トレッドミル(ランニングマシーン)でサブスリーは可能か?
世の中にはランニングマシーンでランニングをする人がいます。かつては私もそうでした。月会費を払ってスポーツクラブに所属していたので、あるのに使わないともったいないという気になってランニングマシン(トレッドミル)上で走っていました。
しかしトレッドミルでいくら快調に走れても、それは実走とは似て非なるものです。オリンピックや世界陸上に出場するような選手で、ランニングマシーン上でしか走らないという人は皆無ではないでしょうか。速い人はみんな路上を走っています。
私もマラソン二時間台(サブスリー)で走っていた頃には、すべて路上練習でした。むしろサブスリーを達成するためにスポーツクラブをやめたというのが本当のところです。
速く走るようになるためにはコツがあります。そのコツはトレッドミルの上ではつかめません。知りたい方は私の著書『市民ランナーという走り方』を参考にしてください。ランニングの実力は風に吹かれて路上で鍛えてください。
西欧人セレブは、スポーツクラブのあるセレブを選ぶ
そんなランニングマシン歴の私ですが、先日、ひさしぶりにベルトコンベアー上を走る機会がありました。旅行先のホテルにランニングマシーンがあったためです。日本人はあまり気にしないようですが、西欧のビジネスマンは太っていると自己管理できない人というふうに見られて、仕事ができない人と判断されるそうです。そのため「ジムを併設していないホテルなんてホテルじゃない」とばかりに、旅先でもジムで筋肉を鍛え、汗を流している人がいます。
私は安宿専用でホテルの併設ジムなんて気にしたことありませんが、たまたま宿泊客は無料で使えたので走ってみることにしました。ベルトコンベアの上を走るのは久しぶりです。
ところがいざ走ってみると、非常に走りにくいのでした。あれ? すぐにその理由がわかりました。ベルトコンベアに慣れていないから? いいえ、そうではありません。靴のせいです。
旅先なので、私は靴底がフラットなシューズを履いていました。いわゆるスニーカーです。走って走れないことはありませんが、専用のランニングシューズに比べてソールが反り返っていないために、そのぶん走りにくいのでした。
ランニングシューズとスニーカーの違い。ソールの反り、ロッカー形状
ランニングシューズのソールが反り返っているのは、着地時に足裏を踵から母指球に向けて転がすようにして「走る前提」で設計されているからです。これをロッカー形状といいます。
マンガの表現に学ぶ実走。下半身をクルクル回転させるイメージで走ってみよう
ところがこのロッカー形状のシューズは必ずしも普段使いに向いているとは言えません。
かつて私はディズニーランドのアトラクションの列に何時間も並んで待っているあいだ、どうして自分だけがこんなに疲れるんだろう。なんで彼女の方が疲れないんだろう、と不思議でなりませんでした。彼女は一般人、私はランナーです。彼女が先にへばるのがあたりまえではありませんか?
そのとき私はランニングシューズを履いていました。その頃はどこへ行くにもランニングシューズで出かけていたのです。私の方が彼女よりも疲れるのは反り返っているランニングシューズのせいではないか? 直感的に私はそう感じました。
サンダルがフラットソールであるように、旅靴はフラットソールがいい

ランナーは前に足を出し続けていないと倒れてしまうような、絶妙な動的バランスを保って走っています。これを「動的バランス走法」といいます。
スピード練習しなければ、スピードにふさわしいフォームは身につかない。動的バランス走法
ランニングシューズは動的バランス走法で走るのにふさわしい形状をしているために、逆にいえば一か所に立ち尽くしているのには向いていません。ネズミーランドや万博の列に何時間も並んでいるのにふさわしい形状ではないのです。
サンダルがフラットソールであるように、旅靴はフラットソールがいいのです。
ベアフットでオオカミランニング
ひとりきりだったらそのままゆっくりジョギングでよかったのですが、隣の中国人が挑みかかるように走り出したものだから困りました。やるしかないのか?
えっ? どうして挑戦されたのがわかったかって? だってすぐ隣のランニングマシンに乗るんだもの。空いてるんだから離れて走ればいいじゃん。隣で走るってことは挑戦でしょ?
