チグリス・ユーフラテス川、黄河・長江、そしてメコン・メナム川
私が中学生のころ、社会科の教科書でこう習いました。文明は大河のもとに栄える。と。そして都市に川は欠かせないとも教わりました。そして川の名前を対で覚えたものです。
メソポタミア文明はチグリス・ユーフラテス川。中国文明には黄河・長江(揚子江)。そして東南アジアにはメコン・メナム川というのがある、と。
先日、ボスポラス海峡の記事(海峡というわりには大河の河口幅よりも狭いのです)を書いていて、ふとメコン・メナム川のことを思い出してしまいました。大河といえば……メコン・メナム川も大河のひとつのはずです。だって中学校で習うぐらいだから大河に違いありません。
ヨーロッパとアジアを分けるボスポラス海峡の幅。瀬戸大橋。長江の河口幅。玄界灘。ドーバー海峡とくらべてみた
メコン川は見たことあるが、メナム川は見たことないのはなぜだ?
私はベトナムでクチトンネル・メコン川クルーズ・ツアーという現地ツアーに参加したことがあります。
メコン川流域はまるでジャングルでした。まるで『ハックルベリー・フィンの冒険』のように島に上陸し、エレファントフィッシュというグロテスクな魚を食べたことをおぼえています。
メコン川の下流は、ざっと見た限りですでに利根川の河口よりも川幅がずっとひろいのですが、対岸に見えるのは実は「島」でした。川は一本ではなく、このような川が四本あるのです。
なるほど支流一本であれだけ巨大なのですから、メコンデルタはそうとう巨大だと想像がつきます。
ところでメナム川は?
私は東南アジアフリークで何度もインドシナ半島を旅していますが、メコン川はよく聞くけれども、メナム川のことはいちども聞いたことがありません。これだけ旅していて、教科書にも載っていた大河と一度もふれあうことがないなんて、いくらなんでもおかしいんじゃないか?
不思議に思って調べてみると……なんとびっくり。バンコクを流れるチャオプラヤー川、あれがメナム川なのだそうです。
なんだよ。知らないどころか、なんどもクルージングしてるじゃないか。暁の寺に行くためには、チャオプラヤー川を渡河しないといけません。
メナム川=チャオプラヤー川。ヒアリングミスが日本の教科書にまで影響した
そもそもなんでチャオプラヤー川のことをメナム川と言っていたのでしょうか。
調べてみるとよくある「おもしろミス」でした。
現地の人に「この川の名前は?」と聞いたら「メナム・チャオプラヤー」と返事があったので、川の名前がメナムと紹介されてしまったのだそうです。しかし実際にはメナムというのは「川」という意味でした。
メナム川といったのでは川・川という名前の川になってしまいます。それで現在ではチャオプラヤー川に訂正され、メナム川と呼ぶことはないんだそうです。
よくありますよね、この手の間違い。
現地の人に「ここの名前は?」と聞いたら「媽閣廟(マーカミウ)」と返事があったので、マカウとされてしまったマカオとか(現地の人は地域名ではなくて、そこにあった寺院の名前を答えていたというオチでした)
現地の人に「この動物の名前は?」と聞いたら「カンガルー(知らない)」と返事があったので、カンガルーとされてしまったカンガルーとか(知らない、が語源説ですが、都市伝説らしい)
現地の人に「この彫刻の名前は?」と聞いたら「モルゲッソヨ(知らない)」と返事があったので、モルゲッソヨとされてしまった弾丸男とか(知らない、が語源)
ちなみにカンガルーは作り話らしいです。でもそれが世界中に広まったってことは、この手の話しがみんな好きなんですよね。
MT.FUJI が正しいなら、EDOGAWA RIVER は間違った言い方
MT.FUJI というのが正しい言い方なら、EDOGAWA RIVER というのは間違った言い方です。江戸川・川と言っているのと同じですから重複形容です。EDO RIVER というべきではありませんか?
しかしそちらで統一すると、日本人に道を聞いたときに何のことかわからなくなってしまうから、Mt.FUJISAN と二重形容で表記するのが「運用」になってくるんでしょうが。
Where is the Moat DOTOM?
では何のことだかわかりませんものね。
DOTOMBORI (道頓堀)と聞いてくれないと何のことだかわかりません。
いずれにしてもヒアリング・ミスには気をつけてもらいたいものです。
メナム川は、チャオプラヤー川のことでした。初期の外国人(おそらく白人)が、正確なヒアリングをしなかったのが原因でした。
エジプトは川のたまもの
こういうケースは他にもいっぱいあるそうです。ナイル川のナイルも川という意味だそうです。インダス川のインダスも川という意味、ダニュー(ドナウ)川のダニューも川という意味。
エジプトはナイルのたまもの、というのは、川のたまものという意味なのです。