マラソンの走り方でストライド走法がいいか、ピッチ走法がいいか、その永遠の議論にきっぱりと決着をつけた当ブログです。
結論は「ピッチ走法よりもストライド走法! だけどケチケチ言ってないで両方使え!」でした。
このページでは、ストライドを稼ぐためにはどうすればいいのかについて、語っています。
ストライド走法では、地面を蹴るのではなく、宙に振り出した方の脚に意識を向けます。
片方の脚を意識するだけで、結果として両方の脚を動かすことができます。
なぜならハサミは両方に開かれるからです。片方だけに開かれるということはありません。
『ハサミは両方に開かれる走法』とは、支脚を意識しても、遊脚を意識しても、どっちを意識してもハサミは両方に開かれるのだから、ストライドを伸ばすためには、支脚で地面を蹴るのではなく、遊脚を空中で膝から前に突き出して進んだ方がずっと効率がいいという走法です。
支脚で地面を押す走りではなく、遊脚を前に突き出す走りが、「ハサミは両方に開かれる走法」の極意です。
ランニングは大腿骨を動かすことが重要
鳥が羽ばたいて飛ぶように、ランナーは大腿骨を動かして走ります。鳥は羽根を動かすとき、付け根の筋肉を使って飛んでいます。羽根そのものについている筋肉で羽を動かしているわけではないのです。
羽根を動かすのに羽の筋肉を使っていたら羽は筋肉で重たくなってしまいます。羽根は軽い方がもちろん動かすのに有利です。
鳥は身体を軽くするために、文字通り骨身を削っている生き物です。ランナーも鳥と同じです。鳥が飛ぶときに羽根を動かすように、ランニングでは大腿骨を動かすことが重要です。
そして大腿骨を動かすときには、鳥が羽の付け根の筋肉を使っているように、大腿骨の付け根の体幹の筋肉を使います。
腹の底の筋肉(腸腰筋)とお尻の筋肉(大臀筋)を主に使って大腿骨を動かすのです。
大腿骨を大きく動かすということは、ストライド走法に他なりません。
超有名コーチがピッチ走法を勧めているのに、私がストライド走法を推奨している理由の一つでもありますが、ストライド走法こそ走りの王道だと思ってください。
ピッチを刻む簡単な方法はストライドを狭めること
逆の場合を考えてみましょう。もっとも小刻みにピッチを刻めるのはどういう場合になるでしょうか。
それは「その場ステップ」です。前に進みながらステップを刻むよりも、その場を動かすにステップした方が細かくピッチを刻むことができます。サッカーの三浦知良選手のカズ・ダンスみたいにその場ステップを刻めばいいのです。
でもカズがボールを追ってゴール前に走り込むときにはカズダンスほどのピッチは刻んでいません。刻んでいないというより刻めないのです。大きな筋肉を使って力の限り速く走っていますから、そんなにピッチは刻めません。
わかりますか? ピッチを刻むための最も簡単な方法は、ストライドを狭めることなのです。
ピッチ走法とは文字通りピッチを重視した走法のことです。ピッチ走者はとにかくリズム感重視でピッチを刻むことを最優先にするあまり、ストライドのことを忘れるきらいがあります。
必要以上にムチャクチャにはやくピッチを刻むことは、ストライドを捨てることと同義です。それは速く進むことを捨てることと同義です。
それに対して、大腿骨を大きく使ったダイナミックな走法で走れば、おのずとピッチは落ちてきます。大きな骨を大きく動かすのですから、振り戻すまでにある程度の時間がかかって当然です。
長い振り子はゆっくりで、短い振り子は素早く動くのと同じことです。
『スピードはストライドでしかカバーできない』コラムで解説しましたが、アスリートが引退するのはストライドが維持できなくなるからです。
ピッチは命のリズム感ですから、そう簡単には衰えません。衰えるのはストライドなのです。
ハサミは両方に開かれる走法。後ろに蹴るのではなく前に突き出してストライドを稼ぐ走法
それでは大腿骨を大きく動かすためにはどうしたらいいのでしょうか。
大腿骨は前方にはカカト落としができるほど可動域が広いのに、後ろにはほどんど可動域がありません。
サッカー選手のキックは脚を後ろにしていると思うかもしれませんが、あれは骨盤ごと後ろに引いて角度をつけているのです。大腿骨だけ後ろに可動しているわけではありません。残念ながら人間の骨格はそのような構造になっています。
