写本による淘汰。『イリアス』と『オデュッセイア』のあいだ。テレゴノス・コンプレックス

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書籍『市民ランナーという走り方(マラソン・サブスリー。グランドスラム養成講座)』。『通勤自転車からはじめるロードバイク生活』。小説『ツバサ』。『帰国子女が語る第二の故郷 愛憎の韓国ソウル』『読書家が選ぶ死ぬまでに読むべき名作文学 私的世界十大小説』『軍事ブロガーとロシア・ウクライナ戦争』。Amazonキンドル書籍にて発売中。

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ギリシア神話の原書・原典は『イリアス』『オデュッセイア』

たとえば『古事記』に書いてある内容、スサノオのヤマタノオロチ退治や、アマテラスの天岩戸隠れ伝説について知っていても『古事記』の原書(現代語訳であっても)を読んだという人は限りなく少ないのではないかと思います。要約本、解説書、映像などで内容だけ知っている人がほとんどでしょう。

ギリシア神話についても同じことが言えます。クロノスとゼウスの戦い(ティタノマキア)や、ヘラ、アテナ、アフロディナ三美神の美女競争(パリスの審判)など、ギリシア神話の内容は知っていても、原典・原書を読んだという人はほとんどいないのではないかと思います。

ところでギリシア神話の原書・原典って何でしょうか? それがここでのテーマです。

ノアの箱舟』や『バベルの塔』の原書ならはっきりしています。『旧約聖書』が原書・原典です。

しかしギリシア神話には『聖書』に相当するものがありません。ギリシア神話はどのように成立したのでしょうか?

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このブログの著者が執筆した「なぜ生きるのか? 何のために生きるのか?」を追求した純文学小説です。

「きみが望むならあげるよ。海の底の珊瑚の白い花束を。ぼくのからだの一部だけど、きみが欲しいならあげる。」

「金色の波をすべるあなたは、まるで海に浮かぶ星のよう。夕日を背に浴び、きれいな軌跡をえがいて還ってくるの。夢みるように何度も何度も、波を泳いでわたしのもとへ。」

※本作は小説『ツバサ』の前編部分に相当するものです。

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口伝・口承文学。ファンタジーでおなじみ吟遊詩人の世界。

ギリシア神話はもともと口伝・口承のものだったそうです。ファンタジーで有名な吟遊詩人がリアルにここで登場します。パピルス羊皮紙が存在する以前から、人々の記憶の中に、吟遊詩人の詩を通して伝えられてきたもの、それがギリシア神話の原典でした。

またギリシア神話の八百万の神々はそれぞれの地方神だったといわれています。ムラ単位でムラの神様の伝説が口伝・口承されていたものが、ムラが合併して国になっていくなかで、一本にまとまっていったもののようです。

主神ゼウスが浮気者に描かれているのは、地方神を主神ゼウスの血縁関係者にするためだと言われています。アポロンやアテナなどをそれぞれ信仰する人にとって、主神ゼウスと無関係では「国」が成り立ちません。ゼウスの息子、娘ということにした方が、「国」としてまとまる上で都合がいいのです。ゼウスの子どもということにすれば、父の言うことに逆らってはいけませんということで、「国」として統治しやすいという理屈です。従うのはアテナがゼウスに負けたからではなく相手が父親だからということにすればケンカもおさまります。このようにしてゼウスは多くの神の父となり、その結果、いろいろな女性と交わることになってしまったのでした。

現代の「マンガでわかるギリシア神話」を見ると「浮気者のスケベおやじ」のように描かれていることが多いゼウスですが、原書『イリアス』では犯しがたい威厳を備えた圧倒的な主神として他の神々がひれ伏している存在です。けっしてエロ爺いみたいな扱いではありません。威厳あるもの、他の神々が畏怖する存在として描かれています。

吟遊詩人の口伝・口承の神話が、文字として最初に登場したのがホメロスの『イリアス』だといわれています。これは人類最古の物語のひとつでもあります。その後同じ作者の『オデュッセイア』が現れます。長い冒険物語のことをオデッセイというのは『オデュッセイア』が由来です。

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『イリアス』と『オデュッセイア』のあいだ

わたしは『イリアス』『オデュッセイア』を要約本ではなく原書(もちろん現代日本語訳ですが)で読みました。『イリアス』『オデュッセイア』では、神エピソードは「知ってる前提」として登場します。女神アテナがゼウスの娘であることは「当然知っていること」として何の説明もなしに『イリアス』では描かれています。

最初に文字に残されたギリシア神話は『イリアス』だとされています。しかし『イリアス』は神々の物語ではありません。トロイ戦争の物語であって主人公はあくまでも人間です。アキレウスやアガメムノン、プリアモスやヘクトル、パリス、ヘレナやカサンドラなど人間が主人公なのですが、それぞれの人間に守護神がついており、人間が戦うと、守護神も戦うという神・人の二重構造になっているのです。

イーリアス。はじまりは「怒り」から。詩聖ホメロス『イリアス』は軍功帳。神話。そして文学
『イリアス』はフィクションにしては軍立て、軍容を詳しく書きすぎています。聞いてくれる人の出身地、出兵した地方の人たちの功を讃える意味で延々と語ったのだと思います。いっしゅの軍功帳みたいな意味があったのだと思います。ただのエンタメだったとすれば延々と軍容や功績を語る意味がわかりません。

アカイア軍(ギリシア連合軍)とトロイの戦争は、ギリシア連合軍を応援するアテネ、ヘラ、ポセイドンらと、トロイを応援するアフロディナ、アレス、アポロンなどが争うってことです。その人の守護神が勝てばその人が勝ち、その人の守護神が退散すればその人が負けるのです。

『イリアス』でアテネとアレスは戦いますが、どっちが勝ったでしょうか? 答えはアテネです。だから戦争はトロイアは負け、ギリシア連合軍が勝ったのです。この世のことを決めているのは人間ではなく神様だというわけです。そういう意味ではまさしく「ギリシア神話」しているのが『イリアス』です。

ところがどうにもわからないことがあります。

『イリアス』『オデュッセイア』二作品を読んだだけでは、現代のわたしたちがトロイア戦争として知っている知識範囲が網羅できないからです。

二作品のあいだの知識は、誰が、どのような形で補って、伝えられてきたのでしょうか?

