バイリンガルの心得。使う言語で変身すること
ハワイでのことです。
移動中の路線バスの中、日本語と英語をちゃんぽんで話すバイリンガルの男の子が乗り込んできました。私のすぐ後ろの席に座ったので会話がぜんぶ聞こえました。
へえ。すごいね。バイリンガル。おれもなりたいぜ!
日本語と韓国語。英語とフランス語。どっちが近い言語か? 似てるのはどっちか。
その子はどうやら親兄弟と一緒の様子でした。そして、親と話すときには日本語で、兄弟と話すときには英語で喋るのです。
私は英語の修行中の身です。男の子の英語が理解できるかなんとなく聞き耳を立てていました。
すると驚いたことに、その子は日本語で話すときはおっとりと喋るのに、英語でしゃべるときは急に早口になるのです。見事なまでの切り替えでした。まるで別人です。
日本語でしゃべるときには単調にのっぺりと喋るのですが、英語に切り替えると急に陸に上がった魚のようにピチピチと跳ねるように喋ります。まるで変身したかのように。
ああ、バイリンガルってのは、こういうことなんだなあ、と思ったのでした。
このときに感じたことを言葉にするのは難しいのですが、なんとかやってみましょう。
英語! いつまでたってもサンドウィッチマン富沢たけし状態「ちょっと何言ってるのかわかんない」
ピコ太郎みたいな発音が正解。「アップルジュース」ではな「アプージュー」
私はパリの屋台で「リンゴジュース」が飲みたくて「アップルジュース」とオーダーして相手に通じなかったことがあります。「アップル」も「ジュース」も世界語のようなものですから、通じないはずがありません。もういちど「アップルジュース」と三度まで繰り返したのですが、まるで通じる気配がありませんでした。
おかしい! そんなはずはありません。これが東洋人差別ってやつでしょうか。あるいはフランス人は英語がわかっていても喋れないふりをすると聞いたことがあります。そのパターンでしょうか?
ところが背後からうちの嫁が「アプゥージュー」とピコ太郎みたいな発音でオーダーしたら、すんなりと通じたのです。なんだと!
このとき、わたしはひとつの教訓を得ました。英語はバカにしてんのか、ぐらいの発音でちょうどいいということです。
「ワータシノー ナーマエーハー ジョナスンデース コニチハー」
こんな感じで、お笑いタレントが、バカにしてんのかぐらい誇張してモノマネしていることがありますが、あれこそがバイリンガルの正しい心得なんだな、ということです。
しょせん言語習得というのはモノマネなのです。流暢に喋れるということは、とてもうまくモノマネができているということなのでしょう。
うまくモノマネができれば、相手もこちらのいいたいことを理解してくれます。
言葉ではなく情緒、感情、エモーションを核に記憶
単一話者(モノリンガル)から、二言語使用者(バイリンガル)に変身しようとしている境界線に立つ私がつくづく感じることは、第二言語とは、言葉そのものではなく、情緒を核に理解したり、記憶したりするべきだ、ということです。
テッドトークやポッドキャストなどを英語で聞いて理解できた場合、何かが心に残ります。それは情緒だったり感情だったり感銘だったりします。けっして言葉そのもの(ワード)ではありません。そこまで英語でものを考えたりしていないので。
これが母国語だと言葉そのもの(ワード)が記憶に残ったりするのですが、第二言語の場合、残っているのは言葉そのものではなく、情緒、感情です。
逆にいえば、第二言語は情緒を糧に追いかけるべきですし、感情を核にして理解すべきなんだろうと思うのです。
語呂合わせ単語学習。言葉をおぼえる場合、母国語をベースに発音のみにフォーカス
司馬遼太郎の『坂の上の雲』を読んでいます。日露戦争を描いた作品です。その中に語学学習に通じるおもしろいエピソードが書いてありました。語呂合わせの単語習得法です。
日本連合艦隊が、迫りくるバルチック艦隊を迎え撃つべく準備する場面です。どの艦を撃ったのか、乗組員は艦影から艦名を特定しなければなりません。ところが敵艦の名前の「アレキサンドル三世」「ボロジノ」「アリョール」「ドミトリードンスコイ」などが、「三笠」「敷島」「富士」「朝日」にくらべて、なじみがないため憶えにくかったのでした。
この気持ち、なんとなく理解できますよね?
新しい人と知り合ったとき、その人がすでに知っている友だちや有名人と同じ苗字だったらすぐに覚えられますが、なじみがない名前だとすぐに忘れてしまうという経験はありませんか? 極論すれば、自分と同姓の人がいたら、すぐに覚えて、忘れません。
言葉は、すでに知っているものはリメンバーしやすいけれど、初見の言葉は記憶しにくいのです。
それを逆手にとって帝国海軍は「アレキサンドル三世」は「呆れ三太」、「ボロジノ」は「ボロ出ろ」、「アリョール」は「蟻寄る」、「ドミトリードンスコイ」は「ゴミ取り権助」と覚えさせたのだとか。
なるほど、理にかなっています。すでに知っているものの方が覚えやすいもんね。
外国語を習得しようとするとき、単語学習は欠かせません。まずは言葉をおぼえる必要があります。そのとき「もっていく」から「take」、「しばれるねえ」から「shivering」、ちゃんと唱える(chant=唱える)というように、言葉と意味を同時に覚えてしまう方法こそ最強でしょう。
しかしそんなにうまく語呂合わせができない単語がほとんどです。そんなに都合よくできていません。その場合、何を優先すべきでしょうか?
私は、帝国海軍がやったように、まずは既に親しみのある母国語をベースに、ターゲットランゲージの発音のみにフォーカスするのがいいと感じます。意味は後回しです。
外国語の単語を語呂合わせで覚えるときには、まずは意味と関連付けなくてもいいと思います。日本語が親しく感じられる語呂ならば、そこから言葉を先に覚えればいいのです。意味は二の次です。まずは言葉をおぼえないとね。意味はその後で十分です。
親しみのある日本語の語呂と関連付けられた単語は、なんどか出てくるうちに、いつのまにか意味がしみ込んだりするものですよ。
確かな記憶(母国語)と紐づいていくからでしょう。