ホームズ・ワトソン・スタイル。シャーロックホームズ60編の読むべき順番

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『ドラクエ的な人生』とは?

心の放浪者アリクラハルトの人生を走り抜けるためのオピニオン系ブログ。

書籍『市民ランナーという走り方(マラソン・サブスリー。グランドスラム養成講座)』。『通勤自転車からはじめるロードバイク生活』。小説『ツバサ』。『帰国子女が語る第二の故郷 愛憎の韓国ソウル』『読書家が選ぶ死ぬまでに読むべき名作文学 私的世界十大小説』『軍事ブロガーとロシア・ウクライナ戦争』。Amazonキンドル書籍にて発売中。

コロナ禍で家ごもりの日々が続いています。わたしはこの際だから、著名なシャーロックホームズシリーズを全部読破してやろうと思いました。

ホームズシリーズは全60篇あります。さてどこから読めばいいのでしょう。

ホームズは一度死んで復活すると聞きました。60編のほとんどは順不同で読んで構わないものばかりですが、やはり読むべき順番があるのです。さて、どういう順番で読んで行ったらいいのでしょうか?

また「これだけは読むべき」といったオススメはあるでしょうか? もちろんあります!!

全60篇すべてを読破したわたしハルトが解説します。

ホームズって、前後にひさしのついた帽子(鹿撃ち帽)をかぶっているんですね。60篇読破しても、いわれるまで気づきませんでした。聖母マリアが赤い服に青い肩掛けをしているように、ホームズには前後の庇の鹿撃ち帽子というように記号化されています。

だからシルエットだけで、シャーロック・ホームズがわかるようになっているのです。

すべてネタバレアリです。よろしく!!

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このブログの著者が執筆した「なぜ生きるのか? 何のために生きるのか?」を追求した純文学小説です。

「きみが望むならあげるよ。海の底の珊瑚の白い花束を。ぼくのからだの一部だけど、きみが欲しいならあげる。」

「金色の波をすべるあなたは、まるで海に浮かぶ星のよう。夕日を背に浴び、きれいな軌跡をえがいて還ってくるの。夢みるように何度も何度も、波を泳いでわたしのもとへ。」

※本作は小説『ツバサ』の前編部分に相当するものです。

アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。

https://amzn.to/44Marfe

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推理小説の場合はとりわけ気になる「作品の時代背景」

わたしはドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』(1880年)が19世紀末にもなっていまだに「神の在・不在論争」をやっていることに「まだやってんのか」と疑問を呈しました。そういうのはルネッサンス(人間中心主義の再生)で終わりにしてほしかったからです。作品を読むときには多かれ少なかれ「書かれた時代」というものは気になるものです。

しかしミステリー小説、探偵小説ほど「書かれた時代」が気になるものはありません。

松本清張の推理小説には「いるはずがない犯行場所に犯人が行けたトリックは、当時あまり利用が一般的でなかった飛行機に乗ったからだった」というオチの作品があります。今だと一発でバレちゃうやつです。トリックにさえなりません。

ホームズにも「別室でバイオリンを弾いていると思っていたら、当時発明されたばかりの蓄音機の音でホームズはそこにいなかった」というトリックの作品があります。時代ですよね~。

アニメ『金田一少年の事件簿』では、ビデオ録画に映った映像から推理したり証拠を見せたりするのが定番でした。まだスマホはありませんでした。いずれにしてもシャーロック・ホームズの時代にはありえなかった推理方法です。

犯罪は時代背景の中で行われるものです。このようにとりわけ推理小説では時代背景が気になります。

コナン・ドイルのシャーロック・ホームズ・シリーズは1887年に登場し、1893年にホームズが死んでいったん終了します。しかし1903年に復活し、1929年に最後の一本が書かれて全60篇で終了するのです。

このように作者が長きにわかってつきあったスターキャラクターでしたが、シャーロック・ホームズが活躍した主たる舞台は19世紀末のロンドンです。これがどういう世界だったか理解しておきましょう。ホームズを読むうえでこの知識は重要です。

19世紀末は、インドが植民地化され、まだ第一次世界大戦が行われる前の、大英帝国が栄えた時代です。

銃はありますが、自動車はない世界です(1908年T型フォード生産開始)。ガス灯、ランタンの世界です。電灯(1879年発明)はありません。発明されていても普及までに時間がかかるので「そういうものはない」時代背景の中でホームズシリーズは書かれています。電報が通信手段です。電話(1876年発明)はつかわない世界です。

日刊新聞に私事広告・告知をして探し物や人を尋ねるという世界観です。ホームズは新聞の私事通信欄マニアです。調べ物やお尋ねは新聞の通信欄で行うのがホームズの世界です。

ライト兄弟の初飛行が1903だから、もちろんホームズに飛行機はありません。そのくせ作品に「潜水艦設計図」がでてきます。潜水艦って飛行機よりも歴史があるんですね。ガソリン自動車がないのに潜水艦が存在しているなんて、わたしには違和感があります。なんとなく潜水艦よりもガソリン自動車の方が先だと思いませんか?

電話もない時代なのに「脳にエネルギーを回すために、食べて消化にエネルギーを使うべきでない」とか現代人の健康オタクみたいなことをホームズはいいます。生命科学は思ったよりずっと進歩していたのですね。

あと、イギリスだから紅茶かと思っていたら、ホームズは珈琲を飲んでいます。これも意外でした。

シャーロック・ホームズ・シリーズにはこういう読み方、楽しみ方があります。

もちろん発表当時は現在進行形の魅力があったのでしょう。が、今読むと19世紀末イギリスの懐古ロマンの魅力にあふれています。

人から手紙が届き、新聞を読んで、その情報が物語を進行させます。スマホやSNSよりも、ロマンがあると思うのはわたしだけでしょうか。

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スターシステム。キャラクターを立てて、連作させるシリーズの始祖か?

キャラクターを立てて、連作する方法のことをスターシステムといいます。スーパーマンとか、バットマンとかの映画が何本も撮られていますが、あれがスターシステムです。

「その人のことは知っている前提」のスターが主役をはる物語の連作があるということですね。アルセーヌ・ルパンとか明智小五郎とかエルキュール・ポアロとか、探偵ものではお馴染みのスタイルですが、もっとも古いのはもちろんシャーロック・ホームズです。19世紀後半の作品です。

探偵ものに限らず、シャーロック・ホームズ以前に、このような架空のキャラクターのスターシステムの連作って他にいたのでしょうか?

ウェルテルも、エイハブも、ジュリアン・ソレルもデビュー作で死んじゃうから一作だけの出演です。連作で主役をはってはいません。

世界的名作で、ホームズのようにキャラだった主人公が複数の作品に連作で登場するという形式をわたしはあまり思い浮かびません。ぎりぎりドン・キホーテが該当するかもしれません(前編と後編があります)。

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ホームズ・ワトソン・スタイルとは?

シャーロック・ホームズは有名な「ホームズ・ワトソン・スタイル」で書かれていることで有名です。

「ホームズ・ワトソン・スタイル」というのは主役はホームズだけど、語り手はワトソン(主役でない人)というスタイルのことです。このスタイルは天才的な発明だといってもいいでしょう。

コナン・ドイルの文才には驚かされます。わたしはホームズよりも『ロストワールド』の方が好きです。

ホームズワトソンスタイルのメリットは名探偵の心のうちを描かなくてもいいということがあります。謎めいた天才的な探偵の頭脳により、あっと驚くかたちで最後に犯人がわかるからこそ探偵ものはカタルシスがあるのです。

ホームズを語り部にしてしまうと、ラスト以前に犯人がわかってしまうというデメリットが生じるはずです。だって厳密には語り部は探偵の心の内側が逐一わかっているはずですから。

ミステリアスな主人公をつくりたい場合にはその人物を語り部にしないことです。ホームズワトソンスタイルを採用すべきでしょう。

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過去の告白を、目の前で見ているように語るのが真骨頂

探偵が扱う事件(とくに殺人事件)はどうしても過去のものであるために、いちばん緊迫する殺人の瞬間のことが依頼人の回想になってしまいます。最大の見せ場が伝聞系では読者はおもしろくありません。今しがたそこで行われているような迫力がないからです。

これを解消するために現代の名探偵はコナンにせよ金田一少年にせよやたらと殺人事件と遭遇する死神のような立ち位置になってしまっているのです。

ホームズの元を訪ねた依頼者は、事件の内容を語ります。もちろん殺人事件は過去に終わってしまったことであって、事件は「後の祭り」です。ホームズにできるのは犯人を追跡して探し出すことだけであって、殺人を未然に防ぐことはできませんし、現行犯逮捕もできません。