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トロイ戦争最大のスーパースターのアキレウスの運命が描かれていない

トロイ戦争最大のスーパースターは、アキレス腱の語源にもなった英雄アキレウスです。

アキレウスは「もっとも足が速く」「もっとも強い」ギリシア側の戦士です。

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また「故郷に残れば幸福で長生きできるが無名として死に、戦場に出れば名を後世に残す代わりに若くして死ぬ」という「戦士の運命」を体現した存在です。自分の運命を承知でアキレウスは戦場に出るのです。そしてギリシア連合軍リーダー格のアガメムノンに反旗を翻してサボタージュしたり、友だちを殺されて激怒するなど、とても人間くさいところもある半神半人の英雄ヒーローです。

アキレウスが死ぬシーンも有名です。唯一の弱点であるアキレス腱をパリスの矢(アポロンの矢)で打ち抜かれて死ぬはずです。なんでアキレス腱が唯一の弱点かというと母テティスが「つかると不死身になれる水」に息子アキレウスを浸からせるときに足首を持っていたから、という『耳なし芳一』のようなエピソードがあったりします。

この「耳なし芳一」エピソードがどこに書いてあるのか、というのが本稿のメインテーマです。

このアキレウス。『イリアス』では死ぬところも描かれません。『イリアス』では敵の大将プリアモスが、愛する息子のヘクトルの遺体を返してくれと深夜にこっそりとアキレウスをたずね、敵将の勇気と愛情にアキレウスが感じ入るところで終了してしまうのです。

つづくオデュッセイアでは、もうアキレウスは死んでいて、トロイ戦争は終了しています。トロイの木馬のエピソードも現在進行形では語られません。トロイに勝ったギリシア連合軍の知将オデュッセウスの帰国物語がオデュッセイアなのですが、トロイ戦争のことは過去の回想で語られるだけで、どちらかというと巨人や魔女などに遭遇する冒険の方がメインの作品です。

トロイア戦争はシュリーマンが史跡を発掘したとおり史実である可能性が高いのですが、名高いトロイ戦争のあれやこれやのエピソードは誰がどのようにして伝えたのでしょうか?

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大アイアースはヘクトルよりも強い

まずわたしが気になったのは、トロイア戦争のセカンドヒーローの大アイアースです。カッコよすぎるアキレウスに隠れて、いまいちマイナーな大アイアスです。

しかし原書『イリアス』を読むと、「偉大な男には偉大な敵がいる」アキレウス最大のライバルであるヘクトルを打ち破ったことがあるのはアキレウスだけではありません。大アイアースという男がいて、ものすごく活躍しているのです。大アイアスはヘクトルよりも強いのです。

要約本、解説本ではほぼ省略される大アイアースの運命がどうなったのか、わたしは気になりました。

解説本を読むと、鍛治の神ヘパイストスがつくったアキレウスの武具を賭けてアキレウスの追悼試合がおこなわれたそうです。大アイアースはオデュッセウスと戦いますが、負けたわけじゃないのに負けた判定をもらいます。そのように自分の戦功が周囲から正当に評価されないのを苦にして大アイアースは自殺したことになっています。

なんて人間くさい。まるで現代人みたいではありませんか?

しかしそんなことがどこに書いてあるのでしょうか。すくなくとも『イリアス』『オデュッセイア』にそんなことは書いてありません。

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叙事詩環。あいだを埋める作品

そんなことどうしてわかるの? どこに書いてあるの?

そもそもアキレウスがアキレス腱を射られて死んだという超有名エピソードも『イリアス』『オデュッセイア』二作品には書いてありません。ヘクトルの葬儀でイリアスは終わり、トロイア戦後の帰国物語がオデュッセイアだからです。「そのあいだ」が抜け落ちているのです。

調べるとどうやら全部で8篇の「叙事詩の輪」、「叙事詩輪」というものがあるそうです。

これはどういうことかというと、もともと口伝・口承では完結していた輪の物語のうち、『イリアス』『オデュッセイア』を埋める形で、ホメロスの詩を真似て、他の人間が後の世に文章に残したのだそうです。

だから吟遊詩人が滅びた現代でも、神話の体系、トロイア戦争の経緯が、現代にも伝わっているんですね。

叙事詩環は8篇あるそうです。

第①輪=ヘレナをめぐるオデュッセウスらギリシア連合の成立物語。パリスの審判

第②輪=『イリアス』です。アキレウスの怒りから、プリアモスのヘクトル遺体引き取りまで

第③輪=アマゾネスとアキレウスの戦い。パリスのアキレウス殺害。

第④輪=大アイアースとオデュッセウスの勝負。トロイの木馬。

第⑤輪=オデュッセウスのトロイ陥落作戦実行。小アイアースのカサンドラ凌辱。

第⑥輪=アガメムノンの帰国と殺害

第⑦輪=『オデュッセイア』です。オデュッセウスの冒険と帰還

第⑧輪=オデュッセウスの死。息子テーレゴノスは父オデュッセウスをそうとは知らず殺し、義理の母ペーネロペーと結婚する。

なるほど①~⑧の物語が揃えば、わたしたちが知っているトロイア戦争の「木馬」をはじめとするいろいろな伝説のすべてを知ることができそうですね。

トロイ戦争その後。オデュッセイアの表ルートと、アエネーイスの裏ルート

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叙事詩環は現存していない。散逸し、失われた。現代に残っていない

