ベートーベン作ではなく、トルストイ作の方の『クロイツェル・ソナタ』
ここではトルストイ著『クロイツェル・ソナタ』の書評をしています。クロイツェル・ソナタというのは、ベートーベン作曲のソナタのことです。
本作『クロイツェル・ソナタ』はトルストイ作。男の性欲と嫉妬を描いた作品です。
けっこう人には言いにくい内容の欲望のことをむき出しに書いています。つまりそれは読んでおもしろい、ということでもあります。
『クロイツェル・ソナタ』の書評、あらすじ、感想
ご自分には自由をあたえておきながら、女は奥座敷に閉じ込めておこうとなさるんですわ。
わたしはポズドヌイシェフというものです。妻を殺すという事件を起こした当人です。
→ 本作はほとんどが地の文ではなく会話の中で展開していきます。会話というよりは一方的な告白です。大枠では三人称の小説ですが、実質的に一人称小説となっています。
梅毒の治療に注がれる努力の一パーセントなりと、放蕩の根絶に向けられてさえいれば、梅毒なぞとうの昔に影をひそめていたでしょうからね。
→ 梅毒と言えばこの人(笑)、ジャコモ・カサノヴァ。壮絶な水銀治療。
ジャコモ・カサノバ『回想録』世界一モテる男に学ぶ男の生き方、人生の楽しみ方
私の感じたり考えたりすることを彼女がすべて理解してくれているような気がした。実際には彼女と親しく一日を過ごした後で、いっそう親しくなりたい気持ちにかられた、というだけにすぎなかったのです。女が愚かなことも醜悪なことも口にせず、美人だったりしようものなら、すぐさま聡明で貞淑な女性だと信じ込んでしまうものですよ。
→ ハイ。トルストイ先生は女性に精神的な何かを求めたりしていません。肉体であり、見目麗しさだというわけです。その証拠がこちら。
女たちは男の詩的な愛とやらが、肉体的な親密さや、ヘアスタイルとか、ドレスの色や仕立てでどうにでもなることを実によく知っているんです。
男修行を積んだ女は、高尚な話題など単なる会話でしかなく、男が必要とするのは肉体と、それを魅力的な光で誇示するものすべてにほかならぬことを十分承知していますよ。
温故知新。古き異国の物語に、現代の知恵を読む
ありとあらゆる興奮性の食べ物や飲み物で性欲の過剰になるのです。しかるべきところに流れていけばいいのですが、安全弁が閉じていると、恋になるのです。無為の生活を送りながら必要以上に美食をとっていた結果なのですよ。
→ わたしは半日断食を実践しています。オートファジーなど最近の学説に裏付けされたファスティングの効果は、美食・飽食の害悪の裏返しです。そういう「最近の知恵」と思っていたものが、古い本に書かれていて驚くことがあります。
断食。エンザイム。オートファジー現象。血管内プラークで生きていく断食派の悟りの境地について
女は男の性欲に働きかけ、性欲を通して男をすっかり支配してしまいます。男は形式的に選ぶだけで、実際に選ぶのは女だ、という結果になっているのです。
→ う~ん。トルストイ先生は女性修行(女遊び)はしてこなかったんでしょうねえ。女が男を選ぶ、そんなことおれはとっくに知ってましたけど?
商店をのぞいてごらんなさい。人生のあらゆる贅沢品は女性によって要求され維持されているんです。大部分が女性のためにアクセサリーだの、馬車だの、家具だの、遊び道具だのをつくっているのです。
→ かつて私は「ミーハーが流行をつくり、経済を回している」というコラムを書いたことがあります。主張の趣旨はトルストイ先生とまったく同じです。
【マーケティング】時代のうねり。トレンド。流行。ミーハーが世界を回している
「欲望が苦悩の原因」性欲が人生を滅ぼす。
なぜ生きていかなければいけないんですか? 人類の目的が、すべての人間が愛によって一つに結びつくことだとしたら、その目的の達成を妨げるのはさまざまな欲望ですよ。さまざまな欲望の中で、一番強烈で、悪質で、根強いのは、性的な肉の愛です。
→ 「欲望が苦悩の原因」と人類最初に行ったのは仏陀ではないでしょうか。トルストイ先生も仏陀と同じ考えなんですね。ただ悟りきった人の小説ほど読んでつまらないものはないでしょう。おそらく仏陀の書いた小説があったらクソつまらないと思う(笑)。
トルストイ先生は、若者の性欲に寄り添って筆を進めます。
結婚は淫蕩の公認以外の何ものでもありませんよ。
妻が寂しそうにしている。母親と離れているのが悲しいというが、母親なぞ口実にすぎぬと黙殺すると、とたんに気を悪くした。あなたがあたしを愛していないことがよくわかった、とひどく毒のある言葉で責め始めました。冷淡さと、憎悪にもひとしい敵意をあらわにして。それを見て、ぞっとしたのを今でも忘れませんよ。私まで怒りに包まれてしまい、お互いに不快な言葉を山ほどぶつけ合ったものです。
→ 私は一度、女性と離婚を経験しているのですが、ちょうど最初の妻との末期の状態がこんな感じでした。
私ひとりだけが期待したのとは似ても似つかぬばかげた暮らしを妻と送っていると思っていた。これがみなに共通の運命だということを知らなかったのです。
→ そして再婚して二度目の結婚をしているのですが、なんというか……相手との相性がいいとか悪いとか以前に、これはそもそも男と女の性差なのではないか、と思うことがよくあります。
その場合、たとえまた離婚して、三度目、四度目の結婚をしたとしても、同じ問題にぶち当たるということになります。