前に進もうとするあまり地面を後ろにプッシュしよう(蹴ろう)とする人がいますが、それよりは大腿骨を股関節から前に放り投げるように開いた方がいいでしょう。
するとハサミが両方に開かれるように、勝手に股関節が開き、後ろ足は自動的に地面をプッシュしたようなフォームになります。
実際には勢いよく前に振った方の大腿骨に骨盤から引っ張られるように進むため、ほとんど地面をプッシュさえしていません。そう見えるだけです。
大地を蹴っても少ししか前に進みませんが、膝から大腿骨を前に放り投げるように股関節を開くとぐいぐい前に進むことができます。
地面を押すということは、ものすごい抵抗を受けなければなりません。敵は固いアスファルトで覆われた無敵の大地ですからね。
しかし空中で大腿骨を振りだすのは難しいことではありません。相手は空気です。
絶対に勝てない大地を相手に蹴るよりは、絶対に勝てる空気を相手に大腿骨を前に降り出した方がよいのです。
大腿骨を前に降り出す勢いで骨盤は自然と前に進みます。
このときのコツは、骨盤の股関節の穴を斜め下から前に向けて起こすことです。この股関節の穴は「動的バランス走法」では斜め下方を剥いていますが「ヤジロベエ走法」ではすこし前方に向けて起こします。そうすることで振り出す足が開かれて、ハサミは両方に開かれるのです。
おまえが提唱する第一の走法『アトムのジェット走法』は、アキレス腱のバネを使ってカズ・ダンスのように細かいステップを刻むピッチ走法じゃないか、と思うかもしれませんが、それだけではありません。
脚を折りたたむことで、大腿骨を大きく動かす行為が軽くなるのです。
ピッチにも有利ですが、ストライドにも有利な万能の走法だと思ってください。
入力意識を変えても、同じフォームになる
「お尻やハムストリングの筋肉を使って走れ」と指導されるとお尻を落として支脚をいじめて走ってしまう市民ランナーがいます。負荷をかけるほど筋肉は意識しやすくなりますから気持ちはわかります。
たしかにお尻やハムストリングの筋肉を使って走ることは大事なのですが、「ハサミは両方に開かれる走法」では全く別のアプローチをします。
むしろ宙に浮いた遊脚の大腿骨を遠くまで放り投げるように伸ばしてストライドを稼ぎます。お尻やハムストリングはあえて意識しません。
すると勝手に股関節が開いて、お尻やハムストリングをつかったストライド走法が成立します。
要するに入力ワードの問題なのです。
逆説のランニング。大地を押す力は無視する
本屋や雑誌で見かけるランニングのノウハウ本では大地を踏みしめる力を重視しています。しかし私ハルトの「ハサミは両方に開かれる走法」では大地を踏みしめる力は無視します。ここが逆説のランニングの本領発揮の部分です。
振り下ろす力を加えようとストライドが小さくなる弊害をとるよりも、むしろ大腿骨を遠くに放り投げるようにしてストライドをぐっと広げることに全意識を注ぎます。
力を込めなくても足自体の重さで足は自然と振り下ろされます。着地した足の上にスッと乗るイメージを持ってください。
そうすれば大地をプッシュする意識をもたなくても自然と速く走れます。
大腿骨を前に放り投げることで、ハサミが両方に開かれるように股関節が開き、腰高の腰椎が支点になってバランスをとっているからです。
心配しないでください。このように入力意識は違っても、フォームはそんなに変わりません。なぜなら「ハサミは両方に開かれる」からです。
ハサミはどちらか一方の刃だけを動かすことはできません。片方の刃を動かしても、もう一方の刃も同じように開き、同じように閉じます。
走っている時の二本の脚はまるでハサミのようなものです。どちから一方だけ動かすことはできません。
振り上げる足を意識しても、後ろに蹴る脚を意識しても、どちらかだけを動かすことはできません。ハサミは両方に開かれます。
両方の脚を意識することはないのです。片方の脚を意識するだけで、結果として両方の脚を動かすことができます。なぜならハサミは両方に開かれるからです。
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●言葉の力で速くなる「動的バランス走法」「ヘルメスの靴」「アトムのジェット走法」「かかと落としを効果的に決める走法」
●絶対にやってはいけない「スクワット走法」とはどんなフォーム?
