ドラクエ的な人生

サマセットモーム『ロータス・イーター』のあらすじ・書評・魅力・解説・考察

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ロータス・イーターとは、「安逸をむさぼる人」放浪者のこと

ロータス・イーターとは、ギリシア神話から「安逸をむさぼる人」を意味しています。ロータスとは蓮。イーターとは食べる人。

タイトルは、極楽浄土の花、蓮を食って生きている人という意味から来ています。

浮世離れした放浪のバックパッカーのような人種のことを指しています。

筆者自身による読み聞かせはyoutubeでどうぞ。よければチャンネル登録、高評価よろしくお願いします。

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このブログの著者が執筆した「なぜ生きるのか? 何のために生きるのか?」を追求した純文学小説です。

「きみが望むならあげるよ。海の底の珊瑚の白い花束を。ぼくのからだの一部だけど、きみが欲しいならあげる。」

「金色の波をすべるあなたは、まるで海に浮かぶ星のよう。夕日を背に浴び、きれいな軌跡をえがいて還ってくるの。夢みるように何度も何度も、波を泳いでわたしのもとへ。」

※本作は小説『ツバサ』の前編部分に相当するものです。

アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。

Bitly

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大多数の人は境遇のため余儀なくされた人生を送る

主人公はトマス・ウィルソン。年金がなくなる六十歳になったら自殺すると決めて、楽園を満喫している男です。

語り手は別にいるのですが、主人公は語り手とは別の人間です。いわゆるホームズ・ワトソンスタイルですね。主人公があくまでもシャーロックホームズであるように、この物語も、世捨て人のようなトマス・ウィルソンが主人公です。

トマス・ウィルソンはイギリスの銀行の支店長の地位を捨てて、カプリ島に魅せられた男です。

青の洞窟、地中海の太陽、リモンチェッロ・デ・カプリ。気持ちはわかりますよね?

※筆者自身による「リモンチェッロ・デ・カプリ」の作り方

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カプリ島。地中海の太陽と海。青の洞窟。リモンチェッロ・デ・カプリ

名作映画『ベン・ハー』にも「隠居してカプリ島でのんびりしたらどうだ」なんてセリフが出てきます。『ベン・ハー』の裏主人公はイエスですから、紀元前のローマ時代では美しい楽園として知られていたのですね。

世界一美しい光景のひとつであるカプリ島の夕日を眺めているとき、サマセットモーム自身を思わせる語り手の「私」は、ロータスイーターのトマス・ウィルソンと出会います。

「もし運命の女神が私に銀行の支店長を続けさせるつもりだったのなら、月光に照らされた夜の海岸の奇岩を見せるべきではなかった」

トマス・ウィルソンは語ります。勤め人の生活に戻らなくてもいいじゃないか。ウィルソンは考えます。ウィルソンには扶養する家族もありませんでした。

毎日毎日似たような仕事を続けて定年になって、退職して年金で暮らすだけ。そんな先の見えた未来を捨てて、すべてを放り出してこの島で余生を送っていけないことがあるだろうか?

ウィルソンは考えます。その後、一年間我慢して働いてみましたが、考えは変わりませんでした。

「生活を楽しんだ町も、勤勉だった町も、どちらも滅んだ。最後は同じじゃありませんか。どちらが愚かだったんでしょうか?」

そしてカプリ島で暮らすことを選んだのです。

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お金が尽きたら自殺するつもりだった

トマス・ウィルソンは金持ちだったわけではありません。年金暮らしでした。むしろその年金が尽きたときには路頭に迷うことが予測できました。それでもカプリで暮らすことにしたのです。

いつも他人の思惑ばかり気にするのをやめて、美しい自然あふれる島で暮らそうと決めて、仕事をやめてしまいました。

三十四歳のときから十五年、ずっとカプリで暮らしています。

この作品の年金というのは、現在の日本の老齢年金とは違います。一定の期間年金がもらえるような「商品」をトマスウィルソンは持っていたにすぎません。その年金はさだめられた期限がきたら、もらえなくなってしまいます。年金が尽きた時には、どうするつもりなのでしょうか?

実は、自殺するつもりでした。

語り部はそのことを聞いて、トマスウィルソンに興味をいだくようになるのです。

自殺を決意して、ふらふらしているロータスイーター。そんな人が身近にいたら、誰だって興味を持ちますよね?

