結婚十訓がおもしろい。政府なんか信じるな
かつて結婚十訓というスローガンがありました。大日本帝国の厚生省が日本国民・臣民に向けて発したスローガンです。
発布? は1938年(昭和十三年)。日中戦争(1937-1945)がはじまった直後に発せられた臣民にむけてのメッセージが面白かったので、ここにご紹介させていただきます。
1.一生の伴侶として信頼できる人を選びましょう。
2.心身ともに健康な人を選びましょう。
3.お互いに健康証明書を交換しましょう。
4.悪い遺伝のない人を選びましょう。
5.近親結婚はなるべく避けることにしましょう。
6.なるべく早く結婚しましょう。
7.迷信や因習にとらわれないこと。
8.父母長上の意見を尊重なさい。
9.式は質素に。居はすぐに。
10.生めよ育てよ国のため。
ね。面白いでしょ? 余計なお世話だっつーの(笑)。
日支事変(日中戦争)で日本軍は兵隊(人口)を欲していた。
なんで結婚に対するこんなメッセージを出したかというと、政府は軍事力がほしかったからです。兵隊さんが欲しかったのです。だから人口を欲していました。
当時、日本は七千万の人口でした。そして四億七千万人の中国を相手にガチで戦争をしていました。日本兵の方が兵隊の質はよく、日清戦争での勝ち体験もあったので、局地戦では日本の連戦連勝だったのですが、いかんせん四億七千万人の人民を相手に攻めきれませんでした。
ナポレオンが攻め入ったときのロシアのような戦術(ヒトラーが攻め入ったときのソビエト軍のような戦術)を中国軍はとっていました。これを縦深作戦といいます。負けたら引く、負けたら引くを繰り返したのです。しかしどこまで退却しても自軍の領土です。それに対して日本軍は追っても追っても敵の領土内でした。やがて補給線が伸びきって、攻勢限界点を越えてしまうために、やがてどこかで負けてしまうのです。
ときどき第二次世界大戦の地図で、日本軍の占領地域として中国大陸が真っ赤に塗られている地図がありますが、あれは厳密には間違いです。
日本軍は重要拠点を点で占領していたにすぎません。面で占領していたわけではないのです。
ともあれ、負けなかったにせよ、勝ちきれなかったのが日中戦争でした。
そしてこの中国を支援していたのがイギリス、アメリカでした。だから1941年に英米に対して戦争を吹っかけるわけです。
ニイタカヤマノボレ(新高山、登れ)ご先祖様の声が聞こえたから登頂してきた
日本陸軍はアメリカ相手にボロクソに負けたのですが、実は兵力の大半を中国大陸に割かれていたことを忘れてはなりません。そういう意味では全力で戦ったわけではありませんでした。
山岡荘八『小説太平洋戦争』。日本だけ特別だと思うのがすべての間違いの元
ともあれ日本は兵隊を欲していたわけです。それはすなわち人口を欲していたということでした。
まあ、今、戦争がはじまっているのに、子供を欲しがっても遅いんですけどね。生まれた子が兵隊さんになるまであと十八年ぐらいは必要でしょう。いわゆるドロナワ、泥棒を見て縄をなうというやつです。政府の無策は昔からなんですね。
繰り返しますが、政府は臣民の幸せな家庭生活を応援していたわけではありません。ただ軍事力が欲しかっただけです。実際に、この結婚十訓から七年後に日本の家庭生活は滅茶苦茶にされてしまいます。
1.一生の伴侶として信頼できる人を選びましょう。
あれ? 当時は親の紹介やお見合い結婚が多かったんじゃない?
今のような恋愛結婚はすくなかったはずなのに。。。
いっけん正論なんだが、お見合い結婚で、どうやったら信頼できるかわかるんだろうか。けっきょく相手の地位や家柄を見るしかないよね。人柄というより地位や金に対する信頼だな。
2.心身ともに健康な人を選びましょう。
また正論ね。そりゃあ健康な相手がいいわよ
優秀な兵隊さんというのは、肉体的にしっかりしてなきゃならないからなあ。
3.お互いに健康証明書を交換しましょう。
なにこの健康証明書って?