私は自分の著作『市民ランナーという走り方』で、オオカミランニングというトレーニング方法をおすすめしています。オオカミランニングというのは、練習中に誰かに抜かれたら、いい練習パートナーができたと思って追いすがり、最後には必ず抜き返せ、という掟のことです。オオカミが獲物を追って追って持久狩猟で仕留めることから、抜いた相手を抜き返すこのトレーニング方法をオオカミランニングと命名しました。
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雑誌『ランナーズ』のライターが語るマラソンの新メソッド。ランニングフォームをつくるための脳内イメージ・言葉によって速く走れるようになるという新メソッドを本書では提唱しています。
(本文より)
【入力ワード】写真からランニングフォームを学ぼうとする人が多いので注意喚起したいと思います。写真からフォームを学ぶのはお勧めできません。写真というのは瞬間を切り取ったものなので、間違った解釈をする可能性があるからです。「振り上げた脚」(往路)なのか「戻ってきた脚」(復路)なのか、写真ではわかりません。大地を蹴ったように見えている脚が本当に大地を蹴っているのか、大地を蹴ったように見えているだけなのか、写真からはよくわからないからです。写真で振り上げた膝の高さを見て「ふむふむ、膝はここまで上げるのか」と思い込んでマネするのもよくありません。慣性の法則で結果として脚がそこまで上がっているだけで、実際のランナーの意識としてはそこまで上げようとしていないかもしれません。「結果としてのフォーム」と「ランナー本人の走るときのフォーム意識(入力ワード)」は、必ずしも同じではないのです。
【腹圧をかける走法】そもそも息をするのは、酸素を吸うためです。吐くことよりも、吸うことに意識をおくほうが自然な発想です。肺の中に残っている空気(残気量)は、どうせゼロにはできないのです。吐き切るという努力は、動かない壁を押すような無駄な努力です。そこに力を割くべきではありません。持ち上がらないバーベルを無理やり持ち上げようと喘ぐと、余計に息が苦しくなってしまいます。楽に息するのとは真逆のことです。それよりも思いっきり吸うことです。そのための走法が腹圧をかける走法です。肺を絞って痩せた人のように走るのではなく、腹はたるんたるんと力を抜いてだらしなく腹が太った人のように走ります。そもそも重力は下向きなのだから、横隔膜を下げることは理にかなったことです。それに対して、吐き切ることを意識すると、重力に逆らって横隔膜を持ち上げながら肺を絞らなければなりません。どちらが楽にできると思いますか?
【ストライド走法】ピッチ走法には大問題があります。実は、苦しくなった時、ピッチを維持する最も効果的な方法はストライドを狭めることです。高速ピッチを刻むというのは、時としてストライドを犠牲にして成立しているのです。
【踵落としを効果的に決める走法】私はカラテ素人ですが、サブスリーランナーとして、すくなくとも「踵落とし」を無力化する方法をすぐに思いつくことができます。答えはカンタン。攻撃側が踵を振り上げて止まったポイント(これを上死点といいます)に、自ら打撃ポイント(脳天など)を近づけていくことです。上死点では運動エネルギーがゼロになっているために、破壊力もゼロです。上死点から距離をとらないことで「踵落とし」というキックを無力化できます。
ストライドを稼ぎたいあまりに、未熟ランナーほど振り出した前足が最も伸びきったところで着地してしまうのです。つまり「膝が伸びきったまま」「踵から着地」してしまうのです。これは「踵落とし」の運動エネルギーがゼロになっている上死点で着地してしまっているのと同じことです。これでは速く走ることはできません。
言葉のもつイメージ喚起力で、フォームが効率化・最適化して速く走れるようになる新理論の書。言葉による走法革命。とくに走法が未熟な市民ランナーであればあるほど効果的です。本書はあなたのランニングを進化させ、市民ランナーの三冠・グランドスラム(マラソン・サブスリー。100km・サブテン。富士登山競争のサミッター)を達成するのをサポートします。
●「動的バランス走法」「ヘルメスの靴」「アトムのジェット走法」「かかと落としを効果的に決める走法」「ハサミは両方に開かれる走法」「腹圧をかける走法」
●マラソンの極意「複数のフォームを使い回せ」
●究極の走り方「あなたの走り方は、あなたの肉体に聞け」