ところがこう伝わっていますが、叙事詩環は散逸してしまって「ない」のだそうです。失われているのです。ただそういう詩編があったことと、内容だけが他の人の文章の中に現れて残っているというのです。

叙事詩環は「そういうのがある」と他の作品の中に登場しているだけで、現物は現存していないそうです。

8詩編のうち現代も残っているのはホメロスの『イリアス』『オデュッセイア』二作品だけなのだそうです。

これは八つの作品が同時にホメロスによって描かれて、たまたま二作品だけが残ったのではなく、先行する二作品のあいだを埋めるように後世のホメロスとは別の作者が書き加えたようです。

しかし失われてしまいました。だから詩編(作品)としては残っていません。あらすじがのこっているだけです。

しかし「最古にして最高」といわれる『イリアス』、大冒険の元祖『オデュッセイア』など名作が残ったのはむしろラッキーだったと思いますか?

これはラッキーではなく、むしろ必然だったとわたしは考えています。

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写本による淘汰。名作だけが後世に伝わる

印刷技術以前の時代はどれだけ写本してくれる人がいるかが後世に残るためのカギでした。名作ほど残る可能性が高かったのです。文章のお手本として書き写したくなるような作品ほど、写本がたくさんできたわけですから、後世に残ったというわけです。

たとえば第輪の「オデュッセウスの死。息子テーレゴノスは父オデュッセウスをそうとは知らず殺し、義理の母ペーネロペーと結婚する」については、ソポクレスの『オイディプス王』を彷彿とさせるものがあります。

フロイトは「父を憎み、母を愛する」心理を、テーレゴノス・コンプレックスと名付けてもよかっただろうと思いますね。しかしエディプス・コンプレックスと名付けました。それはなぜかというと、叙事詩環は残っていなかったのに対して、『オイディプス王』は現代まで残っていたからです。

同じ作者ソポクレスの作品も120編の戯曲をつくったそうですが、完全な形で残っているものは7作品にすぎないそうです。これをもったいないと惜しむこともできますが、たぶん失われた作品の中に『オイディプス王』を超える名作はないのだろうと思います。そう考えるのは上の「写本による淘汰」理論によります。『オイディプス王』は「写本」されたからこそ後世に残り、その他の作品は写本されなかったから、どこかの段階でなくなってしまったということだと思うからです。

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エディプス・コンプレックスの命名理由

それほどオイディプス王はギリシア悲劇の圧倒的な傑作です。オイディプスが「父を殺し母と交わる」のは運命(神の意図)です。そういう意味でもギリシア神話を構成する一部になっています。人間オンリーの物語とはいいきれないところがあるのです。

それに対して叙事詩環の第輪は、現存していません。どちらも同じようなエピソードですが、フロイトがエディプスコンプレックスと命名したのはそういうわけなのです。

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『テレゴネイア』テレゴノス・コンプレックスとは

ちなみに第×輪とした叙事詩輪であるが、実はそれぞれに名前があります。ちゃんとした作品だったのだから当然ですね。

叙事詩輪の第⑧輪には主役テーレゴノスにちなんで『テレゴネイア』という名前がついています。主役オデュッセウスの物語がオデュッセイアなので、テーレゴノスの物語はテレゴネイアなのです。

テレゴネイア=オデュッセウスの死の物語。息子テーレゴノスは父オデュッセウスをそうとは知らず殺し、義理の母ペーネロペーと結婚する。

本作のオチはそりゃあもうすごいものです。びっくりしますよ。なんとオデュッセウスのふたりの息子がそれぞれ義理ママと結婚してしまうというものなのです。

オデュッセウスと愛人キルケーとの息子テーレゴノスは正妻ペーネロペーと結婚し、正妻ペーネロペーとの息子テーレマコスは愛人キルケーと結婚するのです。

息子を交換しただけ。もしくは母親を交換しただけ、というものです。

『テレゴネイア』は「エディプス・コンプレックス」の命名由来になり損ねた物語ですが、いっそ「テレゴノス・コンプレックス」というのをわたしが命名したいと思います。

「テレゴノス・コンプレックス」=父親が愛したものを欲しがる精神嗜癖。母と似た人、母の立場の人を愛する精神嗜癖。親父の愛人などを欲しがる人がこれに該当します。二代目社長などが、先代社長の好きだったものをやたらと欲しがる場合に「あいつはテレゴノス・コンプレックスだからなあ」という風に使ってみましょう。

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知ってる前提で登場した物語の神エピソードをヘシオドスが体系的に執筆した

これで謎が解けました。トロイア戦争が一つのストーリーとして通用するためには、二作品だけではダメで、叙事詩環の他の六作品が必要だったのですね。

写本による淘汰で六作品は現存していませんが、エピソードだけは後世に伝わりました。

叙事詩環はトロイ戦争にまつわる壮大な物語でした。戦争そのものがゼウスの大御心でおこなわれたことになっているので、ギリシア神話の一部を構成するものでもあったのです。

『イリアス』『オデュッセイア』二作品の後、ヘシオドスが「ギリシア人だったら知っていて当然の神エピソード」を『神統記』に書いて、ギリシア神話は現代まで伝えられました。

アテナやアポロンに対する信仰こそキリスト教に呑み込まれて消えてしまいましたが、人間くさい神様の物語はいまでも「物語」として人々に愛されつづけています。

「エディプス・コンプレックス」がオイデプス王から、キメラマウスは怪物キマイラから、コンピューターウィルスのトロイの木馬はトロイア戦争からというように、現代の新しい用語の語源として、ギリシア神話が登場することもあります。

人間くさいから生き続けた神々の物語——矛盾していて面白いと思いませんか?