しかし犯罪を語っただけでは「ただの語り」となってしまい、読者は面白くありません。読者はリアルタイムの冒険をホームズと一緒に楽しみたいのです。できれば事件はリアルタイムで進行中のものであってもらいたいのです。

だから作者のコナンドイルは工夫しました。依頼人(あるいは懺悔する犯人)のセリフの中でリアルタイムに殺人事件が展開されているようにしたのです。二重カギカッコを使って、現実に会話が目の前でされているように依頼人(犯人)は語ります。

このセリフ内セリフをつかった現在進行形が、ホームズワトソンスタイルのもうひとつの顕著な特徴となっています。

極端な場合には、セリフ内セリフ内セリフまであります。依頼人(犯人)がセリフを語り、セリフ内の登場人物がセリフを言い、その人セリフ内の人物が更にセリフをいうという三重構造です。

「こういうことがあった」「あんなことを言っていた」をその場にいなかった名探偵が知るためには、伝聞につぐ伝聞が必要です。これはしかたがありません。ホームズはベーカー街にいて、犯行現場にはいないからです。

セリフ内セリフ内セリフまでやってでも「目の前で見えるように物語を展開させる」ことが、探偵ものシャーロックホームズを成功させるために必要だったのです。

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ホームズ・ワトソン・スタイルの一例

具体的に見たほうがわかりやすいと思いますので、セリフ内セリフ内セリフの一例をあげましょう。

ワトソンは地の文では「わたし」で語りますが、セリフや手紙の中では「ぼく」をつかいます。「地の文」は「だである調」ですが、セリフは「ですます調」です。このように特徴づけて階層構造がわかりやすくなっています。

(例)

「づづきをお話しください」

わたし(ワトソン)に目くばせしてから、ホームズは依頼者に話しを促した。

「あの男の正体をあっしはわかっていました。だから『駆け落ちなんて絶対に許すわけにはいかない!!』と叫びました。ところが息子はいうことをぜんぜん聞いてくれません。

『お父さん。おれはもう大人です。お父さんのいうことはきけません。彼女が大切なのです。彼女も同じ気持ちです。

「あなたを失うぐらいなら父を捨てます」とあの時、彼女は父親の前で叫びました。

「おれだってきみがすべてだ」その言葉を聞いておれは誓ったのです。その違いを裏切るわけにはいきません』

そういって息子は出ていってしまいました。ホームズさん、あっしはすっかり絶望してしまいましたよ」

依頼者はそういって涙を流した。わたしはホームズが依頼を引き受けるか気にかかった。

「愛する人が一緒ならそこが天国なのだなあ」

「天国とは場所ではなく、心の境地のことなんだよ、ワトソン君」

ホームズは誰かのことを思い出しているようだ。その人が誰かわたしにはわかった……。

(解説)

こんな感じで、過去の会話や事件が目の前でやり取りされているように表現されているのがホームズワトソンスタイルです。

第一層(現実台詞)のセリフは普通に「一重カギカッコ」です。第一層の「わたし」は「ワトソン」(語り部)です。

第二層(現実台詞内台詞)のセリフは『二重カギカッコ』。「あっし=セリフ主」。

第三層(セリフ内セリフ)会話の中での会話。回想セリフの中で、更に回想セリフがリアルタイムの如く表現される。

第一層、第二層、第三層ともに、改行など、ルールは普通のセリフと同じです。

台詞の代わりに手紙の場合でも手法は同じです。

このように目に見えるように描くため、ホームズもののセリフは長大で改行が多いのが特徴です。

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台詞主のは「セリフ主の心をすくう」

映画なら目で見たり音声を聞き分けて誰のセリフかすぐにわかりますが、小説では台詞にはセリフ主の明示(アフターケア)がなければ誰のセリフかわからなくなってしまいます。肉声と違い、文字では音が伝わらないからです。

ふつうは「セリフ+動作」で動作した人のセリフだとわかるようにアフターケアしています。動作だけでなく、心理状態、目に見える情景、ナレーション説明などでアフターケアして「誰のセリフ」か小説ではわかるようにしなければなりません。

ホームズワトソンスタイルの場合、放り出されたセリフはワトソンのもの、アフターケアがあるセリフはホームズが中心です。ホームズとワトソンが二人で話す場合、ホームズをアフターケアすれば、もうひとりは何もケアしなくてもワトソンのセリフということになります。このようにすることでよりホームズをカッコよく、ミステリアスに描くことができるのです。

そもそも小説は感情を表現するものなので、セリフのアフターケアでは「セリフ主の感情を類推するような描写」がいちばん有効です。肉声と違い、文字では感情が伝わりません。苛立ちとか歓喜とか声の音声の豊かな表現力が文字にはありませんのでそれを表現するのがいいアフターケアになるのですが、ホームズのそれをするのはワトソンです。ですから名探偵の真理をミスリードすることができるのです。

感情そのものの仕草だったり、動作や見た目に現れる無言の感情だったり。それでセリフ主が誰かわかります。それをホームズにフォーカスするから、ホームズが主役になるのです。ワトソンではなく。

このようにホームズワトソンスタイルは、小説の作法であると同時に探偵ものの作法であるともいえます。

こう考えるとホームズワトソンスタイルは天才的な発明だといえるのではないでしょうか。

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事件の解決よりも、奇怪な事件を見せることに主眼が置かれている

世界最高の名探偵として有名になってしまったシャーロック・ホームズですが、作者は「世界一の名探偵」の評価を目指していたようには思えません。そうだとしたら複雑なトリックと見事な解決に力点が置かれているはずですが、全60篇を読むと決してそうではないからです。

むしろ読者を楽しませることに主眼が置かれていると感じました。そのために奇怪な事件を読者に見せて、興味の迷路に迷い込ませることに作者は力をさいています。ホームズ本人も事件が完全解決することをぜんぜん目指していません。自分が楽しめればいいという暇つぶし、ゲーム感覚です。楽しそうな依頼しか引き受けないのです。

ホームズが真相を暴いて謎はとけても、犯人は逃亡してしまったりするのです。ホームズは犯人逮捕にはあまり興味がありません。それは警察の仕事だ、というスタンスです。

ホームズは私人であり、探偵へは私的な依頼であり、警察沙汰にならない方が依頼人にとって望ましいと判断した場合、犯行を見逃すこともよくあります。自分の思うままに「大岡裁き」をしているわけです。

各方面から興味深い事件を相談されるから探偵を主人公にしただけだという気さえします。べつに占い師が主人公でもよかったのではないかというストーリーも幾編かあります。占い師だって他人から悩みを相談されますからね。むしろ奇怪な事件の導入者としての探偵というパターンが多く見受けられます。

お金をめぐる殺人事件が多いのですが、殺し方、トリックが見せ場なのではなく、犯人がどうして殺してしまったのか、どうしてそれほど相手を憎んだのか、これまでの人生にどんな闇があったのか、どんな複雑な人間関係だったのか、で見せている作品が圧倒的に多いのです。

無関係と思われていた人たちが実は過去に複雑な絡みがあったりするパターンの情念ドロドロ作品の方が、筆跡鑑定で犯人がわかっちゃうトリック作品よりもずっと面白いのは当然ではありませんか?

証拠品はホームズの口から初めて示される場合もあります。そういう場合、読者はホームズより先に推理しようがありません。いわゆる本格推理でない作品もあります。

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ホームズもの連作の最初に読むべき作品は?

最初に読むべきなのはホームズとワトソンが最初に出会った「緋色の研究」です。

文学史に残る二人のキャラクターの初登場です。

この二人はたとえば手塚治虫の『三つ目がとおる写楽 保介(シャーロックホームズ)と和登さん(ワトソン)といったように、いたるところでパロディー化されています。

ホームズを主人公にして、ワトソンが語り部というスタイルは、第一作目から完成しています。第一作目は『緋色の研究』から読みましょう。

もっと若い頃の作品として『囚人船の秘密』『マスグレーブ家の儀式』など、ホームズが若い頃のことを回想するという作品があるのですが、もうすでにワトソン博士と知り合いですし、やはりホームズワトソンスタイルで目の前での現在進行形のように書いているだけで、ホームズの若い頃の話しであっても、実際には最初に読むべき作品ではありません。

60編の大半の作品の順序は気にしなくても大丈夫です。ホームズは一度死んで復活するので、そこらへんだけは外さないようにしてください。もちろん復活する作品(『空き家の冒険』)を死ぬ作品(『最後の事件』)よりも前に読むべきではありません。

やはりホームズ・ワトソンの出会いから読むはじめるべきでしょう。

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敵役モリアーティ教授が登場する作品は?

