『魔術師』サマセット・モーム

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旅人にとって避けて通れない作家の一人が文豪サマセット・モーム。

南洋もの、と呼ばれるオリエンタル趣味の作品をたくさん書いた作家だ。

ここではそのモームの長編『魔術師』について書いている。

読み方のコツ、注意すべきところなどを紹介して、みなさまを読書の世界にご招待したい。

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原題は『The Magician』。名訳タイトルは引き継がれる

原題は『The Magician』。マジシャンである。手品師、と訳さなかったところが偉いね。

本当は『小さな王子さま』なのを『星の王子さま』と誰かが訳したものが連綿と引き継がれるように、いい訳のタイトルは連綿と引き継がれるものであろうか。

『星の王子さま』サン=テクジュペリ
美女は他にも山ほどいます。それなのに自分の恋人だけがどうして特別だと言えるだろうか。女房だけが女じゃないと気づいてしまったら、あなたならどうしますか? ここではサンテクジュペリ作『星の王子さま』を通じて、友情や愛の秘密について...

内容的には『黒魔導士』とかいう訳でもよさそうなものである。しかし今後もずっと『魔術師』と訳されるであろう。

主要登場人物は5人しかいないのでわりと読みやすい。

魔術師オリヴァ・ハドゥー。恋敵のアーサー。

そしてヒロインのマーガレット。マーガレットの友人スージー。

黒魔術に通じる年長のボロエ博士。

以上5人である。

『魔術師』は作品自体や、書き手のサマセット・モームよりも、魔術師オリヴァ・ハドゥーのモデルになったアレスター・クロウリーを中心に語られることが多いのが特徴である。

太田牛一が『信長公記』を書いているのだが、書かれている織田信長ばかり注目されてしまうようなものだ。

オカルトというカルトの教祖的存在であるアレスター・クロウリーは謎に満ちた実在の人物であり、彼のカリスマ性にすこしでも触れたい人が渉猟する書物の中に『魔術師』が必ず入っているようだ。

糸井重里矢沢永吉のことを構成した『成りあがり』の方が、作品の置かれた立場は近いかもしれない。

私はサマセット・モームの線からこの本にたどり着いているが、この本にたどり着くには、モーム・ラインとクロウリー・ラインの二つのラインがあるようだ。

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『魔術師』のあらすじ

ストーリーもそんなに複雑ではないので読みやすい。

物語のあらすじを紹介することについて
あらすじは地図のようなものです。読書のだいご味はディテイルにあります。文学にはあなたが感じたけれどうまく表現できなかった思いが表現されているはずです。あらすじを手に、原著に当たってください

(あらすじ)

アーサーに恨みをもったハドゥーが婚約者マーガレットを奪い取ってしまう。復讐に燃えるアーサーはハドゥーを絞め殺すが死体は影のように消えてしまった。ハドゥーの研究室で見たものは人造人間ホムンクルス(醜悪な人間のできそこない)と絞殺されたハドゥーの遺体であった。

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感想

アーサーに恨みをもったハドゥーが美女マーガレットにちょっかいを出しはじめたあたりで、きっとマーガレットはハドゥーの悪の魅力に虜になってアーサーを捨ててしまうのだろうな、と思った。

モームの『月と六ペンス』のことを思い出したからである。あの作品でもヒロインの人妻は、お世話をするために家にあげたストリックランド(ポール・ゴーギャンがモデル)に身も心も奪われて夫を捨ててしまうのだ。

そして最後には悪魔のような芸術家の主人公にボロボロにされて捨てられてしまうところも共通している。

同じ作家だから同じような展開になるのはしょうがないというか、お家芸というか、予想通りというか、期待通りというか。

予想したとおりの展開をしてくれる。(私は期待に応えてくれて満足した)

ちなみに『魔術師』は1908年出版、『月と六ペンス』は1919年に出版されているので「芸術家が女を奪っちゃう展開」は魔術師の方が元祖である。嫌悪しつつ愛するという変態チックな恋がモームは好きなのだろう。

『月と六ペンス』サマセット・モーム
書評『月と六ペンス』。傑作が燃えて灰になっても、すばらしい世界は今も目の前にある。ストリックランドは大自然とか世界にインスパイアされて傑作を書き上げたけれど、彼の傑作がなくなっても、傑作を生みだした母体である自然や世界はまだ残っているから
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解説

「闇の中、無音で格闘する何か(ハドゥー)を絞め殺したはずだが遺体が消えていた。ハドゥーの研究室に場所を移動するとそこで彼が死んでいた」

というラストシーンはオスカー・ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』を想起させます。醜い肖像画にナイフを突き立てると、ドリアン・グレイ本人が醜く死んでしまう位相空間ファンタジーでした。

『魔術師』でも闇の何かを絞め殺すと、別の場所にいたハドゥーが死んでいます。そしてその場所には人造人間ホムンクルスが。。。

理知的な医者であるアーサーが否定していた宿敵オリヴァ・ハドゥーは本物の魔術師だったのです。

私は荒川弘鋼の錬金術師』を思い出さずにはいられませんでした。

アーサーが絞め殺す闇の影はホムンクルス・プライドのようですし、ハドゥーの秘密の研究とはまさにフラスコの中の小人ホムンクルスそのものでした。

鋼の錬金術師 (アニメ) - Wikipedia
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おすすめの点

上記『鋼の錬金術師』ファンの方にはとくにおすすめします。

派手な格闘シーンはありませんが、そのかわりに錬金術についての詳しい解説が書いてあります。

モームはこの錬金術の資料集め、研究に苦労したということです。

ホーエンハイムことパラケルススなど錬金術師のことが頻繁に解説されています。

竜馬がゆく』坂本竜馬の生涯を知ることで明治維新の知識を得ることができるように、『魔術師』ハドゥーの物語を追うことで錬金術の知識を得ることができるようになっています。

さすが文豪サマセット・モーム。裏切られない作品でした。

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