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ギリシア神話外伝『アガメムノーン』『アンティゴネ』など。スピンオフ作品は制作され続ける

ギリシア神話には『旧約聖書』的な原典はありません。

神話はギリシア人なら誰でも知っていて当然な知識でした。吟遊詩人により口伝で伝えられてきたものです。

その神々の運命に翻弄される人間たちの物語が神話体系よりも最初に完成した、という珍しい後世への残り方をしています。だから文学なのです。

現代風に言うと『イリアス』はギリシア神話のスピンオフ作品とでもいうのでしょうか。神話外伝という作品もたくさんあります。

とくにギリシア悲劇『アガメムノーン』とか『アンティゴネ』など、ほぼすべて神話外伝みたいなものです。

このギリシア神話スピンオフ作品はその後も制作され続けます。

たとえば面白いものをひとつご紹介します。

ダンテ『神曲』でおなじみのウェルギリウスの『アエネーイス』は、このトロイア戦争をトロイ側から書いたものです。三国志を蜀ではなく魏の側から描いた作品みたいなものですね。

主人公はアエネーアース。トロイ側の英雄でしたが、トロイ陥落後にイタリアの地にたどり着きローマ建国につながる一歩を記す。というものです。

いわば『ギリシア神話』『イリアス』の派生作品といえるでしょう。

トロイ戦争その後。オデュッセイアの表ルートと、アエネーイスの裏ルート

このように「原典」から「派生作品」ができたのではなく、「派生作品」から「原典」が成立するのが、ギリシア神話の面白いところなのです。

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このブログの著者が執筆した純文学小説です。

「かけがえがないなんてことが、どうして言えるだろう。むしろ、こういうべきだった。その人がどんな生き方をしたかで、まわりの人間の人生が変わる、だから人は替えがきかない、と」

「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」

本作は小説『ツバサ』の後半部分にあたるものです。アマゾン、楽天で無料公開しています。ぜひお読みください。

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サハラ砂漠で大ジャンプする著者
【この記事を書いている人】

アリクラハルト。物書き。トウガラシ実存主義、新狩猟採集民族、遊民主義の提唱者。心の放浪者。市民ランナーのグランドスラムの達成者(マラソン・サブスリー。100kmサブ10。富士登山競争登頂)。山と渓谷社ピープル・オブ・ザ・イヤー選出歴あり。ソウル日本人学校出身の帰国子女。早稲田大学卒業。日本脚本家連盟修了生。放浪の旅人。大西洋上をのぞき世界一周しています。千葉県在住。