明智小五郎といえば怪人二十面相のように、宿敵モリアーティ教授がひんぱんに登場するのかと思ったら、ぜんぜん登場しません。そのことにもすこし驚いてしまいました。モリアーティー教授が登場する作品(字面だけでも)は「最後の事件」「パスカウィルの犬」「空き家の冒険」「ショスコム荘」の四編のみです。ただし大半の事件の黒幕はモリアーティー教授だったということに「最後の事件」ではなっているのです。

憂国のモリアーティ』という教授を愛国者にした作品があります。ホームズものを読んでも、たしかに時代的に階級社会の厳しい問題の多いイギリス社会だったのです。そこに風穴を開けようとするヒューマニズムのあるモリアーティーが描かれているオマージュ作品です。

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『名探偵コナン』灰原哀のモデル。アイリーン・アドラー

『名探偵コナン』のコナンがコナン・ドイルからとられているのは有名です。毛利蘭ルパンシリーズの作者モーリス・ルブランから。では灰原哀は? 答えはホームズ作品の中の忘れられない登場人物アイリーン・アドラーからとられたそうです。なんとなく音感が似ていますよね。

アイリーン・アドラーはたった一遍にしか登場しないのですが(ボヘミア王のスキャンダル)、ホームズを出し抜いて可憐に去っていった女性です。ホームズが「あのひと」と呼ぶただ一人の女性で、探偵稼業の報酬にホームズは金銭ではなく「アイリーンの写真」を欲しがったのでした。

アイリーン・アドラーについては後述します。

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ホームズもの60編のおススメ作品と読むべき順番

私は「最後の事件」「ボヘミア王のスキャンダル」が好きですが、もっとも人気が高いのは「バスカビル家の犬」だそうです。怪奇趣味あふれる長編だからでしょう。

読むべき順番ですが

①緋色の研究

②四つの署名

③ボヘミア王のスキャンダル

④最後の事件

⑤空き家の冒険

⑥最後の挨拶

①~⑥の順番をたがえない限りは、どの作品から読んでも大丈夫です。

①~⑥の作品を含めた、わたしの印象に強く残った何点かを紹介します。

ほぼ大金持ちの家(✖✖荘というネーミングがある館、古城)が舞台で、事件が起こります。

使用人が何人もいるような城のような館に、執事、家政婦、メイド、秘書、庭師、馬の世話人など何人も住んでいます。彼らが容疑者になるわけです。

会話は改行を多用して長く、その中でストーリーが展開される。

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緋色の研究

軍医だったワトソンが戦場で病気にかかり静養のためイギリスに帰国しました。そして生活費を安く済ませるために同居人のいる下宿をさがしていると、そこでホームズと出会います。ホームズは文学の知識はゼロなのに新聞などのゴシップ事件にはやたらと詳しい偏った知識の持ち主でした。メンタリストのようなホームズは探偵コンサルタント稼業をしているといいます。警察が困った事件に知恵を貸すのですが、さっそく仕事が入ったのでワトソンはホームズに協力することにしたのでした。……これが二人の出会いです。

ホームズが犯人を捕まえると、犯人の供述がはじまります。犯人は自分の恨みを聞いてほしかったり、正当防衛を主張したかったりという理由で犯行がばれるとなにもかも「目の前で展開されているように」過去を告白しはじめます。これがホームズワトソンスタイルの真骨頂です。

犯行を告白セリフの中で、物語は20年前のアメリカ大陸へと場面が大展開するのです。

「大陸をさまよっていた父と娘はモルモン教の開拓者の大移動に救われてソルトレイクシティーに住むことになった。しかし一夫多妻を認めない父と、モルモン教徒以外と結婚しようとする美しい娘は、「復讐の天使」に狙われることになってしまった。父は殺され、娘は強制的に長老の息子と結婚させられたのを苦に死んでしまった。娘を恋していた犯人は彼女の指輪を形見に、長老の息子二人に復讐を誓ったのだった。ロンドンで追い詰め、丸薬を飲むというロシアンルーレット式の罰を受けさせる。一方は毒で死に、一方はただのサプリメントで生をつかむという神に罪を問うような復讐方法だった」

親子二代にわたる個人史です。過去のアメリカへの大冒険です。これが目の前で行われたかのように台詞内台詞を駆使して展開されるのです。まさにホームズワトソンスタイルの教科書です。

「みなさんはオレのことをただの人殺しとお思いでしょうが、おれはあくまでも自分をみなさんと同じ正義のしもべだと考えているんです」

犯人には同情の余地がある哀しい歴史があるというところも、探偵ものの伝統芸になっています。犯人は刑事罰ではなく、動脈瘤の破裂で死にました。救いがちゃんと用意されているのです。

緋色(血の色=殺人事件)の研究の成果は、捜査した警部の手柄となりホームズの名前は表に出ることはありませんでしたが、ワトソンが手記を公表してホームズを世に知らしめたのです。

だからホームズものは「ワトソンの手記」というスタイルをとっているわけなのです。

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変身

若い頃役者だった男が、変装し、コツジキを職業にする話し。プロの乞食稼業。

まともに働くよりもお恵み稼業の方がいいってことを知って人目を忍んでコツジキに転職していた。

殺されたはずの人物と殺しの容疑者は同一人物だったというオチ。

やっぱり奇妙な話しが書きたかっただけで、世界一の名探偵を造形する意思はコナン・ドイルにはなかっただろうと思います。

乞食でサラリーマンの二倍の給料が稼げるとしたら、やってみたいと思いませんか?

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緑柱石の宝冠

「完全にあり得ないことをひとつひとつ除いていけば、最後に残ったものは、どんなにありそうにないことでも真実だ」というホームズのもっとも有名なセリフが登場します。

国宝級の宝冠が盗まれて、息子を犯人だと突き出した銀行員。犯人を捜すホームズ。しかし実際には息子は愛する人のために罪をかぶって宝冠を取り戻した孝行息子でした。愛する女性はならず者の男と駆け落ちしました。選んだ男が悪かった。彼女の罪はやがて十分すぎる報いを受けることになるだろうとホームズは推理します。

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グロリア・スコット号。囚人船の秘密

こちらがシャーロックホームズがもっとも若い頃に手掛けた最初の事件になります。しかしすでにワトソンとは友人関係を結んでおり、ホームズが自分の最初の事件を回想して語る形になっています。だから必ずしも最初に読むべき本ではありません。

前半の事件は「回想を目に見える現在進行形」で書いてありますが、すべてホームズのセリフの中で行われています。

後半の事件の真相は、「過去を目に見える現在進行形」で書かれていますが、死んだ人からの手紙の形式で書かれています。

ホームズに「探偵になれ」と薦めた友人の父親は殺人の過去があり、それを知る者に脅されていた、という話しです。

語り部の変更の変幻自在さが、コナン・ドイルの文才をまざまざと見せつけてくれます。

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黄色い顔

珍しくホームズが推理ミスしてしまうお話しです。夫と子と死別した女性は再婚したが夫婦仲(白人夫婦)はすごくよかった。ある日、妻は夫に秘密をもつ。ホームズは「元夫を隠し住まわせている」と推理するが、実際には「夫」ではなく「子供」のほうだった。夫は黒人で、娘も黒い子だったため、再婚妻は夫に隠そうとしたのだ。しかし寛大な夫は娘をかわいがることを決意した。ホームズはこの失敗を教訓にすることにしました。

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四つの署名

長編で、二番目に読んでもいいかもしれない作品です。ホームズの謎ときと同時並行して、ワトソンが恋をして、メアリ・モースタン嬢と結婚します。

財宝をめぐる大冒険が、犯人の口から、やはり目の前で見ているように語られます。財宝をわけあおうと誓い合った仲間たちだったが、裏切りがあって財宝を独り占めされていたことから復讐がはじまります。宝を独り占めしようとした男はショックで死に、わけあおうとしない息子は殺されました。

タイトルの四つの署名とは血の約束のことです。その約束をたがえるぐらいなら財宝は捨てた方がマシという結束の証の意味でした。

必死の努力が他人に奪われるならいっそ、と財宝を川にばらまいた犯人。

メアリは金持ちになりそこなったが、おかげでワトソンと結婚することになったのです。

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ゆすりの王様

泥棒になって「ゆすりの王様」邸に忍び込む。目の前で殺人が行われ、ホームズは犯人を知っているが、黙っていることにしました。珍しく現行犯です。目の前でのリアル事件です。

これ(現行犯)をやりすぎると『名探偵コナン』や『金田一少年の事件簿』になってしまいます。「子どもが殺人事件に巻き込まれすぎだっちゅーの」とツッコミが入ります。コナンは死神、金田一は疫病神?

