腸脛靭帯炎。前十字靭帯損傷。腰椎横突起骨折。坐骨神経痛。
アスリート系シリアスランナーとして、長年、走り続けてきました。もはや満身創痍といったところでしょうか。
私は市民ランナーの三冠王、グランドスラムの達成者です。全盛期はマラソン走れば二時間台でした。
そんな私が坐骨神経痛で走れなくなってしまいました。神経根型の脊椎管狭窄症かもしれません。坐骨神経が炎症を起こしているのでしょう。
【実体験】神経根型の脊柱管狭窄症(坐骨神経痛)は自然治癒するのか?
一時期は足をヒョコヒョコ引きずりながらやっとトイレに行けるぐらいのひどい症状でした。いや、まいった。走れなくなったのはこれが四度目です。
腸脛靭帯炎。前十字靭帯損傷。第三腰椎横突起骨折。そして坐骨神経痛。ひととおり怪我を経験しています。すべて右側ばっかり故障。
飛ぶように走り回っていたランナーが走れなくなると、人生は輝きの色を失います。
ベッドで寝たきりの頃は「走れなくてもいい。せめて不自由なく歩けるようになりたい」と願っていました。
現在、坐骨神経の炎症がおさまったのか、なんとか歩けるようになってきました。
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※雑誌『ランナーズ』の元ライターである本ブログの筆者の書籍『市民ランナーという走り方』(サブスリー・グランドスラム養成講座)。Amazon電子書籍版、ペーパーバック版(紙書籍)発売中。
「コーチのひとことで私のランニングは劇的に進化しました」エリートランナーがこう言っているのを聞くことがあります。市民ランナーはこのような奇跡を体験することはできないのでしょうか?
いいえ。できます。そのために書かれた本が本書『市民ランナーという走り方』。ランニングフォームをつくるための脳内イメージワードによって速く走れるようになるという新メソッドを本書では提唱しています。「言葉の力によって速くなる」という本書の新理論によって、あなたのランニングを進化させ、現状を打破し、自己ベスト更新、そして市民ランナーの三冠・グランドスラム(マラソン・サブスリー。100km・サブテン。富士登山競争のサミッター)を達成するのをサポートします。
●言葉の力で速くなる「動的バランス走法」「ヘルメスの靴」「アトムのジェット走法」「かかと落としを効果的に決める走法」
●絶対にやってはいけない「スクワット走法」とはどんなフォーム?
●ピッチ走法よりもストライド走法! ハサミは両方に開かれる走法。
●スピードで遊ぶ。スピードを楽しむ。オオカミランニングのすすめ。
●腹圧をかける走法。呼吸の限界がスピードの限界。背の低い、太った人のように走る。
●マラソンの極意「複数のフォームを使い回せ」とは?
●究極の走り方「あなたの走り方は、あなたの肉体に聞け」
本書を読めば、言葉のもつイメージ喚起力で、フォームが効率化・最適化されて、同じトレーニング量でも速く走ることができるようになります。
あなたはどうして走るのですか? あなたよりも速く走る人はいくらでもいるというのに。市民ランナーがなぜ走るのか、本書では一つの答えを提示しています。
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どんなレースに出ても自分よりも速くて強いランナーがいます。それが市民ランナーの現実です。勝てないのになお走るのはなぜでしょうか? どうせいつか死んでしまうからといって、今すぐに生きることを諦めるわけにはいきません。未完成で勝負して、未完成で引退して、未完成のまま死んでいくのが人生ではありませんか? あなたはどうして走るのですか?
星月夜を舞台に、宇宙を翔けるように、街灯に輝く夜の街を駆け抜けましょう。あなたが走れば、夜の街はイルミネーションを灯したように輝くのです。そして生きるよろこびに満ち溢れたあなたの走りを見て、自分もそんな風に生きたいと、あなたから勇気をもらって、どこかの誰かがあなたの足跡を追いかけて走り出すのです。歓喜を魔法のようにまき散らしながら、この世界を走りましょう。それが市民ランナーという走り方です。
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せめて歩ければ! 走れなくてもいい。歩くことから始めよう。
ずっと寝たきりでいると、まるで散歩に連れて行ってもらえない犬のように外に出たくて仕方がありません。なんとか歩けるように病状が改善してきたので、さっそく外に歩きに行きました。走れなくなったのは四度目です。もう慣れています。
まずは走れなくてもいい、歩くことからはじめましょう。
しかし飛ぶように走っていたアスリート系ランナーがただ「歩く」と、どうにもものたりないのでした。私はランニング中にあくびなんかしたことありませんが、歩いていると退屈であくびがでます。
まだ軽くびっこをひいている状態とはいえ、今まで颯爽と走っていたジョギングコースをのんびりと歩くのは屈辱的でした。なんでこんなのろのろと歩かなきゃならないのか(泣)。周囲の視線が気になります。
そこで今しかできないことを試してみることにしました。私はランナーです。健康を損なっている、こういう機会でないとウォーキングと超真剣に向き合うことなんてないでしょうから。
ノルディックウォーキングのインストラクターで生計が立てられるか(実践編)
三浦雄一郎式ヘビー・ウォーキングとは何か?