●【肉体宣言】生きていることのよろこびは身体をつかうことにこそある。
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しかしいくらオオカミの血が騒いでも、このフラットソールの旅靴では速く走れません。ニセコで筋肉を鍛えるような意識高い系の中国人に、日本人はちょろいと思われたまま終わりたくはありません。
私はいったんマシンを降りて、靴を脱いで、裸足でベルトコンベアに乗りました。
日中ランニング戦争。ちょっとぐらい痛いからって走るのをやめられない
もともと私は夏のあいだはサンダルで走っているので、裸足ランニングには慣れています。足の甲がサンダルのかたちに日焼けしていますし、指先で小石を踏んで皮が剥けることもあります。
ランニングシューズで走るときも、夏場はノーソックスなので、足裏の皮膚は人よりも厚いはずだという自負がありました。
ところが走り始めてしばらくして足の裏が痛くなりました。どうしましょう。隣の中国人と走りあいの真っ最中です。ちょっとぐらい足裏が痛いからってやめるわけにはいきません。オオカミの名が泣きます。
【本番練習法】通りすがりのランナーに勝手に練習パートナーになってもらうオオカミランニングのすすめ
足裏の痛みに耐えながら、リズムを刻んで走りました。隣の中国人はやがて私にはかなわないと悟ったのでしょう。スピードを落として日中ランニング戦争から脱落しました。
それでいいのよ。だってあんた、オレより力はあるでしょ? ダンベル、おれより重いの持ち上げられるでしょ? せめて走るのぐらいはオレが勝たなきゃね!
オオカミは獲物をしとめました。満足してトレッドミルを降りて足裏を確認すると……なんと……足の裏に血豆ができていました。水ぶくれもあります。どうりで痛いと思った。
トレッドミルのベルトの上をよく確認したら、靴がすべらないように硬い網状の素材が貼り付けてありました。あれはただの黒いゴムのベルトではないのです。その網状のすべり止めのせいで足裏がボロボロになってしまったのでした。
裸足で走るのなんて無理。路上も無理。ランニングマシンも無理
裸足トレッドミルランニングで足裏がボロボロになってしまったため、次の日の観光に支障がでました。歩くと痛いのです。とほほだぜ。
普段から足裏は鍛えているつもりだったので、いきなりの裸足ランニングでも大丈夫だと思ったのですが、ダメでした。
これがアスファルトなどの路上だったらまず無理だろうと予想がつきますけど、まさか黒いゴムのトレッドミル上でも無理だとは思いませんでした。
一時期、ベアフットランニングが流行った時期がありましたけど、裸足でレースペースで走るのなんてぜったいに無理です。市街地も無理、ランニングマシンでも無理、トレイルなんてありえません。破傷風になりますよ。せめてサンダルを履きましょう。
自分がこうなってみると、裸足のアベベは本当に奇跡だなあ、と思います。アスファルトなんてよく見るとけっこう凸凹しています。あそこを速く走ったらランニングシューズのソールが削れるみたいに足裏はずる剥けるはずです。ありえないことです。
私はこの夏、できるだけ日焼けに慣れるように下焼きしていたのに、いざプールに行ったら背中の皮膚が剥けてしまいました。新しい経験はいつもぶっつけ本番なのです。類似の軽い体験で、本番のハードモードに耐えられるかというと、難しいみたいです。
夏の海岸、真夏のプール。下焼きしたのに背中の皮がベロっと剥けたのだ
旅先のランニングは難しい。軽量化に矛盾する
旅先のランニングは難しいですね。走ると汗をかいて、その分、洗濯物も増えるし。ランニングシューズで旅するのも難ありです。フラットソールのほうが疲れませんからね。
一週間ぐらいの旅だったら「走らない」選択でOKですけど、長期旅行になったらやはり靴は一足では足りないかもしれませんね。
荷物が重くなるなあ。軽量化と旅先の快楽は矛盾しますね。
旅行の靴は一足のみ。サンダルは完璧な下足か? サンダルは雨と寒さに弱い
陸上選手は、選手ではなく選足と言いたい

ところでこの稿を書いていて思ったのですが、オリンピック選手というような「選手」という言い方は、私のようなマラソン系の人間にとってはちょっと違和感がありますね。
だって手で選ばれた人じゃないもの。足で選ばれた人でしょ?
オリンピック選手じゃなくて、オリンピック選足と言いたいですね(笑)。