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ボール箱の恐怖

切り取られた耳が送られてくる。妻の姉からのアプローチをフッた男が復讐される。一方で妻は浮気に走っていた。怒った男は浮気現場に殴り込みをかけ、殺して耳を妻の姉に送り付けたのだった。しかし妻の姉は転居しており、もう一人の姉がビックリしてホームズに相談していたというわけ。

「何か目的がなければこの世はただ偶然に支配される場所ってことになってしまう。でもその目的を見つけることができない」と哲学的なことをホームズが言います。

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最後の事件

宿敵モリアーティー教授が登場します。ホームズはモリアーティーの犯罪組織を壊滅させるが、命を狙われて逃亡中です。ワトソンとスイスのライヘンバッハの滝に行くが、そこで一対一の対決をして、両者滝つぼに消えてしまいます。

ホームズは人間の事件よりも、自然が生み出すもっと奥深いところにある問題を研究したいと思うようになっていました。探偵稼業の最後の花に、悪の天才モリアーティーを追放できれば、よろこんで自分の人生に終止符を打ってもいいとさえ考えています。

滝の上部でワトソンは緊急の患者に呼ばれてホームズと引き離されます。戻ると患者はいませんでした。騙されたと知って滝に戻るが、もうホームズはいません。そこには置手紙が残されてました。

「しかし、君に話した通り、ぼくの人生はいずれにしても転機をむかえていた。いっそのこと人生に終止符を打つなら、これ以上ぼくにふさわしい幕切れもないだろう」

史上まれにみる犯罪王と名探偵は、滝つぼの下で永遠に眠ることとなったのです。

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空き家の冒険

変装したホームズが突然姿をあらわします。ホームズはライヘンバッハの滝で死んでいなかったのでした。

命を狙われているので死んだふりをしていただけだったのです。

ホームズの会話の中でモリアーティー教授が生き生きと活躍します。バリツという日本の謎の格闘技でモリアーティーだけを滝つぼに落としたという。

日本人にもわからないバリツって何(笑)?

ホームズは自分を殺そうとしていた相手をつかまえます。モラン大佐はモリアーティーの部下でした。モラン大佐は別件アデア卿殺しの犯人としてホームズの名を表に出すことなく逮捕されました。

ここにホームズは復活したです。

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バスカビル家の犬

ホームズものの中でもっとも人気の高い長編だそうです。呪いの魔犬が現れて莫大な財産のある屋敷の当主が死にます。次の跡取りも命が危険でした。

隣人が実はバスカビル家の相続権利者で、邪魔者を消そうとしていた。妻を妹と偽り近づき、結婚詐欺して騙した女を共犯者にしていた。

大型犬に夜光塗料を塗って魔犬に見せかけていた。古い靴が盗まれたのは犬に匂いを覚えさせるため。

逮捕前に、犯人は沼地に沈んで消えた。

手紙で進行(状況説明)する場面の多い作品です。ワトソンは地の文では「わたし」だが、手紙の中では「ぼく」をつかいます。

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ボヘミア王のスキャンダル

ホームズを出し抜いた聡明な女性アイリーン・アドラーが登場する作品。アイリーンは才気あふれる美女でボヘミア王の恋人だった。ボヘミア国王がみずからベーカー街に依頼に来る。スカンジナビア王女との結婚に、過去の恋愛はスキャンダルになるため「ふたりで撮った写真」を取り返したいボヘミア陛下。写真をスカンジナビア王女に送ると脅迫されている。

アイリーンをつけると突然、弁護士ノートンとの結婚式の立ち合いをやらされる。ニセの火事で最も需要な書類にアイリーンが駆け寄るとにらんだホームズは、写真の在りかを見つけるが、翌日に訪問するともぬけの殻だった。

アイリーンの置手紙。愛する人と結婚し、もう陛下を愛していないので、王女との結婚は邪魔しない、と。

「きっとすばらしい王妃になっていただろうに。身分がつりあわなかったことがほんとうに残念だ」

ホームズは報酬にアイリーンの写真をのぞむ。そしてアイリーンのことを「あのひと」と特別ないい方で呼ぶのだった。自分と対等に渡り合った尊敬すべき相手として。

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ボスコム谷のなぞ

お金持ちが昔山賊で人殺しだったことを知っている者に脅されていた。愛愛の娘まで奪われそうになり殺した。

「なぜ運命は、あわれでかよわい人間に、こんなむごいいたずらをするのだろう」死を目前にしたお金持ちをホームズは見逃す。父親たちの過去をおおう黒い雲のことなどなにひとつ知らぬまま、ふたりの息子と娘は、幸福にむすばれる。

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赤い輪団の秘密

わかりやすくするために、わたしが文法に手を入れて、書き記すことにする。とワトソンが筆者であることを思い知らされる描写があります。

赤い輪団とは裏切りを許さないナポリの秘密結社。夫はそこの団員だったが、妻への愛のために結社を抜けてイギリスへ逃げていたが、追われていた。

通信はSNSがないため新聞の私事広告欄をつかっておこないます。そのためホームズら部外者にまる見えです。ホームズは新聞広告を見るのが仕事のようなものです。自分でも頻繁に広告を出しています。

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フランセス姫の失踪

ホームズは警官ではありません。犯行の謎には興味があるが、犯人逮捕は仕事ではないのです。だから「逃がしてやる」ことも多いし、謎こそ解くが、後の祭りで殺人をとめられないこともよくあります。また法令無視、令状なしで家宅侵入するようなこともよくやります。しかし結局犯人を突き止めて結果オーライとなるパターンです。

二段の棺桶の下にクロロホルムで眠らせ、火葬場で焼き殺そうとしていた。

ホームズの告白は「ブロークン調」です。親しみがもてる存在となっています。告白ゼリフはそれぞれ各人の個性で語られます。

過去の汚点によって、それから逃れるために犯罪に加担する犯行動機のパターンです。

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アベイ荘園の秘密

過去に根っこがある殺人事件の本当の動機は、ホームズにはわかりません。

だから犯行を暴いて、ちょっと脅迫して、真相を告白させます。ホームズさんならこっそり助けてくれるという望みがあるから犯人がすべてを告白してくれるのです。

その告白の中で「現在進行形で見ているように」犯行現場を語るのです。

「考えていた通りでした。あなたが本当のことを言っているのがわかります」

逃がしてあげるというのを、恋人が罪人になるために拒否する。むしろ自分が全ての罪をかぶるという。

「あなたをためしただけです」

そういってホームズは罪を見逃してやります。二人の幸福を祈ります

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マザリンの宝石

バイオリンを弾くとみせかけて、実は最近できた蓄音機という発明品だった。

人形と思われていたのが実際のホームズ。宝石を奪う。

「ここから先は、わたしが後でホームズに聞いたことを書いていくことにする」

とホームズワトソンスタイルを貫く。

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白い顔の兵士

ホームズワトソンスタイルではなく、ホームズ自身が書いている体になっている。

犯人がわかってもすぐには独白しないところは同じ。謎は最後に明かされる。

ハンセン病を見抜いた。謎は隔離だった。

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ライオンのたてがみ

同じくホームズ自身が書いている体裁。ホームズと書くところが「わたし」「ぼく」になっているだけ。外見の様子は描けないのでホームズの描写が減っているのがワトソンスタイルとの違い。

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引退した絵の具屋

ガスのにおいをペンキのにおいでごまかした事件。これまで電報、新聞通信ばかりだったのになんと電話が登場します。

改行、改行でセリフはものすごく長い。

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最後のあいさつ

コナン・ドイルの執筆という意味では本当の最終作(真夜中の納骨堂)ではないが、実質的な最終作です。『最後のあいさつ』が実質的な最終作品です。ホームズは1903年49歳で探偵引退します。死んだりしません。

これまで馬車ばかりだったのになんと自動車技師が登場します。時代は変わるのです。

珍しく三人称小説です。ホームズワトソンスタイルをとらなかった理由は、とつぜんホームズが現れることで、ワトソン(読者)を驚かせたかったからです。

ホームズ自身が変装してひとりで事件を解決するためです。相棒のワトソン抜きでしたし、ホームズが語り部ではホームズの変そう・なりすましが成立しなくなってしまいます。

本件はイギリス首相の依頼でした。しかし作者はシャーロック・ホームズの自発的な仕事にしたかったのでしょう。

ドイツとの開戦前のスパイ合戦の話しです。最後の物語だけあってアイリーンアドラーやモリアーティー教授の名前が登場します。

ホームズ最後の仕事です。自分の意志で、イギリスのためにホームズは働きます。

海から東の風が吹いてくる。第一次世界大戦を暗示して物語は終了します。

人類は、殺人事件を解決する探偵ではなく、国家と人種が争う世界戦争を解決する知恵を必要とするようになっていったのです。

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まるで実在の人物であるかのような不滅の名探偵

「アイリーン・アドラーと今は亡きボヘミア王との仲を裂いたのがぼくでした」

『最後のあいさつ』でホームズはいいます。しかしこれはおかしいのです。アイリーンは新しい恋人ができて、元恋人のボヘミア王から自分の意志で去っていったのです。

なのにどうしてホームズは自分が仲を裂いたと言ったのでしょうか?