私が昔から「やってみたいな」と思っていたウォーキングがあります。それが三浦雄一郎さんの提唱するヘビーウォーキングです。三浦さんは若い頃はオリンピッククラスの実力を持つエクストリーム・スキーヤーでした。ゲレンデじゃない山の斜面を滑降をする超人的な山岳スキーヤーでした。しかし今ではむしろ世界最高齢でエヴェレストに登頂したおじいちゃんとして知られているかもしれません。
ニイタカヤマノボレ(新高山、登れ)ご先祖様の声が聞こえたから登頂してきた
若い頃からアスリートとして活躍してきた三浦さんは五十の声を聞いて一線を引退し目標を失ってしまったそうです。
コーチ理論と引退哲学。ズルズルと負け続けると負のマインドセットになって自分のノウハウに自信を失い、よい指導者になれない。
暴飲暴食にはしり、メタボになり、高血圧、糖尿病、高脂血症などの生活習慣病になってしまいました。若い頃からの酷使のし過ぎで、ひざ痛、腰痛もあったそうです。エベレスト登山を目標に一念発起して歩くことから健康回復をはじめたのですが、元アスリートは「ただ歩く」では満足できませんでした。ザックに重りを背負い、足首にアンクルウェイトを巻きつけて歩くウォーキングをはじめたのでした。これをヘビーウォーキングと名づけています。
悪夢を見て、自殺を考えた夜(ダイヤモンドヘッド232mに登れなかった女のキナバル山4095m登山挑戦記)
私は登山もやります。普段からザックを背負って山靴で歩くようなことはやっていました。たとえば歩いて買い物に行き、水やお米などをアタックザックに背負って歩いて帰ってくるようなことはしていました。これは登山のトレーニングになります。
三浦さんがやったのはそれを進化させて「わざわざ重りを背負って歩く」ことでした。ヘビーウォーキングでは、普段は背中に十五キロ片足には四キロぐらいをノーマルとして、最高負荷で背中に三十キロの重りを背負い足首には片足八キロのウェイトを巻いて歩いていたそうです。目標は神々の山嶺サガルマータですからね。
「まずは歩いた。ただ歩くのではなく、負荷をかけて歩いた。重たいザックを背負って、足首にアンクルウェイトを巻いて、街中を歩くことからはじめた」
三浦さんの本に書いてあったのは要するにこういうことでした。このヘビーウォーキングを私もやってみることにしたのでした。
膝痛の原因。膝の軟骨がすり減ってしまうオーバーユース
もう一つ。三浦さんの本で印象に残ったのは、「ヘビーウォーキングですり減っていた膝の軟骨が治った」というくだりでした。
エクストリーム・スキーでは、ものすごい落差をジャンプします。膝にはすごい負荷がかかるはずで、三浦さんの膝の軟骨も、ふつうは4ミリぐらいある膝の軟骨が、1ミリ程度にすり減っていたそうです。この膝の軟骨がすり減ってしまうと骨と骨が直接あたって、歩くと膝が痛いという老人特有の膝の悩みがあらわれてしまうのです。
さいわい私はまだ膝は痛くないのですが、そうとう軟骨がすり減っているだろうと予想されます。坐骨神経痛の原因を調べるために腰のMRI写真を撮ったのですが、腰椎椎間板がすでに圧迫されて狭くなっていると診断されました。走りすぎ、ということでしょう。生涯走行距離は地球一周を軽く超えています。
ヘビーウォーキングで膝の軟骨が再生する。治療法でもあり予防法でもある。
血が栄養を運んで細胞は再生します。しかし膝の軟骨は血流のいい場所ではないために、すり減るとなかなか再生しないといわれています。
それが再生するという奇跡のようなことが起こったのは、アンクルウェイトを足首に巻いて歩きつづけたためではないか、と三浦さんは言います。着地すると膝関節が体重で圧迫されます。それが膝の軟骨がすり減ってしまう原因です。しかしヘビーウォーキングでは足をあげると重たいアンクルウェイトで膝関節が引き伸ばされます。膝関節が伸びたり縮んだりすることで関節包の中の潤滑液の巡りがよくなることが膝軟骨再生の理由ではないか、と三浦さんは仮説を立てておられました。
この仮説が正しければ、ヘビーウォーキングには関節痛の治療だけではなく、予防効果もあるはずです。シリアスランナーが将来的に発症する可能性が高い膝痛が、ヘビーウォーキングで予防できるならば取り入れる価値はあります。
何はともあれアンクルウェイトの購入です。アンクルウェイトは重さを調節できるタイプのものもありますが、重さが偏るのを嫌って片足2キロの固定タイプを購入しました。三浦さんは片足一キロから徐々に重くすることをすすめていますが、そこは元サブスリーランナーのプライドでおすすめの倍の重さから始めることにしました。
ボクシング漫画『リングにかけろ』で高嶺竜児がパワーリスト、パワーアンクルと呼んでいたやつだ!
