帰国子女の第二の故郷。韓国ソウルに対する複雑な感情
帰国子女ハルトの第二の故郷、韓国ソウルに対する気持ちがよくわからないんだよなあ。好きになろうと思えば誰よりも好きになれるし、嫌いになろうと思えば誰よりも嫌いになれるってどういう意味?
う~む。じゃあ、ひとつのたとえ話をしてみよう。オレが全能の神と会話していると仮定するよ。全能の神の言うことは絶対であり、正直に答えなければならず、すべての神の意志は無条件で実現されるものとする。
わかった。たとえ話で気持ちを表現してるのね
全能の神との対話。たとえ話で語る複雑な感情、複雑な思い
神「全知全能の神に誓って正直に答えろ。お前が次に旅行に行きたいのはラスベガスか、ソウルか?」
少しも迷うことなくラスベガスです。全能の神よ
神「移住するとしたらどうだ。お前が日本を追われて数年間日本以外のどこかに住まなければならないとしたらどっちを選ぶ? パリか、ソウルか?」
少しも迷うことなくパリです。全能の神よ
神「好き勝手言いおって。お前はわがままな奴だから罰をあたえる。もし世界が再び洪水で滅ぶとして、日本以外のたったひとつの街しか救うことができないとする。その町をお前が選ぶのだ。どの街を選ぶ?」
むむむ。ううむっ……ソ、ソウルです! どうかソウルとそこに住む人たちをお救いください。全能の神よ
成長期を過ごした、幼い頃を過ごした場所は特別な場所
こんなたとえ話で、なんとなく、わかったかな?
ううむ。ますますわからなくなった
だから説明してもわかってもらえないって言ったじゃん。帰国子女の第二の故郷に対する気持ちなんて、同じ帰国子女にしかわからないと思うよ
ただ好きなだけじゃないの? ツンデレなだけなのでは?
そんなに単純じゃないんだよ~。本当にうまく説明できないなあ。とくにずっと同じところに住んでいるイロハのような人にはわかりがたいと思うよ。成長期を過ごした場所は特別だ。ソウルはおれにとって特別な場所なんだよ
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ソウル日本人学校の偏差値レベルと韓国語。卒業生の進路。公立? 私立?
故郷=「失われた時を求めて」プルースト効果
私は世界30カ国以上を旅しているバックパッカーですが、そうなったきっかけはソウル旅行でした。パックツアーに参加してソウルを観光バスで見て回るなんて考えられなかったからです。自分の育ったなじみの場所を観光バスでまわる人なんています?
世界100都市以上を歩いてきましたが、私にとってソウルは本当に特別な街です。どんなにすごい世界遺産や王宮よりも、自分が遊んだ小さな公園や住んでいたマンションに立ちつくすほど感動するからです。何の変哲もない生活空間に昔の記憶がフラッシュバックして追想、追憶へとおちいります。これを「失われた時を求めて」プルースト効果と命名しましょう。世界のどんな場所に行ってもこんな感覚におちいることはありません。ソウルだけが特別なのです。
マルセル・プルースト『失われた時を求めて』の内容、あらすじ、書評、感想
幼い頃を過ごした、自分を育ててくれた場所は替えがききません。それが第二の故郷ということの意味なのでしょう。自分にとってそんな特別な場所が外国にあることが、ラッキーだったなとこの年齢になって思います。「ソウルは特別だ」と今は胸を張って言うことができるようになりました。
愛しているだけではない……複雑な思いをソウルにはいだいています。それが我が愛憎の第二の故郷・韓国ソウルなのです。
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旅人が気に入った場所を「第二の故郷のような気がする」と言ったりしますが、私にとってそれは韓国ソウルです。帰国子女として人格形成期をソウルで過ごした私は、自分を運命づけた数々の出来事と韓国ソウルを切り離して考えることができません。無関係になれないのならば、いっそ真正面から取り組んでやれ、と思ったのが本書を出版する動機です。私の第二の故郷、韓国ソウルに対する感情は単純に好きというだけではありません。だからといって嫌いというわけでもなく……たとえて言えば「無視したいけど、無視できない気になる女」みたいな感情を韓国にはもっています。
【本書の内容】
●ソウル日本人学校の学力レベルと卒業生の進路。韓国語習得
●関東大震災直後の朝鮮人虐殺事件
●僕は在日韓国人です。ナヌン・キョッポニダ。生涯忘れられない言葉
●日本人にとって韓国語はどれほど習得しやすい言語か
●『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』南北統一・新韓国は核ミサイルを手放すだろうか?
●韓国人が日本を邪魔だと思うのは地政学上、ある程度やむをえないと理解してあげる
●日本海も東海もダメ。あたりさわりのない海の名前を提案すればいいじゃないか
●天皇制にこそ、ウリジナルを主張すればいいのに
●もしも韓国に妹がいるならオッパと呼んでほしい
●「失われた時を求めて」プルースト効果を感じる地上唯一の場所
●「トウガラシ実存主義」国籍にとらわれず、人間の歌を歌え
韓国がえりの帰国子女だからこそ書けた「ほかの人には書けないこと」が本書にはたくさん書いてあります。私の韓国に対する思いは、たとえていえば「面倒見のよすぎる親を煙たく思う子供の心境」に近いものがあります。感謝はしているんだけどあまり近づきたくない。愛情はあるけど好きじゃないというような、複雑な思いを描くのです。
「近くて遠い国」ではなく「近くて近い国」韓国ソウルを、ソウル日本人学校出身の帰国子女が語り尽くします。
帰国子女は、第二の故郷に対してどのような心の決着をつけたのでしょうか。最後にどんな人生観にたどり着いたのでしょうか。
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