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●◎このブログ著者の小説『ツバサ』◎●
小説『ツバサ』
主人公ツバサは小劇団の役者です。 「演技のメソッドとして、自分の過去の類似感情を呼び覚まして芝居に再現させるという方法がある。たとえば飼い犬が死んだときのことを思い出しながら、祖母が死んだときの芝居をしたりするのだ。自分が実生活で泣いたり怒ったりしたことを思いだして演技をする、そうすると迫真の演技となり観客の共感を得ることができる。ところが呼び覚ましたリアルな感情が濃密であればあるほど、心が当時の錯乱した思いに掻き乱されてしまう。その当時の感覚に今の現実がかき乱されてしまうことがあるのだ」 恋人のアスカと結婚式を挙げたのは、結婚式場のモデルのアルバイトとしてでした。しかし母の祐希とは違った結婚生活が自分には送れるのではないかという希望がツバサの胸に躍ります。 「ハッピーな人はもっと更にどんどんハッピーになっていってるというのに、どうして決断をしないんだろう。そんなにボンヤリできるほど人生は長くはないはずなのに。たくさん愛しあって、たくさん楽しんで、たくさんわかちあって、たくさん感動して、たくさん自分を謳歌して、たくさん自分を向上させなきゃならないのに。ハッピーな人達はそういうことを、同じ時間の中でどんどん積み重ねていっているのに、なんでわざわざ大切な時間を暗いもので覆うかな」 アスカに恋をしているのは確かでしたが、すべてを受け入れることができません。かつてアスカは不倫の恋をしていて、その体験が今の自分をつくったと感じています。それに対してツバサの母は不倫の恋の果てに、みずから命を絶ってしまったのです。 「そのときは望んでいないことが起きて思うようにいかずとても悲しんでいても、大きな流れの中では、それはそうなるべきことがらであって、結果的にはよい方向への布石だったりすることがある。そのとき自分が必死にその結果に反するものを望んでも、事態に否決されて、どんどん大きな力に自分が流されているなあと感じるときがあるんだ」 ツバサは幼いころから愛読していたミナトセイイチロウの作品の影響で、独特のロマンの世界をもっていました。そのロマンのゆえに劇団の主宰者キリヤに認められ、芝居の脚本をまかされることになります。自分に人を感動させることができる何かがあるのか、ツバサは思い悩みます。同時に友人のミカコと一緒に、インターネット・サイバーショップを立ち上げます。ブツを売るのではなくロマンを売るというコンセプトです。 「楽しい、うれしい、といった人間の明るい感情を掘り起こして、その「先」に到達させてあげるんだ。その到達を手伝う仕事なんだよ。やりがいのあることじゃないか」 惚れているけれど、受け入れられないアスカ。素直になれるけれど、惚れていないミカコ。三角関係にツバサはどう決着をつけるのでしょうか。アスカは劇団をやめて、精神科医になろうと勉強をしていました。心療内科の手法をツバサとの関係にも持ち込んで、すべてのトラウマを話して、ちゃんと向き合ってくれと希望してきます。自分の不倫は人生を決めた圧倒的な出来事だと認識しているのに、ツバサの母の不倫、自殺については、分類・整理して心療内科の一症例として片付けようとするアスカの態度にツバサは苛立ちます。つねに自分を無力と感じさせられるつきあいでした。人と人との相性について、ツバサは考えつづけます。そんな中、恋人のアスカはツバサのもとを去っていきました。 「離れたくない。離れたくない。何もかもが消えて、叫びだけが残った。離れたくない。その叫びだけが残った。全身が叫びそのものになる。おれは叫びだ」 劇団の主宰者であるキリヤに呼び出されて、離婚話を聞かされます。不倫の子として父を知らずに育ったツバサは、キリヤの妻マリアの不倫の話しに、自分の生い立ちを重ねます。 「どんな喜びも苦難も、どんなに緻密に予測、計算しても思いもかけない事態へと流れていく。喜びも未知、苦しみも未知、でも冒険に向かう同行者がワクワクしてくれたら、おれも楽しく足どりも軽くなるけれど、未知なる苦難、苦境のことばかり思案して不安がり警戒されてしまったら、なんだかおれまでその冒険に向かうよろこびや楽しさを見失ってしまいそうになる……冒険でなければ博打といってもいい。愛は博打だ。人生も」 ツバサの母は心を病んで自殺してしまっていました。 「私にとって愛とは、一緒に歩んでいってほしいという欲があるかないか」 ツバサはミカコから思いを寄せられます。しかし「結婚が誰を幸せにしただろうか?」とツバサは感じています。 「不倫って感情を使いまわしができるから。こっちで足りないものをあっちで、あっちで満たされないものをこっちで補うというカラクリだから、判断が狂うんだよね。それが不倫マジックのタネあかし」 「愛する人とともに歩んでいくことでひろがっていく自分の中の可能性って、決してひとりでは辿りつけない境地だと思うの。守る人がいるうれしさ、守られている安心感、自信。妥協することの意味、共同生活のぶつかり合い、でも逆にそれを楽しもうという姿勢、つかず離れずに……それを一つ屋根の下で行う楽しさ。全く違う人間同士が一緒に人生を作っていく面白味。束縛し合わないで時間を共有したい……けれどこうしたことも相手が同じように思っていないと実現できない」 尊敬する作家、ミナトセイイチロウの影響を受けてツバサは劇団で上演する脚本を書きあげましたが、芝居は失敗してしまいました。引退するキリヤから一人の友人を紹介されます。なんとその友人はミナトでした。そこにアスカが妊娠したという情報が伝わってきました。それは誰の子なのでしょうか? 真実は藪の中。証言が食い違います。誰かが嘘をついているはずです。認識しているツバサ自身が狂っていなければ、の話しですが……。 「妻のことが信頼できない。そうなったら『事実』は関係ないんだ」 そう言ったキリヤの言葉を思い出し、ツバサは真実は何かではなく、自分が何を信じるのか、を選びます。アスカのお腹の中の子は、昔の自分だと感じていました。死に際のミナトからツバサは病院に呼び出されます。そして途中までしか書いていない最後の原稿を託されます。ミナトの最後の小説を舞台上にアレンジしたものをツバサは上演します。客席にはミナトが、アスカが、ミカコが見てくれていました。生きることへの恋を書き上げた舞台は成功し、ツバサはミナトセイイチロウの後を継ぐことを決意します。ミナトから最後の作品の続きを書くように頼まれて、ツバサは地獄のような断崖絶壁の山に向かいます。 「舞台は変えよう。ミナトの小説からは魂だけを引き継ぎ、おれの故郷を舞台に独自の世界を描こう。自分の原風景を描いてみよう。目をそむけ続けてきた始まりの物語のことを。その原風景からしか、おれの本当の心の叫びは表現できない」 そこでミナトの作品がツバサの母と自分の故郷のことを書いていると悟り、自分のすべてを込めて作品を引きついて書き上げようとするのでした。 「おまえにその跡を引き継ぐ資格があるのか? 「ある」自分の中にその力があることをはっきりと感じていた。それはおれがあの人の息子だからだ。おれにはおれだけの何かを込めることができる。父の遺産のその上に」 そこにミカコから真相を告げる手紙が届いたのでした。 「それは言葉として聞いただけではその本当の意味を知ることができないこと。体験し、自分をひとつひとつ積み上げ、愛においても人生においても成功した人でないとわからない法則」 「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」