アイリーン・アドラーの結婚は(比較的公平なはずの)語り部のワトソンが目撃したものではなく、ホームズが語りの中でそういっただけであること(推理の都合上、ホームズはワトソンを騙すことがよくある)から、ホームズもののパスティーシュ(模倣)作品の中ではシャーロック・ホームズはアイリーン・アドラーと結婚し、子どもまでいるという作品があるそうです。

わたしはロンドンを観光旅行したことがありますが、ツアーバスのガイドさんに「シャーロック・ホームズが住んでいたのはあのあたりです」といわれて「へええ。そうなんだ」と食い入るようにベーカー街を見つめたことを思い出しました。「その住所」には今でもホームズ宛の手紙が届くのだそうです。

架空のキャラクターなのに、まるで生きている人物のように今も愛され続けている不滅の名探偵、それがシャーロック・ホームズなのです。

×   ×   ×   ×   ×   × 

このブログの著者が執筆した純文学小説です。

「かけがえがないなんてことが、どうして言えるだろう。むしろ、こういうべきだった。その人がどんな生き方をしたかで、まわりの人間の人生が変わる、だから人は替えがきかない、と」

「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」

本作は小説『ツバサ』の後半部分にあたるものです。アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。

https://amzn.to/3PZ4985

×   ×   ×   ×   ×   × 

物語のあらすじを述べることについての私の考えはこちらをご覧ください。

物語のあらすじを紹介することについて
あらすじを読んで面白そうと思ったら、実際に照会している作品を手に取って読んでみてください。ガイドブックを読むだけでなく、実際の、本当の旅をしてください。そのためのイントロダクション・ガイダンスが、私の書評にできたらいいな、と思っています。

私は反あらすじ派です。作品のあらすじ、主題はあんがい単純なものです。要約すればたった数行で作者の言いたかった趣旨は尽きてしまいます。世の中にはたくさんの物語がありますが、主役のキャラクター、ストーリーは違っても、要約した趣旨は同じようなものだったりします。

たいていの物語は、主人公が何かを追いかけるか、何かから逃げる話しですよね? 生まれ、よろこび、苦しみ、死んでいく話のはずです。あらすじは短くすればするほど、どの物語も同じものになってしまいます。だったら何のためにたくさんの物語があるのでしょうか。

あらすじや要約した主題からは何も生まれません。観念的な言葉で語らず、血の通った物語にしたことで、作品は生命を得て、主題以上のものになるのです。

作品のあらすじを知って、それで読んだ気にならないでください。作品の命はそこにはないのです。

人間描写のおもしろさ、つまり小説力があれば、どんなあらすじだって面白く書けるし、それがなければ、どんなあらすじだってつまらない作品にしかなりません。

しかしあらすじ(全体地図)を知った上で、自分がどのあたりにいるのか(現在位置)を確認しつつ読書することを私はオススメしています。

作品のあらすじや主題の紹介は、そのように活用してください。

偉そうに? どうして無名の一般市民が世界史に残る文豪・偉人を上から目線で批評・批判できるのか?
認識とか、発想とかで、人生はそう変わりません。だから相手が世界的文豪でも、しょせんは年下の小僧の書いた認識に対して、おまえはわかってないなあ、と言えてしまうのです。それが年上だということです。涅槃(死。悟りの境地)に近いということなのです。
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サハラ砂漠で大ジャンプする著者
【この記事を書いている人】

アリクラハルト。物書き。トウガラシ実存主義、新狩猟採集民族、遊民主義の提唱者。心の放浪者。市民ランナーのグランドスラムの達成者(マラソン・サブスリー。100kmサブ10。富士登山競争登頂)。山と渓谷社ピープル・オブ・ザ・イヤー選出歴あり。ソウル日本人学校出身の帰国子女。早稲田大学卒業。日本脚本家連盟修了生。放浪の旅人。大西洋上をのぞき世界一周しています。千葉県在住。

