筆した純文学小説です。

「かけがえがないなんてことが、どうして言えるだろう。むしろ、こういうべきだった。その人がどんな生き方をしたかで、まわりの人間の人生が変わる、だから人は替えがきかない、と」

「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」

本作は小説『ツバサ』の後半部分にあたるものです。アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。

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魔女メデイアの苦悩と恋の勇気と魔術で試練を乗り越える。イアソンは非男根的なヒーロー

巨大な大蛇(ドラゴン)が守る黄金の羊毛を手に入れることができたのも、メデイアが大蛇を魔術で眠らせたからでした。ヘラクレスなら棍棒で大蛇を殴り殺したことでしょう。

メデイアの女心は揺れ動きます。

「目的を遂げた喜びから何もかも忘れてしまい、必要に迫られて言ったことなどまるで心に掛かりませんか? 誓いはどこへ、甘美な約束はどこへ行ったのですか? それを頼りにこの私は良識に反し、恥知らずにも、自ら望んで祖国と家の誉れと両親を捨てました。私にとって一番大切なものをです。お願い、何としても私を守ってください。私を救ってください。さもなくばどうかあなた自身が剣で貫いて情欲に相応しい報いを私の身に与えてください。」

いや、アルゴナウタイ(アルゴー船の英雄たち)に懇願しなくても、あんたがいちばん強いでしょうに!

そして「もしも裏切ったならばゼウスの奥方(ヘラ)がそれを許しませぬように」と恐いことをいいます。未来の魔女が見え隠れするシーンです。

旅の途中、メデイアの伯母にもあたる魔女キルケーにも面会します。オデュッセイアの登場人物ですね。

ちなみに『アルゴナウティカ』に出てくる最後の怪物。青銅の巨人タロスもアキレウスと同じくアキレス腱が弱点でした。メデイアは魔術によって、死霊を呼び、その眼差しで魅了して、とうとうタロスはアキレス腱から体液を流して倒れます。まるでパリスの矢に射られたアキレウスのように。古代ギリシアではアキレス腱は弱点という認識だったようですね。

ところどころでまだ少女のメデイアは苦しみ涙します。最強メデイアを知っている現代の読者はこの可憐少女メデイアの涙には違和感をおぼえてしまいます。

「みんな私のおかげで黄金の羊毛を持ち帰ろうとしているのに、ここにいる私は厭われながら異国の人とさまよっている。私がアイエテスの手中に落ちて、苦痛に満ちた恥辱を受けて殺されるなら、逃げ場もありはしない。ただあなた方にすがる他ないのです。」

いや、だ~か~ら! あんたが一番強いでしょうに!!

青銅巨人タロスまで倒しておいて、何をお願いしてるんだか(笑)。

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魔女メデイア伝説。魔法少女はなぜ魔女になったのか?

このように、アポロニオスのメデイアはあくまでも可憐な少女の面影を保っています。

このように『アルゴナウティカ』で圧倒的な存在感を示すのは、イアソンでもヘラクレスでもなくメデイアなのでした。メデイアは非常に魅力的なキャラクターです。その証拠に古今、たくさんのメデイア主題の絵画が描かれています。

アポロニオスの『アルゴナウティカ』は、アルゴー船の帰還で終了します。その後のメデイアが描かれることはありませんが、別伝でのメデイアはもっとキャラ立ちしていて、もっと魔女です。『アルゴナウティカ』とは離れますが、メデイアの後日談を語りましょう。

※アルゴー船を追いかけてくる父の追手の艦隊に対して、弟を殺して切り裂いて遺体を海に捨てることで、父王に追撃を諦めさせたりしています。魔女や!

金の羊毛を持ち帰ったのに王位をイアソンに譲ろうとしない王様には「若返りの魔術」と騙して釜茹でにして殺してしまいます。魔女や!

メデイアの激しい愛がおそろしくなったイアソンは別の王女と結婚しようとします。メデイアの愛は裏切られました。怒ったメデイアは王女を魔法で焼き殺してしまいます。魔女や!

そしてイアソンも殺そうとしますが、イアソンだけは殺せません。その点、アンデルセンの人魚姫のようですね。その代わり、自分とイアソンのあいだに生まれた子供を殺して彼に復讐します。魔女や!

そして竜の引く馬車に乗って天へと去っていくというものです。魔女や!

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メデイア・コンプレックス=愛するがゆえに、憎しみのような行動をとる心理状態

これが魔女メデイアの壮絶な生き方でした。夫の裏切りに泣き寝入りしない女性。愛欲と残虐はコインの裏表のように同じところから発生しているということをメデイアは教えてくれます。よく言われるように愛の反対は憎しみではなく無関心なのでしょう。

エディプス・コンプレックスという言葉があるのですから、メデイア・コンプレックスという言葉があってもいいような気がします。ここでは「メデイア・コンプレックス」という言葉を提起して定義しましょう。

メデイア・コンプレックス=愛するがゆえに、その愛が裏切られた時、憎しみのような行動を相手に対して取ってしまう心的状態。

写本による淘汰。『イリアス』と『オデュッセイア』のあいだ。テレゴノス・コンプレックス

『アルゴ探検隊の大冒険』は、レイ・ハリーハウゼンのモデル・アニメーションで有名な映画があります。細かいところは原作とは違いますが、アルゴナウティカは大冒険活劇なのだということをちゃんと教えてくれる映画です。

みなさんもぜひ読んでみてください。

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