●ピッチ走法よりもストライド走法! ハサミは両方に開かれる走法。
●スピードで遊ぶ。スピードを楽しむ。オオカミランニングのすすめ。
●腹圧をかける走法。呼吸の限界がスピードの限界。背の低い、太った人のように走る。
●マラソンの極意「複数のフォームを使い回せ」とは?
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腸腰筋の伸縮反射を利用した「逆くの字」走法
筋肉はバネのように伸びたら縮むという性質があります。大腿骨を前に持ち上げる腸腰筋も同じです。
腸腰筋は伸びたらバネのように縮みます。腸腰筋はお腹の深部の前側についていますので、その筋肉を伸ばすためには逆「くの字」に腹を張ることです。
具体的にいいます。
どうせ宙に浮くのですから、はじめから腰を高く持ち上げます。そして前から綱で引っ張られているかのようにお腹をぐいっと前に突き出します。すると脚にひっぱられて尻がぐいっと後ろに突き出されます。これで「逆くの字」の完成です。
「逆くの字」で引き延ばされた腸腰筋は伸縮反射で縮もうとします。すなわち大腿骨が上に持ち上がるのです。
この伸縮反射を利用すれば、楽に股関節を前にひらくことができます。大きなストライドが確保できるというわけです。
背中をゆるめると腰が使える
大きなストライドを確保するためには腰を使う必要があります。
腰を使って走るためには、胸を開いて肩の力を抜くことです。
具体的には、背中の肩甲骨を寄せて肩を落とします。すると背中がゆるみます。
背中がゆるめば腰を動かしてダイナミックに走ることができます。
おまけに背中がゆるんで胸が開けば呼吸が楽になります。
ストライド走法こそ『フォームA』である。
「ストライド×ピッチ」でランニングのスピードは決まります。その両方に秀でている人がエリートランナーです。
私たち市民ランナーはそのどちらも一流選手から見たら劣っているのです。
オリンピック選手を指導する一流コーチがピッチ走法を推奨しているからと言って、それを鵜呑みにしてはいけません。一流コーチが教える選手はもともと凄いストライドをもつ素質のある選手ばかりなのです。
私たち市民ランナーの『サブスリー養成講座』は、まずは大きなストライドでダイナミックに走れるフォームを身につけましょう。
そのダイナミックなフォームのまま、すこしづつピッチを速めるようにトレーニングしましょう。
しかしやがて限界が来ます。大腿骨を大きく動かしながらでは、これ以上のピッチは刻めないというポイントが。その臨界点を見極めましょう。それがあなたの巡航速度のベースだと考えてください。それが『フォームA』です。
ストライドを狭めてピッチを上げればもっと楽に走れると思う瞬間もあるでしょう。けれどもそれは『フォームB』です。決して『フォームA』ではありません。
「今日があなたの人生でもっとも若い日」という言葉があります。明日は今日よりも一日老いています。
ランニング初心者ほど、ピッチ走法よりもストライド走法を意識した方がよいでしょう。あなたの人生において、今がもっとも若いのですから、若い時ほどストライド走法で走るべきです。
ピッチを意識するのは、その後でじゅうぶんです。
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※言葉のイメージ喚起力で速く走る新メソッドを提唱しています。