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このブログの著者が執筆した「なぜ生きるのか? 何のために生きるのか?」を追求した純文学小説です。
「きみが望むならあげるよ。海の底の珊瑚の白い花束を。ぼくのからだの一部だけど、きみが欲しいならあげる。」
「金色の波をすべるあなたは、まるで海に浮かぶ星のよう。夕日を背に浴び、きれいな軌跡をえがいて還ってくるの。夢みるように何度も何度も、波を泳いでわたしのもとへ。」
※本作は小説『ツバサ』の前編部分に相当するものです。
アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。
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俺は引っかかった。期待していたのとは違う結果になった。結婚なんて幸福でないばかりか、何かとても辛いものだ。
今思い出しても気色が悪くなりますよ。このうえなく冷酷な言葉をぶつけ合った後で、突然、見つめ合い、抱き合う。……ふぅ。いやらしい! どうしてあの当時、あんなことの醜悪さに気づかずにいられたんでしょうね。
→ 愛の反対は憎しみじゃなくて無関心だという言葉があります。憎しみもまた感情のぶつけ合いです。だから口論の後にセックスになっても不思議はありません。
人類の進歩にブレーキをかけているのは女です。もっぱらあのことが原因にほかなりませんよ。
妻はすべての女、大多数の女と、同じような人間だったのです。
→ やっとわかりましたか? 相手を変えても駄目だと私が言うわけが。
「結婚は人生の墓場だ」は男女の脳差の断絶に絶望した者が言った言葉
あらゆる娘の理想は依然としてできるだけ多くの男性を惹きつけることでありつづけるでしょう。男を籠絡すれば女は幸せになり、望みうるすべてを獲得するんですからね。
→ 21世紀の極東・日本でもトルストイ先生の言う通りだと思います。
結婚四年目には、われわれはお互いに理解しあったり、同意しあったりすることはできないのだ、という結論がだされたのです。
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このブログの著者が執筆した純文学小説です。
「かけがえがないなんてことが、どうして言えるだろう。むしろ、こういうべきだった。その人がどんな生き方をしたかで、まわりの人間の人生が変わる、だから人は替えがきかない、と」
「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」
本作は小説『ツバサ』の後半部分にあたるものです。アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。
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自分のみじめさに気づかぬよう自分をごまかしていられた。あんな事件が起こらなかったら、いまわの際にも、おれはけっこうな一生を送った、特別よいというわけではないが、みんなと同じような、まんざらでもない一生だった、と思ったに違いありません。
→ みんなと同じような人生で満足、というのはとても日本人的ですね。この感情は「人生のワナ」だと私は思っています。この罠に引っかかって多くの人は自分ならではの人生を捨ててしまうのです。「自分」はどうなんだ? 自分の夢はないのか? と問うところから文学は始まるのですが。
「出て行け。俺を乞うまで怒らせるのは、貴様だけだぞ!」
→ たしかに私もこの世で最も憎んだのは元妻かもしれません。なぜなら赤の他人はそこまで迷惑かけてこないじゃん。そこまでこちらの人生に干渉してこないから。
今でもあの女は謎だ。私はあの女を知っていやしない。知っているのは動物としてだけだ。動物なら何ひとつ制御できないし、するはずもないからな。
おまえは一生、疑い続け、悩み続けることになるんだ。
→ 嫉妬によって疑心暗鬼となります。そしてやがて告白者は妻殺害にいたるわけです。
コキュ。寝取られ男(NTRネトラレ)のプライド問題
今こそあの女を罰してやることができる。あの女から解放され、この憎悪を存分に暴れさせることができる。
妻の表情には、恋への没入と、あの男と二人きりでいる幸せを破られたことによる落胆と不満があったのです。
わたしの心を傷つけてきたすべてのもの、私の嫉妬のすべてが実にくだらぬものに思われた。
妻とうまくいかず、第三者の男への嫉妬にかられて、妻を殺してしまう男の告白でした。
もしかしたら二人きりだったらうまくいっていたかもしれないものが、第三者の登場によって二人の関係性が壊れてしまうことがあります。多くの人と交際があるとそれだけ不倫に発展しやすいということです。まして本人がモテるとなると。芸能人の結婚がうまくいかないことが多いのは、交際がひろく、男女ともにモテるからではないでしょうか。
また「プライド」問題もあります。フランス語ではコキュといってネトラレ男を小馬鹿にするための単語がわざわざ用意されていたりします。とりわけ妻をやしなっているような男はとくに「ふざけんな」と思うでしょう。
男と女はうまくいかないものですなぁ。神様も罪なことをなさるものよ。