夏が来ると思い出す「一杯だけ飲ませて」水筒事件
夏が来ると思い出す「一杯だけ飲ませて」水筒事件について、ここでは書こうと思います。
わたしが高校時代のこと。丸山くんという友達がいました。
当時、電車で遠距離通学していました。今の子は小学生でもみんなでファミレスに行って食事するようですが、私たちの時代はせいぜい駅のホームで缶ジュースを飲むぐらいが関の山でした。
そんな時代の話しです。
一杯だけ飲ませてやるといったら、全部飲み干しやがった!
夏場のあつい時期には、水筒をもって学校に行っていました。
夏のある日、朝から暑かったのをおぼえています。
高校は駅から距離があったので、学校に着いた頃には、みんな汗だくになっていました。
私も暑かったのですが、水筒はまだ飲まないでおこうと思いました。今飲んだら帰りまでもちません。大切に飲もうと思っていました。
そのとき、視線を感じました。丸山くんがじっと私の水筒を見つめています。
「な、なんだよ?」
熱いまなざしにたじろきながら聞くと、
「水筒、何が入ってるの?」
「ポカリだけど」
「一杯だけ飲ましてくんない?」
私の水筒は直接口をつけるタイプでした。はっきりいって男同士、間接キスです。ちょっと戸惑ったのですが、友だちだし、いちおう気にしないことにしました。
「いいよ」
わたしの差し出した水筒に丸山くんはがっつり食らいつきました。
ごくごく。ごくごく。ごくごく。ごくごく。
いつ飲み終わるのかと見ていたのですが、丸山くんは一息もつかずにとうとう水筒を最後までぜんぶ飲みほしやがったのです。
「はい。一杯」
空になった水筒をクソ野郎は返してきました。
「お、おまえなあ……」
「一杯だけ飲ましてくれるっていったじゃん」
「…………」
わなわな震えながら、わたしは引き下がるしかありませんでした。なるほどいちおうスジは通っています。たしかに一息に飲みほしました。
しかし世の中にこんなやつがいるとは……あまりのことにこっちはビックリしています。
暑くなるといつもその話しをするよね。毎回やられてたの?
毎回やられてたら完璧に「いじめ」だろ! 生涯に一回きりだけど、あまりにもびっくりしたからさ。
そうなのです。この事件はわたしにトラウマを残しました。夏場、暑くなって喉が渇くと丸山の汗だくで勝ち誇ったような顔を思い出すのです。ちくしょう……。
よかったのはせいぜい間接キスしなくてすんだということでしょうか。あいつが全部飲みほしてしまいましたから。
卒業以来、同窓会もなく、一度も丸山と会っていません。あいつはどこで何をしているのでしょうか。元気にしているのかな?
今、水筒の水を一息でぜんぶ飲みほそうと思っても、たぶん無理だと思います。若かったということでしょう。高校生だったからできたんだろうなあ。
もしもどこかで再会することがあったら、鼻から水を吹き出してもいいから、二人で水筒ひといきで丸のみ一気飲みに挑戦してみたいと思います。
若さっていいものですよね!!