片足二キロの重りをつけて歩いてみました。いや重いわ。平地はそれほどでもありませんが、階段などを上がるときには別次元の感覚です。下から妖怪に引っ張られているような感覚です。
かつて読んだボクシング漫画『リングにかけろ』を思い出しました。このアンクルウェイトは漫画の中ではパワーアンクルと呼ばれていました。
主人公のボクサー高嶺竜児は普段からパワーリスト(リストウェイト)、パワーアンクル(アンクルウェイト)を身につけて生活しています。試合になってそれらを外すと目にもとまらぬフットワークと、ものすごいパンチが放てる、ということになっていました。重りがなくなった分、すばやく動けるという理屈です。なかなか説得力のある理論です。大リーグボール養成ギブスのようなものです。
アンクルウェイト・トレーニングでマラソンが速くなるか?
しかしマラソンの書籍を出版している専門家の立場から言わせてもらえば、その効果をランニングで期待するのは止めた方がいいと思います。つまり普段アンクルウェイトをつけて暮らし、マラソンレース本番のときに外す、といった使用法です。
なぜやめた方がいいかというと、ランナーは「止まったら倒れてしまうような、走り続けていないと維持できないような前傾バランスを維持して走っているから」です。これを「動的バランス」と言います。足首にアンクルウェイトを巻いた状態で走っても、本番レースにふさわしい動的バランス感覚が身につきません。スピード練習しなければ、スピードにふさわしいフォームは身につかないのです。
スピード練習しなければ、スピードにふさわしいフォームは身につかない。動的バランス走法
マラソンのスピードは筋肉のパワーでつくるものではなく、からだのバネによって宙に浮いてつくるものだからです。アンクルウェイトによるパワー走法では、求める結果(望む成績)を得られないでしょう。
書籍『市民ランナーという走り方(グランドスラム養成講座)』まえがき
膝から下の重量でマラソンのスピードは決まるというデータがある。
テレビでマラソン中継を見ているとトップを走る黒人選手の足首の細さに驚かれることがあるかもしれません。強靭な足をもっているのだから、下腿は太そうに思えるのに、実際には下腿は細く長い人がトップを走っています。この事実から、実はスポーツ科学では二つのことがわかっています。
第一に「ふくらはぎで走るのではないこと」。走る筋肉は体幹や太ももにあって、下腿で走るわけではないのです。
腰で走る走法。腰椎で着地衝撃を吸収し、腰椎のバネをつかって走る
第二に「膝から下の重量でマラソンのスピードは決まる」という理論があります。一流のマラソン選手をたくさん集めて、どこの筋肉量が多い人がもっとも速く走れるか調査研究したところ、「膝から下が軽い人」が速いデータの傾向があったというのです。
どこの筋肉が大きいかというプラス評価ではなく、膝下が軽いというマイナス評価によってマラソンの実力が決まるというのです。いかにもマラソンらしいデータ結果だと思います。筋骨隆々のボディービルダーよりも、細くてヒョロヒョロした人が速いのがマラソンです。筋肉をつけるよりも体重を減らした方が速くなるのがマラソンだったりします。
三浦雄一郎式ヘビー・ウォーキングをしながら、このデータのことを思い出さずにはいられませんでした。
重たいアンクルウェイトを足首に巻くということは、にわかに「膝から下が重い人」になったようなものです。なるほどこれでは速く走れないわけです。膝を曲げるのに一苦労です。『アトムのジェット走法』がつくれません。
同じ重さでも膝上だったらまだ走れると思います。膝下が軽い人ほど足が速いというのは確かだなあ、と実感したのでした。
【実践】三浦雄一郎ヘビー・ウォーキングをやってみた。
ヘビーウォーキングでは重たいアンクルウェイトによって、強烈な磁石のように、地面に足が吸いつけられます。それに逆らいながら膝をあげて足を運ぶのですが、力を抜いてドスンドスンと着地をすると重たい足が地面を強く叩くことになってしまいます。なるべくそっと着地しましょう。
ヘルメスの靴。足についた宙に浮くためのバネ(足底アーチとアキレス腱)
そもそも私は坐骨神経痛で右足がしびれています。そもそも足を引きずったような状態のウォーキングなのですが、片足二キロのアンクルウェイトによって両足ともに引きずったような状態になってしまうことから、片足だけびっこをひいているというような見栄えのわるさが軽減されました。足の悪い人ではなく、重さに耐えて歩く人になるからです。
そして負荷が軽すぎて退屈だった散歩が急におもしろくなりました。見慣れた散歩道がいきなりプレイフィールドに変わったかのようです。まるで徒刑囚のように重たい荷を背負って歩くわけですが、歩くことが人生に意味づけられるとしたら、それはアンクルウェイトで重さに耐えながらの足取りのときだけではないでしょうか。
信号のないベトナムのバイク・タイフーン道路を死んだ気で渡った頃から、私は車が来ない道路は気にせずに横断してしまうタイプなのですが、ヘビーウォーキング時は必ず信号を守ることにしています。この重たい足ではいざというときに敏捷に車やバイク、自転車を避けられません。
ヘビーウォーキングでいつもと違う感覚になることは、それだけで面白いと感じます。
世界はワンダーランドだ、と、歩いても感じられたら、最高ですよね。