今でいう健康診断書だね。今なら恋愛している相手から急に『健康診断書を交換して』っていわれてらビックリしちゃう。やっぱりお見合いが前提だよね、この書き方は。
惚れたら、相手の健康状態とかあまり関係ないもん
4.悪い遺伝のない人を選びましょう。
うわー。なんか人間を数値化しているみたいでイヤ
子どもが不具だと兵隊として使えないからだよ。のちに同盟を結ぶヒトラーのナチスが優秀な遺伝子だけが後世に残す価値があるとしていたのが有名だよね。優生学っていうんだけど。
5.近親結婚はなるべく避けることにしましょう。
近親婚は、子どもが遺伝子的に問題を抱える場合が多いんでしょ?
そうそう。つまり良い兵隊にはなれない場合があるから、なるべく避けてほしいってことだね。露骨!!
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このブログの著者が執筆した純文学小説です。
「かけがえがないなんてことが、どうして言えるだろう。むしろ、こういうべきだった。その人がどんな生き方をしたかで、まわりの人間の人生が変わる、だから人は替えがきかない、と」
「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」
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6.なるべく早く結婚しましょう。
結婚生活ってたいへんなこともあるけど、若いうちに慣れてしまえば、そういうものなんだと思ってしまって、離婚率は下がると思うな。
早く結婚すれば、多く子供が埋める可能性が高いからだろ。
けっきょくは閉経までの時間勝負だから。
けっきょくこれも「なぜ?」「兵隊が欲しいから」で解決できる理屈だね。
7.迷信や因習にとらわれないこと。
なぜ急に?
天皇は神さまだと信じてたくせに、よく言うよな!(=国家神道)
喪中に結婚しないのは迷信(=仏教)だから、とっとと結婚しろってことかな?
8.父母長上の意見を尊重なさい。
人と人との結婚じゃなくて、家と家との結婚だからってことよね。
そうそう。跡継ぎが欲しいところで、親と国の利害関係が一致してたんだろう。
9.式は質素に。居はすぐに。
「ぜいたくは敵だ」って感じがすでに出てるわね
居はすぐに、じゃなくて、子はすぐに、だろ!
10.生めよ育てよ国のため。
もう隠し切れずに本音がだだ洩れね
はじめから「兵隊と納税者を増やしたいので子供を生んでください」と素直に言えばいいんだ。ホンネの隠し方がヤラシイよね。
今後は人口は兵隊でも労働力でもなくなっていく新時代が来る。
なんでこんなスローガンが採用されたのだ? という疑問に対しては、すべて「兵隊が欲しいから」という理屈で説明できます。
時代は戦争の時代ではなくなりましたが、労働力(納税者)を増やせ、という社会の上層階級(政府)の要請は続きました。
しかし現在、AI技術の急激な進歩により、多くの人は職を失う未来が予想されています。
車の自動運転が実現されれば、タクシーや運送トラックなどの運転手は必要なくなりますし、病気の診察などは過去データーとの照合ですから、医者よりもAIの診断の方が信用できるという未来が来ると予想されているのです。このAI医は、二十四時間三百六十五日あなたの健康のことだけを注視してくれます。
つまり兵隊でもなく労働力でもない大衆は、社会の支配階級にとってもはや必要な存在ではなくなるかもしれないのです。つまり、人口を増やせ、という社会的インセンティブはなくなるかもしれない、ということです。
ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス』の魅力・あらすじ・解説・考察
未来、人間の存在価値は、兵隊でも労働力でもなくなっていくはずです。それが新時代です。
世間にはいまだに昭和十三年の結婚十訓みたいなことをいうオッサンがときどきいますが、笑い飛ばしてやりましょう。