【この記事を書いている人】
アリクラハルト。物書き。トウガラシ実存主義、新狩猟採集民族、遊民主義の提唱者。心の放浪者。市民ランナーのグランドスラムの達成者(マラソン・サブスリー。100kmサブ10。富士登山競争登頂)。山と渓谷社ピープル・オブ・ザ・イヤー選出歴あり。ソウル日本人学校出身の帰国子女。早稲田大学卒業。日本脚本家連盟修了生。放浪の旅人。大西洋上をのぞき世界一周しています。千葉県在住。
●◎このブログの著者の書籍『市民ランナーという走り方』◎●
書籍『市民ランナーという走り方』Amazonにて発売中
雑誌『ランナーズ』のライターだった筆者が贈る『市民ランナーという走り方』。 「コーチのひとことで私のランニングは劇的に進化しました」エリートランナーがこう言っているのを聞くことがあります。市民ランナーはこのような奇跡を体験することはできないのでしょうか? いいえ。できます。そのために書かれた本が本書『市民ランナーという走り方』。ランニングフォームをつくるための脳内イメージワードによって速く走れるようになるという新メソッドを本書では提唱しています。「言葉の力によって速くなる」という本書の新理論によって、あなたのランニングを進化させ、現状打破、自己ベストの更新、そして市民ランナーの三冠・グランドスラム(マラソン・サブスリー。100km・サブテン。富士登山競争のサミッター)を達成するのをサポートします。 ●言葉の力で速くなる「動的バランス走法」「ヘルメスの靴」「アトムのジェット走法」って何? ●絶対にやってはいけない「スクワット走法」とはどんなフォーム? ●ピッチ走法とストライド走法、どちらで走るべきなのか? ●ストライドを伸ばすための「ハサミは両方に開かれる走法」って何? ●マラソンの極意「複数のフォームを使い回せ」とは? ●究極の走り方「あなたの走り方は、あなたの肉体に聞け」の本当の意味は? 本書を読めば、言葉のもつイメージ喚起力で、フォームが効率化・最適化されて、同じトレーニング量でも速く効率的に走ることができるようになります。 ※カルペ・ディエム。この本は「ハウツーランニング」の体裁をした市民ランナーという生き方に関する本です。 あなたはどうして走るのですか? あなたよりも速く走る人はいくらでもいるというのに。市民ランナーがなぜ走るのか、本書では一つの答えを提示しています。
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●◎このブログ著者の書籍『通勤自転車から始めるロードバイク生活』◎●
書籍『通勤自転車から始めるロードバイク生活』
この本は勤務先の転勤命令によってロードバイク通勤をすることになった筆者が、趣味のロードバイク乗りとなり、やがてホビーレーサーとして仲間たちとスピードを競うようになるところまでを描いたエッセイ集です。 その過程で、ママチャリのすばらしさを再認識したり、どうすれば速く効率的に走れるようになるのかに知恵をしぼったり、ロードレースは団体競技だと思い知ったり、自転車の歴史と出会ったりしました。 ●自転車通勤における四重苦とは何か? ●ロードバイクは屋外で保管できるのか? ●ロードバイクに名前をつける。 ●通勤レースのすすめ。 ●軽いギアをクルクル回すという理論のウソ。 ●ロードバイク・クラブの入り方。嫌われない作法。 などロードバイクの初心者から上級者まで対応する本となっています。
Bitly
書籍『通勤自転車から始めるロードバイク生活』
この本は勤務先の転勤命令によってロードバイク通勤をすることになった筆者が、趣味のロードバイク乗りとなり、やがてホビーレーサーとして仲間たちとスピードを競うようになるところまでを描いたエッセイ集です。 その過程で、ママチャリのすばらしさを再認識したり、どうすれば速く効率的に走れるようになるのかに知恵をしぼったり、ロードレースは団体競技だと思い知ったり、自転車の歴史と出会ったりしました。 ●自転車通勤における四重苦とは何か? ●ロードバイクは屋外で保管できるのか? ●ロードバイクに名前をつける。 ●通勤レースのすすめ。 ●軽いギアをクルクル回すという理論のウソ。 ●ロードバイク・クラブの入り方。嫌われない作法。 などロードバイクの初心者から上級者まで対応する本となっています。
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●◎このブログ著者の小説『ツバサ』◎●
小説『ツバサ』
主人公ツバサは小劇団の役者です。 「演技のメソッドとして、自分の過去の類似感情を呼び覚まして芝居に再現させるという方法がある。たとえば飼い犬が死んだときのことを思い出しながら、祖母が死んだときの芝居をしたりするのだ。自分が実生活で泣いたり怒ったりしたことを思いだして演技をする、そうすると迫真の演技となり観客の共感を得ることができる。ところが呼び覚ましたリアルな感情が濃密であればあるほど、心が当時の錯乱した思いに掻き乱されてしまう。その当時の感覚に今の現実がかき乱されてしまうことがあるのだ」 恋人のアスカと結婚式を挙げたのは、結婚式場のモデルのアルバイトとしてでした。しかし母の祐希とは違った結婚生活が自分には送れるのではないかという希望がツバサの胸に躍ります。 「ハッピーな人はもっと更にどんどんハッピーになっていってるというのに、どうして決断をしないんだろう。そんなにボンヤリできるほど人生は長くはないはずなのに。たくさん愛しあって、たくさん楽しんで、たくさんわかちあって、たくさん感動して、たくさん自分を謳歌して、たくさん自分を向上させなきゃならないのに。ハッピーな人達はそういうことを、同じ時間の中でどんどん積み重ねていっているのに、なんでわざわざ大切な時間を暗いもので覆うかな」 アスカに恋をしているのは確かでしたが、すべてを受け入れることができません。かつてアスカは不倫の恋をしていて、その体験が今の自分をつくったと感じています。それに対してツバサの母は不倫の恋の果てに、みずから命を絶ってしまったのです。 「そのときは望んでいないことが起きて思うようにいかずとても悲しんでいても、大きな流れの中では、それはそうなるべきことがらであって、結果的にはよい方向への布石だったりすることがある。そのとき自分が必死にその結果に反するものを望んでも、事態に否決されて、どんどん大きな力に自分が流されているなあと感じるときがあるんだ」 ツバサは幼いころから愛読していたミナトセイイチロウの作品の影響で、独特のロマンの世界をもっていました。そのロマンのゆえに劇団の主宰者キリヤに認められ、芝居の脚本をまかされることになります。自分に人を感動させることができる何かがあるのか、ツバサは思い悩みます。同時に友人のミカコと一緒に、インターネット・サイバーショップを立ち上げます。ブツを売るのではなくロマンを売るというコンセプトです。 「楽しい、うれしい、といった人間の明るい感情を掘り起こして、その「先」に到達させてあげるんだ。その到達を手伝う仕事なんだよ。やりがいのあることじゃないか」 惚れているけれど、受け入れられないアスカ。素直になれるけれど、惚れていないミカコ。三角関係にツバサはどう決着をつけるのでしょうか。アスカは劇団をやめて、精神科医になろうと勉強をしていました。心療内科の手法をツバサとの関係にも持ち込んで、すべてのトラウマを話して、ちゃんと向き合ってくれと希望してきます。自分の不倫は人生を決めた圧倒的な出来事だと認識しているのに、ツバサの母の不倫、自殺については、分類・整理して心療内科の一症例として片付けようとするアスカの態度にツバサは苛立ちます。つねに自分を無力と感じさせられるつきあいでした。人と人との相性について、ツバサは考えつづけます。そんな中、恋人のアスカはツバサのもとを去っていきました。 「離れたくない。離れたくない。何もかもが消えて、叫びだけが残った。離れたくない。その叫びだけが残った。全身が叫びそのものになる。おれは叫びだ」 劇団の主宰者であるキリヤに呼び出されて、離婚話を聞かされます。不倫の子として父を知らずに育ったツバサは、キリヤの妻マリアの不倫の話しに、自分の生い立ちを重ねます。 「どんな喜びも苦難も、どんなに緻密に予測、計算しても思いもかけない事態へと流れていく。喜びも未知、苦しみも未知、でも冒険に向かう同行者がワクワクしてくれたら、おれも楽しく足どりも軽くなるけれど、未知なる苦難、苦境のことばかり思案して不安がり警戒されてしまったら、なんだかおれまでその冒険に向かうよろこびや楽しさを見失ってしまいそうになる……冒険でなければ博打といってもいい。愛は博打だ。人生も」 ツバサの母は心を病んで自殺してしまっていました。 「私にとって愛とは、一緒に歩んでいってほしいという欲があるかないか」 ツバサはミカコから思いを寄せられます。しかし「結婚が誰を幸せにしただろうか?」とツバサは感じています。 「不倫って感情を使いまわしができるから。こっちで足りないものをあっちで、あっちで満たされないものをこっちで補うというカラクリだから、判断が狂うんだよね。それが不倫マジックのタネあかし」 「愛する人とともに歩んでいくことでひろがっていく自分の中の可能性って、決してひとりでは辿りつけない境地だと思うの。守る人がいるうれしさ、守られている安心感、自信。妥協することの意味、共同生活のぶつかり合い、でも逆にそれを楽しもうという姿勢、つかず離れずに……それを一つ屋根の下で行う楽しさ。全く違う人間同士が一緒に人生を作っていく面白味。束縛し合わないで時間を共有したい……けれどこうしたことも相手が同じように思っていないと実現できない」 尊敬する作家、ミナトセイイチロウの影響を受けてツバサは劇団で上演する脚本を書きあげましたが、芝居は失敗してしまいました。引退するキリヤから一人の友人を紹介されます。なんとその友人はミナトでした。そこにアスカが妊娠したという情報が伝わってきました。それは誰の子なのでしょうか? 真実は藪の中。証言が食い違います。誰かが嘘をついているはずです。認識しているツバサ自身が狂っていなければ、の話しですが……。 「妻のことが信頼できない。そうなったら『事実』は関係ないんだ」 そう言ったキリヤの言葉を思い出し、ツバサは真実は何かではなく、自分が何を信じるのか、を選びます。アスカのお腹の中の子は、昔の自分だと感じていました。死に際のミナトからツバサは病院に呼び出されます。そして途中までしか書いていない最後の原稿を託されます。ミナトの最後の小説を舞台上にアレンジしたものをツバサは上演します。客席にはミナトが、アスカが、ミカコが見てくれていました。生きることへの恋を書き上げた舞台は成功し、ツバサはミナトセイイチロウの後を継ぐことを決意します。ミナトから最後の作品の続きを書くように頼まれて、ツバサは地獄のような断崖絶壁の山に向かいます。 「舞台は変えよう。ミナトの小説からは魂だけを引き継ぎ、おれの故郷を舞台に独自の世界を描こう。自分の原風景を描いてみよう。目をそむけ続けてきた始まりの物語のことを。その原風景からしか、おれの本当の心の叫びは表現できない」 そこでミナトの作品がツバサの母と自分の故郷のことを書いていると悟り、自分のすべてを込めて作品を引きついて書き上げようとするのでした。 「おまえにその跡を引き継ぐ資格があるのか? 「ある」自分の中にその力があることをはっきりと感じていた。それはおれがあの人の息子だからだ。おれにはおれだけの何かを込めることができる。父の遺産のその上に」 そこにミカコから真相を告げる手紙が届いたのでした。 「それは言葉として聞いただけではその本当の意味を知ることができないこと。体験し、自分をひとつひとつ積み上げ、愛においても人生においても成功した人でないとわからない法則」 「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」
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小説『ツバサ』