この時代は今よりもずっと寿命が短かったのでしょう。そしていつ死ぬかわかりませんでした。戦争もあったし、医学も今ほど進歩していませんでした。現在よりもはるかに未来の見通しが立たない時代でした。

老いさらばえるまで意に添わない場所で働いて、食うに困らない老人になるよりも、魅力的で危険な選択にウィルソンは賭けました。60歳で死ぬ方に賭けたのです。

自分が何歳ぐらいで死ぬか、誰でもボヤッとした予想があります。その中でも最も若くして死ぬ方にトマス・ウィルソンは賭けました。

いつ死ぬか、何歳で死ぬか、それがわかったら人生の悲喜劇の大半は避けられるのに。

そんなサマセット・モームのつぶやきが聞こえてくるようです。

悲劇は起こってしまいました。

自分が何歳ぐらいで死ぬか、予想の中でももっとも長生きするほうの目が出てしまったのです。

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夢に見た楽園での暮らしの現実は……

トマスウィルソンは人生が誰にでも与えてくれる素朴で自然なものに至福を求めました。自然こそが人生の真実です。

自分自身の幸福が唯一の目的でした。金が尽きたら自殺する決意がありました。

都会で労働しているときには覚悟がありました。死ぬ決意は自然の中で生きる決意と同じものだったから強いものでした。

しかし自然の中でのんびりと生きていると、己を貫く鋼の魂は失われてしまいます。

死は都会から自然に向かう時の決意でした。でもすでに自然の暮らしにたどり着いています。だとしたら死の決意が失われても不思議はありません。

これは例えていえばこのようなことです。自分の勉強がやりたくて学校を辞めたのに、学校を辞めて自由になったら、自分の勉強なんてする気がなくなってしまった。

何一つ心を煩わすことなくのんびり暮らしていたら、毅然たる性格は失われてしまいます。

自分の手の届く範囲にあるものだけで欲望が満たされるのならば、意志は弱くなってしまいます。

トマス・ウィルソンはいつしか死をえらべなくなっていました。

自分が望んだカプリ島の暮らしの中で死ぬ意味なんてありません。しあわせなのに、どうして死ななければならないのでしょうか。

人間が弱くなったといってもいいと思います。

やさしい母なる大地の中で、強い意志をもった大人であることの意味はありません。

年金がなくなり、貯金がなくなったトマス・ウィルソンは、自殺未遂をします。

かつての使用人の慈悲により、冬は寒く、夏は蒸し風呂の部屋で、粗末な食事に六年耐えて、そして死にました。満月の夜に、心奪われたカプリの絶景を見ながら。

死が救いとなりました。

人生は死によって完結します。

どうしてサマセット・モームは、トマス・ウィルソンの死に際に、あえて心奪われたカプリの絶景を見せたのでしょうか?

「旅人の夢はかなったのだ」

そう言いたかったのかもしれません。

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このブログの著者が執筆した純文学小説です。

「かけがえがないなんてことが、どうして言えるだろう。むしろ、こういうべきだった。その人がどんな生き方をしたかで、まわりの人間の人生が変わる、だから人は替えがきかない、と」

「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」

本作は小説『ツバサ』の後半部分にあたるものです。アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。

Bitly

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物語のあらすじを述べることについての私の考えはこちらをご覧ください。

物語のあらすじを紹介することについて
あらすじを読んで面白そうと思ったら、実際に照会している作品を手に取って読んでみてください。ガイドブックを読むだけでなく、実際の、本当の旅をしてください。そのためのイントロダクション・ガイダンスが、私の書評にできたらいいな、と思っています。

私は反あらすじ派です。作品のあらすじ、主題はあんがい単純なものです。要約すればたった数行で作者の言いたかった趣旨は尽きてしまいます。世の中にはたくさんの物語がありますが、主役のキャラクター、ストーリーは違っても、要約した趣旨は同じようなものだったりします。

たいていの物語は、主人公が何かを追いかけるか、何かから逃げる話しですよね? 生まれ、よろこび、苦しみ、死んでいく話のはずです。あらすじは短くすればするほど、どの物語も同じものになってしまいます。だったら何のためにたくさんの物語があるのでしょうか。

あらすじや要約した主題からは何も生まれません。観念的な言葉で語らず、血の通った物語にしたことで、作品は生命を得て、主題以上のものになるのです。

作品のあらすじを知って、それで読んだ気にならないでください。作品の命はそこにはないのです。

人間描写のおもしろさ、つまり小説力があれば、どんなあらすじだって面白く書けるし、それがなければ、どんなあらすじだってつまらない作品にしかなりません。

しかしあらすじ(全体地図)を知った上で、自分がどのあたりにいるのか(現在位置)を確認しつつ読書することを私はオススメしています。

作品のあらすじや主題の紹介は、そのように活用してください。

偉そうに? どうして無名の一般市民が世界史に残る文豪・偉人を上から目線で批評・批判できるのか?
認識とか、発想とかで、人生はそう変わりません。だから相手が世界的文豪でも、しょせんは年下の小僧の書いた認識に対して、おまえはわかってないなあ、と言えてしまうのです。それが年上だということです。涅槃(死。悟りの境地)に近いということなのです。
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