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小説『ツバサ』
主人公ツバサは小劇団の役者です。 「演技のメソッドとして、自分の過去の類似感情を呼び覚まして芝居に再現させるという方法がある。たとえば飼い犬が死んだときのことを思い出しながら、祖母が死んだときの芝居をしたりするのだ。自分が実生活で泣いたり怒ったりしたことを思いだして演技をする、そうすると迫真の演技となり観客の共感を得ることができる。ところが呼び覚ましたリアルな感情が濃密であればあるほど、心が当時の錯乱した思いに掻き乱されてしまう。その当時の感覚に今の現実がかき乱されてしまうことがあるのだ」 恋人のアスカと結婚式を挙げたのは、結婚式場のモデルのアルバイトとしてでした。しかし母の祐希とは違った結婚生活が自分には送れるのではないかという希望がツバサの胸に躍ります。 「ハッピーな人はもっと更にどんどんハッピーになっていってるというのに、どうして決断をしないんだろう。そんなにボンヤリできるほど人生は長くはないはずなのに。たくさん愛しあって、たくさん楽しんで、たくさんわかちあって、たくさん感動して、たくさん自分を謳歌して、たくさん自分を向上させなきゃならないのに。ハッピーな人達はそういうことを、同じ時間の中でどんどん積み重ねていっているのに、なんでわざわざ大切な時間を暗いもので覆うかな」 アスカに恋をしているのは確かでしたが、すべてを受け入れることができません。かつてアスカは不倫の恋をしていて、その体験が今の自分をつくったと感じています。それに対してツバサの母は不倫の恋の果てに、みずから命を絶ってしまったのです。 「そのときは望んでいないことが起きて思うようにいかずとても悲しんでいても、大きな流れの中では、それはそうなるべきことがらであって、結果的にはよい方向への布石だったりすることがある。そのとき自分が必死にその結果に反するものを望んでも、事態に否決されて、どんどん大きな力に自分が流されているなあと感じるときがあるんだ」 ツバサは幼いころから愛読していたミナトセイイチロウの作品の影響で、独特のロマンの世界をもっていました。そのロマンのゆえに劇団の主宰者キリヤに認められ、芝居の脚本をまかされることになります。自分に人を感動させることができる何かがあるのか、ツバサは思い悩みます。同時に友人のミカコと一緒に、インターネット・サイバーショップを立ち上げます。ブツを売るのではなくロマンを売るというコンセプトです。 「楽しい、うれしい、といった人間の明るい感情を掘り起こして、その「先」に到達させてあげるんだ。その到達を手伝う仕事なんだよ。やりがいのあることじゃないか」 惚れているけれど、受け入れられないアスカ。素直になれるけれど、惚れていないミカコ。三角関係にツバサはどう決着をつけるのでしょうか。アスカは劇団をやめて、精神科医になろうと勉強をしていました。心療内科の手法をツバサとの関係にも持ち込んで、すべてのトラウマを話して、ちゃんと向き合ってくれと希望してきます。自分の不倫は人生を決めた圧倒的な出来事だと認識しているのに、ツバサの母の不倫、自殺については、分類・整理して心療内科の一症例として片付けようとするアスカの態度にツバサは苛立ちます。つねに自分を無力と感じさせられるつきあいでした。人と人との相性について、ツバサは考えつづけます。そんな中、恋人のアスカはツバサのもとを去っていきました。 「離れたくない。離れたくない。何もかもが消えて、叫びだけが残った。離れたくない。その叫びだけが残った。全身が叫びそのものになる。おれは叫びだ」 劇団の主宰者であるキリヤに呼び出されて、離婚話を聞かされます。不倫の子として父を知らずに育ったツバサは、キリヤの妻マリアの不倫の話しに、自分の生い立ちを重ねます。 「どんな喜びも苦難も、どんなに緻密に予測、計算しても思いもかけない事態へと流れていく。喜びも未知、苦しみも未知、でも冒険に向かう同行者がワクワクしてくれたら、おれも楽しく足どりも軽くなるけれど、未知なる苦難、苦境のことばかり思案して不安がり警戒されてしまったら、なんだかおれまでその冒険に向かうよろこびや楽しさを見失ってしまいそうになる……冒険でなければ博打といってもいい。愛は博打だ。人生も」 ツバサの母は心を病んで自殺してしまっていました。 「私にとって愛とは、一緒に歩んでいってほしいという欲があるかないか」 ツバサはミカコから思いを寄せられます。しかし「結婚が誰を幸せにしただろうか?」とツバサは感じています。 「不倫って感情を使いまわしができるから。こっちで足りないものをあっちで、あっちで満たされないものをこっちで補うというカラクリだから、判断が狂うんだよね。それが不倫マジックのタネあかし」 「愛する人とともに歩んでいくことでひろがっていく自分の中の可能性って、決してひとりでは辿りつけない境地だと思うの。守る人がいるうれしさ、守られている安心感、自信。妥協することの意味、共同生活のぶつかり合い、でも逆にそれを楽しもうという姿勢、つかず離れずに……それを一つ屋根の下で行う楽しさ。全く違う人間同士が一緒に人生を作っていく面白味。束縛し合わないで時間を共有したい……けれどこうしたことも相手が同じように思っていないと実現できない」 尊敬する作家、ミナトセイイチロウの影響を受けてツバサは劇団で上演する脚本を書きあげましたが、芝居は失敗してしまいました。引退するキリヤから一人の友人を紹介されます。なんとその友人はミナトでした。そこにアスカが妊娠したという情報が伝わってきました。それは誰の子なのでしょうか? 真実は藪の中。証言が食い違います。誰かが嘘をついているはずです。認識しているツバサ自身が狂っていなければ、の話しですが……。 「妻のことが信頼できない。そうなったら『事実』は関係ないんだ」 そう言ったキリヤの言葉を思い出し、ツバサは真実は何かではなく、自分が何を信じるのか、を選びます。アスカのお腹の中の子は、昔の自分だと感じていました。死に際のミナトからツバサは病院に呼び出されます。そして途中までしか書いていない最後の原稿を託されます。ミナトの最後の小説を舞台上にアレンジしたものをツバサは上演します。