主人公ツバサは小劇団の役者です。 「演技のメソッドとして、自分の過去の類似感情を呼び覚まして芝居に再現させるという方法がある。たとえば飼い犬が死んだときのことを思い出しながら、祖母が死んだときの芝居をしたりするのだ。自分が実生活で泣いたり怒ったりしたことを思いだして演技をする、そうすると迫真の演技となり観客の共感を得ることができる。ところが呼び覚ましたリアルな感情が濃密であればあるほど、心が当時の錯乱した思いに掻き乱されてしまう。その当時の感覚に今の現実がかき乱されてしまうことがあるのだ」 恋人のアスカと結婚式を挙げたのは、結婚式場のモデルのアルバイトとしてでした。しかし母の祐希とは違った結婚生活が自分には送れるのではないかという希望がツバサの胸に躍ります。 「ハッピーな人はもっと更にどんどんハッピーになっていってるというのに、どうして決断をしないんだろう。そんなにボンヤリできるほど人生は長くはないはずなのに。たくさん愛しあって、たくさん楽しんで、たくさんわかちあって、たくさん感動して、たくさん自分を謳歌して、たくさん自分を向上させなきゃならないのに。ハッピーな人達はそういうことを、同じ時間の中でどんどん積み重ねていっているのに、なんでわざわざ大切な時間を暗いもので覆うかな」 アスカに恋をしているのは確かでしたが、すべてを受け入れることができません。かつてアスカは不倫の恋をしていて、その体験が今の自分をつくったと感じています。それに対してツバサの母は不倫の恋の果てに、みずから命を絶ってしまったのです。 「そのときは望んでいないことが起きて思うようにいかずとても悲しんでいても、大きな流れの中では、それはそうなるべきことがらであって、結果的にはよい方向への布石だったりすることがある。そのとき自分が必死にその結果に反するものを望んでも、事態に否決されて、どんどん大きな力に自分が流されているなあと感じるときがあるんだ」 ツバサは幼いころから愛読していたミナトセイイチロウの作品の影響で、独特のロマンの世界をもっていました。そのロマンのゆえに劇団の主宰者キリヤに認められ、芝居の脚本をまかされることになります。自分に人を感動させることができる何かがあるのか、ツバサは思い悩みます。同時に友人のミカコと一緒に、インターネット・サイバーショップを立ち上げます。ブツを売るのではなくロマンを売るというコンセプトです。 「楽しい、うれしい、といった人間の明るい感情を掘り起こして、その「先」に到達させてあげるんだ。その到達を手伝う仕事なんだよ。やりがいのあることじゃないか」 惚れているけれど、受け入れられないアスカ。素直になれるけれど、惚れていないミカコ。三角関係にツバサはどう決着をつけるのでしょうか。アスカは劇団をやめて、精神科医になろうと勉強をしていました。心療内科の手法をツバサとの関係にも持ち込んで、すべてのトラウマを話して、ちゃんと向き合ってくれと希望してきます。自分の不倫は人生を決めた圧倒的な出来事だと認識しているのに、ツバサの母の不倫、自殺については、分類・整理して心療内科の一症例として片付けようとするアスカの態度にツバサは苛立ちます。つねに自分を無力と感じさせられるつきあいでした。人と人との相性について、ツバサは考えつづけます。そんな中、恋人のアスカはツバサのもとを去っていきました。 「離れたくない。離れたくない。何もかもが消えて、叫びだけが残った。離れたくない。その叫びだけが残った。全身が叫びそのものになる。おれは叫びだ」 劇団の主宰者であるキリヤに呼び出されて、離婚話を聞かされます。不倫の子として父を知らずに育ったツバサは、キリヤの妻マリアの不倫の話しに、自分の生い立ちを重ねます。 「どんな喜びも苦難も、どんなに緻密に予測、計算しても思いもかけない事態へと流れていく。喜びも未知、苦しみも未知、でも冒険に向かう同行者がワクワクしてくれたら、おれも楽しく足どりも軽くなるけれど、未知なる苦難、苦境のことばかり思案して不安がり警戒されてしまったら、なんだかおれまでその冒険に向かうよろこびや楽しさを見失ってしまいそうになる……冒険でなければ博打といってもいい。愛は博打だ。人生も」 ツバサの母は心を病んで自殺してしまっていました。 「私にとって愛とは、一緒に歩んでいってほしいという欲があるかないか」 ツバサはミカコから思いを寄せられます。しかし「結婚が誰を幸せにしただろうか?」とツバサは感じています。 「不倫って感情を使いまわしができるから。こっちで足りないものをあっちで、あっちで満たされないものをこっちで補うというカラクリだから、判断が狂うんだよね。それが不倫マジックのタネあかし」 「愛する人とともに歩んでいくことでひろがっていく自分の中の可能性って、決してひとりでは辿りつけない境地だと思うの。守る人がいるうれしさ、守られている安心感、自信。妥協することの意味、共同生活のぶつかり合い、でも逆にそれを楽しもうという姿勢、つかず離れずに……それを一つ屋根の下で行う楽しさ。全く違う人間同士が一緒に人生を作っていく面白味。束縛し合わないで時間を共有したい……けれどこうしたことも相手が同じように思っていないと実現できない」 尊敬する作家、ミナトセイイチロウの影響を受けてツバサは劇団で上演する脚本を書きあげましたが、芝居は失敗してしまいました。引退するキリヤから一人の友人を紹介されます。なんとその友人はミナトでした。そこにアスカが妊娠したという情報が伝わってきました。それは誰の子なのでしょうか? 真実は藪の中。証言が食い違います。誰かが嘘をついているはずです。認識しているツバサ自身が狂っていなければ、の話しですが……。 「妻のことが信頼できない。そうなったら『事実』は関係ないんだ」 そう言ったキリヤの言葉を思い出し、ツバサは真実は何かではなく、自分が何を信じるのか、を選びます。アスカのお腹の中の子は、昔の自分だと感じていました。死に際のミナトからツバサは病院に呼び出されます。そして途中までしか書いていない最後の原稿を託されます。ミナトの最後の小説を舞台上にアレンジしたものをツバサは上演します。客席にはミナトが、アスカが、ミカコが見てくれていました。生きることへの恋を書き上げた舞台は成功し、ツバサはミナトセイイチロウの後を継ぐことを決意します。ミナトから最後の作品の続きを書くように頼まれて、ツバサは地獄のような断崖絶壁の山に向かいます。 「舞台は変えよう。ミナトの小説からは魂だけを引き継ぎ、おれの故郷を舞台に独自の世界を描こう。自分の原風景を描いてみよう。目をそむけ続けてきた始まりの物語のことを。その原風景からしか、おれの本当の心の叫びは表現できない」 そこでミナトの作品がツバサの母と自分の故郷のことを書いていると悟り、自分のすべてを込めて作品を引きついて書き上げようとするのでした。 「おまえにその跡を引き継ぐ資格があるのか? 「ある」自分の中にその力があることをはっきりと感じていた。それはおれがあの人の息子だからだ。おれにはおれだけの何かを込めることができる。父の遺産のその上に」 そこにミカコから真相を告げる手紙が届いたのでした。 「それは言葉として聞いただけではその本当の意味を知ることができないこと。体験し、自分をひとつひとつ積み上げ、愛においても人生においても成功した人でないとわからない法則」 「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」
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読書家が選ぶ死ぬまでに読むべきおすすめの名作文学 私的世界の十大小説
読書家が選ぶ死ぬまでに読むべきおすすめの名作文学 私的世界の十大小説
×   ×   ×   ×   ×   ×  (本文より)知りたかった文学の正体がわかった! かつてわたしは文学というものに過度な期待をしていました。世界一の小説、史上最高の文学には、人生観を変えるような力があるものと思いこんでいました。ふつうの人が知り得ないような深淵の知恵が描かれていると信じていました。文学の正体、それが私は知りたかったのです。読書という心の旅をしながら、私は書物のどこかに「隠されている人生の真理」があるのではないかと探してきました。たとえば聖書やお経の中に。玄奘が大乗のお経の中に人を救うための真実が隠されていると信じていたように。 しかし聖書にもお経にも世界的文学の中にも、そんなものはありませんでした。 世界的傑作とされるトルストイ『戦争と平和』を読み終わった後に、「ああ、これだったのか! 知りたかった文学の正体がわかった!」と私は感じたことがありました。最後にそのエピソードをお話ししましょう。 すべての物語を終えた後、最後に作品のテーマについて、トルストイ本人の自作解題がついていました。長大な物語は何だったのか。どうしてトルストイは『戦争と平和』を書いたのか、何が描きたかったのか、すべてがそこで明らかにされています。それは、ナポレオンの戦争という歴史的な事件に巻き込まれていく人々を描いているように見えて、実は人々がナポレオンの戦争を引き起こしたのだ、という逆説でした。 『戦争と平和』のメインテーマは、はっきりいってたいした知恵ではありません。通いなれた道から追い出されると万事休すと考えがちですが、実はその時はじめて新しい善いものがはじまるのです。命ある限り、幸福はあります——これが『戦争と平和』のメインテーマであり、戦争はナポレオンの意志が起こしたものではなく、時代のひとりひとりの決断の結果起こったのだ、というのが、戦争に関する考察でした。最高峰の文学といっても、たかがその程度なのです。それをえんえんと人間の物語を語り継いだ上で語っているだけなのでした。 その時ようやく文学の正体がわかりました。この世の深淵の知恵を見せてくれる魔術のような書なんて、そんなものはないのです。ストーリーをえんえんと物語った上で、さらりと述べるあたりまえの結論、それが文学というものの正体なのでした。
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読書家が選ぶ死ぬまでに読むべきおすすめの名作文学 私的世界の十大小説
×   ×   ×   ×   ×   ×  (本文より)知りたかった文学の正体がわかった! かつてわたしは文学というものに過度な期待をしていました。世界一の小説、史上最高の文学には、人生観を変えるような力があるものと思いこんでいました。ふつうの人が知り得ないような深淵の知恵が描かれていると信じていました。文学の正体、それが私は知りたかったのです。読書という心の旅をしながら、私は書物のどこかに「隠されている人生の真理」があるのではないかと探してきました。たとえば聖書やお経の中に。玄奘が大乗のお経の中に人を救うための真実が隠されていると信じていたように。 しかし聖書にもお経にも世界的文学の中にも、そんなものはありませんでした。 世界的傑作とされるトルストイ『戦争と平和』を読み終わった後に、「ああ、これだったのか! 知りたかった文学の正体がわかった!」と私は感じたことがありました。最後にそのエピソードをお話ししましょう。 すべての物語を終えた後、最後に作品のテーマについて、トルストイ本人の自作解題がついていました。長大な物語は何だったのか。どうしてトルストイは『戦争と平和』を書いたのか、何が描きたかったのか、すべてがそこで明らかにされています。それは、ナポレオンの戦争という歴史的な事件に巻き込まれていく人々を描いているように見えて、実は人々がナポレオンの戦争を引き起こしたのだ、という逆説でした。 『戦争と平和』のメインテーマは、はっきりいってたいした知恵ではありません。通いなれた道から追い出されると万事休すと考えがちですが、実はその時はじめて新しい善いものがはじまるのです。命ある限り、幸福はあります——これが『戦争と平和』のメインテーマであり、戦争はナポレオンの意志が起こしたものではなく、時代のひとりひとりの決断の結果起こったのだ、というのが、戦争に関する考察でした。最高峰の文学といっても、たかがその程度なのです。それをえんえんと人間の物語を語り継いだ上で語っているだけなのでした。 その時ようやく文学の正体がわかりました。この世の深淵の知恵を見せてくれる魔術のような書なんて、そんなものはないのです。ストーリーをえんえんと物語った上で、さらりと述べるあたりまえの結論、それが文学というものの正体なのでした。
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◎このブログの著者の随筆『帰国子女が語る第二の故郷 愛憎の韓国ソウル』
随筆『帰国子女が語る第二の故郷 愛憎の韓国ソウル』

