「旅行」を仕事に生きていく。国内旅行業務取扱管理者とは?
親戚の娘さんが「旅行」を仕事にしたいのだそうです。そのためにいろいろと頑張っていると聞きました。「旅行」と聞けば耳たぶがヒクヒク動くのがおれたちバックパッカーです。「そういう生き方」が気になったので、食いつくようにいろいろと聞いてしまいました。一種の取材ですね。
彼女は「国内旅行業務取扱管理者」という資格をとったそうです。彼女の生き方にはいろいろと学ぶべきところが多いと感じました。これはそのレポートです。
「国内旅行業務取扱管理者」試験って何だ? 旅行好きなら楽しく勉強できる資格
「国内旅行業務取扱管理者」試験というのは、旅行業法にもとづき実施される国家資格です。旅行業者は各営業所に1名以上の旅行業務取扱管理者を置いて管理、監督させなければならない、とルールで決められています。ドラッグストアにかならず薬剤師がいなければいけないようなものですね。いくら「旅行会社の営業所」が減っているとはいえ、当然ながら資格を持っていた方が持っていない人よりも、旅行会社に就職するには有利になります。合格率は30%前後。試験科目は日本各地の地名や名産品、イベントなど旅行に係る基礎知識から、運賃の計算などバックパッカーが得意そうな分野。そして旅行契約・約款など旅行契約に係る細則などバックパッカーが苦手そうな分野まで含まれます。よく旅行パンフレットに細かい字で書かれていてほとんどの人が読み飛ばしているアレですね。目的地に時間までにたどり着けなかったらどうなるのか、とか、ダブルブッキングで泊れなかったらどうするんだ、とか、天候次第では見られない場合があります、とか、そういうイレギュラーを処理するのが仕事ですから。
でも勉強そのものは、旅行好きならば、楽しくやれそうです。
ところで国内旅行業務取扱管理者ってことは外国では通用しないのかしら。と思ったら、さらに一段上の資格がありました。総合旅行業務取扱管理者というのがそれです。
総合旅行業務取扱管理者とは何だ? 国内旅行業務取扱管理者とは何が違うのか
総合旅行業務取扱管理者も薬剤師のように一営業所一人という身分保障をされていることは同じです。国内旅行業務取扱管理者が国内旅行のみを扱うのに対して、総合旅行業務取扱管理者は海外旅行も扱うので、とうぜん国内よりも試験は難しくなります。合格率は25%前後とのこと。国内外を網羅する資格であるためカバーすべき守備範囲もひろくなります。パスポートや税関、検疫、為替などに関する理解の他、出入国手続きなどバックパッカーの得意分野が試験科目に入ってきます。そして海外主要国の観光地に関する知識。そして必要な外国語(英語)なども試験範囲に含まれるようです。あれ……なんかこっちの方がバックパッカーは得意分野っぽいぞ。もしかしてバックパッカーは総合旅行業務取扱管理者の試験を受けた方が、国内よりも合格率は上がるんじゃないか? 合格率というのは相対的な偏差ですから。
試験は国内と被る部分もあります。しかし知り合いの娘さんはすでにその分野では合格点に達しています。国内旅行業務取扱管理者に合格している場合、受験科目の免除措置があるそうです。これは海外旅行業務取扱管理者の試験も合格まちがいなしじゃないか。すごいぞ、お嬢さん!
「旅行」するように生きる。戦略的なかしこい生き方
すぐに総合旅行業務取扱管理者の資格を取るのかと思ったら、先に旅行会社に就職口を決めてから、卒業までに総合旅行業務取扱管理試験の合格を目指すそうです。もうすぐ四年生なので。戦略的ですね。かしこい娘だなあ、と思いました。
高校を卒業して、最初に彼女は外国語(英語)を学ぶ専門学校に入って徹底的に英語の勉強をしました。2年間みっちりと学んだ結果、英語が喋れるようになったそうです。すばらしい専門学校ですね。ふつうの四年制大学通ったって英語喋れるようになりません。
日本の英語教育の失敗は「読む」「書く」偏重で「聞く」「話す」に重きを置いていないこと
二年で英語が喋れるようになるのか……留学しても喋れない人もいるのに、すごいなあ。通常、英語を喋れるようになるために必要な勉強時間は2200時間だそうです。いっしょうけんめい勉強したんだろうなあ。コロナ禍のリモート授業でネイティブ先生とモニター越しに会話したことが彼女の語学力を飛躍的にアップさせたそうです。
日本語と韓国語。英語とフランス語。どっちが近い言語か? 似てるのはどっちか。
その後、観光分野のある四年制大学の編入試験をうけて、そこで観光を学び、国内旅行業務取扱管理者に合格したのでした。大学の観光学科では受験を推奨しており、合格のための特別なカリキュラムがあったそうです。だから合格できたんですね。
同じく観光(旅行)を仕事にしたいという友達を大学でつくって、たくさん海外旅行に行くこともできました。英米文学科に進学していたら、そういう経験はできなかったかもしれません。
旅行会社の就職の求人は、大学に直接来ることもあるので、一般の学部学科よりも旅行業界への門戸が開かれています。先輩にも旅行業界に行く人が多いわけですから有利にできているのです。
それだけでなく彼女は大学の研修でハワイに三週間滞在し、ホテル業務を学んだそうです。レセプションからベッドメイキングまで一通りやったそうです。自信をもってハワイの研修に参加できたのも、専門学校で英語が喋れるようになったからこそです。貴重な経験です。楽しかっただろうなあ。
そう考えると彼女の選んだ進路は、確実に「旅行」を仕事に生きていく方向に向いています。むしろこれほど見事な進学先はないのではないかと思うほどです。
東京大学に行かなくたって、進路は切り開けるのだ
わたしが高校時代、とてもインテリだった祖父にこう言われたことがあります。
「進路なんて迷うことないよ。東大に行けばいいんだよ」
なるほど、もっともですな。行けたら行ってます(笑)。
でも東大に行けなかったからって、がっかりすることはありません。
この彼女のように専門学校で英語を習得し、編入した大学の観光学科で旅行業務取扱管理者の資格をとったほうが、もしかしたら旅行・観光業界で生きていくには有利かもしれないのです。東大出たって英語喋れない人はたくさんいますからね。
AIの発達でオフィスワークなど多くの職業がなくなると言われています。しかし「人間の体験」をサポートする仕事は、介護の仕事がなくならないように、しばらくはなくならないだろうと予想します。
きっと彼女は夢をかなえて、旅を仕事に生きていくことができるでしょう。見事な人生設計だなあ、と長らく旅に生きてきた先輩バックパッカーは感じたのでした。