客席にはミナトが、アスカが、ミカコが見てくれていました。生きることへの恋を書き上げた舞台は成功し、ツバサはミナトセイイチロウの後を継ぐことを決意します。ミナトから最後の作品の続きを書くように頼まれて、ツバサは地獄のような断崖絶壁の山に向かいます。 「舞台は変えよう。ミナトの小説からは魂だけを引き継ぎ、おれの故郷を舞台に独自の世界を描こう。自分の原風景を描いてみよう。目をそむけ続けてきた始まりの物語のことを。その原風景からしか、おれの本当の心の叫びは表現できない」 そこでミナトの作品がツバサの母と自分の故郷のことを書いていると悟り、自分のすべてを込めて作品を引きついて書き上げようとするのでした。 「おまえにその跡を引き継ぐ資格があるのか? 「ある」自分の中にその力があることをはっきりと感じていた。それはおれがあの人の息子だからだ。おれにはおれだけの何かを込めることができる。父の遺産のその上に」 そこにミカコから真相を告げる手紙が届いたのでした。 「それは言葉として聞いただけではその本当の意味を知ることができないこと。体験し、自分をひとつひとつ積み上げ、愛においても人生においても成功した人でないとわからない法則」 「私は、助言されたんだよ。その男性をあなたが絶対に逃したくなかったら、とにかくその男の言う通りにしなさいって。一切反論は許さない。とにかくあなたが「わかる」まで、その男の言う通りに動きなさいって。その男がいい男であればあるほどそうしなさいって。私は反論したんだ。『そんなことできない。そんなの女は男の奴隷じゃないか』って」
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読書家が選ぶ死ぬまでに読むべきおすすめの名作文学 私的世界の十大小説
読書家が選ぶ死ぬまでに読むべきおすすめの名作文学 私的世界の十大小説
×   ×   ×   ×   ×   ×  (本文より)知りたかった文学の正体がわかった! かつてわたしは文学というものに過度な期待をしていました。世界一の小説、史上最高の文学には、人生観を変えるような力があるものと思いこんでいました。ふつうの人が知り得ないような深淵の知恵が描かれていると信じていました。文学の正体、それが私は知りたかったのです。読書という心の旅をしながら、私は書物のどこかに「隠されている人生の真理」があるのではないかと探してきました。たとえば聖書やお経の中に。玄奘が大乗のお経の中に人を救うための真実が隠されていると信じていたように。 しかし聖書にもお経にも世界的文学の中にも、そんなものはありませんでした。 世界的傑作とされるトルストイ『戦争と平和』を読み終わった後に、「ああ、これだったのか! 知りたかった文学の正体がわかった!」と私は感じたことがありました。最後にそのエピソードをお話ししましょう。 すべての物語を終えた後、最後に作品のテーマについて、トルストイ本人の自作解題がついていました。長大な物語は何だったのか。どうしてトルストイは『戦争と平和』を書いたのか、何が描きたかったのか、すべてがそこで明らかにされています。それは、ナポレオンの戦争という歴史的な事件に巻き込まれていく人々を描いているように見えて、実は人々がナポレオンの戦争を引き起こしたのだ、という逆説でした。 『戦争と平和』のメインテーマは、はっきりいってたいした知恵ではありません。通いなれた道から追い出されると万事休すと考えがちですが、実はその時はじめて新しい善いものがはじまるのです。命ある限り、幸福はあります——これが『戦争と平和』のメインテーマであり、戦争はナポレオンの意志が起こしたものではなく、時代のひとりひとりの決断の結果起こったのだ、というのが、戦争に関する考察でした。最高峰の文学といっても、たかがその程度なのです。それをえんえんと人間の物語を語り継いだ上で語っているだけなのでした。 その時ようやく文学の正体がわかりました。この世の深淵の知恵を見せてくれる魔術のような書なんて、そんなものはないのです。ストーリーをえんえんと物語った上で、さらりと述べるあたりまえの結論、それが文学というものの正体なのでした。
https://amzn.to/43j7R0Y
×   ×   ×   ×   ×   × 
読書家が選ぶ死ぬまでに読むべきおすすめの名作文学 私的世界の十大小説
×   ×   ×   ×   ×   ×  (本文より)知りたかった文学の正体がわかった! かつてわたしは文学というものに過度な期待をしていました。世界一の小説、史上最高の文学には、人生観を変えるような力があるものと思いこんでいました。ふつうの人が知り得ないような深淵の知恵が描かれていると信じていました。文学の正体、それが私は知りたかったのです。読書という心の旅をしながら、私は書物のどこかに「隠されている人生の真理」があるのではないかと探してきました。たとえば聖書やお経の中に。玄奘が大乗のお経の中に人を救うための真実が隠されていると信じていたように。 しかし聖書にもお経にも世界的文学の中にも、そんなものはありませんでした。 世界的傑作とされるトルストイ『戦争と平和』を読み終わった後に、「ああ、これだったのか! 知りたかった文学の正体がわかった!」と私は感じたことがありました。最後にそのエピソードをお話ししましょう。 すべての物語を終えた後、最後に作品のテーマについて、トルストイ本人の自作解題がついていました。長大な物語は何だったのか。どうしてトルストイは『戦争と平和』を書いたのか、何が描きたかったのか、すべてがそこで明らかにされています。それは、ナポレオンの戦争という歴史的な事件に巻き込まれていく人々を描いているように見えて、実は人々がナポレオンの戦争を引き起こしたのだ、という逆説でした。 『戦争と平和』のメインテーマは、はっきりいってたいした知恵ではありません。通いなれた道から追い出されると万事休すと考えがちですが、実はその時はじめて新しい善いものがはじまるのです。命ある限り、幸福はあります——これが『戦争と平和』のメインテーマであり、戦争はナポレオンの意志が起こしたものではなく、時代のひとりひとりの決断の結果起こったのだ、というのが、戦争に関する考察でした。最高峰の文学といっても、たかがその程度なのです。それをえんえんと人間の物語を語り継いだ上で語っているだけなのでした。 その時ようやく文学の正体がわかりました。この世の深淵の知恵を見せてくれる魔術のような書なんて、そんなものはないのです。ストーリーをえんえんと物語った上で、さらりと述べるあたりまえの結論、それが文学というものの正体なのでした。
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×   ×   ×   ×   ×   × 
◎このブログの著者の随筆『帰国子女が語る第二の故郷 愛憎の韓国ソウル』
随筆『帰国子女が語る第二の故郷 愛憎の韓国ソウル』