旅人が気に入った場所を「第二の故郷のような気がする」と言ったりしますが、私にとってそれは韓国ソウルです。帰国子女として人格形成期をソウルで過ごした私は、自分を運命づけた数々の出来事と韓国ソウルを切り離して考えることができません。無関係になれないのならば、いっそ真正面から取り組んでやれ、と思ったのが本書を出版する動機です。

私の第二の故郷、韓国ソウルに対する感情は単純に好きというだけではありません。だからといって嫌いというわけでもなく……たとえて言えば「無視したいけど、無視できない気になる女」みたいな感情を韓国にはもっています。

【本書の内容】
●ソウル日本人学校の学力レベルと卒業生の進路。韓国語習得
●韓国人が日本を邪魔だと思うのは地政学上、ある程度やむをえないと理解してあげる
●関東大震災直後の朝鮮人虐殺事件
●僕は在日韓国人です。ナヌン・キョッポニダ。生涯忘れられない言葉
●日本人にとって韓国語はどれほど習得しやすい言語か
●『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』南北統一・新韓国は核ミサイルを手放すだろうか?
●天皇制にこそ、ウリジナルを主張すればいいのに
●「失われた時を求めて」プルースト効果を感じる地上唯一の場所
●韓国帰りの帰国子女の人生論「トウガラシ実存主義」人間の歌を歌え

韓国がえりの帰国子女だからこそ書けた「ほかの人には書けないこと」が本書にはたくさん書いてあります。私の韓国に対する思いは、たとえていえば「面倒見のよすぎる親を煙たく思う子供の心境」に近いものがあります。感謝はしているんだけどあまり近づきたくない。愛情はあるけど好きじゃないというような、複雑な思いを描くのです。

「近くて遠い国」ではなく「近くて近い国」韓国ソウルを、ソウル日本人学校出身の帰国子女が語り尽くします。

帰国子女は、第二の故郷に対してどのような心の決着をつけたのでしょうか。最後にどんな人生観にたどり着いたのでしょうか。

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随筆『帰国子女が語る第二の故郷 愛憎の韓国ソウル』

旅人が気に入った場所を「第二の故郷のような気がする」と言ったりしますが、私にとってそれは韓国ソウルです。帰国子女として人格形成期をソウルで過ごした私は、自分を運命づけた数々の出来事と韓国ソウルを切り離して考えることができません。無関係になれないのならば、いっそ真正面から取り組んでやれ、と思ったのが本書を出版する動機です。

私の第二の故郷、韓国ソウルに対する感情は単純に好きというだけではありません。だからといって嫌いというわけでもなく……たとえて言えば「無視したいけど、無視できない気になる女」みたいな感情を韓国にはもっています。

【本書の内容】
●ソウル日本人学校の学力レベルと卒業生の進路。韓国語習得
●韓国人が日本を邪魔だと思うのは地政学上、ある程度やむをえないと理解してあげる
●関東大震災直後の朝鮮人虐殺事件
●僕は在日韓国人です。ナヌン・キョッポニダ。生涯忘れられない言葉
●日本人にとって韓国語はどれほど習得しやすい言語か
●『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』南北統一・新韓国は核ミサイルを手放すだろうか?
●天皇制にこそ、ウリジナルを主張すればいいのに
●「失われた時を求めて」プルースト効果を感じる地上唯一の場所
●韓国帰りの帰国子女の人生論「トウガラシ実存主義」人間の歌を歌え

韓国がえりの帰国子女だからこそ書けた「ほかの人には書けないこと」が本書にはたくさん書いてあります。私の韓国に対する思いは、たとえていえば「面倒見のよすぎる親を煙たく思う子供の心境」に近いものがあります。感謝はしているんだけどあまり近づきたくない。愛情はあるけど好きじゃないというような、複雑な思いを描くのです。

「近くて遠い国」ではなく「近くて近い国」韓国ソウルを、ソウル日本人学校出身の帰国子女が語り尽くします。

帰国子女は、第二の故郷に対してどのような心の決着をつけたのでしょうか。最後にどんな人生観にたどり着いたのでしょうか。

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●◎このブログ著者の書籍『軍事ブロガーとロシア・ウクライナ戦争』◎●
書籍『軍事ブロガーとロシア・ウクライナ戦争』
戦史に詳しいブロガーが書き綴ったロシア・ウクライナ戦争についての提言 『軍事ブロガーとロシア・ウクライナ戦争』 ●プーチンの政策に影響をあたえるという軍事ブロガーとは何者なのか? ●文化的には親ロシアの日本人がなぜウクライナ目線で戦争を語るのか? ●日本の特攻モーターボート震洋と、ウクライナの水上ドローン。 ●戦争の和平案。買戻し特約をつけた「領土売買」で解決できるんじゃないか? ●結末の見えない現在進行形の戦争が考えさせる「可能性の記事」。 「紅旗征戎吾ガ事ニ非ズ」を信条にする筆者が渾身の力で戦争を斬る! ひとりひとりが自分の暮らしを命がけで大切にすること。それが人類共通のひとつの価値観をつくりあげます。人々の暮らしを邪魔する行動は人類全体に否決される。いつの日かそんな日が来るのです。本書はその一里塚です。
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書籍『軍事ブロガーとロシア・ウクライナ戦争』
戦史に詳しいブロガーが書き綴ったロシア・ウクライナ戦争についての提言 『軍事ブロガーとロシア・ウクライナ戦争』 ●プーチンの政策に影響をあたえるという軍事ブロガーとは何者なのか? ●文化的には親ロシアの日本人がなぜウクライナ目線で戦争を語るのか? ●日本の特攻モーターボート震洋と、ウクライナの水上ドローン。 ●戦争の和平案。買戻し特約をつけた「領土売買」で解決できるんじゃないか? ●結末の見えない現在進行形の戦争が考えさせる「可能性の記事」。 「紅旗征戎吾ガ事ニ非ズ」を信条にする筆者が渾身の力で戦争を斬る! ひとりひとりが自分の暮らしを命がけで大切にすること。それが人類共通のひとつの価値観をつくりあげます。人々の暮らしを邪魔する行動は人類全体に否決される。いつの日かそんな日が来るのです。本書はその一里塚です。
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