旅人が気に入った場所を「第二の故郷のような気がする」と言ったりしますが、私にとってそれは韓国ソウルです。帰国子女として人格形成期をソウルで過ごした私は、自分を運命づけた数々の出来事と韓国ソウルを切り離して考えることができません。無関係になれないのならば、いっそ真正面から取り組んでやれ、と思ったのが本書を出版する動機です。

私の第二の故郷、韓国ソウルに対する感情は単純に好きというだけではありません。だからといって嫌いというわけでもなく……たとえて言えば「無視したいけど、無視できない気になる女」みたいな感情を韓国にはもっています。

【本書の内容】
●ソウル日本人学校の学力レベルと卒業生の進路。韓国語習得
●韓国人が日本を邪魔だと思うのは地政学上、ある程度やむをえないと理解してあげる
●関東大震災直後の朝鮮人虐殺事件
●僕は在日韓国人です。ナヌン・キョッポニダ。生涯忘れられない言葉
●日本人にとって韓国語はどれほど習得しやすい言語か
●『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』南北統一・新韓国は核ミサイルを手放すだろうか?
●天皇制にこそ、ウリジナルを主張すればいいのに
●「失われた時を求めて」プルースト効果を感じる地上唯一の場所
●韓国帰りの帰国子女の人生論「トウガラシ実存主義」人間の歌を歌え

韓国がえりの帰国子女だからこそ書けた「ほかの人には書けないこと」が本書にはたくさん書いてあります。私の韓国に対する思いは、たとえていえば「面倒見のよすぎる親を煙たく思う子供の心境」に近いものがあります。感謝はしているんだけどあまり近づきたくない。愛情はあるけど好きじゃないというような、複雑な思いを描くのです。

「近くて遠い国」ではなく「近くて近い国」韓国ソウルを、ソウル日本人学校出身の帰国子女が語り尽くします。

帰国子女は、第二の故郷に対してどのような心の決着をつけたのでしょうか。最後にどんな人生観にたどり着いたのでしょうか。

Amazon.co.jp
随筆『帰国子女が語る第二の故郷 愛憎の韓国ソウル』

旅人が気に入った場所を「第二の故郷のような気がする」と言ったりしますが、私にとってそれは韓国ソウルです。帰国子女として人格形成期をソウルで過ごした私は、自分を運命づけた数々の出来事と韓国ソウルを切り離して考えることができません。無関係になれないのならば、いっそ真正面から取り組んでやれ、と思ったのが本書を出版する動機です。

私の第二の故郷、韓国ソウルに対する感情は単純に好きというだけではありません。だからといって嫌いというわけでもなく……たとえて言えば「無視したいけど、無視できない気になる女」みたいな感情を韓国にはもっています。

【本書の内容】
●ソウル日本人学校の学力レベルと卒業生の進路。韓国語習得
●韓国人が日本を邪魔だと思うのは地政学上、ある程度やむをえないと理解してあげる
●関東大震災直後の朝鮮人虐殺事件
●僕は在日韓国人です。ナヌン・キョッポニダ。生涯忘れられない言葉
●日本人にとって韓国語はどれほど習得しやすい言語か
●『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』南北統一・新韓国は核ミサイルを手放すだろうか?
●天皇制にこそ、ウリジナルを主張すればいいのに
●「失われた時を求めて」プルースト効果を感じる地上唯一の場所
●韓国帰りの帰国子女の人生論「トウガラシ実存主義」人間の歌を歌え

韓国がえりの帰国子女だからこそ書けた「ほかの人には書けないこと」が本書にはたくさん書いてあります。私の韓国に対する思いは、たとえていえば「面倒見のよすぎる親を煙たく思う子供の心境」に近いものがあります。感謝はしているんだけどあまり近づきたくない。愛情はあるけど好きじゃないというような、複雑な思いを描くのです。

「近くて遠い国」ではなく「近くて近い国」韓国ソウルを、ソウル日本人学校出身の帰国子女が語り尽くします。

帰国子女は、第二の故郷に対してどのような心の決着をつけたのでしょうか。最後にどんな人生観にたどり着いたのでしょうか。

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●◎このブログ著者の書籍『軍事ブロガーとロシア・ウクライナ戦争』◎●
書籍『軍事ブロガーとロシア・ウクライナ戦争』
戦史に詳しいブロガーが書き綴ったロシア・ウクライナ戦争についての提言 『軍事ブロガーとロシア・ウクライナ戦争』 ●プーチンの政策に影響をあたえるという軍事ブロガーとは何者なのか? ●文化的には親ロシアの日本人がなぜウクライナ目線で戦争を語るのか? ●日本の特攻モーターボート震洋と、ウクライナの水上ドローン。 ●戦争の和平案。買戻し特約をつけた「領土売買」で解決できるんじゃないか? ●結末の見えない現在進行形の戦争が考えさせる「可能性の記事」。 「紅旗征戎吾ガ事ニ非ズ」を信条にする筆者が渾身の力で戦争を斬る! ひとりひとりが自分の暮らしを命がけで大切にすること。それが人類共通のひとつの価値観をつくりあげます。人々の暮らしを邪魔する行動は人類全体に否決される。いつの日かそんな日が来るのです。本書はその一里塚です。
https://amzn.to/47hnbeF
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戦史に詳しいブロガーが書き綴ったロシア・ウクライナ戦争についての提言 『軍事ブロガーとロシア・ウクライナ戦争』 ●プーチンの政策に影響をあたえるという軍事ブロガーとは何者なのか? ●文化的には親ロシアの日本人がなぜウクライナ目線で戦争を語るのか? ●日本の特攻モーターボート震洋と、ウクライナの水上ドローン。 ●戦争の和平案。買戻し特約をつけた「領土売買」で解決できるんじゃないか? ●結末の見えない現在進行形の戦争が考えさせる「可能性の記事」。 「紅旗征戎吾ガ事ニ非ズ」を信条にする筆者が渾身の力で戦争を斬る! ひとりひとりが自分の暮らしを命がけで大切にすること。それが人類共通のひとつの価値観をつくりあげます。人々の暮らしを邪魔する行動は人類全体に否決される。いつの日かそんな日が来るのです。本書はその一里塚です。
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